接触
年末になり慌ただしくなってまいりました
私と睦月は次の週予定通り別区画へ向かうことになった。
いつもは鈴を用意するだけだったけど、今日は遠くに行く事も考えて、もう一つ部屋にお香を焚くことにした。そして同じものを自分の身体にも焚き染める。それによってアストラル体と身体の間に繋がりを作っておく。これも先生に教わった慎重に動く時の技だった。
瑞樹との世界を行き来した私だったけど、それよりも今回の方が危険度が高いと思ったから…。自分達の卵の為とはいえ、本当に大丈夫かわからない。でも、行かないと言う選択肢は私達には無かった。
「睦月…絶対離れないでね」
「ああ、絶対に別行動はしないよ。とにかく少しでもいい、この世界の手掛かりを二人で捜そう」
睦月の言葉に、私はこくりと頷いた。
そして、そのまま二人で照らし合わせたように一気に身体を離脱させた。
最近は睦月も私と代わらず、スムーズに離脱ができるようになっていた。本人曰く、慣れれば食事と同じような感覚で出来るらしい。
そんな睦月と共に、出産を行なった隣のインキュベーター施設へ飛んだ。施設へ到着すると、睦月の案内で裏にある移動用トラックヤードに向かう。
「裏にこんなところがあったんだ…」
隠れるようにここの出入り口はカモフラージュされ、一見トラックヤードともわからない作りになっていた。
「まあ、表に見せるように作るものでもないし、それに卵の移動は秘密裏だからな。おっ、ちょうど時間みたいだな。卵がでてくるぞ」
睦月の視線の先を見ると、出入り口が現れ、シャッターが開き始めたところだった。
シャッターが開ききると、ベルトコンベアに載せられた卵が一つ現れた。
そのまま現われた卵はすぐにロボットによってトラックに載せられる。
「ほら、行くぞ!このトラックに一緒に乗るんだ。そうすれば向こうの区画へ行ける」
「うん!」
睦月の後から私も一緒にトラックに乗り込む。そこにはいくつかの卵がすでに保管されていた。ちょうど今載せた卵が、そのトラックの最後の1つだったらしい。時間的に本日第一弾のトラックだろう。
すぐにトラックの扉が閉められ、私達と共にトラックは移動を始めた。
「ねえ、ここからその移動のエレベーターまでかなりあるの?」
「いや、五分かそこらだよ。すぐに停まるよ。卵的にも長く置くのは良くないからな。最短の距離をとっているんだと思う」
そんな話をしているうちにトラックは停まった。
「本当だもう到着したんだ…と言うことは、大体エレベーターの位置は探れそうね。」
「まあな、って俺はこのエレベーターのトンネルを飛んで帰って来たんだ。もう確認はしてあるよ。ただ、卵と共にトラックに乗った方が楽だと思ったから、向こうにしたんだ」
「そっか…ちゃんと確認はできてるんだ。さすが睦月だね。」
「ほめても何も出んぞ。すぐに到着するから用意しておけよ」
「うん」
睦月の言ったとおりすぐにエレベーターは止まり、エンジンがかかる。
「エレベーターの前が目的地だから、もう乗っていても時間の無駄だ。降りよう」
睦月にしたがって、私もトラックから抜け出した。
視界が開けたことによって、一瞬目が眩む。が、次の瞬間には大きな施設や建物が目に入ってきた。
「うん、確かにここ私達の区画じゃないね…空が違う」
そう、見上げると空代わりの天井が私達の区画と違って、もっとずっと高かった。つまり、私達の空よりリアルに出来ている。
天井が高い…って事は、私達の区画よりも深い場所にあるって事?
