試行
納得している所まで投稿してしまいます
その夜、私は一人でアストラル体の変化を試みることにしてみた。
ベットに潜り込むまでは、アストラル離脱ができるかどうか分からなかったが、いつもどおり難なく私は離脱に成功していた。
最近ではいろいろな場所に自由に移動する事が可能になっていた為、弥生といつも会っていた場所で、とも思ったのだが、何が起こるか判らない実験を自分の身体から離れた場所で行なうにはまだ抵抗があった。
(さて、アストラル体を変化させるって言ってもどんな風にやればいいのかしら?)
確かに昔、長時間に渡り二人でアストラル移動でいろいろな場所へ行った事があった。最初はいろいろな場所が楽しくて気付かなかったのだが、疲れてくるにつれて集中力がなくなったのか精神力が低下したのかわからないが、お互いの姿がぼやけて来たことがあった。あの時は確か…そうだ、お互いの姿を指摘した途端にお互いの姿がはっきり戻ってきたのだ。
(つまり…疲れてくるとあいまいになってきて、それに気付いて己の姿が気になった途端に形が戻ったんだ。と、言うことは…頭の中であの時私は自分の姿を思い描いた)
そうだ、思い描いたからこそ私達のあいまいになった姿は、元の姿に戻ったと言うことだ。
(それじゃあ、私のこの姿は思い描けばなんにでもなれると言う事?)
私は、少し考えてみたがここにいても埒があかないと思い、アストラル面に行くことはやめ、今回はアストラル体のまま、この世界を少し飛んでみることにした。
(こっちの世界を飛び回るのって考えてみると初めてだ…)
そんな事を考えながら、恐る恐る自分の部屋の窓を通り抜け、外へ向かう。いつもと勝手が違う為、少しフラフラしながらの空の飛行になっていたが、今までなんで外に出なかったんだろうかとおもうほどの楽しさだった。空高く飛んでも空気の抵抗も無いから、苦しくもないし宇宙が近く星々が大きく輝いて見える。しかも、自分のアストラル体が光っているために全く闇が怖いとも感じなかった。
そんな空中散歩を少し満喫した後、私はひとつの公園に降り立った。そこには人間の平和を象ったブロンズ像があった。
(これにしてみよう)
私は、アストラル体の変化の見本に決めると、ブロンズ像の前に立ちじっと見つめた。自分の頭の中にブロンズ像のイメージを浮かべてみる。そして、自分の身体にそのブロンズ像のイメージを重ねてみる。なんだか身体の中がむずむずする。これは変化していると言うことなのだろうか?
しかし、そこで私はあることに気付く。
(自分の姿が見えなくちゃ意味が無いじゃない…これじゃあ変化しているかどうかの確認ができないわ)
ふうっ、とひとつため息を吐くと私は再び、浮き上がった。
(鏡があって人間の形があるところ…そうだ!デパートだ!)
私は行き先を決定し、近くのデパートへ向けて飛び立った。
目的地はすぐ近くにあった。この辺りは街中だった為、何でも揃っている。
デパートに入ると、マネキンと鏡を探すが、意外にそこからは苦労してしまった。意外に特徴のあるマネキンがなかったのだ、のっぺりとしすぎて先程のブロンズ像の様に頭の中に描けるようなものが無いのだ。
ようやくそれなりのマネキンを見つけたのは、午前二時を過ぎた頃だった。遅い時間だとは思っては見たものの、ようやく試験体を見つけた私は、早速マネキンの姿を鏡に映しながら自分の中にイメージしてみる。
(私の姿をこのマネキンの姿に…服装、髪型、目、鼻、口…)
しばらくすると、鏡に映っていた自分の姿をしていたものがぼやけていくと、少しずつと違うものに変化していく。
(やっぱり自分の姿を他のものに変化させる事は可能なんだ)
そんな事を考えた途端、変化しかけていた私の姿は自分の姿に急速に戻ってしまった。
(そうか…姿を考えて変化させる事は簡単だけど、それを維持するには、長くその姿をイメージし続ける事が出来る強固な精神力が必要という事か…)
私は鏡に映る元に戻った自分の姿を見つめて、ため息をついた。
(私が成功したとしても、それを弥生にも要求するにはそれ以上の時間が掛かるかもしれない…)
自分の計画が一人では動かない事を痛感しつつ、最近会うことも出来ない弥生に思いを募らせる。なんとしても弥生と会って、この計画を相談するか…それとも他に簡単な姿の交換方法があるのなら、それを捜さないと駄目かもしれない。
(でも、よく考えてみたらアストラル体が鏡に映るなんて…これって普通の人にも映って見えるのかしら?だとしたら心霊現象みたいになってるわね)
少し面白いと感じてしまった私は、いろいろなポーズをとって鏡に映った自分のアストラル体をまじまじと見てみる。と、映っている鏡の私の後ろに、ふと何か黒い影の様なを見つけた。
(あれは何?)
