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飴とムチ?

その後ろでは、私達の会話が聞こえず何が起こったか理解できないでいる二人が慌てて私達を追いかけてくる。

「何?先生また新しい部屋作ったの?」

弥生が部屋をくぐりドアを閉めた時には、先生はアストラル体を再び抜いていた。先生の入っていた鹿が部屋で不確定な動きをはじめる。

それの動きを見て、弥生も睦月も先生の意図を読み取ると、自分の身体を横たわらせると同時にアストラル体になっていた。

私も同じようにアストラル体に戻る。

「これで会話できるな。」

「先生いくつここに部屋を作るの?」

弥生が先生に見当違いの質問をする。

「部屋は一つだよ。ただ、入り口を増やしただけだ。さっきの部屋と同じだ」

そう、先生は1つの部屋に色々なところから入れるようにしているだけ…ってそんな事は後だ。

「それよりも、今の状況よ。さっき先生と話したんだけど、波動の原因わかっているの?」

私は二人に詳しい事を聞きたいと思った。でなければ、この状況を把握できないから。

でも…

「わかるも何も、地上に出たらこんな状況で、それの説明を他の人から聞いて避難するようになっただけだよ。俺たちも何か調べたいとは思ったんだけどな…いかんせんここには地下の様な設備がまったくと言っていいほど無いんだ。衝撃波に怯えながら、昔の遺物を修理して使う。それだけで、最新の物は何も無い。俺たちの生活は大昔の生活になってしまっているんだ。」

「この状況を見れば君たちが何も理解していない事はわかる。俺達は外から来たからこそ、何が起こっているのかがわかるはずだ。瑞樹、お前も少しパニックに陥っているぞ。落ち着いて彼らに訊ねればいい。まず状況を確認する。それから何をすべきかを考えよう。」

この状況に解決策なんてあるんだろうか…睦月が言うように、ここには何も最新の設備が無い。そんな場所で何をするべきなんて事があるんだろうか。

「まず説明だ。この太陽フレアによる放射線のたびたびの来訪。これは何故起こるか。こんな頻繁にあるのは異常な事だ。だが、この時代においては普通のことになってきている。地球の磁気が弱くなり始めているのかもしれない」

「地球の磁場が?」

「そんな事があるの?」

「ああ、おそらくこの時代が訪れてしまったのも、地球の磁場が弱まったのが原因だと考えられる。磁場が弱まればオゾン層が破壊され、太陽からの放射線の影響を直接受けてしまう。そして人類は早々に地中に潜り、大切な繁殖と言う機能を失った。初期に潜った為、動物たちが地上で進化を遂げていることも知らず、そして人類だけが進化から取り残された事に気付いた時には選択肢はキマイラ化しか無かったと言う所か…」

「本当にキマイラ化しか選択肢無かったの?」

私は自分の気持ちを言葉にしてみた。

「あった筈だ。だが、それを選ばせたのは奴だ。恐らく奴は確定した未来から俺たちの150年間を自由に行き来できるようになっている。それまでは150年前の俺たちの時代から計算し未来を作ってきた奴が、確定した未来を手に入れたんだ。都合のいい未来を作らない訳がない」

「でも、彼の力が今の弥生たちの存在を支えてるんだよね」

「だから厄介なんだよ。ここから抜け出すにはそれ以上の環境を用意するしかないが、それが一番難しい。放射線から逃れる環境だからな」

それを聞いて弥生が先生を覗き込む。

「先生にも無理なの?」

先生はニヤリと笑う

「出来ないと思うか?」

先生の答えに弥生がにっこりと笑う。

「やっぱり先生だね」

なんとなく私と先生の関係とまた違い、少し私は心の中がモヤモヤとする。

でも…先生出来るような事を言ったよね?

「先生出来るの⁈」

私が飛びつくと、仕方がないなあと言う表情をする。

「非常に難しいが出来なくは無いと言う所だな。ただし、いろいろな情報や状況を集めてからでないとダメだ。こっちと向こうの行き来を密にしてもそれを実行出来るのは最短でも1年以上先と考えてくれ」

「何を調べればいいんだ?俺たちこちら側にいるメンバーで出来るなら、何でもする」

睦月も真剣な眼差しで先生を睨みつける。

「調べなければならない事はいくつかある。世界の現状も知りたいが、一番重要な情報は日本全土が羽島のテリトリーなのかどうかだな。まずはそれが知りたい」

指を折りながら、先生が挙げたこれからするべき事を連ねていく。


① 日本全体が羽島の監視下にあるのか?

