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対峙

機密性の為と言う名目で、私達二人は目隠しをされたまま車で移動する事になった。私も最初のうちは、どの辺りだろうと耳を澄ましたり、右折左折を確認していたけれど、途中で無駄だと思い断念した。所詮探偵のような事は私には無理なようだ。

そう思いながらも、隣に座っている先生はかなり正確にここがどの辺りなのか把握している気がした。

でも走っていた車が止まると、目隠しをされたまま別のものに乗り換えさせられた。それはヘリコプターだった。何人かの人に支えられながら、目隠しのまま乗り込む。予想外の乗り換えに私は何処へ連れて行かれるのか、急に心の中に不安な気持ちが広がりだす。私としては、何かあればすぐに逃げ出せる場所だと思っていたのに、もしそれがどこかの島だったりしたら、自分たちの力だけでは逃げ出す事は出来ない。

「お前不安になっているだろう?」

不意に今まで何もしゃべらなかった先生が、私にそんな事を聞いてきた。ちょうど思っていた為、ドキリとする。

「そ、それは少し不安ですけど…」

強がりながらも正直に答えると、先生が見えないのに私の頭を探って撫でてくれた。

「大丈夫だ。俺が一緒にいるんだ不安になる事はない。それにここまでは予想していた範囲だからな…と、言うよりも予想が当たりすぎて笑えてくるくらいだ。」

「そうなんだ…」

先生の余裕の言葉に少しほっとする。先生の言葉は時々あったかい紅茶のように心の中の不安を取り去ってほっとさせてくれる。

「島とかに行くとしても大丈夫です?」

私が聞くと、先生は楽しそうに笑った。

「島か~それは楽しそうだ。まあ、そんな場所だったらわかりやすくていいな。それに暴れても周りに迷惑もかからないしな」

私とは逆の発想だった。そうか…先生は逃げる事なんて一切考えていないんだ。だから島に連れて行かれるとしても、大して問題がないと言う事なんだ。

「まあ、今回は交渉に行くだけなんだ、安心しろ戦うつもりもないからな」

「えっ!」

戦うつもりはないって!いつかは戦うかもしれないと言う事なんだろうか?

「今回の交渉次第だな。うまく行けば、奴らに干渉する必要もないからな…そうすれば戦う必要もない。だがな、交渉がうまく行かず何かあるとすれば、戦わざる終えない場合もあると言う事だ。俺の予想だと戦いの可能性は2割だ。」

20%…私としてはかなり確率的には高いと思ってしまう。でも…それはあくまでも予想であって、20%の戦いの可能性があるとは決まっていない。何事もなく終わることを心の中で祈った。

しばらくしてヘリコプターは何処かへ着陸し、目隠しのまま下ろされる。島だったら海の音がするかもと、耳を澄ましてみたけれど、波の音などは一切していなかった。

「残念ながら島ではないらしいな。においからすると、工場団地みたいなところか?」

工場団地?におい?どんなにおいなんだろう?

先生に聞こうとした途端、私達はまたも車に乗せられた。今度は曲がる事も止まる事もなくひたすら真っ直ぐだった。

工場団地と言う事は、今走っている景色には工場しか映し出されていないのだろうか?

「先生…さっき言ってた工場団地ってどういう事?」

「そのままだよ。工業油や鉄のにおい、そして行き交うトラックの排気ガスのにおい。それから考えれば簡単だ。大方何処かの工場を買い取ってそこを拠点にしていると言う事だろうな」

先生の予想は当たる。だから今回の予想も遠からずそんなところだろうと。先生は簡単に答えていつもの様に笑った。

「そういえば大和ってさっきからいないみたいだけど…どうしたのかな?」

「事情を直接話しに、羽島の所へ先に行っているんだろうな。さっきは強がって自分にも決断権はあると言っていたが、やはり立場的には羽島に利用されている一人と言う事だ。大和達がどんな動きをしようと、それは羽島にとって手の中で転がしているだけに過ぎない。そう、奴にとっては今日の事も予想の範疇と言う事だ。でなければいきなり会うなんて出来る様な奴ではないからな。まったくもって頭にくる奴だ。」

