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解答

先生の答えです


「先生?」

「瑞樹、お前のアストラル体が未来に行った事で、お前のアストラル体の時間軸が不安定になっているみたいだな」

「私のアストラル体の時間軸が不安定に?」

意味が判らなかった。その私の疑問に、判るように説明してくれる。

「未来と言うものは確定されている場所ではないからな。弥生達にとっては確定されている世界でも、俺たちから見れば、弥生達の世界と言うのは、もしかしたら有り得る世界の一つに過ぎないんだ。だが、その世界に瑞樹お前はアストラル体で足を踏み入れてしまった。その事で、お前のアストラル体自体が混乱しているんだ」

「私のアストラル体が混乱…」

「向こうで起きたと言う一日のロスもその為だな。睦月も一緒に経験したのは、瑞樹に引っ張られた結果だろう」

先生にかかると、今まで判らなかった疑問が次々に、それも簡単に解決していく。少しくやしい。私は先生に少し嫉妬の様な感情を抱いた。

「まあ、少しすれば治まるだろう。一時的な症状だろうからな」

「でも…また向こうへ行けば起こるんですよね?」

「たぶんな。まあ…慣れれば無くなると思うが、こればっかりはやってみないと判らないな」

ふうっ、と先生が息を吐く。

「先生でも判らないことあるんですね」

少し嬉しくなって、私は先生をからかう様に笑った。

「当たり前だ。だからこそ、お前たちの情報が役に立つんだ。これからも頼んだぞ」

「判りました。情報提供させていただきます。…で、私のさっきの話で何か役に立ちましたか?」

「ああ、いくつかはな…」

「いくつか?」

「全部とは行かないし、『おそらく…』の表現を付けなければならないが、いくつかは答えが出た。結果から言えば…アストラル体の交換はなるべく避けた方がいい」

「えっ…」

私は先生の言葉に一瞬動きを止めた。ううん、たぶん思考も止まっていたと思う。それでも、一瞬の後、私の思考は一気に動き始めた。

だってさっき…先生はアストラル体の混乱は一時的なもので、慣れれば大丈夫だって…一時的な症状だって言ってた。なのに…今度は向こうへ行く事を避けた方がいいって言ってる。

「先生、さっきアストラル体の混乱は大丈夫って…それよりも何か危険な事があるんですか?」

「まず最初に、お前のアストラル体の混乱は慣れれば大丈夫だが、向こうの世界は混乱し続けると言うことだ」

「向こうの世界が?」

「そうだ」

先生は、私の目をまっすぐ見ながら話を続ける。それは、私に自分を疑うな、信じろと言う眼だった。

「弥生がこちらに来る事も危険だが、それ以上に瑞樹お前が向こうの世界に行く事は、大きな負担がかかるんだ」

「大きな負担?」

さっきからたくさんの疑問を投げかけているにも関わらず、先生は私の質問にすべて答えてくれている。

「弥生がこちらの世界に来る場合、普通なら未来が変わると言う危険がある。だが、この世界で弥生が動かすのは、お前の身体だ。だから未来が大きく変わると言う事はない。だが、向こうの世界へ行ったお前が、こちらへ持ち帰ってくるものは、未来の情報…つまり確定していない未来のものだ」

「…。」

先生は、混乱している私に、黙って聞いていろと言う様に頷くと、また話を続ける。

「現在、過去、未来と人間には三つの概念ある。現在は今のこの世界。そして、弥生の世界が未来だ。現在は、今この瞬間瞬間に未来が確定し、現在そして過去になっていく。それを考えると、一つの流れのような気分になるが、実際は違っている。未来は宇宙の数程…いや、それ以上に無限に存在するんだ」

