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初めての試み

もう一話は夜に更新です

次の日、私は朝一番で睦月の部屋を訪れた。

さてと…と言いながら、私はその部屋でアストラル離脱の準備を始める。準備と言ってもたくさんの準備があるわけではない。何故なら自分の世界のものでこっちに持ち込めた物は、首から下がっているアンサタ十字のペンダントのみだからだ。あとは、弥生の持っていた鈴に、さっきこの部屋に来る途中に用意したもの。

「塩?」

睦月が、私の取り出したものを見て首を傾げる。『うん』と答えながらも、私は作業を続ける。小さな四角い和紙を部屋の四方に置き、その上に盛り塩をする。これはこの部屋に変なものが入ってこないようにする為だ。そしてその四隅の中心点の天井に、三角形の紙を張る。これには『abracadabra』の文字の逆三角形を作る。一番上の一行目は『abracadabra』その下の二行目は一文字目の『a』を抜いた『bracadabra』その次も一文字目の『b』を抜き『racadabra』そうして最後の行は最後の文字『a』となる。これは魔除けとして使う。盛り塩と『abracadabra』の逆三角形これが天井から下がる事で、この部屋にピラミッド型の閉鎖空間が出来上がる。

これは私のオリジナルだ。先生にいろいろな事を教えてもらい、その知識でいろいろ試してみた結果、この方法が一番空間を安定させると言う事に気が付いた。と言うか、私との相性がいいのだろう。

「この中心にベットを持ってこれる?」

「ん、この中でやるのか?」

「うん。この中心でアストラル離脱するのが一番ね…」

私が普通に答えると、首をすくめながら睦月は笑った。

(えっと、なにか私したかしら?)

睦月の表情に疑問を持ったが、睦月がしっかりとベットを中央に移動してくれた為、そのまま、疑問を心の中に仕舞いこんだ。

ベットの脇に昨日睦月に頼んで会社から拝借してきた点滴を用意する。これは簡易の水時計になる。点滴の水が下の入れ物に一定量入った時に、鈴を鳴らすという、言ってみればタイマーだ。香時計などもあるが、火を使うし、煙がピラミッド空間に充満してしまう。それを考えると、水時計は危険の少ない自然時計と言えるだろう。

「それじゃあ、はじめるわよ。睦月もベットに入って」

「はいよ。なんだか昨日の続きみたいな感じだな…」

「もう…昨日の事はもう忘れて、今はアストラル離脱よ。いろいろなこの世界の秘密を見たいんでしょ?」

「そうだな、見たい。この世界で短い人生を無駄にしたくない」

「よし、それじゃあ…睦月も私の隣に横になって」

ベットに横になりながら、私は睦月の腕を引っ張り、睦月にそれを促す。

睦月は私の促しにしたがって、私の隣に横になったが、ちょっと悪戯心で、私に覆いかぶさってくる。私は、思わず目をつぶると、優しく唇に彼の唇が落ちてきた。

「よろしく頼むよ。先生」

「もう…今はそんなんじゃないって言ってるでしょ」

「だからよろしくの挨拶だって…」

「じゃあ、行くわよ。睦月も力を抜いて横になっていて。鈴が鳴ったら、昔離脱した時の感覚を思い出しながら、ゆっくりと息を吐いて」

私は少し赤らめながらも、その後にっこり笑うとそのままトランス状態に入った。

簡単にアストラル離脱をした私は、ベットの横にある水時計の鈴を「チリン」と鳴らした。その合図で、睦月がベットの上で目を閉じ、息を吐くのを確認する。その睦月の身体に、アストラル体の私はそっと手を置き、自分の力を少しずつ送り込む。

人のアストラル離脱を促すのは初めてだったが、案外簡単に私の注ぎ込んでいた手に、睦月のアストラル体が吸い付いてくる感覚が現れる。

(これだ。睦月のアストラル体…)

それを引っ張り出すように自分の力を注ぎながらも、腕を上へ上へと上げていく。それと共に、徐々に睦月の身体が二重にブレ、だんだんと身体の上に睦月のアストラル体が見えてくる。

(もう少し…)