目隠しをしていても、先生がどんな顔をしているか手に取るようにわかり、私は思わずクスクスと笑った。

「何を笑ってる。お前不安といいながら、意外に暢気だな」

私が笑った事で、ますます先生は不機嫌になる。

「だって、先生が笑わせたんじゃないですか。さっきまですごく不安だったのに、先生のその言葉聞いたら、安心したって言うか、不安が消し飛んだって言うか…先生って紅茶以上の癒しかも」

堪えきれず私が笑い出すと、先生は「もう知らん!」と黙ってしまった。拗ねただけなのはわかっているので、笑いを止められず、そのまま謝った。

「先生ごめんなさい、でも、そんな先生だからこうやってついて来てるんですよ。信頼しています」

「当たり前だ!この後も、安心して後にいろ。」

照れているのが見えなくてもわかる、でも、そんな先生だからこそ、信頼しているのは本当だから。この先何があっても、先生を信じてついて行こうと決めていた。

車はふたたび五分ほどで停車した。

「降りろ」

そんな声がして、ドアが開いた。

私達がゆっくりと降りると、そのまま誘導されてすぐ近くの建物内へ。ブンと音と共に自動ドアが開く。そのまま歩くと、今度はエレベータに載せられた。

「そろそろこの目隠し取ってもらえないか?」

先生が、少しいらいらしながら、近くにいるらしい男に話しかける。

「駄目だ。このエレベータから降りたらだ。」

太いドスの聞いた声が私の背後からした。もう建物内のはずなんだから、私としては問題ないと思うのだけど…この後に何かがあるの?そんな事を思っていると、エレベータが止まり、その次に何かボタンを押す様な機械音がした。

「なるほどな…」

先生がその音に反応した。

なにがなるほどなんだろう?でもその後すぐに目隠しは外された。

そこはエレベータが開いていて、とてつもなく広い空間が広がっていた。

「何ここ…と言うか、なにか見たことがあるような景色の様な…」

そう、そこは何も無かった。白い空間に窓も柱も…、いや、エレベータのドア以外他のドアすら見当たらなかった。

それでも、何か不思議な感じがした。白い空間なのに、何かが霧のように見え隠れするような空間、見えそうで見えない景色、夢と現を行ったり来たりしているような感覚。窓も無いけれど、窓があるように感じる壁。今まで来た事が無い様な…ううん、来た事が有る様な不思議な感じが記憶の底から湧き出てくる。

「先生…?」

何がなんだか判らず、先生に意見を求める。連れては来られたが、その部屋には自分たち以外の人物はいなかった。

「俺たちは一番特等席に案内されたらしいな。」

「特等席?ここが?」

「瑞樹はここをどう感じた?」

「えっと…なんだか今まで来た事のあるような、でも無いようななんだか曖昧な場所…そうアストラル面みたいな感じがします。」

自分の感じたまま私は答えた。一番近いのはアストラル面だと思ったから…。

「アストラル面か…そうだな、半分正解だろう」

「半分正解って?どういうことなんですか?」

感覚的にそう思っただけで、こっちの現実世界にアストラル面があるって?でも、確かに私もアストラル面にいる様な感覚を受けたのも本当で…。

「おそらく、ここは『ナチュラルバード』の参入儀礼の部屋だな。参入儀礼はわかっているな」

「はい、秘密結社に入会する為に必要な儀式ですよね?」

「そうだ、参入儀礼の無い結社は秘密結社とは呼ばないからな。『ナチュラルバード』の場合は、ここで擬似アストラル面を作り出し、儀式を執り行うんだろう。」

「擬似アストラル面…そんな事が。」

「事実お前もアストラル面にいるような感覚を感じただろう?それが答えなんだよ。この部屋で何らかの参入儀礼を行い、入会する者はアストラル面に飛んだ気分になり、ここの教義を体験する。そして、ここで擬似的に行く事により、一部の才能のある者は実際のアストラル面へ飛ぶ。そんなぶっ飛んだ体験をしてみろ、入会者の心はもう『ナチュラルバード』の物だ。宗教としては完璧だな。」

それは、人間が宗教に妄信するシステムが完璧にできていると言う事。私も、先生より先にこんな所に連れて来られていたら、もしかしたら、全てを信じてしまったかも知れない。

そんな事を二人で話していると、突然ドアも何も無かった場所から、突然の声が響いた。

「ようこそ、わが『ナチュラルバード』へ」

それは、紛れも無く以前アストラル面で出会った人物、羽島正人の声だった。

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