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古書店の秘密

私は思わず怒られた気分になり、あわててその家の中へ入った。細い家…と言うよりも、その家は廊下だった。外の外観はもっと横幅があった気がするが、その中は白い真っ直ぐな廊下があるだけで、部屋と言うものではない。

先生も後ろから入ってくると、奥へと私をつつく。

「もう、つつかないでくださいよ。ちゃんと歩きますから…ってここは何なんですか?こんな所瑞樹からも聞いていないですけど」

「ああ、あいつには言っていないからな。ここは非常用の通路だ」

「非常用?なんでまた?」

「気付いていなかったのか?人間じゃない何かがお前の後をつけていたぞ」

「うそ!人間じゃない何かって何?お化け?」

私はおもわずあたりをキョロキョロと捜してしまったが、もう外ではない事に気付く。

「馬鹿か、そいつから目を避けたからここにいるんだろう…ここは通常空間でないからな。どう見ても外観と中身が違うだろう。これは空間を移動する為の術を使ったんだ。通常に入れば普通の民家だよ」

それで、先生は外であんまり話さないでここに入ったんだ…。

「すごいですねえ先生…これもアストラルの原理?」

「いや、これは違う。まあ、いわゆる企業秘密って奴だ」

「秘密なんだ…これって便利だと思ったのに」

「これは通常の人には出来ない。十年くらい修行しないと駄目なんだよ。まったく…瑞樹と同じ顔をして何なんだその違いは」

「それはそうですよ。瑞樹と私は別人だから、ただ今は瑞樹の皮かぶってるけど」

「皮か…その表現は的確だな。瑞樹の皮を被った別人、それならまあ、仕方ないかと諦めがつく」

だいぶ私の言葉で、先生も毒気が抜けてきたみたいだ。ようやく、すこし優しい顔になった。まだ眉間の皺は取れないけど…。

「でも、この廊下はどこへ続いているの?」

「これか?これはいつも瑞樹が使っている修行の部屋に繋がっている。あの場所は一切の電波も霊体も入れないようになっているからな。ここも同じだが」

そうか、ここがなんだか密封されたみたいに感じたのは、そのせいだったんだ。真っ白い廊下、たぶんここは何かによって護られているんだ。

「それで、何が私の後をつけていたの?先生わかった?」

「いいや…かなり遠い距離からだったし、黒い影みたいな感じだったな。もしかしたら、以前に瑞樹がアストラル体で鏡を見たときに出てきた影かもしれないな」

「ああ、なんかこっちでアストラル体の変化を練習していた時のお化けね。アンクで撃退したって言ってたような。私アンクしてないから、また近づいてきたのかな?」

そう、瑞樹が首からかけていたアンクは、アストラル体の瑞樹と一緒に今は弥生の身体の方にある様だ。起き上がった時には、瑞樹本体の首にはかかっていなかった。

「さあ、ここだ入れ。それからだ、いろいろ話をするのはな」

「おじゃまします。って、うわあ…ここ廊下より重いかも。それに身体からアストラル体が抜け出ちゃいそうな」

廊下と同じように真っ白の空間。その片隅に白いテーブルと椅子が、申し訳なさそうに置かれている。でも空間が重いのは色のせいだけでない…と思う。

「だろうな。ここはアストラル体でいる方が楽な空間なんだよ。ここで教えた事を瑞樹が君に教えていただけのことはある。瑞樹が初めてここに来た時は、入った瞬間にアストラル体が抜け出たからな」

「うん。瑞樹にいろいろ教えてもらいました。アストラル体の微妙な調整まで今は出来るようにはなってます。間接的ではあるにしろ、私も教えてもらったみたいなものだから、本当に感謝しています。先生が居なかったら、私達のアストラル体の交換なんてできていなかったかも知れないって事になるかな?」

「そう思って俺を敬っておけ。でだ、ここに直接連れて来たのは、さっきの黒い影の事もあるが、ちょっと気になる事もあってな。ここの方がなんにでも対処できると思ったからなんだよ」

