謎の施設
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羽の無い男を追いかけて、部屋の外へと出た私と睦月は、機械で埋め尽くされた空間へ迷い込んでいた。
途中までは男を認識して追いかけていた。でも…突然私達の視界から消えてしまった。たぶん私達二人が余所見をしていた時に、どこかの部屋に入ってしまったのだろうとは思う。
そんな経緯で、私達は身近にあったドアに入ってみる事にしたのだ…でも、この機械の森は何の為のものなんだろうか。
「何処まで行っても機械しかないな…それに何の為の機械なのかもわからないし、人さえも見当たらないな。あいつ何処に行ったんだ?」
「この部屋じゃなかったのかもしれないわね。近くの部屋だと思ったから、あのドアだと思ったんだけど…見る限り人がいる気配すらないわね」
私達は機械の間をすり抜けながらも、機械を見下ろすような状態で全体を見てみる。しかし、やはりと言うべきか、動くものすら見当たらない。でも…あの時。羽の無い男を見失った時、近くにあった部屋はここしかなかった。ここで無いなら、何処に行ったのだろうか。
「これだけ機械が動き続けているのに、誰もいないって言うのも気になる。普通監視の人くらいいるはずだろう?監視部屋もここには無いし、機械が何なのかもわからない。なんなんだここは」
「見張り…やっぱりここかもしれない。ほら、さっきの部屋監視用の画面がいっぱいあったじゃない。たぶん、あの部屋からここを監視していたのよ」
私の言葉に、睦月は腕を組んで考え込む。
「確かにあそこが監視室の可能性は高いな。だけど、なんであんな離れた場所で監視しているんだ?この部屋の一角に監視室をつくればいいじゃないか」
「あっ、そうか。その方が異常があった時すぐに駆けつけられるわね」
「だろ?でも、それをあえてあそこに監視室を作ったという事は、他に理由があるはずだよな。何の理由なんだ?」
「もしかしたら、ここだけでなくて、いろいろな場所をあの人だけで監視しているのかも知れないわね。想像の域を出ないけど、私だったら…羽の無い人があの人以外にもいるとしたら、こんな場所にたくさん居るのは危険だわ。最小限の人数で作業すると思う」
「あいつみたいな奴がまだ他にいるって言うのか?怖いな…」
「失礼ね。今は弥生の姿しているけど、私も羽は持っていないのよ。そんなに化け物の様に言わないで。でも…ここでは羽があるのが普通なのよね。羽の無い子供は生まれる事は無いの?」
「羽の無い子供か、俺は知らないな。だけど、さっきの外にあった卵の残骸の中の胎児には羽が無かったよな…」
睦月の言葉に、私も背中にぞくりとするものを感じる。確かに、自分の羽がないと言う事実にはぞくりとも来ないが、さっきの胎児の姿に気になるものがある。羽の無い世界の私の存在は普通でも、羽のある世界の羽の無い存在と言うものは、モンスターなのだろうか?
「もう少し奥まで行ってみましょ。もしかしたら何かが見つかるかもしれないし、どこかに他へ繋がる入り口があるかもしれないし」
知るためには動くしかない。そしてすべての扉が開かれた時、この世界の何かが解る気がする。弥生や睦月の存在。そしてアストラル面を通して私がこの世界と繋がった意味も…。
「入り口ねえ…見る限り無い気がするけど。もしかして、入り口がカモフラージュされているかも?」
「それよ!」
私は睦月の言葉に、一瞬で反応した。そうだ、入り口を捜そうとしているから駄目なんだ。
「私達はアストラル体よ。入り口なんて無くても、壁でも床でも何処でもすり抜けられる。って事は、部屋単位で探さなくても、この施設を縦横無尽に移動すれば、もっと何かが解るかも知れないわ」
「隠し部屋とか、そんな物にもぶつかるかもしれないって事か…それ、面白いかもしれないな。手当たり次第に壁とか気にせずに動き回って、突然とんでもないものに遭遇する。それって本当に冒険って感じだな」
睦月がちょっとわくわくしながら、すぐ横にあった壁に頭を通してみる。
「瑞樹!本当に隣りにも部屋あるぞ!」
その勢いで、私も睦月に引っ張られるように壁に頭を通すと、そこには隣りの部屋とは全く違う景色が広がっていた。
