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帰宅

古書店に着いた時には、すでに時計の針は夜中の十二時を過ぎていた。とりあえず、気をつけたこともあったのか、無事古書店まで帰ってこれた。相変わらず、目隠しされたまま色々なものに乗り換えたりと、大変だったけれど、ここまで帰ってこられたなら大丈夫だと思った。

「先生、これからどうします?」

送ってくれた車が見えなくなったところで、私は先生に聞いた。

「どうするも何も、中へ入るぞ。それからだ」

そう言うと、先生は私を置いて、さっさと店の中に消えた。

後は明日にしようと言うと思っていたのに、先生から話があるというのだろうか?

「もう!先生待ってくださいって!」

私も追いかけるように店に入り、そのまま奥の部屋に向かった。

私が部屋に戻ると、もうすでにお茶を淹れながら先生が待っていた。

「遅いぞ」

「先生が早いんです。それにもう十二時過ぎてるんですよ。私帰らなくていいんですか?」

「え、ああ…もうそんな時間だったのか。」

気付いていなかったんだ。先生らしくない反応に私は先生の顔を覗き込んだ。

「先生どうしたんですか?」

覗き込むと、先生が少し顔を赤くしながら、後を向いた。

「べ、別にどうって事ない。すまなかったな、何も話せなくて。」

「いいですよ。先生の考えがあってでしょ。それに、こんな形でもちゃんと話してくれたし、詳しい話もしてくれるんですよね?」

「詳しい話か…それは勘弁して欲しいな。」

「えっ、後でするって言ったじゃないですか!だから黙って聞いてたんですよ。先生ずるいです。」

私が拗ねると、いつもならため息をつきながらも話してくれる。でも…今日は違った。

「悪いな」とつぶやいて、再びお茶を淹れ始めてしまった。

「じゃあ」と私は、その話はやめて別の話に変える。

「先生、羽島正人が言っていた話は?『ナチュラルバード』でしか未来を変えることは出来ないって」

すると、今度の話は大丈夫らしく、お茶を運びながらも先生は話を始めた。

「未来を変えることが出来るのは、もうあいつらだけだよ。それは真実だ。」

「私達が未来を知っていて変えようとしても?以前先生が言いましたよね?私が未来を知ることによって、変えようと思った時点で未来は変わるって…バタフライ現象で少しの事でも危険だって…」

そうだ。先生は以前私に言った。そして、もう弥生達の未来に行くなとも…。

「あの時点ではまだ未来は確定していなかったんだよ。だから危険が伴ったんだ。だが、ある事がきっかけで未来が完全に確定してしまったんだ。」

「ある事?それって?」

「お前が睦月にペンダントを渡した事だよ。」

「ペンダントを?えっ?」

確かに私は、向こうから帰る時に睦月にアンクのペンダントを渡して帰ってきた…でも、だからといってそれが未来の確定になったんだろう?

私が一人頭を抱えていると、先生がゆっくりと私がわかるように話し出した。

「あのペンダントは誰から貰ったものだ?」

「大和…から」

「そうだ、あれは俺が水晶をはめて役割を変えた。だがだ、本体は大和からお前がもらったものだ。その事実は変わらないだろう?」

そうだ…私の監視の為だったとしても、途中で先生が水晶をはめてくれたとしても、あれをくれたのは大和。

「つまり、あれは役割を変えても、ナチュラルバードの持ち物だったものには代わりがないんだ。」

「ナチュラルバードの?」

「監視役の代物だ。大和はそれを渡され、それをお前に与えた。」

それはわかった。でも、それで何で未来が…

「まだわからないか?」

自分の理解不足に焦りながらも、私は先生に答えを求める。

「もっとわかりやすく。お願いします」

「わかった。お前たちが向こうの世界とこっちの世界を行き来するのに何を使っている?」

私達の道具?