そう思った私は、片方の腕を睦月に、そしてもう一つの腕でアンサタ十字を強く握った。その途端、アンサタ十字が青く光だし、その青い光の色と共に私の中に強い力が流れ込む、そしてそのまま、青い光は睦月に注がれていく。まるで、アンサタ十字にはめ込まれている『ラピスラズリ』の強運の力そのもののような光だった。

その光が収まると同時に、睦月のアストラル体は、離脱を完了していた。

「睦月」

私が声をかけると、アストラル体の睦月は、ゆっくりと目を開けた。

「瑞樹?ここは?えっと…」

そこまで言ったところで、睦月は自分の下に、ゆったりと眠っている自分がいる事に気付き、ぎしっと固まった。

「俺…本当にアストラル離脱したんだな」

「ええ、そうよ。案外簡単だったわよ。やっぱり昔アストラル離脱していただけあるわね。あとは、今の感覚を覚えておいて。そうすれば、これからも自分だけで離脱可能になるわ。要するに慣れだから」

「慣れか…」

睦月が自分の手を眺めながら、私の言った言葉をつぶやく。でも…さっきの青い光はなんだったんだろう…もしかしたら、先生のくれたラピスラズリが力を増幅させてくれた?それとも、ラピスラズリ自体に力があると言う事だろうか…。

「さて、出発しましょうか?時間も惜しいし、この世界を自由に早くのぞいてみたいしね。睦月は大丈夫?変な感覚は無い?」

「ああ、大丈夫だよ。アストラル体がすごく軽い。昔離脱していた頃は、この姿になるとすごくだるくて、自由に動こうとする気力は無かったんだ。だから、こんなに軽い感覚初めてだ。どこかへ行きたくて仕方がない感じだよ」

「そう、良かったわ。やっぱりラピスラズリが良かったみたいね。それじゃあ、出発するわよ。まず最初は…やっぱり地上!」

「了解。お姫様、俺がご案内させていただきます」

睦月は、片膝をつきながら、私に手を差し出してきた。その手を私は取ると、そのまま睦月が私を外へと促す。

「ふふ、本当にお姫様みたいだわ」

「俺は、この世界では君の唯一のナイトだからな。君は俺のお姫様だ。絶対護るから…弥生が戻るまで絶対護ってみせるよ」

「ありがとう」

私達は手を繋ぎながら、ふわりと空へと飛び立つ。結界をスルッと抜け、天井も簡単に抜けた。上田先生の白い部屋と同じような感覚が私のアストラル体に伝わる。それは身体全体がざわざわと騒ぐような感覚…くすぐったい様な、それでいて何処がくすぐったいのかわからないのだ。とても落ち着くことができない、何処となく興奮しているような感覚なのかもしれない。

「なんだか不思議な感覚だな」

睦月もそれを感じたらしい…。

「うん。この感覚はなかなか慣れないわね。でも、痛いわけではないし…たぶん私達のアストラル体が結界に触れたことで、高揚感を感じているんだと思うわ」

「高揚感か…それはそうかもしれないな。納得できる表現だな」

「でしょ?安全な場所から安全でない場所へ出る。人間はそんな危うさに心躍るのよ。どんな人間もそうよ。何も無い平穏な生活よりも刺激のある生活を求める。それが人間の性なんでしょうね」

そんな話をしているうちに、だいぶ移動していたようだ。だんだんと目に見えるものが変わってきている。景色もそうだが、特に変わってきたもの…それは。

「これはなんなの…見たことも無い」

目の前に広がった景色、そこは通常の目には見えないものが大量にそこにあった。動物の魂?いや、そんなものではない…黒いどろどろとした動く物体。それがそこかしこで蠢いている。いろいろな建物の壁にペタリペタリとくっつき、モコモコと動き回っている。

「これは…瑞樹も見たことがないものか?」

「うん…一度黒いものは見たことがあるけど、それとは全然違うわ。何かも判別つかない。こんなものが、この世界にはたくさんいるのかしら?」

「わからないな…アストラル体でこの世界を動いた事もなかったし、普通には見えるものじゃないしなあ。化け物って奴かな」

私達は暢気にそんな会話をしていた…でも、それは間違いだった。黒い蠢いていたものは、私達が会話をしているうちにお互いの身体らしきものを侵食しだした。共食いの様にお互いを飲み込んでいく。そう、お互いの身体を貪りあうウロボロスの蛇の様に…そしてそれが周りに伝染するように、どんどんと広がっていく。私達は、アストラル体にも拘らず胃の中のものが逆流する感覚に襲われる。