鏡にぎりぎりまで近づき、鏡に映ったその黒い影を覗き込むと、私の心臓がドクリと鳴った。
後を振り向いてその実体を確認するべきだろう…鏡に映るその影はモコモコと少しずつ膨れ上がっている。でも…振り向くのが怖い。
自分自体もアストラル体である以上、この世の理を無視している存在だと思っている…でも、あれはそれ以上のものだ。私の何かが、接触しては駄目だと警鐘を鳴らしている。飲み込まれる。
(逃げよう)
そう思った途端、私の体が固まったように動かなくなった。焦りが途端に恐怖に変わる。しかし、鏡に映る影はますます私に近づいてくる。
(いやだ!弥生、大和助けて…)
その途端だった、胸元から目も開けられないほどの光があふれ出し、周囲をすべて包み込んだ。わたしの固まった身体は開放され、自由に動くようになった。本来ならその場からすぐに逃げるべきなんだとは思う、でも私を助けてくれたらしい光が何なのかわからず、私はその光が治まるまで待った。
だんだんと少しずつ一面の光の中から、現れるように周囲の物が見え始める。そしてさっきまで見ていた鏡も現れた。もうその鏡の中にはあの黒い影も、そして私の姿もなくなっていた。
(あの影は…なんだったんだろう。それに光があふれた後は、私の姿も鏡に映らなくなってる)
わからないことだらけだ。でも、これ以上ここに長居はしない方がいいと言う事はわかる。いったんアストラル面に行った方がよさそうだと思った私は、その場から直接アストラル面へ向かった。
アストラル面にいると魂が落ち着くというか、本来アストラル体はこちらの場所にあるべきだと、実感せずにはいられない。安全だというなにか安心感があるのだ。
そんな事を考えながらも、私はいつもの弥生と会っていた場所へとたどり着く。あっていた場所と言っても、何かがあるわけではない。何も無い真っ白な空間…それでも二人でいると楽しくて楽しくて、いつまでもおしゃべりをしていた場所。
でも、最近はただの何もない空間に本当になりつつある。
「弥生…会いたいんだぞ。たまには一緒の時間をここで過ごそうよ」
独り言でそんな事をつぶやいてみるが、返事があるはずもなく、むなしいままになる。
でも不思議だ…地上を少しふらついただけで怖い思いをしたのに、ここでは怖い思いをしたのは、見た事の無い生物が宙を浮いていた程度で、ほとんど怖い思いをしたことがない。それに心の不安感も全然違う。ここと違って得体が知れないものが多いという事なんだろうか?
それにしても、アストラス体の変化を練習するには鏡が必要だという事はわかった。でも…ここには鏡は存在していない。でも地上でこれ以上練習するのはもっと怖い気がする。
下手をすれば自分の本体に別のものが入り込む可能性も否定できないからだ。それに、さっきの光を浴びた途端、鏡に映っていた私の姿もなくなっていた。
(と、言う事は…私が映っていたのは、通常のアストラル体ではなく、悪霊というか地上を彷徨う霊体に近くなっていたという事かしら?そしてあの光によって、私のアストラル体は正常に戻ったから、鏡に映らなくなった)
なんとなく私はそれが正解な様な気がした。
(じゃあ、あの光はなんだったんだろう)
それは私には全然かわからなかった。何が私を助けてくれたのか…それとも私をあの場所から切り離したかったのか。
(戻ろう。今日はもう何もできない)
私は無性に、帰って自分の身体に戻りたい気分になっていた。