卵の未来
明けましておめでとうございます
少しずつですが、更新していきますので、よろしくお願いします
戻ってきてすぐに私は睦月に質問をした。それは、さっき後で話すと言った内容について。
「さっき卵を確認してから睦月急に急いだよね?なにかあったの?それにもう一つの区画に行ったとき、やっぱりって言ったよね?」
私がさっき不思議に思ったこと全てを睦月に投げかけてみる。
睦月は少し考えていたけれど、すぐに私の方を向いて、私の目をまっすぐ見てきた。
「さっき見ただろう?羽根の無い旧人類の区画を…」
「…うん。あれって幻じゃないよね?旧人類は滅びたって聞いていたけど、違ったって言う事なのかなあ?」
私なりにも色々考えてみたけど、私達が知らなかっただけで…。でも、それだけじゃないのかな?
「俺が見たのは、卵の中身だよ…。俺たちの卵はまだ成長していないから判らなかったけど、奥のほうにあった卵、かなり卵の大きさが違ったから、たぶんもうすぐ例の区画へ移動する卵だと思うんだけど…卵の成長と共に殻が薄くなっているからなのか、中が透けて見えたんだ」
「卵の中身が?それって赤ちゃんが見えたって事?」
「ああ、そうだ。中の赤ん坊が見えた…」
そうなんだ…さっきトラックの中の卵だと判らなかったけど、孵化が近いとそんな事があるんだ…。私達が知らない事多いんだね。
「でも、それがどうかしたの?私達が知らない事多いけど、別に卵の中身が見えても、問題ないと思うんだけど」
「いや、その卵の中の赤ん坊の影には羽根が無かったんだよ」
「羽根が…無い?」
それって…私達の卵も同じと言う事?ううん、そもそも私達の産んだ卵から旧人類も生まれているって言う事…
「なんとなく判っただろ?最初に選別されていたのは、俺たちと同じ新人類として羽根を持って生まれてくるか、旧人類として生まれてくるかを選別していたか、旧人類の素質を見極めていたのか。どっちにしても、俺たちと同じ新人類にはならない卵だよ」
「じゃあ、私達の卵は旧人類として選ばれたの?」
ショックだった…私達の卵は私達と同じ人生は選べないということだから。それが、幸せなのか不幸なのかはわからない。でも、羽根は生えてこないんだ。
「だろうな…あの施設から次に行く場所が旧人類の区画だった。つまりあそこで孵卵器に入っているのは旧人類の卵。俺たちと違って特別扱いになる卵だったんだよ」
「特別扱い?」
「だってそうだろ?少ししか見ていないけど、お前が感じたように、昔の瑞樹たちの世界の様な生活なんだろ?それに、子供たちも、俺たちより上の年配者もたくさんいた。つまり、昔からの人間の生活があの区画にはあるんだよ」
「そっか…そう考えるのが普通だよね。あの世界は幻じゃなかったんだから。私達には無い普通の生活が向こうの区画にはあるんだ。」
私は自分の判断力の無さに少し落ち込んだ。睦月はあの一瞬でこれだけの把握をしていたんだ。だからこそ、あのエレベーターに乗ろうって言ったんだね。
「でも、あの区画なんでこんなに近くにあったんだろう?卵の保管施設はあんなに遠いのに…」
「たぶん、あのインキュベーターのあった施設は日本海側にあるんだと思うよ。それはあの区画と俺たちの区画が繋がっているから。遠ければ遠いほど安全と言うわけだ。だけど、旧人類の区画と俺たちの区画は直接は繋がっていない。だからこれだけ近くにあっても、みんな知らないと言う事さ。直接行く事が出来なければ、行くには俺たちが通ったルートしかない。それは遠すぎて無理って事さ。俺たちみたいにアストラル離脱ができない限りはな」
「私達にしか無理って事か…」
「それに…東京に場所を確保していると言うことは、自分たちが日本の中心だと言っているのもあるんだろうな。東京はかつて日本の中枢だった所だ。そこにいるのは自分たち。だからこそ、自分たちが俺たちよりも上だって示しているのもあるんだと思うよ」
「私達が彼らの存在を知らないのに?」
なんだか滑稽に思えた。だって私達は今まで彼らの存在すら知らなかったのに、向こうは私達に対して、上だと言うことを存在で誇示してみせる。そんな事がなんになるんだろう?