戸惑いながらも、私はその話を理解しようと、話を一つ一つ頭の中で整理する。

「つまり、私達の今が必ずしも弥生達の世界に繋がっていないって事ですか?」

「繋がっていないとは言い切れない。しかし…今俺たちが弥生達の世界を知り、本質に近づき、それを修正したいと思ったとしよう」

「修正しては駄目なんですか?」

「それを修正しようと動けば、あの世界は確実に存在しなくなる」

そこまで先生の話を聞いた所で、私は疑問を感じた。

「先生…それって私達が現在だと考えた場合ですよね?だったら、弥生達で考えてみると、弥生達の世界が現在で、私達の世界が過去って事になると、また違ってくるんじゃないんですか?」

その言葉に、先生の口角がニヤリとあがる。

「そうだ。あいつらからしてみれば、俺たちの世界は過去だ。だが、だからといって何かが変わると思うか?」

「えっ…だって向こうが現在なら、確定した世界であって…」

「だから混乱するだろう。だが、俺たちと彼らの世界を現在の考え方で考えると、決定的に違う事がある。それは何だと思う?」

「なにって…同じではないんですか?」

私の答えに、先生はため息をつく。何が違うと言うんだろう?

「俺たちを現在にした場合、未来と現在だ。だったら彼らを現在とした場合は?」

「えっと、現在と過去。あっ…そういう事か」

私は先生の問いに答えてみて、ようやく気付く。そうか…そういうことなんだ。

「ようやく理解したか…過去を変化させれば、現在の世界は変化する。現在が変化すれば未来が変わる。だが、俺たちの世界は未来と現在のみ、過去が変化する事はない。つまり変化しうる可能性のあるのは、向こうの世界だけなんだ」

私は、先生の説明に衝撃を受けた。確実に変化するのは弥生達の世界…こっちの世界には無い危険が、向こうには無限にあると言う事だ。

「バタフライ効果を考えれば、弥生がこっちの世界に来るのも本当は危険なんだ。だが、こちらの人間が一つの未来を知ってその世界を否定し、強制的に消そうとする。その行為は神の領域だ。絶対やってはならない行為なんだよ。未来の人間が歴史に歪みを作ることよりもな」

その言葉に私は言葉を失った。人間がしてはいけない行為…でも、それなら今まで先生が私を止めなかったのは、どうしてなんだろう?その答えはすぐに先生の口から聞く事が出来た。

「今までは、彼女たちの世界の考え方を変えてあげたい。と言う話だっただろう?それなら大丈夫だと考えていたが、真実を導き出していくと、お前は今のこの世界を変えようとするじゃないかと、思ったからだよ」

「真実を…?」

真実って何の事だろう…。

「聞きたいと思うのなら、教えてやる。だが、彼らの存在を消したくないと思うのなら、真実を知っても動くな。あの世界の秩序を受け入れるんだ。でなければ、俺は真実を教える事は出来ない」

ようやくすべての話がわかった気がした。つまり先生は、私に真実を伝える為に、先に未来と現在、そして過去の話をして、その危険性を指し示したんだ。

私が、真実を知っても間違わないように…。

私は大きく深呼吸すると、先生の目をしっかりと見て大きく頷いた。

「真実と言っても、俺の予想に過ぎない。それは心に留めておいてくれ」

私は、もう一度大きく頷く。

「あの世界の…羽を持つ人間たちはおそらく子孫を残す為の道具。つまり羽の無い人間たちの家畜の様なものだ」

「えっ…」

「羽の無い人間、つまり俺たちの子孫たちは環境の影響か何かで、生殖能力を失ったんだろう。そこで種を残す為に作られたのが羽のある人間なんだ。だが、羽の無い旧人類にとって、羽のある新人類は異質そのものだった。どうしても自分達の仲間として受け入れるには抵抗があったんだろう。だからこそ、その新人類の中から生まれてくる僅かの羽の無い人間だけを選別し、特別待遇としていた。自分たちは羽の無い、本来の人類だとな。自分達の存在を隠して神となるべく、新人類を上から見下ろしているんだろうな。自分達の道具としてな…」

「そんな…羽が有る無いで、殆ど違いがないのに…」

「だからこそなんだよ。種を残せない自分たちではなく、今となっては種を残せる羽のある人類の方が、確実に生き残れると思っているからこそ、自分たちを神格化して、自分たちの行為を正当化しているんだ。自分達が滅びないようにな」

