世界の記憶
「ボロボロと思っただろ?これ俺たちがこの荒野で掘り出したんだ。まさにレトロ車の掘り出し物なんだよ」
荒野で掘り出したって、これ昔の車を発掘して乗っているって事?
今の状態では睦月と普通に会話は出来ないので、一人でびっくりしていると、先生が補足してくれる。
「滅びた地上の世界に残されていたものだろうな。朽ちにくい部品を使っていたんだろうな。機械物はしっかり作られたものなら、部品をかき集めれば作り直せない事もない。ふむ、やはり約150年後か…ここは場所としては彼らに提供されたが、生活する上で必要とする物は自分たちで、なんとかしなければならないみたいだな。生活道具から食事に至るまで、今までとは違って自分たちで確保しなければ手に入らない。生活空間の確保されたサバイバルと言ったところか…ただ彼らはこの世界の不条理に気付いた人達だから、他の人々と違って頭のいい者達が多いはず。だからこそ、生きる上で必要とするものを調達でき、尚且つ生活を工夫できる。まあ、昔の人間の生活を考えれば問題ないだろうな。まあ、自由と本当の寿命を手に入れたんだ、彼らからすれば今までの生活と違い天国だろうな。」
そっか…自由と本当の寿命を手に入れる代償。それが今までの生活だったんだ。
私は弥生達の生活をもっと確認したいと思った。今の生活を良しとするのかは、それからでいい。私は弥生達の意見をもっと聞きたかった。
車で荒野を少し走ったところで、向こうに手を振っている人が見えた。
「おっ、弥生見っけ!」
睦月が私達をチラリと見ながら、ニカッと笑った。私も手を振っている人に目を凝らすと、確かに弥生だ。鳥の目よりもいい睦月の目に驚きつつも、早く弥生に会いたいと思った。
みるみるうちに弥生の姿は大きくなり、弥生のすぐ隣りで車は止まった。
「お待たせ弥生。収獲はあったか?」
「あったあった!今日は肉食べれるわよ。これこれ!」
と、私が覗くと弥生の手から下にあったのは、先生が今憑依している鹿と同種だった。
「俺が仕留められてもおかしくなかったわけか…途中で弥生に遭遇していたら危なかったな。」
隣りで先生が珍しく焦っていた。私もその言葉に想像してしまい、笑ってしまった。
「よかったね、先生。先に睦月に会っておいて。」
「まったくだ…」
そんな事を私達が話していると、弥生が車の後ろに乗っている私達を見て
「睦月も捕まえたの?今日はご馳走だらけになりそうだね!」
と弥生は笑った。先生がびくりと身体を震わせた。
「いやいやいや、これは弥生お前の友達と先生だよ!その肉と一緒にしちゃ駄目だ。」
「えっ、どういうこと?友達と先生って…」
「瑞樹と上田先生がアストラル体でこっちへ来たんだ。で、身体が無いから今は動物に入っているんだよ。だからこっちは駄目」
睦月の言葉で、ようやく弥生は私達の事を理解したようだ。
私達の乗っている後部座席に入り込み、まじまじと見つめると、
「本当に瑞樹と先生なの?」
と聞いてくる。
私と先生は頭を縦に振った。
「本当に本当に瑞樹達なんだ!夢でも私見ているのかなあ…だってアストラル体の交換していないのにこっちの世界に二人が来れるなんて…信じていいの?」
弥生は完全に泣き出してしまった。本来ならそんな弥生を抱きしめてあげたい。でも、今の私は鳥以外の何者でもない。仕方なく、慰めるように弥生の肩にとまると嘴を弥生の頬に擦り付ける。
「やさしいね…うん、判るよ。こっちの鳥が瑞樹だ。そして、この鹿が先生だね?」
そう言って弥生は鹿の先生にも手を伸ばす。先生は手を伸ばす代わりに、鼻で指をポンと押し返した。イエスと答えたつもりなんだろう。
「とりあえずこんな所で感動の再会をしていても会話も出来ないから、ホームへ帰ろう。向こうなら話す場所できてるから。」
睦月は車から降りると、弥生の仕留めた鹿を車のトランクへ押し込み、弥生を助手席へと座らせた。
まだ弥生は夢のように感じているらしく、後ろにいる私達を見つめ続けていた。もしかしたら目を少しでも離したら、私達が居なくなってしまうのではないかと不安があるのかもしれない。
