朝の一杯
次の朝、目が覚めると、隣のベッドに先生が寝てる姿が目に入ってきた。
その姿に少しドキリとしながらも、あれっ?と思う。
私ベッド二つ並べて創ったけど…かなりの距離に離れていた。先生が動かしたのかな?
先生のベッドに近づき、ベッドの脇にしゃがみ込むと、先生の寝顔を覗き込んだ。
初めてみる先生の寝顔にちょっと面白いと感じながら、少しの間眺めているといろいろ気がつく。
白髪の多い髪の毛で最初60代とか言ってしまったけれど、黒く染めれば意外に若く見えるんじゃない?下手すれば50代と言わず40代くらいには…。それに顔も整ってるから、かっこいいかも。
なんて私が一人考えていると、気配で覚醒が促されたのか、先生のまぶたがゆっくりと開き、その途端に私の存在に気づき、ガバリと起き上がった。
「おはようございます先生」
「お前は何覗いている」
「ちょっと先生の寝顔を観察してました」
「馬鹿か!」
馬鹿って言われた…失敗。
「全く…昨日のベッドの配置といい、危機感はないのか?」
「危機感?すいません、全然感じてないです。ベッドの位置って離れていましたけど、ダメでしたか?」
うーん、先生てば難しいお年頃?
「前も言わなかったか?俺も男だと、アストラル離脱しているとは言え、寝る場所くらい別々にしろ。せっかく自分の空間を創ったんだから、なぜその部屋に自分のベッドを置かないんだ?」
あっ〜、そうか。
「次からは気をつけます」
「そうしてくれ…」
朝から先生を疲れさせてしまったみたいで失敗だ。でも、だったら先生が別の部屋に行けばいいのに…って、疲れて帰ってきた?
「先生大丈夫?」
「はっ?何がだ?」
「私が寝た後に帰って来たみたいだから、疲れているのかなあ?って、」
「ああ、そう言う事か。それなら大丈夫だ。本体はあっちに置いてあるからな。アストラル体だけの疲れならすぐに回復する」
そうか…私達の身体は寝たままだった。だから、私もスッキリ起きれたんだ。
いろいろ考えてるうちに先生が空間にいろいろな物を揃えていく。
と、不意にティーセットまで現れ出した。
「アストラル体なのにお茶するの?」
「実際の茶ではないが、気分を落ち着けるくらいは出来るぞ、まあ、バーチャル的な茶だな」
バーチャルお茶会?それは新しいお茶会だなあ〜と思いながら、考えてみるとアストラル面で遊んでいた時に飲み食いしていた事を思い出す。あれもバーチャルだったんだ。と思いながら、先生が用意した椅子に座りバーチャルなお茶会を楽しむことにした。
お茶を楽しみながら、先生と昨日の話とこれからの話をする。
「昨日は何処まで行ったんですか?」
「ちょっと上の方にな…」
そう言って先生は天井を指した。
「上って空?」
「まあな、気になる事があったからな」
「気になる事?」
「またそれは必要な時に話すよ」
「はーい」
先生の歯切れが悪いけど、こう言う時は先生は絶対に話してくれない。だから、私はスルーする。
「あと、少し下にも行って来た」
今度は床を指す。
「この下何かあるんですか?」
「農場があった」
「農場?」
「米から野菜。牛や豚、すべての食料がこの下で作られていた」
「それで下に潜れないんですか?」
「ああそうだな」
「それでなんだ…ん?先生はどうやって潜ったんですか?」
スルーしそうになってギリギリで疑問に気がついた。
「気づいたか」
「はい」
片手でティーカップを持ち、コクリとお茶を一口流し込むと先生は横を向いた。
「企業秘密だ。俺には裏技がたくさんあるからな、他と一緒にスルーしておけ」
企業秘密なんだ…ちょっと悔しくなる。
「先生ってまだまだ知らない事沢山ありすぎですよね」