「自分たちを護る為…」

「羽のない人間は、もはや劣勢遺伝になってしまっているんだろう。新人類に知られれば劣勢の自分たちが滅びるのが確実だ。だからこそ彼らも必死で自分たちの事を隠し、弥生達を人類と認めたくないんだろうな」

「じゃあ、あの地上の大量の卵は…」

「劣勢遺伝だからこそ、卵から生まれるまで育つのも大変だと言うことだろうな…普通に育たないからこそ、少数精鋭として上から支配できると言うことだな」

もう、私の想像の域をとっくに超えていた。何をどう考えれば、先生のような予想と言うか答えが導き出せるんだろう…と、言うよりもそれが真実だとしたら…。

弥生達が子孫を残す為だけの道具…。

「それは本当なんですか?」

「だから俺の予想に過ぎないと言っているだろう」

先生は、先程と同じように答えながらも、「だがな…」と続ける。

「高い確率で真実だろうな」

私から視線を外しながら言ったその言葉には、私の事を気遣ってくれている様な感じがした。

「弥生達が…家畜」

「だったら、お前はどうする?今から世界を変える為に動くか?それが弥生達の存在を消してしまうとしても」

一瞬考えてしまった事を先生に当てられてしまい、私の心はドクリと鳴いた。そう、そんな未来なら変えてしまいたいと。

でも、それは弥生達の存在を消してしまう事。

弥生達の存在を消すと言うことは、弥生達を殺してしまう事と同じ事。それは私には出来ない。彼女は私の親友だから…。

でも、彼女たちがその事を知った時、今のまま存在して生き続けることを望むのだろうか…?

「駄目駄目!変な事を考えちゃ駄目」

先生が前にいるのも忘れて、私は大きく頭を振った。

そんな私の様子を見守ってくれていた先生が、再び私の頭を撫でてくれた。でも…私は、先生のその手を振り払っていた。

「あっ、ごめんなさい…」

慌てて私は先生に謝った。

「無理して考えようとするな。答えは少しずつ出て来ると言っているだろう。焦ったら道を間違えやすくなる。落ち着け、そしてゆっくりと考えろ」

私は先生の言葉に頷くと、ゆっくりと深呼吸をする。少しずつ自分の頭の中の変化を感じながら、ゆっくりと眼を閉じた。

眼を閉じたまま、私は再び口を開いた。

「先生…私達はもう何もしては駄目なの?」

「いや、何もするなとは言わない。それではお前達が出会った事自体、すべてを否定しなければならなくなる。だからこそ、お前達がアストラル体を交換したいと言った時、駄目だとは言わなかったんだ。知らない事が一番危険だからな」

確かに向こうに行くまでは、聞いた事はたくさんあっても、実際そこがどんな世界なのかを知ることは出来なかった。だからこそ、私は弥生の世界は危険な考え方で、その考え方を変えてあげたいと思っていた。

でも、実際に弥生の世界に行ってその世界を見てみると、弥生の世界で暮らす人たちは、私達と同じように見えた。普通に幸せそうだと。

睦月もそうだ。世界のシステムに疑問こそ持っていたが、仲間の皆とはうまくやっているし、世界の習慣も嫌いではないらしい。その証拠に、真面目に交配日にはしっかりと役目は果たしていた。

私はそんな事も知らずに、行くまでは弥生の世界すべてがおかしいと思っていた。

『知らない事が、一番危険』行って来たからこそ、その意味がわかる。

彼らにとっては、今でも充分幸せなんだ…。それを私がどうこうする権利は無いんだ。

「なんとなく…少し判った気がする」

「少しでも判ったなら、今はそれでいい。その少しを気付けるかが大切なんだ。全て一度にわかろうとするなよ」

「はい…」

私は早々に先生に挨拶をして、今日は帰ることにしたのだった。

過去・現在・未来論って難しいですね〜

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