大丈夫と言ってあげたいが、今は鳥と鹿の姿の為話す事が出来ない。車が帰宅するまで、私達ももどかしくて仕方がなかった。
彼らの言うホームへ戻り、例の部屋に入ると私達は一気にアストラル体に戻り、弥生達も体を置いてアストラル体になった。
「本当に瑞樹だあ~」
と、今度こそ弥生は私に飛びついてきた。私もそんな弥生を胸に抱きしめながら、弥生の頭を撫でた。
「ごめんね会いに来るのが遅くなって。もっと早く来たかったんだけど、いろいろ準備があってなかなか来れなかったの。でも、元気そうでよかった」
私の言葉に、再び弥生が泣き崩れる。
「私達の為にここまで来てくれるだけで充分だよ~それに先生まで来てくれるなんて思っても見なかったもの~」
「まったく…泣きすぎだ。俺たちは約束が守られたか確認に来ただけだ。お前たちが無事問題なく生活できているのならすぐに帰るぞ。」
「先生、そんな言い方無いでしょ。せっかくこっちに来たんだから、弥生達の生活を少し見ておかないと、それにまだ話まだ殆ど聞いていないし…」
私が先生に言うと、「わかっているに決まっているだろう」とそっぽを向かれ、少し拗ね気味な先生なる。たぶん今の言葉は先生の照れだと思う。なんだか最近照れてばかりの先生がいる気がするのは、気のせいではないはず。
でも、私の言葉は本気だから…弥生達の生活を確認しない事には、帰る訳にはいかない。だってそれが私の一番の目的だから。
「うん、案内するよ。私達の今の生活全部見ていって。前の生活とはかなり違うからびっくりするとは思うけどね」
「案内すると言うけどな。俺たちをアストラル体で案内するつもりか?言っておくが、俺の作ったこの空間以外はアストラル体で移動は出来んぞ。」
先生は腕を組むと言い切る。
「えっ、先生アストラル体になれますよ?外には出る事出来ないけど…」
「弥生達アストラル体で外に出られないの?」
「さっきの結界が行き来を遮断しているんだよ。俺たちも外からアストラル体で入れなかっただろう?あれは中からも有効だという事だ。」
そっか…あの結界は、弥生達のアストラル体での行動も制限しているんだ。
「そうなんだよ。俺も弥生と一緒に外に出れるかいろいろ試したんだけど、駄目だったよ。地下も駄目だった。一度地下に潜ってからなら出られるかと思ったんだけど、下も床下10cmで全部閉じられてた」
「10cmで床下がか?」
睦月の言葉に、今度は先生が違う反応をする。なにかがあるんだろうか?
「ええ、そうです。手が床に少し沈む程度で、全然潜れないんですよ。だからここでアストラル体になっても何処にも行けなくて…。まあ、それでも時々俺たちの子供の様子は確認に行っているんですけどね。」
「そうか…」
それだけ返事すると、先生はいつもの考えの部屋に入ってしまったみたいで、反応がなくなってしまった。
「何かあるのかなあ?この床下に?」
「でも、調べ様が無いんだ。入れないんだからな。」
「まあ、先生の答えが出るまで待つしかないわよ。それにしても、先生こんなアストラル体になっても考えの中に入っちゃうなんて…私達が居るからいいけど、危険ないのかしら?」
そんな事を話ながらも、先生が考え込んでいる間に少しこの空間を確認する事にした。
先生は空間のちょうど真ん中にいるから何処からでも見えるし、先生なので問題はないと私達は判断した。」
まず私達はかなりの広さがあるこの空間の一番奥を目指す。視覚的には10畳位にしか見えないのだけど、動いてみるとそんなものではない事がわかる。先生を背にして歩き出したが、1分ほど歩いても先生が遠くならない不思議な感覚が私達を襲う。そして、空間の奥に着いた途端に私達はもっと不思議に遭遇した。突然視界が反転して先生の目の前、空間の中央に戻ってきていたのだ。
「何これ?面白いじゃない!?」