「その辺も後で確認しよう。こっち来いよ。まずは、俺たちの卵を確認しよう。」
睦月は私を連れてインキュベーター施設に入っていく。
向こうのインキュベーター施設も調べておいたんだけど、あっちは卵五個が一つのインキュベーターにかかっていたんだ。でも…ここの卵は。」
そういって私を部屋に招きいれた。あっ…卵一個に対して、一台のインキュベーター。それも子供の頃に教わった形とはずいぶん違う。何かの液体の中に卵が一つずつ浮いていた。
つまり、ここの卵の方が大切に温められているという事?それとも…
「選別されていたのは質を見ていたということかな?」
「質か…生まれてみないと普通なら判らないと思うんだけどな。」
「じゃあ、何を確認してここに移動されたのかしら?ここの卵たちは」
一つ一つの卵を確認しながら、この部屋全体を回ってみる。
「おっ、これだよ。俺たちの卵」
向こうで、睦月が一つの卵の前に立ち、私を呼んだ。私も睦月に駆け寄る。
「『0047857249』間違いないこの卵だよ。」
「これが私達の…」
私が思わず見とれていると、睦月はもう次の行動に移っていた。
「おい、行くぞ。卵の無事か確認したんだ。時間はあんまり無いんだ。この周辺を確認しよう」
「もう、早いんだから…待ってよ!」
私は、卵に後ろ髪を引かれながらも、睦月を追いかけた。
「ここの建物には人はいない。だから、別の建物を確認しよう。」
インキュベーター施設を出ると、睦月は飛びながら私に確認をとる。私は、それに首を縦に振ると、周りを見渡してみる。いくつかのビルが建っているけれど、この区画はそんなに広くない事を確認すると、私は一つのビルを指した。
「あそこは?」
何かは判らないけれど、あそこから何かを感じた。
緑色の十階立てのビル。あのビルに行ってみたいと、私自身が感じているみたいだった。
「わかった。長居は出来ないからな、弥生の直感を信じて、あのビルを調べてみよう」
そう言うと、睦月はもう他のビルには興味を示さず、まっすぐにそのビルに向かった。
「だから、待ってって言っているじゃないの!睦月行動はやいって!」
何かに引っ張られているかの様な睦月を追いかけて、私も慌てて飛び立つ。
そして横に並ぶと、睦月の顔を覗き込んだ。
「どうかしたの?」
「ん?何がだ?」
私の方を見ないで、睦月は私の問いがわからないと言う様に答えてくる。
「だって睦月さっきから慌てすぎよ。そりゃあ、時間が無いって言うのはわかっているけど…だからってまだ時間はあるはずよ。」
それでもこっちを見ない睦月。私も堪らず睦月の腕を引っ張った。ようやく睦月はこちらを向いた。
「後で帰ったら話すよ。だから、今は調べられるだけ調べたい。」
それだけ答えると、睦月は再び前を向いてしまった。何があったんだろう…さっきまで、そんなに焦ってはいなかった。なのに、インキュベーター施設を見た途端に、睦月の何かのスイッチが入ってしまった様に思えてならない。あの卵が入っていた孵卵器のあの部屋で、何かを睦月は見つけたんだろうか…?
わたしが気が付かなかった何か…?あの時私は自分の卵に夢中だったから。とにかく今何か考えても答えなんか出ないことは、私にもわかっていた。
だから頭を切り替えることにした。今向かっているビルの事に…
私達はビルの一階に降り立った。一見何の変哲も無いビル。
「どうやって調べる?」
「そうだな…弥生は上と下どっちが気になる?」
「上と下?」
そう言われて、私は地面と天井を交互に見比べた。さっきみたいに何かを感じるのは…下。の様な気がする。
「下…かな?」
「了解。行こう」
私が答えると、そのまま睦月は地下に向かって潜り始める。
「本当に…何の躊躇も無く動くんだから」
考える事をやめた私も、そのまま睦月に従って潜るとすぐに地下の空間に入り込む事ができた。でも…そこも人は存在していなかった。ただ、目の前にあったのはさっき通ってきたエレベーターのようなドアがあった。
「ここにもエレベーター?また違う場所へ移動するのかな?」
「そういうことだろうな…次は何処へ移動しようって言うんだ」
睦月がそのドアを覗き込む。
「って、睦月まさかこれに乗り込もうって思っていないよね?」
私が恐る恐る聞くと、睦月は笑いもせずに頷いた。
「思ってる…駄目か?」
駄目か?って…そんな顔で言われたら嫌とは言えなかった。本当はこれ以上遠くへ行くのは危険だって言うのはわかってる。でも…何故か大丈夫かも、と言う不思議な感覚が私にあった。「ふう」と私は一度深呼吸をすると、決定した。
「行ってみましょ。」
私は、睦月に答えていた。さっきと違って、今度の睦月には笑顔があった。
「さんきゅ」
私は睦月に頷くと、ちょうど運び込まれてきたトラックと共にエレベーターに乗り込んだ。
もう一度年末に更新できるといいですが…
ご感想等ありましたが、よろしくお願いします