「生きてきた時間が違うからな。多く生きていれば知る事も多くなるし、他人には話せない事も増えてくる。それは仕方がない事だ」
それは…そうだけど、ちょっと寂しい感じがした。
「それにしても…」
「なんだ?」
「このクッキーとお茶美味しいって感覚あるんですけど、バーチャルなんですよね?不思議と言うよりリアル過ぎるんですけど」
「さっきはバーチャルと表現したが、アストラルの創造の世界と同じだからな、味や香り
や食感なんかは自分の想像でなんとでもなるんだよ。特に味はそれぞれが想像した味になるから、俺と瑞樹では違う味を楽しんでいるはずだ」
「へ〜そうなんだ。じゃあ先生のクッキーは何味なんですか?」
「ココナッツ味だな」
「私はくるみが沢山入ってますよ」
なるほど全然ちがう。それはそれで食べたい味を選択できるからいいけど、味の共有をして「美味しいね〜」と、共感する事は出来ないと言う事か…アストラルの創造力に改めて考えさせられる。
「まだまだお前たちはアストラルの先端を知ったくらいなんだよ。俺とは年季が違うからな」
「う〜、これでもかなりどっぷり浸かってる気でいたけどまだまだか…」
「そのくらいでいいんだよ。知りすぎるのは危険だからな。お前達はそんな綱渡りはしなくていい」
私達は先生の綱渡りを下で見学していろとでも言われた気がする…でも確かにその先には綱渡りの様な覚悟が要ると言う事なんだろう。
どのくらいの覚悟が必要かはわからないけど、覚悟が出来たあかつきには先生に喰らい付いてでも、聞き出そうと私はその時思った。
「で、昨日自分一人でベッドを創ってみてどう思った?」
「へっ?あぁ、慣れると意外に簡単でした。今まで物を創造するなんて頭に無かったから楽しいし便利ですね。二つ目を創る時には思い浮かべただけで、ぽんっと現れた感じでした。だからアストラル面に自分の部屋を一つ創っておくと篭りたい時とかにいいなあ〜って思いましたよ」
「篭りたいのか?」
先生が苦笑する。なにか変な事言っただろうか?まあ、正直な気持ちだからいいか。
「先生もそうでしょ?奥の部屋全部アストラル部屋だし」
「お前と一緒にするな。俺は結界が必要だから部屋を創ってるんだよ」
「そうなんですか?」
「これでも裏の仕事に必要な空間なんだよ。篭りたいなんて考えからじゃない」
「あっ、先生の裏の仕事って何なんですか?いつもはぐらかされますけど」
「それは当分はぐらかされていろ。今はまだ話す必要はないし、知らない方がいい」
「む〜またですか?ほんと先生秘密ありすぎですよ」
私は拗ねる様に先生から顔を背けてお茶の続きを飲む。
「仕方ないだろ。さっきも言ったが、お前の今の力で俺の仕事やいろいろな力を知ることはかなり危険なんだ。本来なら部屋を創り出すのも、その先に繋げるのもまだ早いと思っていた。今回は状況が状況だからな、特別なんだよ」
そうなの?危険があるとは思ってなかったんだけど…
「俺がいるから許可したんだからな。俺がいない所で別の場所に繋げようと思うんじゃないぞ」
「はい…」
「本当にわかっているのか?今のお前では不測の事態に対応できないから言っているんだ」
つまり先生はまだまだ私達の力を信用していないんだ…そんなに頼りないかなあ?
「さあ、さっさと飲み終って午後の準備をするぞ。あいつらも仕事をしながらソワソワしているんじゃないか?注意力散漫で怪我しないといいが」
「大丈夫ですよ。先生ちょっと私達に対して過保護過ぎます」
少し先生に反抗したい気分で返事を返した私は、飲み終わると直ぐに午後の準備に取り掛かった。
ちょっとした朝のひととき…休憩です




