再び
先生と私はアストラル移動に成功し荒野に降り立っていた。今までこんな簡単にアストラル移動をした事が無い。これが先生の力というものなのだろうか…でも、それよりも気になったのが目の前に広がる景色だった。以前見た未来の地球は緑の森が永遠に続く景色だった。鳥や猛獣の声…色々な声が入り混じり、にぎやかだった記憶がある。あの緑の森にはたくさんの動物がいたのだろう。
なのに…今目の前に広がるのは、緑が殆ど無い荒野。茶色い大地が途方も無く広がり、木々も枯れ掛けている。動物の声も生きている動物の声とも思えない様な、不気味な乾いた声が時々するくらいだ。
森の上に広がっていた地平線の位置も、木々が無い分地上に下がり、空と大地を綺麗に分断している。そして所々にはクレーターらしきものまである。月の上だと言われれば信じてしまうかもしれない。
「先生…以前はこんな景色無かったですけど。これって歴史が変わったって事ですか?」
私は考えたくない事を聞いてみる。もしかして、この状況は羽島が行なった未来の変更に繋がるものなのだろうか…。それにこんな景色が今の日本だというのだろうか。
以前の緑に覆われた日本の姿にも愕然としたけれど、それ以上に何も無い荒野にはダメージを受ける。こんな世界にどうしたらなってしまうのだろうと…。
緑が生い茂っていれば、地球が再生しようとしている姿を見ることが出来た。でも…荒野の様な何も無い茶色の生命力を感じない姿を見れば、地球はこれで死に絶えてしまうのではないかと思ってしまう。
まだ私達は誰かの身体には入っていない。アストラル体で浮いている状態だからこそ、高い場所から世界を見下ろすことが出来る。果てしない荒野は間違いなく目の前に存在している。
「違う未来に来ちゃったって事は無いですよね?」
先生に疑問をぶつけてみるが、真剣な目で周りの様子を見続けていて私の言葉が届いていないようだった。
すぅっと下に降りていくと、地面の様子を見たりしている。アストラル体のため触ったり出来ないのが少しもどかしいような感じもする。
「先生!」
気がつくように呼んでみた。すると、ようやく先生から反応が返ってきた。
「ああ、なんだ?」
「先生ここって前と未来が変わったから緑が無くなっちゃったんですか?」
もう一度聞いてみる。
「いや、未来が変わったせいではないな。おそらく…緑があった。以前弥生達が暮らしていた場所とは違うだけだ」
「場所が違う?でも…ここって地平線まで荒野ですよ?」
「かなり違う場所へ弥生達は連れてこられたと言う事だな」
弥生達が連れてこられた?この場所が違う場所だとして…弥生達が連れてこられた場所って?
「お前と弥生のリンクを使ってこちらに来たんだ。それを考えればこの近くに弥生が暮らしている場所があると考えるべきだろう?違うか?」
あっ、そうだった。私達は石のブレスレットの対の力を使ってこちらに移動してきたんだ。だからこの近くに弥生が居ると言う事だ。
でも…さっきも見たとおり、荒野で何もない。何処に弥生達は居ると言うんだろうか?
