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鍵の条件

先生と私は文字通り敵…違う、先生のご両親と対峙していた。

「父の正臣です。よろしくねお嬢さん」

「初めまして、坂田瑞樹と申します」

隣のお母様と違い、落ち着いた優しい感じの方だ。先生に容姿は似てるけど、性格的には対極と言っても間違いでは無い気がする。お母様は…対極と言うより異種的な違いかな?

不思議な組み合わせの様でお似合いだ。

「さっそくだが俺たちは調べる事があってここへ来た」

先生が単刀直入に話を切り出す。

「アストラルの鍵だね…」

お父様の視線が先生の様に急に鋭くなる。

「何故あんたは俺がそれを言う前に、アストラルの鍵だと思うんだ?」

先生の視線もますます鋭くなる。

私が話をつけると動いたはずが、結局私は見守る事しか出来そうもない。

「簡単だ。お前には殆どの情報を教えてある。ただ一つを除いてな…だからその一つしか調べる事は無いと判断した」

「そう言う事か…だったら情報を教えてくれるのか?」

それなら調べる手間も省けて簡単だ。側で話を聞きながら私は内心安堵した。

少しお父様は考えていたけれど、視線を私達に戻すとOKを出してきた。

「話してもいいでしょう。ただし…条件がある」

「条件…なんだそれは?」

先生がお父様に確認する。先生の質問に答える様にお父様の視線が私に向けられた途端、私の目の前が突然真っ暗になった。

「え⁉︎」

叫んだ私の声が遠くまで響き渡った…さっきまで先生の隣に居たはずなのに、周りに先生たちの気配は無い。キョロキョロと周りを見渡してみるが、真っ暗ではなにも確認することができない…でも、私は確実に違う場所にいる。私の中に何故か確信があった。

真っ暗な空間の中で多分一人きりだ。

私は一気に不安に駆られた。でもさっきのお父様の最後の言葉からすると、これが話すための条件なんだろうか?

それとも条件の為の、人質みたいなものなのだろうか?

先生が条件クリアするまでここから出られない場合と私が条件クリアしないとならない場合どちらだろう?

でも…動かない訳にはいかない。

私は一度真っ暗な空間で目を閉じて、心を落ち着けると深呼吸を一つして再び目を開けた。

「ひっ!」

思わず息を呑んだ。目の前には…いや、私の周りには幾重にもなった人々が私を取り囲んでいた。人々と言っても無気力な瞳…生きている人には皆見えない。恐らく霊魂が人の形をとっている姿、つまり幽霊だろう。

霊の姿は良く小さな頃からよく視てきた。墓地や事故現場などいろいろな場所にポツンと佇んでいるものが殆どだが、こんなに無気力な霊は、その中でも特殊な部類に入る。

そう、この人達は自殺者の霊だ。

自殺者の場合アストラル面…つまりあの世には行くことができない。成仏と言うものができないのだ。輪廻転生の輪から外れ、この世に留まる。そして永遠に近い時間を彷徨い、最期は朽ち果て消滅する。

その霊が今私の周りに集まっているのだ。

これはなんの試練なのだろうか?

私はこの異様な景色の全体を見渡してみる。試練ならば何かしらのヒントがあるはずだ。

霊の一人一人の表情に違いがないか確認していく。

違う…こっちも違う…みんな同じように無気力な表情だ。しかし格好は?洋服を着ている者、着物を着ている者…様々だ。軍服もある。時代的には戦時中くらいの服装だ。

ここにいる者たちはその頃の霊なんだろうか?

一人一人の服装を見ていると、その中に子供がいる事に気付いた。うん…たぶん子供?

そう、たくさんいる幽霊の中に埋もれるように黒髪の頭だけがちょこんと見える。

私はその頭に惹かれる様に、幽霊たちをかき分け頭しか見えない子供らしき幽霊を抱き上げてみた。

と、言うよりも…他の幽霊とは違い、人間の体温程ではないが、ほんのりと温かい。そして表情が違っていた。頬をぷっくりと膨らませ、明らかにふて腐れた表情…そしてゴスロリにショートボブだ。

んっ?シートボブ…新手の座敷童子?それとも花子さん?