「えっと、最初は何も無かったけど、途中からは鈴を…」

「そうだ。アストラル面で繋がっているとしても、時間を越えると言う事は、非常に難しいんだ。子供の頃は力が強いから簡単だったかも知れないが、大人になれば違う。だからこそ、お前たちも途中から鈴を使った」

私は、いまさら鈴の意味を知った気がした。

「そっか…タイムトラベルには普通はお互いの時代に同じものが必要…という事でいいんですか?」

恐る恐る答えを待つ。

「ようやくわかったか。奴らは、監視の意味もあったんだろうが、それと共に、お前が向こうの世界に行ったとき、置いてくる可能性にかけたんだ。だからこそ、監視の機能が果たされなかったとしても、何も動きが無かったんだよ。」

「つまり、私が奴らの思惑通りに向こうの睦月にあげちゃったから、未来が確定してしまった?」

私と弥生達だけでは、未来を変える力は無いけれど、組織という力が未来へ行けば簡単に未来の操作ができる。

「わかったか?」

先生の言葉に、私は深くゆっくりと頷いた。

「簡単に言えば、あのペンダントがタイムスリップの座標になったって事さ。奴ら考えたな…俺も油断したよ。水晶はめれば大丈夫だと判断してしまったからな。すまなかった」

先生が珍しく私に謝ってくる。私は首を横に振り笑った。

「大丈夫です。だって交渉は出来たんだから。それに、私達には大きな力は無いけれど、全然力が無い訳じゃない。蟻の思いも天に昇るって言うでしょ?一生懸命頑張ればいいんです」

「蟻か…そうだな。蟻の穴から堤も崩れるとも言うしな。奴らが何も出来ないと思っている今なら、何か出来るかもしれないな」

お互いの言葉に少しずつ余裕が出てきた。そうだ、今出来る手は尽くしたんだ。だから、あとは少しずつ奴らの足元を崩していくだけ。それが何年掛かろうともやってみせる。

そこでようやく先生の淹れてくれたお茶を一口啜った。

緊張を解きほぐすような甘い香りと、すっきりした口当たり。

「これもおいしい。」

自然と顔が綻ぶ。その顔を見て、先生の顔も少し柔らかくなった。

「うまいだろ?これも俺のオリジナルだ。疲れを和らげる作用のお茶だよ」

嬉しそうに先生はお茶の説明を始める。

「これは紅茶にハーブをブレンドしたんだ。疲れているときは気持ちを落ち着かせる機能が一番なんだ。だから、個性の弱めのニルギリにハーブのカモミールとラベンダー、そしてローズヒップを少し入れてみた。これを飲めば夜はゆっくりと眠れる。」

「先生すごすぎ…紅茶だけでなくハーブまで。何でも先生なんですねえ」

私が感心すると、先生の顔がみるみる赤くなった。

「う、うるさい!物知りだと言え!何でも先生って何だ」

いまさら先生という言葉に照れたんだろうか…もうかなり先生先生言っているのに?そんな先生が少し可愛く感じた。

紅茶の温かさと、ハーブの香り、そして時間と疲れとで、流石に紅茶を飲み終わる頃には眠くなっていた。

眠くて仕方がない感じだ。

「おい、こんなところで寝るな。帰るなら帰れ!それとも、ここに泊まるのか?」

「ん…泊まってもいいんですか?」

私の頭の中は、もう思考能力も完全に停止していた。

何も考えずに答えている私に、仕方が無いな、と言う視線を向ける先生がいた。でも、もう帰れる状態では無かった。

「仕方ないな、一部屋貸してやるから、そこで寝ていけ。その部屋までは歩けるか?」

少し先生の声が遠く聞こえながらも、私は頷いた。

先生に支えられる形で、私は立ち上がったけれど、自分が思うよりも身体が動かなかった。ペタリと床に座り込んでしまった。

先生はそんな私を軽々と抱きかかえて、さっさと移動を始めた。

「先生…?」

「今日だけだぞ。こんなにハーブティが効くとは思わなかったからな。今日はもうさっさと寝てしまえ、動くのは明日からだ。それには体力を回復しろ。」

「うん…おやすみなさい」

先生の言葉に返事をすると同時に、私の意識は深い眠りの世界に落ちていった。

意識の向こう側で「まだ寝るな!」と、叫ぶ先生の声が聞こえた気がした。

無事に帰って来た二人。

次に起こすべき行動は?


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