帰還《弥生》
瑞樹と別れ、私は元の姿へ戻って来ていた。
眼が覚めると、目の前…ううん。私の寝ていたベットの隣りには私と並ぶように睦月が眠っていた。
もしかして私が戻ってくるのが遅いから寝ちゃった?
起こすのも気の毒だと思ったけど、起こさずに帰るのも気が引けて、結局起こす事にした。
「ん…悪い。寝ちゃってたのか。えっと…本当の弥生でいいんだよな」
睦月は眠い目をこすりながらも、私に中身の確認をする。
「うん、弥生だよ。ただいま」
「おかえり」
「瑞樹のボディーガードありがとう。今度何かお礼しなくちゃだね」
いまだ横になったまま、私は睦月にお礼を言うと、睦月は照れながら起き上がった。
「いいって。俺もアストラル体になる方法教えてもらったしな」
「あっ、そうだったね。で、どうだった?瑞樹とのアストラルデート」
私が少しからかう様に聞くと、にかっと笑って親指を立てた。
「楽しかった!お前の姿なのに全然瑞樹って違うから、なんだか新鮮だったし、それに少しだけど、この世界の謎が解けそうな気がした」
「この世界の謎?」
私は、睦月の言う世界の謎がわからず、首をかしげる。
「ああ、もちろん卵の行方だよ」
「あっ…そうだったね」
「おいおい、最初から俺は言っていたと思うんだけどな。しっかりしてくれよ」
睦月は私の反応に、不安そうに私を覗き込んでくる。
そう、向こうの世界で色々な疑問を持ったせいで、私はすっかり卵の行方の事を忘れていた。そうだった…最初向こうへ行くまでは、それが気になって仕方なかったのに。
今となっては、それは些細な事の様に感じていた。
「なあ、一度俺達の卵がどうなるか追跡してみないか?」
睦月がさっきよりも身を乗り出すように、私を覗き込む。ぎしりとベットが軋んだ。
「いいけど…どうやって追跡するのよ?と、言うか私達の卵って?」
「ああ、たぶん今回卵できたと思うんだ。まだ俺の予感に過ぎないけどな…」
私にはその記憶が無かった…と、言う事は。今度は私が睦月を覗き込んだ。
「それって瑞樹に?」
私が睨むと、その視線をそらすように睦月は横をぷいっと向く。
「仕方ないだろう。中身は瑞樹でも、身体はお前のなんだから。済ませないと外に出られなかったし…」
そうだった…あの時、私は瑞樹とのアストラル体の交換の事で頭がいっぱいだった。だから、瑞樹にそんな負担がかかる事をすっかり失念していた。
「もう…私ってばいろいろな事忘れてる」
独り言のように私がつぶやくと、睦月が慰めてくれる。
「大丈夫だよ。瑞樹はこっちの習慣って事で割り切ってくれたから」
「そっか…睦月が大丈夫って言うなら信じるけど」
でも、今度会った時に瑞樹に謝っておこうと、私は心の中で決めた。
「そうなると、しばらくはアストラル離脱もお預けだから、瑞樹にも会えなくなっちゃうな…」
私は自分のお腹を触ってみる。まだ何にも感じる事は無いけれど、交配日の後には必ず必須の検診がある。それではっきりする。
「で、追跡ってどうするの?卵はすぐに別の場所に移動されちゃうのに」
「だから、俺がアストラル体で追うんだよ。アストラル体なら誰かに見つかる事もないし、壁もすりぬけられるしな」
睦月はどうだとばかりに胸を張る。
でも…私が動けない時に睦月に何かがあったら…そう思うと不安しかなかった。
「私その時は動けないのよ。それで睦月になにかあったらどうするのよ?」
「追うだけなら心配要らないって。そんな危険な場所があるとも思わないし」
それに…と睦月は続ける。
「瑞樹に貰ったこれもある。だからその時までに、俺もアストラル離脱に慣れておくつもりだよ」
そう言って睦月は私にペンダントを見せてくれた。それはいつも瑞樹が首から提げていたペンダントだった。
「それって瑞樹の…」
「ああ、俺たち二人に危険が無いようにって、瑞樹がこっちに置いて行ったんだ」
そう言えば、アストラル面で話した時、瑞樹の首にペンダントが無かった気がする…そっか、瑞樹が私達の為にこっちに置いていってくれたんだ。瑞樹にブレスレット作ってきて良かったかもしれない。
「だったら…少しは睦月も安全なのかな?」
「まあな、でも基本的にはお前が持っていろよ。俺は必要な時に借りるからさ。瑞樹でさえもこっちで迷いかけたんだ」
私の手のひらに、睦月はペンダントを置いて私に握らせてくれた。でも、私は首を振った。
「ううん、これは睦月が使って。私は向こうの世界で作ってきたから…」
ほらっ、と手首に付けていたブレスレットを見せた。
「向こうで色々教えてくれた先生に教わって作ったの。そのペンダントに嵌まっているのと同じ水晶も入っているんだ。それに自分に合った石も入れてあるから、それ以上の効果があるのよ」
「そうか…だったら、こっちは俺が使わせてもらうよ。サンキューな」
「うん、でも気をつけてよ。それを付けているからって、絶対に安全なわけじゃないんだから」
「了解だ。とにかく弥生の検診次第だな」
「うん。」
「しかし…向こうにはこんなものがあふれているのか?」
睦月がブレスレットを繁々と眺めながら、感心したようにつぶやく。
「あふれているって言うか、これみたいな物だけじゃなく、色とりどりのものが溢れているの。すごいよ、服から雑貨から色々なものがいっぱい!それを考えると、本当に私達の世界は寂しく感じるよ。こんなお守りさえ無いし…何よりも世界にあまり色が無いもの」
「そっか…そんなに違うんだな」
睦月は私の寂しさを感じ取ってくれたのか、頭を優しく撫でてくれた。それは向こうでくしゃっと頭を撫でてくれた先生とは違った撫で方で、私は帰ってきた安堵感と、こちらの世界の寂しさがどっと溢れ、涙がこぼれてしまった。
「おい、泣くなよ…俺が泣かせたみたいじゃないか」
睦月は困ったように言うと、私を抱き寄せてくれた。
「ごめんね…」
私が謝ると優しく笑ってくれた。
「いいよ。今は思いっきり泣いておけ、その後色々と頑張ればいいんだ。泣く事は悪い事じゃない。自分の気持ちに向き合っている証拠だからな。この世界が悲しいと思ったのなら、これから俺たちで変えていけばいい。少しずつでも人の気持ちって言うものは変わるんだ。俺たちがいい見本だろ?瑞樹に出会っただけで、おかしいと思ってもいなかった世界が、今はおかしいと感じる事が出来る。変革を望めば、それは出来るんだ。小さい事でもいい、俺たちに出来る事からはじめればいいんだよ。」
そんな睦月の言葉に、私は頷きながら、しばらくの間涙を止める事ができずに、泣き続けた。まるで、今までの自分と別れを告げるように…。
そして泣き止んだ時には、私の心は決まっていた。もしかしたら今、私の中で育っているであろう、睦月との卵。これを追跡する事。そして、卵の真実を知ること。これが今一番の目標になった。
書きながらどこへ向かうのだろうと考えながら…
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