「知らなくても…自分達の中で俺たちより上だと思っていたいんだろうな…結局俺たち新人類の卵から生まれる自分たちをな。そして近くの方が奴等からすれば、俺たちを管理しやすい」
なんだか、彼らの誇りは歪んでいるような気がした。でも…これから順調に行けば私達の卵も彼らの仲間入りをする。それは本当に幸せな事なのかな?瑞樹達の世界で私は色々楽しい事を知った。それを考えると、私達の卵が色とりどりの世界の中で生きると言う事は幸せなんだと思う。でも…私達を下と考え、それを誇りとする旧人類としての考えを植え付けられるのは私としては嫌な気もする。
それは私のエゴかもしれない…でも。私の中で、相反する想いが錯綜する。
「睦月は…私達の卵が旧人類として生まれる事にはどう思う?」
混乱しすぎて、私は睦月の意見を求めてみる。
「なんか考えてると思ったら、それを考えていたのか…俺はそれはどうしようもないと思ってるよ。俺たちには、それを止める術を持っていないからな。選ばれた時点で、それはもう決定しているんだ。あの卵はもう新人類のものじゃない。旧人類の卵なんだ」
「でも…私達の卵よ。生まれてくる子に何か期待したくなるのが普通でしょ?」
私が、自分の思っていることを睦月に伝えると、睦月が少し力なく笑った。
「やっぱり弥生の考え方は俺たちとはかなり違うな…」
「違う?」
「俺たちは今まで生まれてくる卵たちの行方すら気にしていなかったんだぞ。それが、ようやく卵の行方が気になる様になってきたところだ。でも…弥生はそれ以上の事を、もう考え始めている。つまり弥生は俺よりも先の先まで考えるようになっているんだよ」
「…そうなの?」
「ああ、だって俺は卵の行方が気になりはしていたけど、その卵の生まれた後の事までは、考えすらしなかった…それだけ、弥生の心が瑞樹達寄りになっているって事だな。俺はその考えまではまだまだと言う事だ。」
「瑞樹達寄りの考え…」
そっか、私はあの過去の世界に行ったからこそ、今の考えができるようになっていたんだ。普通に考えられるようになっている…なんだかそれが自分の心の成長に思えて少し嬉しかった。
「そうだな…行く末を考えるか。それもなんだか楽しそうだな。だけど、俺たちにはそんなに時間は無いぞ、あと俺たちが生きられるのはだいたい十五年前後。あの卵が生まれて成長しても、大人になるまでは見守れないな」
そうだった…私達の寿命は次の世代が世間に出てくる頃には尽きているんだった。でも…。
「でも、それが偽りの寿命だったら?」
「偽り?」
睦月が首を傾げる。
向こうの世界で先生が言っていた。偽りの寿命かもしれないと…全員の寿命が殆ど変わらないのはおかしいと。
先生も確証があって言ったことではなかったけれど、でも…旧人類の区画には確実に年配の上田先生以上の年齢の人達がいた。だったら予想通り、私達の寿命は植え付けられた偽りの寿命なんじゃないかって思った。
「さっき睦月も見たでしょ。旧人類の人達の区画には、私達の寿命以上の人達がいたのを…」
「ああ、子供から年配者まで色々な年齢の人達がいたな…ってまさか!」
私は睦月の言葉にゆっくりと頷く。
「私達の寿命は作られた寿命なんじゃないかって思うの。私達は寿命で死んでいく人を見たことが無いわ。いつも、寿命で亡くなったと報告を受けるて、それで私達は『ああ、あの人寿命だったのね』と思うだけ。それって本当に亡くなっていたのかしら?ううん、正しくは寿命で亡くなっていたのかしら?もしかしたら、処分されていたって事は無い?」
自分で言っていて少し怖くなった。寿命なら仕方ないと思っていたけれど、そうではなく殺されていたって考えると、自分達の世界がすべて否定された感覚になる。
睦月も考え込んでしまっていた。
「俺たちは旧人類を生み出すための消耗品って事か…」
でも、まだ私は答えを出したくなかった。だってまだ少しの事しか見ていない。少しの情報で、自分たちが利用される側だとは思いたくなかった。
「結論はまだ早いと思う…もう少しいろいろ調べてみましょ。調べる場所はもう見つけてあるんだから」
「ああ、そうだな。結論を急いでもいい事なんてないもんな。もう少し調べてみよう。せめて、あの卵が…俺たちの卵が生まれるまでは…な」
私も睦月の言葉に頷いた。そう、あの子が生まれてくるまでは…。
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