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決別

翌日私は会社に行き、大和に帰りに付き合って欲しいところがあると誘った。大和はいつも通り優しくて、私の連れて行く場所だったら何処でもと、了承してくれた。

その笑顔を見ると、本当に大和が『ナチュラルバード』の一員だとは微塵も感じられない。少し先生が言った言葉が間違いであってくれればと思ってしまう。

でも、今日の夕方先生のもとへ行けばそれもはっきりとするはずだから、今は考えるのをやめようと思った。

夕方になり、私は大和を連れて、先生の待つ古書店へ向かった。

「瑞樹は何処へ僕を連れて行きたいんだい?この辺りに何か面白い場所があったかな?」

そんな事を大和は言っている。でも、場所へ到着するまでは伝えたくなかった。少しでも長く大和との時間を楽しく過ごしたいと思っていたから…最後の大和との時間を大切にしたかった。

でも、その願いはあっという間に終わった。もっと長くと思いつつも、足は先生の古書店に向かい、あっけなく到着してしまったから。

「ここが君が僕を連れて来たかった場所かい?」

大和が古書店を見上げて、私に尋ねてくる。

「うん。ここにいる人に会って欲しいの。だからつれてきたの」

少しの間大和との間に沈黙が続く。一瞬の出来事のはずの沈黙が長く感じられる。

少しの沈黙の後、大和が口を開いた。

「そっか…とうとう俺の正体に気付いたと言う事か…」

「えっ?」

大和の言葉に私の心臓がドクリと鳴った。大和の顔からは、いつもの優しい笑顔は無くなり、無表情の…ううん、無関心の笑顔が浮かんでいた。

「大和…?」

「上田って事は、奴の隠れ家だろ?俺をこんな所に招待していいのかい?」

(大和…先生の事知ってる?奴の隠れ家って…)

私が困惑していると、私達に気付いた先生が、店先に現われた。

「大丈夫だよ。俺が君をここへ招待したんだ。瑞樹はそれに従ったまでだよ。」

先生と大和の目はお互いを牽制しているようだった。って事はやっぱり…大和は『ナチュラルバード』の関係者と言う事?

いまだ私の心は勘違いであって欲しいと思っていた。でも、大和の言葉を聞く限り、勘違いと言う選択肢は消えてしまったと言う事だ。

「杉山大和君、始めましてでいいかな?俺がこの古書店の店主、上田正嗣だ。」

「はじめまして、杉山大和です。」

お互いを睨んだまま、先生と大和は握手を交わした。私は何かが起こる様な気がして、落ち着く事ができなかった。

「とにかく二人とも中へ入ろう。」

そんな私を見て、先生は私達を古書店の奥へと誘った。大和はもう私を見ることは無かった。視線は古書店の奥へと向かう先生の背中を追っていた。これが大和の本当の姿なんだろうか…いつもの優しい大和は一瞬にして消え、何処にもいなくなっていた。

先生はいつも通り、奥の部屋へと私と大和を案内した。

大和を向かい側の席に座らせて、私は先生の隣りに座らされた。

「大和君紅茶でいいかい?」

「あ、はい。お願いします」

大和の返事に、先生は暢気にいつも通りにお茶を淹れはじめる。私と大和のみが席に残されて何を離せばいいかわからずに、私はどうしようと下を向いてしまった。

すると、大和から私に話しかけてきた。

「瑞樹…君がここへ通っている事は知っていたよ。ただ、ここへ僕が招待されるとは思ってもいなかったけどね。君は僕と別れたいの?」

いきなり大和は話しの核心を突いてくる。大体の予想は大和にはわかっているようだった。

私が、どう返事をしようかと思っていたところに、お茶を淹れ終わった先生が席に戻ってきて、私の隣へと座った。お茶を分け終えると大和を睨んだ。

「わかっているならちょうどいいじゃないか。瑞樹そうだと言ってやればいい。」

「先生!」

先生の言葉に私は声を上げた。さっきまでなかなか出なかった言葉が、ようやく私の中からこぼれた。

「瑞樹大丈夫だよ。俺もそろそろ別れた方がいいと思っていたところだったんだ。瑞樹がそう言ってくれるなら助かるよ」

「大和…どういうこと?助かるって…」

こっちから切り出そうと思っていたことに対しての大和の言葉。信じられなかった。私は弥生の為に…って。まだ何処かで大和のことを信じていた。ううん、信じたいと思っていたのに…。

「言ったままだよ。そろそろ、この関係を続けるには限界に来ていたんだ。僕は瑞樹、いや、上田さんが予想したとおり『ナチュラルバード』のメンバーだからね。僕が君に近づいたのは君の監視役だったんだよ」

「監視役…」

隣りの先生は静かに大和の言葉を腕を組んだまま黙って聞いている。

「偶然に普通の人間にアストラル体が見えると思ったのかい?僕は上の命令であの会社で働き、そしてアストラル離脱をしていると思われる君を監視するように言われたんだ。全ては『ナチュラルバード』の総裁、羽島正人氏の命令だよ。君も半年前に会ったんだろ?羽島正人氏に聞いているよ」

