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太陽と進化

「こっちへ!」

睦月が突然私達を奥の部屋へ誘導する。私は何が起こったのか判らず、先生の頭でわたわたと慌てる。

「なにがあったの?先生?」

「知る訳がないだろう!後で説明を聞けばいい、今は振り落とされない様にそこにいろ!」

振り落とされない様に?えっ?何が起こっているの?!

奥の小さな何も無い部屋に入った途端だった。部屋全体が左右に揺れ始める。えっ?地震?!そんな間にもどんどん揺れが激しくなっていく。鳥の二本足で先生に掴まっているのも大変な程で、思わず空中に飛ぼうとした瞬間。弥生に抱きしめられた。

「飛んだら駄目!」

その言葉を耳元に聞きながら、私の意識は遠くなっていった。


しばらく私は意識を手放していたのか、気がついたときには弥生の腕の中ではなく、先生の背中だった。

「あっ、瑞樹気がついたみたいだよ!」

弥生が私に気がつくと嬉しそうに手のひらを私に開いた。その手のひらにちょんと乗り移ると、何があったのかと弥生に首を傾げた。

「突然でびっくりしたよね?時々あんな衝撃波が来るんだ。私達はもう慣れたけど、瑞樹は地震だと思ったでしょ?でも、本当はアストラル体が感じる衝撃波で本当の身体に感じる衝撃波ではないんだ」

地震でなくてアストラル体が感じる衝撃波?あんな物が時々来るの?

「あれが人間が地上で暮らせなくなった理由の一つらしいの。まあ、この空間に居れば、衝撃波を感じるだけだから、慣れればそんなに問題はないんだけど…」

そんな弥生の言葉を他所に、聞こえないからと先生はブツブツと言う。

「問題が無いはずは無いだろうな。睦月も弥生もさっきから慣れれば大丈夫だと言っていたが、あれは地球に害をなすものだ。人間が地上で暮らさない理由がわかったな。」

「先生あれは何ですか?弥生達は衝撃波って言ってるけど…」

「あれは恐らく太陽フレアにともなうコロナ質量放出だな。あれに含まれる放射線をまともに人間が浴びたら量にも寄るがたぶん30日くらいで死ぬ」

「えっ!でも、弥生達は慣れたって…!?」

あれがそうだったら…弥生達は危険に晒されている事になる。

「まともに食らえばな、あいつらが今言っていただろう。この空間に居ればってな。おそらく奴の…羽島の結界がこの洞窟の生活空間をコロナ質量放出から護る一種のシェルターみたいなものだ。さっきのサイレンはこの危険を知らせるものだったんだな…一応、奴はここの者達を保護しているという事か…」

先生が深くため息を吐く。

「でも、前ここに来た時は地下の生活空間にはこんな事無かったわ。どうして地上だけ?」

「地下は完全に衝撃波をカットしているんだろうな。だから地上にこんな危険な物がある事を知らないでいる。だが、外に出ると地上はこんなに危険なところだと気付く。でも、もうあの地下の生活に戻りたくない。そうなると、この場所が結界と監視に包まれていても、出て行くことが出来ない。ここに居なければ確実に地上は死が待っているんだ」

その言葉に、私は地上に降り立つ大きな鎌を持った死神を想像した。

「だったら…動物たちはどうやってこの放射線を防いでいるの?」

私の中にまたも疑問が浮かぶ。

「それが人間と動物の進化の違いなんだよ。恐らく全部が生き延びた訳ではないと思うが、今生きている動物たちは、滅びない為に進化した。そして人間は滅びない為に地下に逃げた。恐らく人間が地下へ逃げた時にはまだすぐに死ぬ様な放射線量ではなかったはずだ、その間に動物たちは驚く程短期間に進化を遂げたんだ。150年後に俺が疑問を持った程にな」

「そんな事が…」

「あるんだよ、生き物というものは生命力が強い。何があっても種を残す事を優先する。それは進化という形に顕著に現れる。生き残る為ならな…だが、人間はその力を科学に頼り、進化という能力を失ってしまったと言っていい。それが今の結果だ」

「人間だけ進化できずに滅ぼうとしていた…でも、それをキマイラと言う形で補った?」

「そうだ。だが、それでも地上には住む事ができなかった。これだけ緑があるにも関わらず、人間は地下に潜ったんだ」

それは人間の限界を見たと言う事になるのかもしれない。そして、本当の人類は生殖能力も失い、新人類に人類の生き残りを託した。それでも、羽の無い自分たちの権力を手放せずにこんな世界が出来上がった。私は、ここで今から何をすればいいのだろうか…

弥生達の生活が納得行かなければ、羽島の所へ乗り込もうと思っていた。でも、この状態は弥生達を人質に取られているようなものだ。私には羽島の様な弥生達をコロナ質量放出による放射線から守れる力は無い。でも…

今は羽島の力がここを守っている。でも、その力が…羽島が居なくなったらどうなる?ここの人達はあっという間に滅びてしまうのでは?

