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瑞樹

本日4ページ目です

弥生と出会った日からすでに7年の月日が流れ、私もようやく社会人として慣れてきた。

出会ってから2年程は弥生との交流があったが、どうやら弥生が社会に出てからタイミングが合わず、出会うことが出来なくなっていた。

何度かタイミングが合わないかと、時間をずらしてベットに潜ったりもしてみたのだが、そういう時に限って慣れていたはずのアストラル離脱ができず、どうしても出会うことが出来なかった。

もしかしたら私達のアストラル離脱には、何らかの力が影響しているのかもしれない。昔も大切な事を話そうとすると引っ張られて、元の身体に戻ってしまう事が多々あった。そう考えると、今会う事が出来ないのも、何らかの力によって押さえつけられているのかもしれない。

しかし、会えなくなってから約5年。私も何もせず過ごしていた訳ではない。

鳥の行動学から人間の心理学、そして進化や遺伝子など、いろいろな方面の本を読んで、私流のあらゆる可能性を考えていた。

今は鳥を専門に扱うパークで働いており、鳥に関しては何でも知る事が出来る環境に、自分を置いているが、知れば知る程鳥と言う動物が頭の良い動物に思えてくる。鳥は恐竜の生き残りだと言う研究者もいれば、恐竜が進化して鳥になったのだと言う研究者もいる。まだわからない事もたくさんあるが、人間が生まれる前から存在し進化し続けている。にもかかわらず、未だに環境に対応できるように種を進化させ生き続ける努力をしている。

それを考えると人間は急激に進化しすぎてしまったのかもしれない。その為人間は突然の事に対応できず滅びてしまった。

だからこそ人間は生き残るため、子孫を残すために、最後の手段として鳥とのキマイラ化を受け入れた。

他の動物ではなく、なぜ鳥の遺伝子だったのか…人間としての進化への望みもあっただろうが、私はそれだけではないと思っている。

古代より私達人間は、鳥と言うものに神を多く重ねてきた。エジプトでは、太陽神ラーやラーの魂であるベヌウ、ホルスにトトなどたくさんの鳥たちが神々の姿として現されている。そして、それがギリシアに移り、そこでもやはり鳥たちは神の姿で現れる。キリスト教でもそうだ、神に仕える天使や地獄に落ちた駄天使さえ、鳥の羽が背中についている。死と再生を繰り返すフェニックスもそうだ。

コウノトリなどは、なぜか赤ん坊を銜えてくるといわれる。これも神の御許から、神使としてのコウノトリが連れてくると言う事なのだろう。

つまり、人間は古来より空を自由に飛ぶ鳥と言うものに憧れを抱き、その空を飛ぶ姿を神としてまたは、神の使いとしての姿を重ねていたのだろう。

だからこそ人間は最後の希望を、鳥と言う遺伝子ではなく、鳥と言う神に託したのではないだろうか?

しかし、古代の神にさえ親兄弟は存在する。それを人類は消してしまって大丈夫なのだろうか…今までは何も無かった様だが、私は何かが起こる様な気がして不安で仕方がない。弥生の世界が今の私達と繋がっているかは定かではないが、だからと言って弥生と出会ってしまった以上、私に関係がないとは絶対に言いたくない。

弥生の世界が完全におかしくなる前に、私達でなんとか修正できないものだろうか?そんな事を最近毎日考えるようになっていた。


「またぼんやりしているな。どうかしたかい?」

私がいつもの様にぼんやりと考え事をしていると、後ろから声がかかる。

メガネをかけたやさしい男性。彼の名前は杉山大和、私の同僚にして今の恋人だ。

私は彼にニッコリ笑うと首を横に振る。

「大丈夫。また会えない親友の事を考えていただけよ。どうしたらまた会うことが出来るんだろう…って」

「ああ、例の彼女か」

「うん」

そう、会話でも分かる様に、彼は今までの事情をすべて知っている、唯一の私の理解者なのだ。

彼に出会うまでは、向こうの世界の事は誰にも言った事もなかったし、信じてもらえる事もないと思っていた為、これから先誰にも相談をすることは無いと思っていた。だが、私は彼に心を許し、話をしてしまった。

その発端は、彼の隣りで寝ている時に、何度か無意識にアストラル離脱をしてしまった事だった。

突然私が意識を失うことがたびたび起き、彼が何かの病気なのではと心配したのだ。最初は気を失っただけとごまかしていたのだが、幾度目かの時ありえないことが起こった。

何の巡り会わせなのか、ただ波長が合っただけなのか私にも分からないが、突然私の離脱した姿が彼に見えてしまったのだ。

「瑞樹が二人いる…」

彼は驚いていたが、やけに冷静だった。いつもなら、離脱後すぐにアストラル面に飛ぶのだが、その日はアストラル体のまま、その部屋に私は留まっていた。

何だか不思議な感じではあったが、私はそのまま彼に話しかけていた。

「大和に今の私が見えるの?」

「見えてる…。それは幽体離脱って奴かい?」

彼は普通の状態でない私に普通に反応してくる。

「そうとも言うわね。ねえ、私の事怖くないの?」

「全然。むしろ…」

「むしろ?」

「面白い」

そう言うと大和はニカッと笑い、親指を立ててウインクをした。

その後、そのまま少し話をしていると、私はアストラル移動もしないまま元の身体へと戻っていた。もしかしたら何らかの力が、必要と判断して彼に見せた、パフォーマンスだったのかもしれない。

