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約束

弥生とのアストラル体の交換から一年、そして羽島正人に遭遇してから、すでに六ヶ月の時が流れていた。動きたくても動けない状態が続いている。

まず最初に、弥生にいまだ会うことが出来ない事。そして、羽島正人をトップとする秘密結社『ナチュラルバード』から何も接触がないから。

六ヶ月前羽島会長が接触してきた時は、私を仲間に引き入れる為の接触だと思っていた。だから、どんな事にも対処できるように、万全を期して待っていた。

なのに…この六ヵ月勧誘どころか、関係者からの接触も無い。

だから、今も私は一人でアストラル面をフラフラと浮遊しているのだ。

アストラル面関係者としては、絶対こっちの世界で接触してくると思ったんだけど…。

間違いだったんだろうか…。

いままではしなかったアストラル面にいる人との接触も積極的にしながら、彼らの結社『ナチュラルバード』のことを知っている人が居ないか確認した。

でも、手掛かりと言うか…詳しいことを知る人はいなかった。

まあ、アストラル面でしっかりと会話できるような人に遭遇する事は少ないのは確かなので仕方ないとはいえ、それでもここまで情報がないのは異常というか…

やっぱりそれが秘密結社と言う事なんだろうか。

かなりふらふらとした後、私はいつもの様に弥生と会うあの場所へと向かう。

今日も無理だろうな…と思いながらも、もしかしたら…と向かう。

この一年間そんな感じだった。

でも…今日は違っていた。いつもの場所に近づいた時、遠くに人影を見つけた。そう、それは一年振りに見る弥生の姿だった。

「弥生!!」

私は思わず叫んでいた。

一気に弥生のいる場所まで飛び、私の声に振り向いた弥生の腕の中へ飛び込んでいた。

「瑞樹…」

「弥生、ずっと待っていたんだからね。何かあったの?交換してからもう一年よ!」

「うん、ごめんね。実は産卵があって…それにその卵を追跡したりしてたの…で、私達の立場とかもだんだんわかって来て。それで…」

弥生の言葉で、私はなんとなく事情を理解した。

「産卵て…もしかしてあのアストラル体の交換の時の?」

交換の時の卵って事は…私と睦月が最初に出会った日の、あの出来事。

私が少し焦っていると、弥生はそうそうと笑った。

「うん。そう、睦月との卵だよ。だから、私と睦月の卵って言うより、私と瑞樹と睦月の三人の卵かもね。で、私達二人でその卵の行方を探ったの。そしたら、私達の卵が運ばれた場所が普通と違っていて…その卵の先には、羽根を持たない旧人類の人たちの区画があったの」

やっぱり…弥生と睦月は羽根の無い人たちの存在を確認してしまったんだ。睦月と一緒に一人は確認していたから、知ってしまうかも…と思ってはいたけれど。でも、どこまで知ってしまったんだろう。しっかりと弥生から確認しないと。

「全部話して、弥生。私も一緒に考えるから」

「うん。」

弥生は、私と交換を終えて帰ってからのことを全て話してくれた。産卵の事、睦月が卵を追いかけていった事、そしてその後一緒に卵を追いかけていった区画に行った事。そして、その先にあった旧人類区画の事…。私が口を挟めないほど、一気に弥生は話し続けた。

ようやく一息ついたところで、わたしは口を挟んだ。

「上田先生といろいろ話してはいたけれど、そんなことになっていたのね…そうか、かつて東京だった場所の下に旧人類の区画があったんだ。灯台下暗しって事よね。」

「うん、知ってしまえば行くのも近くて簡単だし、便利ではあったんだけどね。ただ、私達は卵を見守るっていうのもあったから、卵がいつ移動されるのかわからなかったし、遠い施設にはそんなに頻繁には行けなかったから…幸い卵に番号が付いていたから、最終施設に運び込まれる卵の番号を確認する事にしたの。」

「番号か…なんか製品番号みたいだけど、今回に関してはあってくれて良かったのかな?」

私の言葉に、弥生は首をすくめると少し笑った。

「そうなのよね…なんか最初は番号が付けられているのに、嫌悪感みたいなのあったんだけど、案外把握するには便利だと思っちゃった。まあ、よく考えれば、私達も社員番号とか国民番号があるんだから、それと同じだと思えばね…」

「そういえばそうね。私達の社会には番号は切り離せないものよね…コンピュータに人間を管理させるにはなんにおいても番号が必要って事か。製品番号だけとは限らない。今の私達は番号で管理されているんだね」

改めて、番号社会を認識した気がした。今までは、番号で私達が管理されてるって意識も無かったけど、役所に行けば全て私達の情報は番号で管理されているんだ。それは製品番号となんらかわらない…私達も物もコンピュータにしてみれば同じなんだ。

すべては番号で管理するだけ。

そこで話が少しずれてしまった事に気付いた。

「ごめん、話途中だったね。で、卵は見つけられたの?」

「うん、番号のお陰でね。最終孵化施設に移動した卵は二十日目に孵化するし、番号が通し番号になっているから、私達の卵の番号に近づけば判るしで、すぐにわかったよ。明日にはそこに運び込まれるねって…」