三人が三人これには驚かずには居られなかった。今まで先生の空間をいろいろ見てきたけれどこの空間はその中でも特殊のような気がする。なんでこんな空間にしたんだろうか?普通の空間ではいけなかったのだろうか?面白いといっても何かの為にこんな空間にしたんだと思う。まあ、時々たいした理由は無い事もあるけれど…。先生だし。
とにかく先生はまだ復活しないし、少し待たないとならないと思ったときだった。
すっと、先生が座り込んでいた中央で立ち上がった。
「先生?」
私達が先生の下へ行くと、先生はなんでも無かった様に「行くぞ」と鹿の中へ入り、ドアへと向かった。
「先生待って!」
私も鳥の中に入ると、先生の頭へとまった。その間に弥生と睦月も自分の身体へと戻っていた。
「先生何を考え事していたの?」
「後で教える。今は案内を頼もう」
そう言うと、先生は弥生達の後ろをついていった。
廊下を人間2人と鹿と鳥で進んでいく。傍から見ると不思議な光景に見えるだろう。
それも二人の人間は動物たちに話しかけているから、ますます異様に見える。しかし、当の本人たちはあまり気にしていないようで、楽しそうに説明をしている。
「さっきここは覗いたんだよな。俺を見つけに来てくれたんだからな。ここは食堂兼作業場といった所かな?殆どの人達がこの場所でいろいろな仕事を分担しているんだ。食事を作る人、道具を作る人、過去の遺物を発掘して直す者、いろいろだ。俺たちは食料調達もしているが、基本的には薬を作っている。もともとそんな仕事をしていたからな。ここに居る人達の殆どはあの組織の中でも下位の方に居た人達が多いんだ。」
流石に中に動物を連れて入る訳にも行かず、覗いただけで再び次の場所へと廊下を歩く。
下位に居た人たちが多いってどういうことなんだろうか?聞き返せないことがもどかしいながらも、私は鳴いて首を傾げてみる。
それに弥生がわかってくれたのか答えをくれた。
「私達上位の人達は生活に不満も何も無いから、今までの生活に疑問を持つ人達は少ないのよ。だけど、下位の人達は生活に不満がある人が多いせいか、疑問を持つ人が多いって訳よ。私達の仕事場で疑問を持ったのは私と睦月だけだったのを考えれば明らかよ。」
人間という物はよく出来ているという事だろうか…世の中は上下社会だ。主に上の者が社会を動かしている。そして下の者がそれを支える。上の者が社会を疑問に思えば、社会を動かすのはむずかしい。でも、疑問に思うものが下の者だけだったら…そう、下の者は人数が多いから替えが利くと言う事だ。上の者が満足していれば社会はうまく動いていく。だからこそ羽島はこんな場所を私達に言われるままに提供しても、何も痛がらない。
そんな事を私が考えていると、鹿の姿の先生が首を振る。
「そうとも言い切れないぞ。」
「えっ?先生私の考えている事わかるんですか?」
「この姿なら大体わかる。」
「そうとも言い切れないってどういうことですか?」
「俺たちと違って、ここの人間は能力によって地位を振り分けられる。つまり、通常上位にいる者は、下位の者より頭がいいはずだ。そんな者達が社会に疑問を持たないはずが無い。そうは思わないか?」
その言葉で私は自分たちの時代とは根本が違うと気付いた。
「そっか…この世界はお金で地位を手に入れることは無いんだ。すべてが産まれついた能力によって仕事を振り分けられる世界。」
それは幸せなんだろうか?たしかにお金で地位は買えない。それはいい事だと思う。でも、この仕事につきたいから勉強を頑張って上位に行く。そんな夢も存在しない。そんな社会は楽しいのだろうか?この世界には仕事に情熱を持つ人はいない様な気がする。
「頭のいい奴ってのは自分の欲求も大きい。少しでも上の地位を欲しがる。だが、ここではその自然な考えが無いって事だ。それは不満が無いから上位の者の離反が無い。という事ではない。つまり…」
「つまり?」
次の先生の言葉を待った。その時だった、突然大きなサイレンが鳴り響き、廊下にいたみんなが一斉に騒ぎ出し、慌てて移動をはじめた。
世の中無茶苦茶ですね…
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