「気になる事?」

「ああ、だけどまだ確信じゃないから言わない。お前たちは、今自分たちが出来る事だけに集中しろ」

「はい。それで私はここへ行くように言われただけなんですけど、なにをするんですか?」

「俺が、直接教えた方がいいものも、たくさんあるからな。瑞樹が教えていいものと、俺が直接教えるものを分けておいた。つまり、最終段階のいろいろなアストラル体の裏技を、教えてやる。それと、いろいろと瑞樹から君たちの世界の事は聞いているが、又聞きだとなかなか理解するのに時間がかかるし、勘違いや間違いが入り込む。それで直接俺が聞きたいことを聞こうと思ってな。交差した時に、こっちへ君を寄越すように瑞樹に言っておいたんだ」

「そうだったんだ…でも、ほとんど瑞樹には話しているような気がするけど、それ以外に先生が気になる事があるんですか?」

「ああ、あるよ。瑞樹の気になる事は偏っていたようだからな。俺は、全体像を把握していきたいんだ。その方が、全体の社会の流れがわかるし、流れが滞っている場所もわかるって言う事だ」

社会の流れが滞っている所?それってどういうことなんだろう…私達がしらない変な所が、瑞樹が言っていた事以外にもたくさんあるって言う事なんだろうか?

私は訳がわからずすこし考え込んでいたが、どっちにしろ先生を信じて話さない限り、それも解決する事はないと思い、自分の中で自分にうなずく。

「わかりました、何でも質問してください。私がわかりうる事だったら何でも話をします。でも…私もあの社会で生活している人間です。とんちんかんな事を言うかもしれませんが、それはちゃんと指摘してくれますか?」

「わかった。それは君が、あの社会を否定する人間になっても、構わないっていう意味にとっていいんだな。俺の聞いている限りでは、否定する場所がありすぎると感じている。だからこそ、君はそれに立ち向かう事が必要になってくる。それを理解して俺に審判を下せと」

それが私の今までの世界。でも、瑞樹と身体を交差すると決めた時に、私は本当の世界を知ることの決意を固めているんだ。それを知らない事には次の段階には進めない。

「大丈夫です。決心はしてきましたから。それに、瑞樹があっちへ行った事で、もっといろいろな事がわかると思うし、その前に下準備で先生にいろいろと世界を教えてもらいたいです」

「了解した。それなら俺は何でもおかしいところは指摘してやるし、何でも気持ちを聞いてやる。ここに居る限りだがな。ただ、それは最後だ。まず最初は、アストラル体の修行からだ。瑞樹から教えてもらった事の次の段階だ。それが終わったら話をしよう」

「はい、今日と明日くらいしか来れないとは思うけど、よろしくお願いします」

私は座っていた椅子から立ち上がり、深く頭を下げた。

「明日の昼間はどこに行く予定なんだ?」

「それが…大和が、明日のお楽しみって言って詳しくは教えてくれなくて。ただ、開園時間があるからって言う事は言ってました」

「なるほどな…そっちから攻めるか。だったら、そっちはその大和って言う奴に任せよう」

今言った情報だけでなにが必要かわかったって言う事だろうか?

「でも、夜はちゃんと帰ってくるようにしますから。それは大和さんに言っておきます」

「そうしてくれ…ただ、俺のところに来るからとか言うなよ。疲れるから、夜は帰ると言っておけ。タクシーは俺が明日も手配してやる。今日と同じ時間でいいな」

「はい。でも、なんで大和には先生の事内緒なんですか?」

大和は瑞樹のパートナーと聞いているし、こっちの事情は全部わかっているはずだ。先生がいると知っても何にも支障はないはずなのだけれど…。

「俺の事情だ。あんまり一般人に俺のことを知られたくない。いろいろやばい仕事も請け負っているからな。まあ、その仕事の方はお前たちにも秘密だがな」

先生がにやりと笑う。それはまるで悪戯っ子が、悪戯を隠して見つけてみろとでも、言っている様な挑戦的な笑みだった。

その意味深な笑みに私の身体がぞくりと震えたが、それが魅了されての震えだったのか、それとも先生の闇の部分に触れてしまった震えだったのかは、私には知ることは出来なかった。

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