それは、虐殺の風景にしか見えなかった。血が吹き出るように黒いものが飛び散り、それでもお互いの身体を貪るのを止めようとしない。痛覚がないのだろうか…それよりも空腹が勝っているのか、それにしても壮絶な景色だった。

「瑞樹…ここはやばい。離れよう」

魅入られたようにその景色を見入っていた私は、睦月の声でようやく我に返った。

「あ…うん。そうね」

返事を返した私だったけれど、その景色から目が離せずにいた。何なんだろう…魔に魅入られた感覚に陥る。心が躍る、もっと見ていたいと思わずにはいられない。これがさっき自分で言った、人間の性なんだろうか…。

「瑞樹!」

睦月が叫んで、私を無理やりその場から引っ張り出す。

「あっ…」

そこで私は完全に戻った。ようやく自分が引き込まれそうになっていることに気が付いた。違う!人間の性ではなく、あれは誘惑だ…人間が悪へ引き込まれる時の誘惑そのものなんだ。

「ありがとう睦月。わたし、あれに誘惑されたみたいね」

「まったくだ…あれに向かって歩き出そうとするから、本当にびっくりしたよ。覚えてるか?」

睦月に指摘されて私は首を横に振った。私が、あれに向かって歩いていった?まったく身に覚えがなかった。でも、少し心が引っ張られた感覚はあった。『おいで』と手招きされた感覚もなんとなく…。

と言う事は、あれはアストラル体だ。あの黒い物体は、たぶん身体から切り離されたアストラル体。かつては私達と同じアストラル体だったものだ。

たぶん私のようにどんどんと引き込まれて、あんなにたくさんの塊ができたんだろう。でも…。あんな大量のアストラル体がこの世界に存在するんだろう。そして、なんであんな黒い姿に、かつて人間だったという欠片も無く、成り果てているんだろう。

だいぶ離れて一息つくと、私は、あることに気が付いた。

「睦月は…あれを見ても何も感じなかった?」

睦月は私の質問に、片眉を上に引き上げながら首を傾げる。

「いや、何も感じなかったよ。不気味だとは思ったけど、それだけだったな。だから瑞樹がおかしいって思ったんだよ。ぼ~っと奴らを見てるし、そのうち近づいて行こうとするし、もしあの殺し合いに巻き込まれたらどうするんだよ。って思って焦ったよ」

「そっか…ありがとう」

「いや、いいけど…なんなんだよあれ」

「たぶん。かつては私達と同じアストラル体だったもの、だと思う」

「えっ!」

睦月が驚くのは仕方がないと思う。あれが自分たちと同じものだとは思えない。

「同じと言っても、もう肉体と繋がっていないから、入れ物の壊れた魂って事よ。たぶん核となる何かに取り込まれて、悪霊になってしまったんだと思うわ」

「そうか…あれもかつては人間だったんだな」

「うん、たぶんね」

でも、何故睦月は何も影響を受けなかったんだろう。いろいろ修行をした私でも、あんなに引き込まれそうになったのに、睦月に有って私に無いもの…そうだ、ペンダント。

そうだった、私は大和から貰い、先生に石を嵌め込んでもらったアンク十字を、睦月が安全な様に睦月に預けていたのだ。特に先生に嵌め込んでもらったラピスラズリは、古代エジプトの時代から魔を退けるお護りとして使われてきた。

「睦月…そのペンダント絶対に外さないでね」

「ん、ああ。瑞樹の大切なものだろ?絶対無くさないよ」

「うん絶対よ」

睦月はそれが自分の精神を護ったとは思っていない。それなら大丈夫。わたしに何があったとしても、睦月はそれを身体から離そうとはしないだろう。

「それじゃあ、行きましょ。まずは地上へ」

「ああ、寄り道したけどもうすぐだ。行こう地上へ」

私達は、手を取り合うと地上への道を再び進み始めた。

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