別れと再会へ
先生と二人で決めた決行当日。古書店に向かおうと家を出ると、そこには何故か大和が待っていた。
私が何故と聞くより先に、大和が口を開く。
「会社辞めたって聞いて…まさか弥生の世界に行くのか?」
心配したような様子だったけれど、今の大和に話す義理は私には無かった。だから私は何も話さず大和の脇をすり抜けて行こうとすると、すれ違い様大和が私の腕を掴んだ。離れようともがいてみたけれど、大和の力には勝てず離れる事ができなかった。
「離して!もう大和に話す理由は無いはずよ!」
私は引き続き離れようともがきながらも、大和に抗議した。
「確かに瑞樹にとって俺はもう敵の一人かもしれない…でも、この間まで恋人だったんだから、少しくらい心配させて欲しいんだ。だめかい?」
そんな大和の言葉に、私は腹が立った。
「弥生達の世界にあんな事しておいて何が心配よ!あなたの言葉にもう惑わされる事は無いから安心して」
私は大和に言い放つと、それと同時に緩んだ腕を振り払って歩き出した。大和は諦めずに後をついてくる。
「あんな事って…俺は羽島氏の手伝いをしているだけで、直接何もしていないよ。」
さらっとそんな事を言う大和は、あの世界を見ていない。だからまったく罪悪感が無いのだと思った。だからと言って許せるわけがない。
「同じ事よ!私にとってあなたはもう信頼できる人ではないのよ!もう放っておいてよ。そしてもうついてこないで!」
声ももう聞きたくなかった。もう味方で無いの事は痛いほどわかっている。なのに優しいいつもの大和の声を聞けば、心の何処かで期待してしまう。
そんな弱い私の心を認めたくはないから…。
弱い心は今から行く世界には危険すぎる。だから、今は強い私でいたかった。
ずんずんと歩きながら、チラリと大和を振り返ってみる。
大和はさっき私が言い放った場所で立ち止まり、少し寂しそうに見えた。後ろ髪を引かれつつも、私はそれを振り払うように、再び走るように歩き出した。
心配だと言葉を聞いても、今までの様に全ての言葉を鵜呑みにするわけにはいかないから…。もしかしたら、今の出来事も向こうに報告するのかもしれない。
ただ…これ以上私にあなたを嫌いにさせないで…。
角を曲がると、私は大きく息を吐きつつブロックの壁に背中をつけると、ズルズルと座り込んだ。
もう大和が追いかけてくる事は無いだろう…。ううん、今のが最期の別れになるかもしれない。今から私が行く場所は何があるかわからない場所だから。
「ゴメンね大和…バイバイ…」
私は、小さな自分にしか聞こえない声で彼に言いたかった言葉をつぶやくと、次の瞬間一気に立ち上がった。
そう、私には落ち込んでいる暇なんか無い!今の自分はここに捨てた。そう自分に言い聞かせると、自分の向かう先を見据えた。
弥生や睦月に早く会いに行かないと!それにはまず、先生の家に早く向かわないとだ。
歩いている場合ではない。私は先生の待つ古書店へと走り出した。
「先生!来ました!」
私が息を切らしながら古書店へ飛び込むと、支度をしていたのか、先生がおくからゆっくりと現れた。
「何を慌てているんだ?ん、瑞樹お前走ってきたのか?何があったんだ」
息の荒い私の様子を見て、先生が私に聞いてくる。私は大和に会った事を先生に話した。
少し私の話を聞いて考えていたが、先生が答えをくれた。
「たぶん今日の事は大和の単独行動だから心配は無い。上に話す事も無いだろう。だが、瑞樹お前が会社を辞めたことは、大和のみならず、羽島にも伝わっている事だ。だったら、俺たちが行動を起こそうとしている事もわかっているだろうな。今日とはわかっていなくても近日中に動く事を考え、何か仕掛けてくるかも知れない。向こうに行っても注意は怠らない方がいいな。
「そっか…私、何も考えずに仕事辞めちゃったけど、辞めない方が向こうに知られなかったかも知れないわね。」
「まあな、ただお前の覚悟だったと思えば悪いとは思わない。向こうにしてみれば、宣戦布告と感じるかも知れないしな。」
「私からの宣戦布告?」
「ああ、いい度胸だな」
先生が私にニヤリと笑う。私はそんなつもりも考えもなかっただけに、少し青くなって身震いする。そんな私を見て、楽しそうに先生は作業に奥へ戻っていった。
「先生待って!私も手伝います!」
「いい、宣戦布告した奴はその辺を警戒しておけ。支度が出来たら呼ぶ」
そう言い放つと、先生は私を置いて奥の部屋を閉めてしまった。その扉が閉まると同時に、今まで存在していたドアがふっと消えた。今までも、私達が入った後はドアが消えていたんだと、いまさらながら実感する。アストラル面を使った空間移動。今向こうでは先生が最後の調整をしてくれているはずだ。
たぶん今言った宣戦布告や警戒は私に心配をかけない為の言葉なんだろう。
先生は絶対に大変なところは私に見せてくれない。私を不安にさせない為の先生の手段なんだと思う。でも、少しは私に気を許して手伝わせてくれてもいいんじゃないだろうか…。
