駆け引き
「弥生達の為の抜け道だ。」
「抜け道?」
訳がわからないと言う様に、大和が聞き返してくる。
「今弥生達は、向こうの世界での旧人類と新人類の関係を知ってしまった。自分達の寿命についてもだ。だが、反乱を起こしたくは無いと言っている。ただ、寿命まで生きられる場所を求めているんだ。弥生達だけじゃない、これからも真実を知ってしまう新人類が出てきてもおかしくない。その為にもこの世界が未来に追いついた時、真実を知ってしまった者達の反乱の抑止力の為にも、その世界から抜け出し生活ができる場所を用意してもらいたい。今からこっちの時代で、その話を取り入れてくれれば、向こうの弥生達の生活に変化が現れるはずなんだ。そして、その場所に抜け出た新人類に対しては干渉しないで欲しい」
「…なるほど、弥生達の逃げ場所を作ると言う事か。確かに僕も弥生とは知り合いだ。協力してあげたいと思うよ。」
「だったら、それだけでもお願い!弥生達の為の場所ができるだけで…その為に私は大和と別れる決心をしたんだから…」
「そうだね、君たちはこの要求が飲まれないのなら、弥生達の存在を消す事も覚悟して、僕たちの組織と戦いそうだからね。瑞樹特に君の性格はよく知っている。危険だからそれの回避をしなくてはならないと…上に言えば通るかもしれないね。」
大和は私を困らせるように、のらりくらりと答えてくる。本気とも冗談とも取れる様な物言い。私の真剣な顔を見て、楽しんでいるんだろうか…。
今までの大和を考えると、今の大和は完全に別人だった。ううん、こっちが本当の大和なんだ。今までの大和が私の中で息を引き取ったような感覚に陥る。
でもそれは私にとって幸運だったのかもしれない。普通に別れるよりも、今までの大和は死んだのだと感じていた方が…。
そう思った途端、私の目から涙が零れ落ちた。
(えっ、だって。私、今…大和は死んだんだって思って…)
「瑞樹。今は弥生の事だけを考えろ。弥生達を助けたいんだろ?だったら奴の事は後回しにしろ。交渉だけを考えろ」
私の涙を見て、先生が背中を向けたまま私に言う。それは、先生の優しさだと感じた。後でいくらでも聞いてやる。と言う、言葉は無かったけれど、言葉の中にそれは含まれているような気がしたから。
私は両手で顔を覆うと、心の中で10秒数えた。
(一…二…三…・…十!)
数え終わると同時に、両手で涙を振り払った。
「はい!」
そんな私をちらりと見てから、先生はニヤリと笑った。
「さて、瑞樹も復活した事だし、最終交渉と行こうか、大和君」
「最終交渉?」
大和が首を傾げると、先生はテーブルに手を突いたまま立ち上がった。
「ああ、羽島正人に会わせろ」
「「えっ?!」」
私と大和二人で先生の言葉に声を出してしまった。
「まだ、そんなところは恋人同士みたいだな」
そんな冗談をいいながらも、先生の目は真剣だった。
大和が、ため息をつきながら答える。
「僕との交渉でここへ呼んだと思ってたんですが、最終目的はそれですか?」
「ああ、話し合いをするならお前みたいな下っ端ではなく、一番上と話し合うのが手っ取り早いし、確実だ」
「先生!私も聞いていないよ。本気?」
「本気も本気だ。今の交渉だけでは未来は変わらない。奴に会えば、一発で未来が変わる」
「えっ、でも…そんなに未来が一気に変わっても困ると言うか、駄目なんじゃ…」
私の慌てっぷりに、先生が楽しそうに笑う。
「もう!笑っている場合じゃないでしょ!慎重にならないとって言ったのは先生でしょ!」
「悪い悪い…ここまで瑞樹まで欺けるとは思ってなかったからな。敵を欺くなら、まず味方からって事さ。それに危険な事は何も無い。むしろ逆だよ」
「逆?」
「逆とは?僕も理由を聞きたいですね。それに僕が下っ端とは心外です」
先生の言葉に、しばらく呆けていた大和もようやく復活した。
「下っ端だから下っ端と言ったまでさ。『ナチュラルバード』と言う組織は、秘密結社として、たくさんの人物を動かしているように見えるが、それは見かけだけなんだよ。つまり、羽島正人以外は全て下っ端だ。重要なことに関しては…いや、羽島正人が必要とした事だけが未来を動かしているんだ。」
それってつまり…。
「つまり、羽島正人と言う人物だけが、本当の『ナチュラルバード』だ。」
「ばっ、馬鹿なことを言うな!トップは確かに羽島正人氏だが、『ナチュラルバード』は組織で動いている。羽島氏の意向だけで動いてはいない!」
今まで、のらりくらりとからかうように話していた大和の口調が、急に怒気を帯びる。
「怒ると言う事は、少なからず、心の中にそんな不安が存在しているからだよ。今までのことを考えてみろ。組織の命令で、君が秘密裏に瑞樹に近づいただの何だの、と言いながらも、羽島が瑞樹に接触した途端、それは明るみに出て、君の任務は突然終わった。それは、奴が俺たちをからかって遊んでいる証拠だよ。奴は自分の思ったように人々を使って、成果が出ないようなら、自分が行動する事で方向転換させる。もしかしたら奴は、未来が自分によって作られることを知って、ゲームをしているのかもしれないな。」
「そんな事は無い!」
大和の言葉の怒気が増す。
「だったら、奴の下へ俺たちを連れて行け!自分も『ナチュラルバード』の一部だと言うのなら、自分の判断で俺たちを連れて行くのも可能だろう?」
「わかった…連れて行く。ただし、さっきの話の交渉のみだ。羽島氏に対して、それ以上の事は許可できない。」
「ああ、OKだ」
でも、なんでだろう?先生が大和でなく、直接羽島正人に交渉しようとするのは…大和と交渉しても同じのように思うけれど。
「羽島氏に連絡を取りたいので、席を外していいですか?」
そう言うと、大和は携帯を取り出した。
「ああ、ただし外で電話してくれ。この古書店から出てからだ。絶対にこの建物内で連絡はするな。」
「わかった。」
了承すると、大和はそのまま外へと消えていった。
いよいよ交渉の開始です。
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