報告
今日は特別❗️本日2回目の更新です
次の日、身体の疲れは少し残っていたものの、仕事に支障が出る程でもなく、かと言って大和とも仕事中にその話をする訳にもいかず、何事も無く一日が早々に過ぎていった。大和にもいろいろ話を聞きたかったけれど、今日はまず先生の所に行って報告しなければならなかった。
まだ仕事の終わらない大和に、行くところがあるから先に帰ると伝えてから、その足でそのままいつもの古書店に向かった。
「上田先生…こんにちは」
古書店のカウンターに姿を見つけると、私は挨拶をしながら、カウンターのある奥へと入っていった。
「止まれ!!」
「えっ?」
先生の方へ向かっていた私は、先生の声で反射的に止まった。
私が訳がわからず、言われたとおり足を止めていると、先生が険しい顔つきでカウンターから出てきた。
「先生…?」
近くまで来た先生を見上げながら首を傾げると、先生は私にブレスレットを手渡してきた。
「急いでこれをつけろ」
「あっ、えっ、はいっ!」
訳がわからず、しかし言われたとおりブレスレットを付けた。その途端、私の周りでパチンと何かがはじける音がした。
「えっ…今のって」
先生は私の腕を引っ張ると、古書店の長い廊下の奥のいつもの結界空間に招き入れ、完全にドアを閉めると話し始めた。
「以前言っていた黒い影だな…あれは霊とかじゃない。何者かがお前を監視している」
先生は私の前で腕を組むと考え込む。先生にもわからない謎の黒い影…。
何が私を監視しているというんだろうか…。
「とりあえずそのブレスレットを付けておけ、弥生がお前にと作ったものだ。アンクを持っていない様だからな、ちょうど良かった」
「うん…。でも、いままで黒い影あの時以来居なかったのに、今頃どうして?」
「アンクが無いからだろう。おそらくあのアンクがあったからこそ、あの影はお前に近づけなかったと考えた方がいい」
そうか…ずっとアンクを身につけていなかったからだ。最初に黒い影を見たときはアンクに水晶が入っていない時。そして、今度はアンクをつけていなかった時…じゃあ今まで私はアンク…ううん。水晶の嵌まったアンクに護られていたんだ。
「アンクを手放したからあの影がまた来たの?」
「おそらくそうだろうな。弥生の時は警戒して遠巻きにしていたが、アンクの無い本当のお前を見つけたからこそ近づいてきた。お前と弥生の違いがわかっている奴みたいだな」
「判ってる?」
「ああ、中身のアストラル体の違いが判断できる奴か、それともアストラル体の交換を知っている奴のどちらかだ」
そんな…アストラル体の交換を知っているのは、先生と大和だけ。それを考えればアストラル体の違うを判断できる何かがいると言うこと?
「先生、それって私達のアストラル体の違いが判断できる何かが動いていると言う事?」
「ああ、そうだと思いたいな」
私の言葉に対して、先生の返事の歯切れが悪い。何か私、おかしな事を言っただろうか…?考えてみたけれど、先生の言葉の意図がわからなかった。
「先生、私なにかおかしな事言いました?言ったなら教えてください」
「気にするな。大丈夫だから」
そう言うと、先生は私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
私が頭を撫でられるのが好きな事を知っていて、先生は誤魔化すときには、いつも頭を撫でてくる。つまり、私は気にしなくてもいいと言うサインみたいなものだ。
「それで向こうはどうだった?色々調べてきたんだろ?」
話を切り替えるように、先生は私に向こうの話を切り出してきた。
「うん…たくさんとは言えないけれど、調べてきました。ただ…」
「ただ?」
「よく判らないんです。向こうの世界のシステムがなんであんな世界になっているのか…」
「見てきた事だけ話せばいい。とにかく細かく話せ。あとは俺が判断する」
先生の言葉に、私は向こうへ着いてから起こった事、睦月たちの事、少しでも私が気になった事は全部先生に話した。
「…以上が向こうであった全てなんです。本当はもう少し調べて来たかったのだけど、やっぱり一日のロスが大きくて」