    監視が抜けた場所を見つける

② 世界全体の状況を知る

    日本だけでなく世界は?

③反対勢力等はあるのか?

    旧人類の中に反対派はあるか?

④旧人類の状況と実状

    旧人類とのコンタクトの試み


この4つを私達は実行していかなければならないらしい。

「監視下でない場所を探すと言う事は、そこに拠点を作ると言う事?」

私が聞くと、先生はゆっくりと頷いてくれた。

「だが…恐らくあいつは俺たちが動く事も折込み済で、わざと抜いた場所を作っている筈だ。だから、故意に抜いた場所ではなく、本当に抜けた場所を探す必要がある。つまり見極めが非常に難しい」

「「「本当に抜けた場所…」」」

私達3人の声が重なる。

「まずはわざと抜かれた場所も含めて、表面上抜けた場所をすべてピックアップする。そこから本当の場所を見つけ出す。ピックアップするだけでも半年以上はかかる」

確かに日本中を探索するなら時間が必要だと思う。それに加えて私達二人は弥生達の世界と私達の世界を行き来しながらだし、太陽プロトンの降る世界を掻い潜りながらとなると、途方もないプロジェクトになりそうだ。

「えっと、それって半年くらいで出来るの?」

弥生が先生に質問する。

「半年以上と言った筈だ。最短でも半年以上だ。思う様に進まなければそれだけでも1年近くになる。要は頑張り次第だな」

先生がニヤリと笑う。そして言葉を続ける。

「抜けた場所の探索だけでもそれだけ掛かるが、それと同時に他の探索も行うぞ」

「お…おぅ、頑張るしかないよな」

睦月も引きつった笑顔になっている。

「まあ、このメンバーだけでは無理だ。何人か仲間を引っ張って来い。そうだな…せめて五人は仲間が欲しい。交渉は二人に任せるが、仲間内にも羽島の息の掛かっている奴は必ずいる。そこの見極めにも気を付けろ」

「先生待った!仲間に裏切り者がいるって言うの?」

話がまだ続きそうな先生を遮る様に弥生が質問を被せてくる。

「ああ、裏切り者と言うよりも考え方がこれ以上進まない様に誘導する役割を羽島から与えられている奴だな。現にお前達は日々に追われて今まで殆ど探索ができてない筈だ」

二人が考え込み始める。いろいろな心当たりがあるんだろう。

「まあ、敵か味方かくらいの見極めは簡単だから後で教えてやる」

先生は見極めを後回しにして二人に向き合う、

「先ずは探索に出る方法から教えておく。仲間集めはそれが出来る様になってからだ」

そうか…今の状態で生身で探索に出たら太陽プロトンから逃れる術は無い。だったら探索はアストラル体でやるしかない…でも、どうやって?

私は一人で考えてみてすぐに問題にぶつかった。

「先生どうやって探索するの?たまに子供に逢いに行くだけでも一苦労なのに…」

私が声にする前に弥生が質問すると、睦月も同じらしく頷いている。

「床下もダメなんだよ?先生どうするの?」

私も同じ考え方だと気づくと、先生は眉間にシワを作りながら項垂れた。

「睦月はいいとして、お前達は俺から何を学んだんだ…」

「えっと、アストラルに関する常識から使い方からいろいろです」

今度は私が答えると、先生の目がそれなのに気付かないのか?と言う表情になる。

「お前達がそれらを学んだ場所は何処だ?」

「先生の家」

「だったら今俺達は何処にいる?」

「何処にって…」

私と弥生はお互いの顔を見た。

「「あっ!白の空間!」」

同時答えると、先生がやっとか…と呟いた。

「そう言う事だ、この白の空間を創り出し、そして使いこなして、いろいろな場所を探索する。これを使えば子供の様子を確認する事も簡単になる。場所がわかるなら練習ついでに会いに行ってみるか?」

先生はたまに粋な事をさらりとやる。そんな先生に追いつきたいと思いながらも、全てが先生には敵わない。

みるみるうちに二人の表情に笑顔が浮かぶ。

まあ…飴と鞭みたいな所もあるけど、私もサプライズが付いた訓練はウェルカムだったりする。やっぱり勉強には目の前の人参が必要だね。

そろそろ書き溜めていた分に追いつきそうです!

頑張らないと^_^

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