「…。」

私は再び何も言えなくなっていた。私は本当に大和の事好きだったし、信頼できる人だと思っていた。なのに…。

「で、そろそろ瑞樹から撤退しろと言われていたのか?」

いままで黙って聞いていた先生が、大和に問いかける。

「そうですね。そんな感じです。僕を通してかなり情報収集できたし、この後は羽島氏が監視はいいと判断しましたから」

大和は何も隠そうとはせずに、さらりと先生の問いに答えている。

「瑞樹に渡したアンクもお前たちの道具の一つだな…」

「ああ、アンク十字ですね。そうですよ、あれには僕とは別方面からの監視の為だったんですが、あなたのお陰で初めから失敗しましたよ。監視役は追い出されるし、そのアンク十字に水晶嵌め込まれるしで。あれは内緒にするように瑞樹に言っておくべきでしたね。」

「で、もう瑞樹は必要ないと判断されたのか?」

またも先生が大和に質問する。その問いに大和は首を横に振る。

「とんでもない。そろそろ羽島氏に瑞樹を引き合わせようと思っていたところですよ。彼が瑞樹を…いえ、瑞樹達の行動を気に入ったといった所ですね。君たちの行動は目に付くんですよ。あんな風にアストラル面を行き来できるのは今まで羽島氏くらいでしたからね。おっと、もう一人上田さんあなたもそうでしたね。だから、あなたが完全に瑞樹達を取り込む前にこちらに引き込もうと思っていたんですが、少々遅かったと言う事ですね。」

「だって…」

ようやく固まっていた私の口が動いた。

「だって、弥生との事もいつも協力してくれたじゃない!それなのに今までの大和は嘘だって言うの?」

「ああ、あれはね上田さんよりも僕の方を信じてもらえるようにする為の行動だったんだけど、それ以上に君は上田さんを信用してしまったみたいだからね。それで、上からの命令で自分の正体を明かす方向に変更になったんだよ。お陰で、俺はお役御免と言う事さ」

そんな…今までの大和の行動が上の命令だったなんて。私は今まで疑いもせずに、大和には全て話していた。つまり、私の行動は全て『ナチュラルバード』に筒抜けだったと言う事?

「『ナチュラルバード』はもう君をこちらへ取り込むことは諦めた。そしてこれからは君達と僕は敵になる。だからこそもう別れるしかない。今からでも仲間になりたいと言う事だったら大歓迎だけどね」

自分から分かれることを切り出すはずだったのに…逆に私が大和から別れを切り出されたようになってしまっていた。

私は当初の目的を忘れ、何がなんだかわからなくなってしまっていた。私達の行動は全て『ナチュラルバード』の知るところで行なわれていたと言う事になる。

「瑞樹、奴らがすべて掌握しているからこそ、この時代が弥生の未来に今繋がっているんだよ。それは、もう否定の仕様が無いんだ」

私の混乱を宥めるように先生が、私に説明をする。でも、それすらももうよく判っていなかった。

訳がわからず、先生を見ていると、もう一度丁寧に私に判るように話してくれた。

「『ナチュラルバード』がこの時代にいたからこそ、未来で羽根のある人類が誕生するんだよ。弥生達新人類を生み出したのは奴らなんだ。」

「えっ…、それって、弥生達新人類を作り出したのが『ナチュラルバード』の組織だと言う事?組織が無かったら、弥生達は存在できないの?」

「そういうことだ。だから俺たちは『ナチュラルバード』に対して何も出来ないんだ。」

「何も?」

何も出来ないの?だったら私達はどうしたら今の弥生達を助ける事が出来るの?

もうどうしていいのかわからなかった。

「あとは、俺が話す。お前は混乱しすぎだ。頭を整理しながら、おとなしくそこで聞いていろ。」

先生は混乱する私を横に置いたまま、大和に向き合った。

「ここからは、俺とあんたの交渉になる。これ以上瑞樹を混乱させるのはやめろ。」

「交渉?何を交渉しようとしているのですか?僕達の優位は変わらない。交渉などできるわけがないじゃないですか?」

「優位?それこそおかしいだろ?俺たちが弥生達の存在を諦めて、お前たちの組織をぶっ潰すって言ったらどうだ?弥生達の世界が変わらないなら、存在が消えたとしても大して変わらない。この交渉が成立しない限り、お前たちの組織は俺に脅かされ続けると言う事だ。それなら交渉が成り立つだろ?」

「…確かに。そうなりますね」

少し考えていた大和は、お手上げと言うように、両手を上げた。

「俺たちはそんなに難しいことを要求するつもりは無い。それを約束してくれるなら、俺たちはお前たちの秘密結社『ナチュラルバード』には干渉しない。」

「干渉しないというなら、話くらいは聞きましょう。何を僕達と交渉したいのですか?」

とうとう大和との別れが訪れました

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