意外にも彼は私の話を信じ、すべて受け入れてくれた。『どうしてそんなに信じてくれるの』と、私は話の最後に聞いてみた。すると、アストラル体の私を見た時と同じように『面白いから』と、答えるのみであった。

そんな経緯もあり、今に至っているわけである。

「まだ例の彼女に会えないか…」

「いろいろ試してはいるんだけどね。寝る時間を変えてみたり…」

「たぶんそのうち会えるんじゃないか?それより、今度彼女に会ったら瑞樹は何をしたいんだい?それを考えておいたほうがいいんじゃないかな」

「そうね。私もそうは思っているんだけど、向こうへ行くのは私の実体でなくアストラル体のみだからなあ…直接的干渉は出来ないと思うの。と言うか、アストラル面のいろいろな場所へ行ったり、弥生と会話はしたけど、彼女の世界や私の世界にはお互い行き来はしていないの。だから、向こうの世界に行けるのかどうかもわからないのよね」

私は、自分で言葉に出してみて改めていろいろな課題が山積みな事にため息をつく。

弥生には会うことが出来ないし、向こうの世界に行けるかもわからない。その上、そこがどんな世界かもわかっていない。無い無いだらけだ。

「俺が調べた限りだと、アストラル体と言うのは身体を正確に複写したような…意識の乗り物みたいなもんだろう?だったら、その複写をお互いで交換してみたらどうだい?」

「えっと…複写を交換?どういうこと?」

いまいち彼の言っている事がピンと来なかった為頭の中に?が飛ぶ。

「つまりお互いの身体を交換するって事だよ。瑞樹のアストラル体が彼女の姿を複写して、彼女のアストラル体が瑞樹の姿を複写する。そうすれば本体とお互いのアストラル体が引き合って、お互いの身体に入ることができるんじゃないかな?」

「私が弥生の身体に入り込むって言うこと?」

「そうそう。うまく出来れば自分の肉体が無くても向こうの世界で動くことができるかもしれないよ」

「そんな事が出来るのかしら?」

「出来るんじゃないかな?アストラル移動が続くとアストラル体の形はあいまいになってくる、そこで思考を働かせるとあいまいだった形が戻るって事だったから、思考を働かせるのを少し変えてみれば…」

「!?」

「そう、少し思考を変化させれば、お互いの形に似せる事が出来ると思う」

驚いた。彼の言っている事は、私には考えもつかない事だった。でも、確かに今まで調べていたアストラルの知識で考えると、その考え方は有効である可能性は大きい。

大和は話を続ける。

「まずは、彼女と会うより先にアストラル離脱時の自分のアストラル体を変化させる事を試してみた方がいいかもしれないな」

「私のアストラル体の変化か…」

確かにこの計画を成功させるには、弥生に会うよりも先にアストラル体を変化させる事が先決だろう。

(今夜から試してみよう…)

私の想いがアストラル体の変化の仕方に心を囚われていると、シャランと目の前に鎖の様なものが下りてきた。

「えっ、これは何?」

よく見ると、それは輪っかの下に十字架のトップがついたペンダントだった。

「大和…?」

「アンク、アンサタ十字とも言うけど、お守りだよ。意味としては『生命の鍵』エジプトの再生とか長寿の象徴で、幸運のお守りなんだ」

「幸運のお守り…」

「アストラル離脱は安全だと言われているみたいだけど、今回は安全だとは言えないと僕は思うんだ。自分の魂の乗り物の形を変えるんだからな」

「…。」

「本当ならこの方法を瑞樹に薦めたくは無かったんだ。でも、君はそれでは納得しないだろ?だから気休めかも知れないが、持っていないよりはいいと思ってね」

「大和…」

私は思いがけないプレゼントに涙ぐむ。会社の食堂でなければ、ここで彼に抱きついてしまいたいほど嬉しい。

「少し前からこの方法は思いついていたんだ。でも、瑞樹を危険な目に合わせたくなくて…でも、ずっと瑞樹が悩んでいたから、だからアンクと一緒ならば…って」

「ありがとう。身につけさせてもらうわ」

私は、彼から受け取ると、さっそく身につけてた。アンクは私の胸の真ん中で銀色に輝いている。

「シルバーだから、アストラル体になったときも一緒につけて行けるはずだし、魔的なものが近づけば黒くなるから魔除けにもなるよ」

「うん。たぶん身につけていれば、アストラル体を守ってくれる」

彼の優しさが身にしみる。私はなんて素敵な人に出会ったのだろうか…。優しくていろいろな事に対して理解力がある。これ以上の人はいないんじゃないだろうか。

「絶対に無事に成功させてみせるわ」

私は、彼の手を握り締めて、彼と自分自身に言い聞かせた。

「ああ、無事を祈っているよ」

彼の為にも絶対に弥生の世界を正常に近づけるように修正し、無事に戻ってくる。

そして、私の進むべき道が決定した。

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