私が全て話し終えた所で、集中して私の話を聞いていた先生が、考え込む様に固まった。今までの経験で、こうなった先生は周りの音も私の声さえも聞こえなくなる。
以前聞いた先生の話によると、先生は自分の中にスペースを作って、そこで話の中の真実を探し出していくと言っていた。
判りやすく言えば、コンピュータで作ったバーチャル世界みたいなものを、自分の中に創ることができるらしい、だからこそ先生は、そこから真実を導き出すことができるのだそうだ。
ただ、この作業は無防備になる為、今の様な結界が張られた安全な空間でしか出来ないとも言っていた。たぶん一時間くらいはこのまま動かないだろう。
仕方なく私は、その部屋に備え付けられたお茶のセットに近づくと、揃っている道具を確認してから、お茶を丁寧に淹れ始める。時間は充分ある、今日は紅茶をゴールデンルールで淹れたいと思った。
水道はあるけれど、コンロは無い。私は水をコップに一杯注ぐと、それを湯沸かしポットへ移し、再沸騰を開始する。その間に湯沸しポットの湯でティーポットと茶器を全て温める。茶葉は…アッサムに少しキーモンを合わせてみる。
再沸騰が完了したところで、私は湯沸しポットから直接ティーポットに湯を注ぎ、ティーコージをかぶせて3分。
部屋中に紅茶の香りが漂い始めた。別に温めていたティーポットにゴールデンドロップまで注ぎきって完成。自分の淹れた紅茶になんとなく満足しつつ、私はその紅茶を片手に、ようやく自分なりの予想を立て始める。
そう…私の一番の疑問『羽の無い人間の存在』。その人は羽の有る人たちには存在を知られる事無く、それでいて自然にあの場所にいた。さも当たり前の様に…
それが示しているのは『羽の無い人間が絶滅していない』と言う事と、それが『一部の地域では自然に存在している』と言う事。
つまり…旧人類は弥生たちの知らない場所で、確実に存在している。それは弥生達が知らされていない真実がある。
その知らされていない真実は、何の為に?羽の無い人間を護る為?それとも弥生達新人類を護る為?羽の無い旧人類を護る為だとしたら…本来の人類を絶滅の危機から護る為の措置。新人類を護る為だとしたら…ううん、新人類を護る為にこの真実を隠す必要は無い。そう、答えを導き出すと、全ては旧人類の為。考えられるのは、種の存続。でも新人類に知られると、どうして存続できなくなるのか…そこが不確かだ。
考えに行き詰まり、私は紅茶を一口コクリと喉に流し込んだ。温かい液体が喉から胃へと流れ込んでいく。身体の中がほんのりと温かくなるのを感じる。
温かくなった事で、気持ちがリラックスしていく。私は大きくため息をついた。
私はその理由を知りたいと思っているんだろうか…自分自身の心がよく判らなくなってくる。弥生からのプレゼントのブレスレットを、じっと見つめながら考えてみるが、やっぱり答えまで至らない。
いつもの自分なら、いろいろなもしもを考えて、たくさんの答えを出していく。それが私の考え方。でも、今回はいろいろなもしもが全然浮かんでこない。浮かんできても、そのもしもは一つか二つ。こんな事は初めてだった。
空になったティーカップに再び紅茶を注いだその時、頭の上から声が降ってきた。
「考えるな」
「えっ?」
驚いて見上げると、先生が考えの世界から戻って来ていた。
「先生!今日は戻ってくるの早いですね。どうかしたんですか?」
そんな事を私が言うと、先生は怪訝そうな顔で時計を指差した。時計の針はさっき見たときからすでに二周回っていた。
よく見れば、今注いだ紅茶もすっかり冷めきっていた。
「うそ…そんなに経っていたの?」
さっき私がお茶を口に運んだ時はまだ温かかった…でも確かに今お茶は冷めきってしまっている。
(少し考えていた間に二時間も経ってしまったの?)
すると、混乱する私の頭に先生が手を置いた。さっき撫でてくれた時と違い、私の中の何かを探っている感じだった。
「なるほど…な。そう言う事か」
しばらく私の頭に手を置いていた先生は、ニヤリと笑いながらつぶやいた。
ご感想等ありましたらなんなりとお願いいたします