「ほんと便利ね…」

弥生の言葉になんと言っていいのか判らず、ため息と共に私は少し天を仰いだ。

「それで生まれたのね。」

「うん、生まれたよ。予想通り羽根の無い旧人類の子がね…通常3歳まで卵の中にいる私達とは違って、赤ん坊の姿で生まれたの」

弥生の言葉には複雑な気持ちが混ざっていた。生まれた子が旧人類の仲間入りをした事は、幸せなことなのか、それとも不幸せなのか…。

「生まれてすぐに、その子は旧人類の夫婦の元に送られたよ。私達は3歳まで卵で過ごして、生まれるとカプセルで育てられたけど、旧人類として生まれた子供は、産卵から1年で生まれて里親に育てられるの、それを考えると、あの子は幸せなのかもしれない…私達と違って、親の愛情に包まれて育てられるんだもの。それに引き取った夫婦はすごく優しそうな人達だったから」

弥生は、今まで何個も卵を産んでいたはずなのに、やっぱり自分の卵の行方を確認すると、子供に対して愛情が湧くようになるんだろうか…それとも、私達の世界で色々学んだから?どちらとは言えないけれど、両方が影響しているんだと思う。

いろいろと私が頭の中で考えていると、目の前の弥生が一度ゆっくりと目を閉じ、そして開くと再び口を開く。

「それと…実は、私達の寿命の事も調べてみたの」

まるでついでの様に弥生は一番大事だと思っていたことを話し始めた。

さっき目を閉じたのは、話を切り替える為の弥生の心だったのかもしれない。

「やっぱり調べたのね…」

私は、弥生の言葉を確認するように、聞き返した。

うん、と弥生は少し笑いながら頭を立てに動かした。

「で、判ったのね。寿命の意味が」

「うん。判ったよ」

今度はしっかりと声に出して、返事を返してくれた。その声には、全てを知ったと…そして、自分の運命に向き合う事を決心した声に溢れていた。

「瑞樹達はなんとなくわかっていたんだね…そうなんだ、私達の寿命は年齢で区切られていただけだったの。寿命が尽きるわけじゃなくて…殺処分されていたの」

予想は先生としていたけれど、実際に弥生の口からその事実を聞くと、さらに心に重くのしかかる。それも、弥生の口から出てきた言葉は、『殺処分』と言う言葉。

まだ『殺されていたの』と言われた方が良かったかもしれない。行為は同じでも、人間とイメージできる。でも、弥生の発した『殺処分』はなにか動物を連想させた。

「弥生…」

でも悲しそうな顔をしながらも、弥生は諦めた顔はしていなかった。

「それで、相談しようと思ったの。私達はこのまま生活していたら、間違いなく四十歳を迎える頃には処分される。だけど、私も睦月も今回生まれた子供の行く末を、ずっと見守りたいと思っているの。私達の寿命が普通に尽きるまで…」

つまり、それは弥生達が今の社会から…ううん、運命から抜け出したいと思っていると言う事だ。

「それは、あの区画から逃げたいって事?それとも、戦いたいと言う事?」

「私としては、逃げたり戦ったりは本当はしたくないよ。でも、今の状況から考えれば、どちらかを選ぶしか選択肢は無いと思ってる。どこかに訴えたからと言って、状況が変わるとは思えないし…処分が早まるだけと思うから」

事実を知ってから、弥生と睦月は色々と話し合ったようだった。でも、答えが出なかったと言う感じだ。

「でも、戦ってもいい結果は出ないと思うんだ。みんなを巻き込んで、クーデターなんてのも考えたけど、それだと旧人類の区画にも影響が出るでしょ?それは、私達の子供にも何かあるかもしれない。それだけは避けたいの。そうなると、今の区画から逃げ出すしか…でも、逃げ出したからと言って、今の地球の状況を考えれば、地上に逃げるわけにも行かないし。逃げ出す場所も無いんだよね」

「それで、私達に相談を?」

私の問いに、遠慮がちにうつむきながらも弥生はうんと答えた。

「わかったわ。私達に何が出来るか判らないけど、先生に相談してみる。返事はそれからでいい?」

「うん!ありがとう瑞樹!」

嬉しそうに弥生は私の胸に飛び込んできた。

「大好きだよ瑞樹。」

「大丈夫だよ。私もその子には関係していない訳じゃないし、それに…弥生達の世界を変えたいと思ってたから。先生は未来を変えるから駄目だって言うけど、絶対説得して協力してもらうわ。」

私の胸に埋もれている弥生の頭を撫でながら言うと、「えっ、」と私を見上げた。

「先生反対なの?」

少し不安そうに私に聞く。

「未来を変えるのは、神の領域だって言ってたわ。でも、私は、弥生の為なら神にだってなってやるわ。昔の私は運命って言葉が嫌いだった。運命だからって諦める理由にしているみたいで嫌だったから。でも、今は違うの。だって私が未来の弥生とであった事は、何かの運命だって思ってるから。だったら、運命だって神だって同じだと思うんだ。神様が決めたのが運命なら、私が神の領域を侵すのだって、運命なんだってね。だから大丈夫、先生を説得するのも私の運命。ってね」

「すごいなあ、瑞樹神様になっちゃうんだ。」

安心したのか、少し的外れな事を弥生が言う。わたしはその問いに笑って答える。

「そうよ、弥生達の為ならね。神様だってなれるよ」

ウインクをすると、弥生はえへへと笑った。

「それじゃあ、瑞樹よろしくお願いします。」

「了解、お願い事受理しました。」

お互い顔を見合わせて笑うと、今日のところはこれで分かれることにした。

「それじゃあ、会えたら一週間後に返事するよ。いい返事持ってくるからね。」

そう弥生に言うと、鈴をチリンと鳴らしてお互い自分達の身体に戻った。

話の組み換えの為、少しペースが落ちる可能性がありますが、少しずつ更新していく予定ですので、よろしくお願いします


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