「弥生達がここにいるはず…」
「おそらくこの下だな」
先生が足元を指差した。
「そっか…弥生達の世界は地上でなく、地中ですよね。でも、それなら私達は地中でなく、地上に降り立ったのかしら?」
そうだ、ブレスレットを引き合いにここまで来たのだから、弥生の目の前に降り立ってもいいくらいだ。なのに…弥生達の暮らす地中ではなく、私達の今降り立ったのは地上。それも荒野の真ん中だ。どういうことなのだろうか。
「座標が少しずれたという感じではないな。何か意図があって俺たちは地上に降り立ったのかもしれない」
そう言って、またも先生はキョロキョロと何かを探すように歩き回っている。
意図があったとしても、何故こんなに以前と違う景色なんだろう。先生はかなり移動していると言っていたけれど…。
すると先生に反応があった。
「これは…もしかすると。」
先生は、私を置いて降り立っていた草一つ生えていない丘を、下へと下り始めた。
「えっ、先生!どうしたんですか?」
私が呼んでも止まろうともしない。何かを探しているようだった。
「先生!何捜しているんですか?それに私を置いていかないでください」
「注文の多い生徒だな…ようやく返事をしてくれた。これだよ。ここを捜していた」
先生が指差した場所には岩で塞いだような穴があった。ううん、岩で塞いでいるというより、ドア代わりの岩といった方がいいかもしれない。
「入り口?」
「ああ、それも俺の家の白の部屋と同じだ」
「同じ…?と、言うことはこの先はアストラル面の部屋?」
もしかして、このアストラル面の部屋に弥生達がいると言う事なんだろうか…恐る恐るそのドアらしき岩を触ろうとすると、先生に止められた。
「俺があける。お前は少し後ろに下がっていろ」
危険なんだろうか…私は先生に言われるまま数歩後へ下がった。先生が岩へ手を近づけると、バチバチと何かが燃焼するような音と光に包まれた。
そういえば、先生の部屋も他のアストラル体が入ってこないように、結界が張ってあると言っていた。それと同じようなものがあるのだろうか?だから、私達は入れずその上に降り立ったと言う事なのかもしれない。
「このままでは入れないな…瑞樹何処かに動物か何かいないか捜して来い。」
「動物?」
「アストラル体のままではこの空間には入れそうも無い。だったら強制的に器に入るしかない。人間がベストだが、居そうもないからな。とりあえず、動ける動物で試してみる。」
そう言われて周辺を捜してみたけれど、荒野だけあって動物も殆どいなかった。もう少し先に行けばと、私は中りをつけつけて進んでみると、永遠に荒野だと思っていた場所の先に、オアシスのようなものを見つけた。
「何も無いと思っていたけど、こんなところもあるんだ…」
周りが荒野だというのに、ここだけは綺麗な水が湧き、別世界を作っている。ここなら動物がいるかもしれないと捜してみると、やはりいた。
小動物ながらも木々には鳥らしき動物や水の周りには水を求めてやってきた鹿らしき動物がいる。私はとりあえず先生に知らせようと戻ろうとすると、後に先生が来ていた。
「あれっ?向こうで待っていたんじゃないんですか?」
「待とうと思ったが、面白そうな場所を見つけたみたいだったからな」
「面白い場所ってここ?」
地面を指すと、先生はニヤリと頷いた。
楽しい事を見つけたときの顔だ。でも、すぐに真面目な表情になる。
「150年後程度と聞いていたが、かなり動物の生態が違うな…」
「生態が?進化の過程って事ですか?」
「そうだ。150年でここまで動物の姿がかわるのは異状だ。進化というよりも変異体の方が正しいかもしれないが、それにしても変わりすぎだ。ほら、あの鳥を見てみろ。羽根よりも身体を守る鱗の方が増えてしまっている。少し先祖がえりしている感じだ。あの鹿もどきもだ…」
確かに鹿も見たことも無い様な角を持ち、毛と言うよりもアルマジロのような鎧の様な肌をしている。水の中の魚にしてもだなんだか恐竜のような感じの姿をしている。
「もしかしたら…150年後ではないかもしれないな。」
「そうなんですか?」
「まあ、予測しかたたないがな。自然なんて俺たちが思っているよりも謎がたくさんだからな。まあ、それはいい。とりあえず動物に入り込むぞ。」
と、言ってるうちに先生は鹿の中に入っていった。と、言うことは私は鳥と言うことになるのかな?と思い入ろうとすると、パタパタと逃げられてしまった。
「うーん。以外に動物へ入るのって難しい?」
もう一羽の鳥に狙いをつけてさっきよりも急いで入ってみた。今度はなんとか成功。
「なに鳥と遊んでいる行くぞ。頭にでも乗っていろ」
鹿の姿で喋る先生に違和感を感じながらも、さっきの場所へ戻る事にしたのだった。