でも、企業秘密の部分も色々あるとは思うから、私からは何も言えない。
仕方ないのでカウンターの椅子に座ると、私は古書店の店番と決め込む事にした。相変わらず、人の出入りの少ない店内。今も誰一人入店者はいなかった。
カウンターの椅子に座りながら、何もする事が無いまま椅子をくるくると回してみる。やっぱり暇だ。ふと、足元を見ると、
ハタキが置いてある。古書店では定番のハタキがある事にちょっと笑えた。これで、立ち読みしている人を追い払う用ではないとは思っても、古典的な想像をしてしまう。
まあ、先生は私の時もそうだった様に放置なんだとは思うけど…。
そうだ!時間まで、このハタキで埃を少しでも叩いておこう。そう思った私は早速ハタキを持って立ち上がると、隅からパタパタと埃を叩きだした。
思っていた程埃はたたないのをみると、先生はこまめに埃を叩いているのかもしれない。それでも、一日二日の埃は積もっている様で、多少は埃が舞い上がる。
少し埃っぽくなったけれど、むせるほどではないので、私は今まで情報をくれた本へ感謝を込めて黙々と叩いていく。これから何が起こるか判らない場所へ赴く為にも、心残りは全て消してからここを発ちたかった。
黙々と叩いて行き、とうとう最後の棚が終わる頃にちょうどと言うか、先生が閉じていたドアが再び私の前に現れた。
「先生!支度できたんですか?」
「瑞樹…お前掃除してたのか?」
ハタキをもっていた私に気がつくと、呆れたように先生が私に聞く。
「はい、本たちにも感謝しておかないと、ここの本を読んでいたからこそ、先生に出会えたんですから、でも…ここの本、以外に綺麗ですね。」
「当たり前だ。これでも商品なんだからな、いつでも旅立てる様にしておいてやらないとだめだからな。」
本たちが先生の子供たちなのかもしれない。先生はぐるりと本を眺めると、優しく笑った。
「さて、掃除してくれたならもうこいつらも安心だな。だったら出かけるぞ俺たちも。」
そう言うと、先生は踵を返した。
「はい!」
今度こそ、私もついて行く。そう、今から弥生や睦月に会いに行く!そして、この本たちの待っているこの世界に再び戻ってこよう。そう私は心に誓った。
いつもの白い部屋に入ると、そこには今まで見たこともないような物がいろいろと並んでいた。水晶などに混ざってエジプト、ギリシャなど古代の遺物のような物もたくさん並んでいる。これはおまじないのものなんだろうか…それと共に医療機器も整っている。心電図の機械や点滴なども天井からぶる下がっている。
「これは力を集積する為の道具類だ。呪いと言うよりも、俺たちをサポートしてくれる。ここから身体を通して、アストラル体に栄養を与えてくれる物だ。そして、点滴などの医療機器は俺たちの置いていく本体を弱らせない為の物だ。」
「アストラル体に栄養…と、本体への栄養?」
「当然の処置だな。以前の時はお前たちはお互いの身体を使って動いていたから、栄養補給も普通に出来た。だが、今回は片方だけの移動だからな、人工的な栄養補給をしなくてはならん。まあ、寝てるだけなら一日や二日栄養取らなくても大丈夫だが、その後すぐに動けるようにしておかないとだからな、全てにおいて何が起こっても対応できる状態にする事が大切だ。」
先生の話はすべてがもっともな話だった。人間何が起こってもいい様に準備が必要という事だ。そうすれば何でもできる。
私が頷くと、先生はにっこり笑った。
「予定は三日までだ。身体を放置していいギリギリの期間だ。三日以上は一度戻ってから再び向こうへ行く。それの繰り返しだ。」
三日…以前と同じくらいの期間だ。あの時はお互いの予定もあって。三日と決めたけど、今回は身体の限界の設定。少し違う。でも、あの時と違って、先生もいる。それを考えれば三日は長いかもしれない…そんな事を考えていると、先生が私の考えを読み取ったのか、
「三日は短いぞ、調べたいことが多いからな。」
「先生…私の心読みました?」
「いや、顔にそう書いてあったんだよ。」
そう言って再び先生は笑った。長い短いはその時の状況によりけりだと思う…でも、先生は状況的にあっという間の三日間になると言っているのだと思った。それだけ時間が縮小される程の展開の早い時間を経験すると言う事。前回のような時間の流れの異常ではないと言う事。でも…それは臨むべきものになる。
弥生や睦月の為…私は覚悟は出来ている。命も惜しくは無かった。
「さあ、ぐずぐずしている場合じゃないぞ。こっちも予定があるんだ、さっさと向こうへ飛ぶぞ」
「はい!」
私達はアストラル移動へ向けて動いた。
話を追加しようと思いましたが、中止しましたので普通に更新です!
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