隣りの部屋が機械だらけの金属の部屋だったのに対し、こちらの部屋は白い卵だらけの部屋だった。そして、そのすべての卵がガラスの筒に入っていて、それが透明の液体の中に浮いている。そんな感じの部屋。これはみんなの産んだ卵なんだろうか…。
「睦月…卵ってこんなふうに育てられるの?」
睦月に聞いてもわからないだろうなあ、と思いながらも一応聞いてみる。すると、意外にもしっかりとした回答が返ってきた。
「俺たちはこんな育てられ方はしないはずだ。他は知らないが、俺はこんなところでは生まれていない。ちゃんと孵化場で生まれて、その後に、ここの養育施設に移されてる。それにこんな液体に浸かっていた記憶も無いな」
記憶って…つまり。
「それって…睦月は卵の時の記憶があるの?」
「ああ、あるさ。三歳まであの中にいたからな。卵の殻は意外に薄いから外の景色が見えるしな。まあ、三歳当時の記憶がある奴は少ないからな」
「三歳当時の記憶が在るのもすごいけど…三歳まで卵の中で育つなんて初耳よ。それって普通の事なの?」
私にとって、今までも驚きの連続ではあったけれど、今まで入ってこなかった情報があった事も驚きだ。と言うよりも、まだまだ私の知らない事がたくさんある様な気がしてくる。
「普通だな。俺たちの卵が孵化するまで三年かかるんだ」
「そうだったの…」
もっと聞きたい衝動に私は駆られる。でも…今はこの施設を調べる方が先だ。このアストラル体でいられる時間は、自分でも判らないし、ましてや慣れていない睦月の事もある。
「わかったわ。その話は帰ったらにしましょう。今は、もう少しここを調べましょ。時間的には後三十分くらいで身体に戻りたいし」
「そうだな、俺もこの状態でいるのに少し疲れてきたしな」
確かによく見れば、睦月のアストラル体の輪郭が少し曖昧になってきている。精神の方が疲れてきている証拠だ。後三十分と言ったけれど、三十分は持たないかもしれない…
「後十分にしましょう。十分このあたりを見回ったら、今日は終わりにするわ」
「俺は大丈夫だよ。三十分なら三十分でいい」
睦月は私をまっすぐに見る。でも、私は首を横に振った。
「だめ、アストラル体に無理は禁物よ。下手をすれば命…魂の寿命を削る可能性もあるから。ましてや、慣れてる私達とは違って睦月は今日が初めてといってもいいのよ」
意地を張って大丈夫だと、言ってくると思った睦月は、意外に簡単に私の言葉に首を縦に振った。
「わかった。瑞樹に従うよ」
「それじゃあ、後十分このあたりの部屋を見てまわりましょ。不審な物があっても、それを調べるのは明日。それを絶対護って」
「ああ、了解だ。俺は向こうを見る。瑞樹はあっちを見てくれ」
親指を立てながら、今度は睦月が私に指示を出してくれる。たぶん睦月の方向の方が、奥になる。位置を把握して私を入り口近くにしてくれたのだんだろう。
「ありがとう。じゃあ、十分後にこの建物の一階入り口で会いましょう」
「了解だ、じゃあ後で」
そう言うと、睦月は時間を惜しむように、急いで奥へと向かっていってしまった。
私も、別れるとすぐに動いた。さっきまでは壁を通り抜けながらのぞいていだが、目の前にドアがあったのでドアを通り抜けてみる。
そこはさっきまでと違い、カプセルがたくさん並ぶ部屋だった。そう…カプセルにはたくさんの子供たちが眠っていた。
これがこの世界の子供の育ち方…カプセルの中でいろいろな経験をしていく。体の機能…筋肉なども、経験にあわせてカプセルが調整しているんだろう。
このシステムがあれば、眠ったままでも筋肉の衰えは発生しない。これがこんな使われ方でなく、医療として発達していればもっと違う世界になっていたかもしれない。
そんな事を考えつつ、私はドアから入った部屋を中心に壁を抜けながら、自分の担当方面の部屋はあらかた通りすぎ、最初に入った部屋に戻って来ていた。
「どこの部屋も…カプセルだけね」
そんな独り言をつぶやいた途端だった。
「お姉さん誰?」
私の背後から声が掛かった。
「えっ!」
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