実家にて
「えっと、先生?ここですか?」
大きなお屋敷を見上げながら私は先生に尋ねる。どう見てもお金持ちが持っている様な別荘に見えるんだけど…
「おい!そっちじゃ無い。こっちだ」
先生の声がした方を見ると、先生が敷地の片隅にあるガレージを開けていた。
「こっち?」
車が3台程入る様なガレージの中には1台車が置かれているだけで、他には何もない…いや、奥に一つだけ扉があった。
先生は再び車に戻ると、ガレージに車を入れた。
「ここが実家の孤島に繋がる扉だ」
「想像してた扉と違ってびっくりです」
「どんな想像していたんだ…まあ、いい。この扉を開ければすぐに実家だ。覚悟だけはしておけよ…あと、桃だけは出されても食べるな」
覚悟って…どんな方々なんだろう?そして桃?まあ、私的には楽しみなんですけど。
「大丈夫ですよ。先生がゆっくり調べ物が出来る環境を私が確保しますから。桃も気をつけます」
私の返答に苦笑しながら先生が扉を開けた。
「凄い…」
その言葉に尽きる…タイムスリップでもした様な大きな屋敷が目の前にあった。さっきの敷地にあったお屋敷は洋風だったけれど、こっちのお屋敷はまさに江戸時代からここに建っていると言われても疑わないだろう。
先生はさっさと門を潜り抜け玄関に向かっていく。私も置いていかれない様に呆然としながらも先生について行く。
と、突然中から弾ける様な声が響き渡った。
「きゃ〜!正嗣さんおかえりなさ〜い」
一人の女性が飛び出してきた。鮮やかな着物に長い髪を頭頂部で上手にまとめ上げている。年齢的に先生のお姉さん?そんな事を思っていると、先生が迷惑そうに私に紹介してくれた。
「母の芹だ」
抱きついてきたお母様を離すと、先生はさっさと中へ入っていく。
「はじめまして瑞樹と申します。急にお邪魔してすいません。先生にはいつもお世話になっております」
「あら、可愛いお嬢さんね!どうぞあがってちょうだい。正嗣さん!お嬢さん置いてどこ行ちゃったの?もう、せっかく久しぶりに帰ってきたと思ったら…」
お母様は頬を膨らませて怒っている。あまりにも予想だにしなかったお母様の登場に、私も笑うしかなかった。
「調べ物があってこちらに来たので、調べ物が出来る書庫や倉庫だと思います」
「いつもそうなのよ〜せっかくだから瑞樹ちゃんがお相手してくださる?」
私も挨拶を済ませて先生を追いかけたかったが、早速お母様に捕まってしまったみたいだ。
「あの…お手柔らかにお願いします…」
その途端だった。先に行ってしまったと思っていた先生が私の腕を掴んでいた。
「悪いがあんたの相手をさせる為に連れてきたわけじゃ無い。調べる事があるから連れてきたんだ。邪魔をしないでくれ」
先生はお母様にそう言い放つと、私を引っ張って奥の部屋に歩き出した。
「馬鹿か!積極的に相手をしろとは言ってない。そんな暇があったらこっちを手伝え!」
「はい。すいません」
任せるって言ったり、相手にするなって言ったり…実家だと先生も大変だなあ〜と思いながら、先生の後ろをついて私は歩き出す。
「あいつらはこっちの都合お構いなしで近づいて来る。回避しきれなくなった時だけ相手しろ」
「わかりました。気をつけま…す」
そこまで言って私は言葉が続かなかった。目の前に現れたのは、部屋ではなく…
家の中にスッポリと納められた巨大な3棟の蔵だった。その中の一つに入ると、古い書物が所狭しと保管されていた。棚に並べられているものから棚に入りきらず積み上げられているもの…この蔵にはどれだけの蔵書が保管されているのだろう。
そして真ん中には、いつでも調べ物が出来る様にテーブルと椅子が申し訳程度に置かれていた。
「凄いですね…この蔵にはどれだけの本が入ってるんですか?」
「数えた事はないな。何十万冊だろうな…俺たち一族の全てが納められている」
ここから調べるにはどれだけの時間がかかるだろう。早速先生は棚の中から大量の本をピックアップすると机に積み上げていく。
「この大量の本から何を調べればいいんですか?」
「アストラルの鍵について調べる」
「鍵?」
初めて聞く言葉だ。アストラル面にある何かの鍵なんだろうか?
「その鍵が何かに必要なんですか?」
「俺も噂で聞いた事があるくらいしか知らない。だが、今までの羽島の言動や行動を合わせて考えると目的の先に鍵がある気がしてならないんだ」
先生も噂程度しか知らないアストラルの鍵…そして羽島の目的かもしれないもの?
「それって危険なものなんですか?」
「それを手に入れた者は世界を手に入れる事が出来ると言われている」
世界を手に入れる…それは世界を征服出来ると言う事なのだろうか?それとも今行動がされている未来の決定能力の事なんだろうか?
鍵と漠然と言われても意味がわからない。
「調べるって言っても手掛かりはあるんですか?」
「鍵についてはこの家に代々伝わっている。が、俺は噂程度にしか知らない。俺は嫁も取らずに果ては爺さんの養子になった。出入りは許されているが、鍵に関しては他人になった俺には話せないと言う考えなんだろうな」
「だったらこの家にある資料を片っ端から調べるしか無いと言う事ですか?」
「そうだ」
話を聞く限り…家族間のコミュニケーション不足な気がするんだけど。
「先生?それはご両親とそれについて話したことは?」
「話す気があるなら向こうから言って来るはずだ。話さないと言う事は俺には言えない情報だ」
うん、私がお手伝いする方法決定。
先生は自分で判断して、ご両親から聞くと言う手段を省いてしまっている。
「先生。だったら私はお母様と少しお話してきます。先生はここでおとなしく調べていてください」
「はっ?瑞樹なにをする気だ?」
「先生ができない事をするのが弟子の役目ですよ。ここの資料を一緒に漁るより二手に分かれた方が有効的です」
「だから奴等と話をするのは回避しきれなくなった場合にしろと!」
「私の判断では回避不能です。今の私達には時間が少しでも必要なんですよ。合理的に考えれば、ご両親にまず確認する。それが一番です」
私の言葉に先生が白旗を挙げる。ため息を吐くと私の目を真っ直ぐ見る。
「わかった。だったら俺も一緒に行く。彼奴らは何考えているかわからんからな。俺の知らないところで変な展開になっても怖い」
「了解です」
私達は座っていた椅子から立ち上がると、再びもと来た廊下を戻る事にした。
先生ママさん登場です^_^




