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誕生石

「もう一つ種類増やしてもいい?」

「別にいいが…何を増やしたいんだ?」

「えっと、これ」

私が指した石をみて、先生の表情が少し和らぐ。

「『インカローズ』だな。恋愛に多く使われるが、この場合には、持ち主を勇気付ける働きがある。今までの石が力のある石だから、それを和らげてくれるいい石だ。何より、色のバランス的にもいいな」

「本当?」

「ああ、上出来だよ」

『インカローズ』は小さいものを4つ程入れることにした。それでもピンク色の石の存在感は大きく感じた。

思ったよりもいい出来に、私はご機嫌な気分になった。

「あとは自分で身につけてみて、いい力を感じればいい」

次は…瑞樹のブレスレットだ。私はもう一度、石の入った箱に集中する。キラキラと光る石がますます輝いて見える。

「瑞樹に何が必要か感じながら選んでみろ」

瑞樹に必要な石…私の為にいろいろな事をしてくれる友達。私の事を親友と呼んでくれる人。私は瑞樹が危険な事に出会わないで欲しい。でも…信念は貫いて欲しいと思う。そんな瑞樹を護ってくれる石。

そんな事を考えながら石を眺めていると、その中でも一段と気になる輝き方をする石が一つあった。

「これは…」

それは見る角度によって色が変化する石。

「先生、これがいい」

私はその中でも一番変化の大きい石を一つ手に取った。

「ほう、『ラブラドライト』か…才能や魅力を引き出してくれて、スギライトと同様に魂を成長させてくれるが、それ以上に今を生きる力も引き出してくれる。確かに瑞樹には『スギライト』よりも『ラブラドライト』が合っているかもしれないな」

「私のを選んだ時と違って、一個しか選べなかったけど…どうして?」

「おそらく『ラブラドライト』が一番良いと判断したからだろうな。他は補助的な物で充分と言う事だ。そうだな…『ラブラドライト』を中心に『アメジスト』と『水晶』で組み合わせればいいだろう。『アメジスト』は瑞樹の誕生石だしな」

「誕生石?」

今まで以上に聞きなれない言葉に、私は首を傾げる。

「誕生石と言ってもわからないよな。そうだな…この時代には、自分の生まれた月によって『誕生石』と言う石が決まっているんだ。それを身につけると加護があるといわれている、まあ俗習の一つだな」

「へ~そんなのがあるんだ。で、瑞樹の誕生石が『アメジスト』なんだ。いいなあ、私も生まれた月が判れば面白いけど、誕生月なんて知らないしなあ…」

そうなんだ…私達は生まれたのがいつなんて知らない。孵化した後二十歳になるまで、月日の感覚は殆ど無いからだ。

「俗習と言っているだろう、一種の選び方の一つだ。誕生日なんてあっても何にも得にはならないぞ。事実俺もしらん」

「そうなの?」

「ああ、年を取る基準でしかないからな。知らない方が年齢不詳で気楽だよ」

私へのフォローで言っているのか、本当の事なのかはよく分からないけれど、それは先生の優しさだと思った。ううん、そう思うことにした。

瑞樹のブレスレットは、私のブレスレットを作った時よりも時間もかからず、そしてきれいに出来上がった。紫と透明の水晶の中に一つだけ輝く虹色の玉。この輝きが瑞樹を護ってくれる事を願い、その願いをブレスレットに込めた。

ブレスレットが出来上がると、外はようやく暮れ始めていた。

「先生、本当にありがとうございました。瑞樹のブレスレットは先生から渡しておいてください」

「わかった。お前も気をつけろよ。向こうに戻れば色々と今まで以上に危険がついてまわるはずだ。その時は石の力を信じろ。そうすれば危機に直面しても石が護ってくれる。そして、それ以上に自分の力を…自分の心を信じろ。そうすればお前は大丈夫だ」

先生が私の事を心配してくれる事が、その言葉だけで充分伝わってきた。私は頷く。

「はい、先生も元気でね。次に会えるの楽しみにしてます」

差し出された先生の手を握り返すと、思った以上の力で先生は握り返してきた。そのまま先生の呼んでくれたタクシーに乗り込むと、古書店を後にした。

家に着くと、私は鍵を開けようと鍵を差し込もうとして違和感を感じた。

(あれっ?私家出るとき鍵かけたよね…)

思わず自分自身に問いかけてみる。確かに私は出かける時鍵をかけた記憶がある。でも…今鍵が開いていると言う事は…。

恐る恐るドアを開け、中を覗いてみる。そこには昼間別れたはずの大和が座っていた。

「大和!どうしたの?夜にまた来るって言っていたのに」

「弥生、何処に言っていたんだ?君は家で考えたい事があるって言っていたはずなんだけど」

その言葉に、私は先生の事がばれないように、言葉を選びながら言い訳をする。

「えっとね、考え事をしながら散歩をしていたの。家に居たら煮詰まっちゃいそうだと思ったから…」

ごめんね…と心の中で思いながらも、手首につけたブレスレットを、さりげなく大和に気付かれないように隠した。

「でも、まだ夕方よ。大和が来るまでもう少し時間があったはずだけど、どうかしたの?」

これ以上聞かれないように、今度は私が大和に質問する。

「いや、なんとなく君の様子がおかしかったから心配でね。一度家に戻ったんだけど、居ても立ってもいられなくなっちゃって…なのに、瑞樹の家に来て見れば、君は居ないし…何かあったんじゃないかって、この辺り捜して一周したんだよ」

「そうだったの…いろいろ歩いてから、たぶん出会えなかったのね。心配かけちゃってごめんね大和」

「まったくだよ。君一人にさせて何かあったら、瑞樹に申し訳がたたないからな。この部屋だけなら大丈夫だけど、一人でふらふらするのだけは気をつけてもらいたいな。それにしても…一度も家に帰らないで、その荷物を持ったまま歩いていたのかい?」

昼間に買った大量の紙袋を指して、大和が痛いところをついた。おかしい事気付いてる?でも、ごまかすしかない。

「あっ、えっと、そんなに重くなかったよ。タクシーから降りてそのまま散歩に行っちゃったくらいだもの」

少し苦しい言い訳だったけれど、先生の事を隠すには、強引に行くしかない。先生の所に向かう前に、荷物だけでも置きに戻ればよかったと内心思いつつも、笑ってごまかした。でも、内心罪悪感を感じずには居られなかった。

少し先生に文句を言いたくなったが、私はそんな罪悪感を心の奥に仕舞いこむと、私は一気に気持ちを切り替えた。

「ねえ、少しお腹空かない?」

「えっ、さっき別れる前にコーヒーと一緒にケーキ食べてなかった?」

「うん。だけど散歩したらお腹が空いちゃったの。瑞樹ってダイエットとかしていたわけじゃないでしょ?」

「まあ、瑞樹は食べる事は気にしないほうだから大丈夫だよ。君が食べたい時に食べてくれても問題はないけれど…」

「それじゃあ、約束の時間まで何か食べに行きましょうよ。どこか近くにお勧めのお店とかないの?」

大和は少し考えていたけれど、仕方がないなあ。と言う顔をしたかと思うと、立ち上がった。

「…判ったよ。それじゃあ、今回の旅の最後の晩餐に行こうか?」

「やった!大和ありがとう。じゃあ、出かけましょ」

私は大和の腕を取ると、引っ張って部屋を出た。最後の晩餐の為に…。

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