「見つかった…」

そう呟き、半泣きの表情になると足をバタつかせて降ろせと要求した為、私は自分の足元へ降ろす。

「逃げちゃダメだよ」

そう言うと、その子はこくんと頷いたので、私はゆっくりと彼女を降ろし、改めて確認をする事にした。

「あなたは私のいまの状況が何なのか知っているの?」

「何も知らされていないのか?」

驚いた様にその少女は目をまるくする。

私は彼女の瞳を真っ直ぐ見つめながらこくんと頷いた。

彼女の瞳は宇宙の様な深い艶やかな黒…引き込まれそうになる。でも視線を逸らしてはいけないと、私の中の何かが言っていた。

そんな瞳を閉じると、彼女は盛大にため息をついた。

「わかった…正臣の奴、私に丸投げと言う事か!彼奴はいつもそうだ。何かあれば妾に頼ればなんとかなると思っておる」

「先生のお父様とお友達なの?」

「友達もなにも妾は大昔からあの家に取り憑いている座敷童子の静音じゃ。妾の事は静音さんとでも呼ぶが良い。正嗣の事もよく知っておるぞ」

先生の事を聞きたい気持ちになる。でも…今は多分そんな事をしている場合ではない。

全てが終わったら聞こうと、私は考えを切り替える。

「で、静音さん。お父様にはアストラルの鍵の情報を得るには条件があるって言われた途端に、ここへ飛ばされてしまったんです。だから何をどうすればいいのかわからなくて…お願いします。どうしてもアストラルの鍵の情報が必要なんです」

視線は逸らしてなるものかと言う程、彼女を強く見つめる…それが私の気持ちになる様に。

「なるほどな…覚悟は出来ていると言う事じゃな。だったら簡単だ娘」

座敷童子の静音が私を見てニヤリと笑う。

「この霊達を浄化してみせろ」

「霊達って…ここにいる全部ですか⁉︎」

私達の周りには数千体もの霊達が取り巻いていた。全部を浄化するにはどれだけかかるのだろう…いや、それよりも私は浄化と言うものをやった事がないし、加えてこの霊達は普通ではない。

「この霊達が普通でない事は判るかの?」

「はい。無気力な表情、自殺者の霊ですよね?」

私が予想していた答えを伝えると、静音はゆっくりと首を横に振った。

「違う。この者達は先の戦争で命を落とした者達じゃ。昔の戦であれば死ぬ覚悟をして戦地に赴いたものだが、先の戦争では爆弾と言う物で突然沢山の命が奪われ、今までの普通の死が当て嵌まらなかった。かなりの霊達は、自身でなんとか成仏したのだが、一部の霊達が納得せずこの世に残り続けてしまった。それがこの霊達じゃ」

「そんな、戦争の犠牲者がまだこんなにこの世にとどまっていたなんて…」

最初は普通の霊だったのだろう。でも日本はその後敗戦した…自分達の死はなんだったのか?霊達にもそんな考えがあったかどうかは判らない。でも、自分達の死を受け入れる事が出来ずに、今の無気力なさまよう霊になってしまったのかも知れない。それじゃあ、私が今まで視てきた霊達の中にもそんな霊達が沢山いたのだろうか…。

「彼らは戦争時の教育により、自分達が正しいのだと言う考え方を押し付けられてしまったのじゃ。洗脳みたいなものじゃな。自分達は正しいのだから負ける訳がない。勝っているのだから死ぬ訳がない。そんな洗脳を戦争によって施されてしまったのじゃ」

涙が溢れてくる。戦争で苦しんだのに、自分達は間違ってないと信じて、まだ今もなお成仏出来ずに彷徨っているなんて悲し過ぎる。

「わかりましたこの浄化絶対に成功させます!」

「よく言った!それこそ伊豆家いとうけの嫁候補じゃ」

「はっ?嫁⁉︎」

パパさんも登場です^_^

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