ここはあの男が存在する事で成り立っている?こんな綱渡りの死と隣り合わせの生活に、背中がぞくりとする。こんな危険な所に弥生達を置いていていいのだろうか?

「あいつが結界を作っていると言っても、永遠に作り続けられるわけではないんだ。だから、ここは羽島の空間を真似て人工的に作った空間だろう。だから監視されていると言っても、すべてを監視しているんではなく、時々抜き打ちのように様子を見に来る程度だろうな。だから、完全な監獄だと考えなくてもいいのかもしれない…だが」

そこで先生が言葉を切って天井を仰ぐ。

「どうしたんですか?」

「今の影響で、奴がすこし様子を見に来ているみたいだな。」

「羽島がですか?」

私も先生に倣って天井付近をキョロキョロとしてみたけれど、何も感じる事も見る事も出来なかった。見られているのがわからないのに見られていると言われるのはなんだか嫌な感じだ。

「俺たちの存在も知られたかもしれんな…瑞樹一度俺たちはあの部屋に戻るぞ。」

そう言って先生が弥生達の裾を引っ張りながら部屋を出る仕草をすると、それを弥生達が駄目と制止する。

「先生今動くのは禁止なんだ。特に廊下は危険だから、今はこの部屋で待機して。」

弥生が先生の目線に合わせるようにしゃがみこむと、先生の…と言うより、鹿の頭を撫でた。

「廊下が危険だと?」

先生もだんだんと弥生達と直接会話が出来ない事にイラついてきている。この会話を成立させるにはあの部屋に戻るのが一番だから。でも、弥生達は危険と話を続ける。

「警報が鳴って急いで部屋に入ったのには理由があるんだよ。太陽フレアの発生にともなうコロナ質量放出による放射線…まあ太陽プロトンと呼ばれるものなんだけど、最近あれが廊下に入り込むんだよ。」

それは私も知っている…十年に一度くらい太陽は大フレアを起こす。そのフレアに伴い電磁波やプラズマが一気に放出される。でも地球は磁場に守られている為、地球の外にいない限り、死に影響する事はない。十万倍も強い十万年に一度のフレアが発生すれば、地球の生命は絶滅する可能性がある。そんな本を読んだ覚えがあった。

でもそれは十万年に一度…こんなに頻繁に来るものではなかったはず…。

それにここは守られているはずなのに、廊下は危険て…どういうことなんだろう。

「クラックか…人工的に作った欠陥か?」

「ここへ連れてこられた時、の影響がある事も説明を受けたんだ。で、この施設内なら大丈夫と言われていたんだけど、いつの頃からか廊下に居た人が体調を崩すようになって、最近は死者まで出る様になってきたんだ。ただ、この部屋の箱自体は地下と同じ機能をしてるみたいで影響は無いから、廊下には出ないようにしようという話になって」

睦月の説明により先生が独自に解決して行く。

「この部屋自体は地下と同じ素材で囲まれているんだろうな。それをここの結界が覆っている状態だった。だから最初は廊下も大丈夫だった。まあ、部屋は結界との2重になっていたと言う事だ。だが、あるときを境に結界にクラック…亀裂が入ってしまったんだろう。それがある為に、結界の放射線バリアは機能しなくなったと言う所か。」

でも…と、さっきの疑問に私が戻る。

「私達の時代にはX100クラスのフレアでも十年に一回だったのに、なんで弥生達が慣れてるというほどこんなに放射線が襲ってくるのかしら?」

「そうだな、たしかにX100クラスのフレアは十年に一度くらいだが…それより小さいフレアはたくさんある。Mクラスのフレアなら一年百回程発生するだろう?だがそれらは地球の磁場によって地球まで到達する事は無い。だったらその地球を守る磁場が弱まってしまったら?」

地球を守る磁場が弱まったら…?そうだ、私の考えは地球の磁場がある事が前提だった。それが何かの影響で弱くなってしまったら…それが今の状況。この時代の地球は磁場と言う保護を失いかけている?

「わかったようだな。この世界は今までなんでもなかったフレアでも危険に晒されているという事だ。おっ、奴の視線が消えたな…それなら繋げられるな」

ふと、先生は説明が終わった所で、また天井を見上げると不意に私を頭に乗せたまま、部屋の隅に移動する。」

「先生?視線って羽島の視線?」

「ああ、そうだよ」

私の質問に答えながらも、先生は気を集中し始めた。すると先生の前方にさっきいた空間がまたドアつきで出現する。あの空間は何処でも繋げ放題らしい。私が先生の凄さに苦笑していると、先生は私を払い落として自分だけさっさと繋げた部屋へと入っていってしまった。私は払い落とされながらも、かろうじて羽根で空中に留まると、先生を追いかけた。

皆さま怖い世の中になっております。

お気をつけください

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