初めての過去
本日の更新も4話あります
私弥生は、無事瑞樹の身体に入り込む事に成功した。入った途端に覗き込んでいた知らない男の顔が目の前に飛び込んできた。
「えっ?」
「おっ、無事成功したのかな?弥生ちゃんでいいのかな?」
「あっ、はい。増井弥生です。えっと、大和さんですよね?」
「大和でいいよ。杉山大和です。よろしく弥生ちゃん」
そういってにっこり笑うと手を差し出してくる。その手を私は取ると、ブンブンと振るように握手をしてきた。気のいい優しそうな男性だ。
(瑞樹らしいパートナーね。でも、ちょっと私には硬いかな?)
そんな事を思いながらも、私は大和に笑い返した。
「三日間よろしくお願いします。私こっちの事よくわからないから」
「大丈夫。瑞樹に大体の事は聞いているからね。あんしんしてね。とりあえず、ここは瑞樹の借りている部屋だから、何でも自由に使うといいよ」
「うん。ありがとう…って今は夜?」
「うん、夜の7時過ぎたところだよ。時間を合わせるって言っても、夜じゃないと瑞樹は動けなかったからね。昼間は仕事してたし、明日からは僕も瑞樹も三連休とってあるから大丈夫だけど」
「そっか…それじゃあ動くのは朝になってからだね」
「うん。今日はここで休んでくれればいいよ。僕の家は近所だから、この携帯で連絡してくれればいつでも駆けつけられるし」
「ありがとう大和。それじゃあ明日からよろしくお願いします」
「遠慮は要らないよ。瑞樹から君の事はたくさん聞いているし、瑞樹の妹みたいなものだしね」
「妹?」
「瑞樹はそう言っていたよ。大切な家族みたいなものだって。妹が出来たみたいだって。瑞樹は君の事本当に大切に思っているんだ」
私は初めて知った気がした…瑞樹が私の事をそんな風に思っているなんて。私達には親も兄弟も無い。だからそれがどんな感覚なのかはわからない。でも…友達以上だという事は、その言葉だけでわかった。なんだかとても心の中が温かく感じる。これが愛おしいという感覚なんだろうか?
まだよくわからないけれど、なんとなく今の自分の身体…瑞樹の身体を自分の腕で抱きしめてみる。ああ、これが瑞樹の温かさなのかも知れない。
「ありがとう大和。なんだかすこし瑞樹の心がわかった気がする」
「そうかい?だったら良かった」
大和が嬉しそうににっこりと笑う。
「うん。明日は何時頃から動く予定?」
「そうだね…開園時間もあるから九時頃に迎えに来るよ」
「開園?」
「明日のお楽しみさ」
今度は瑞樹に似た悪戯っ子の様な顔で大和は笑った。
「それじゃあ、今日は失礼するよ。身体は瑞樹でも中身は弥生ちゃんだからね。この部屋にある物は自由に使っていいって言っていたし、冷蔵庫にもお腹空かないようにって瑞樹の作り置きのご飯がいろいろあるから。おやすみなさい」
そういい残すと、大和は帰って行った。たぶん大和の優しさなんだろう。ここに来たばかりで、自分の気持ちを整理するようにと言う事なんだろうか…。
そうだ。瑞樹が言っていたメモ!私は瑞樹の服、自分の今着ている服のポケットに手を突っ込み、瑞樹の言っていたメモを探す。
あった…”本日八時に家の前にタクシー” ”お財布はテーブルの上のバックの中にあります” ”行き先は上田古書店”住所と電話番号も書いてあった。時計を見るとすでに八時ちょっと前になっている。
喉が渇いていたので、冷蔵庫のミネラルウォーターを取り出すと、それと携帯にテーブルの上のバック。それに鍵…あれ鍵は?キョロキョロと捜してみると、入り口の近くのフックにそれらしき鍵…。
「あんな所に鍵って…瑞樹らしいなあ」
一人で私は笑いながらそれを取ると、急いで外へと飛び出した。
外に出ると、タイミングよくタクシーが目の前に到着した。
「ってか、ギリギリじゃない。もっと余裕が欲しいところね。鍵とか探すのに手間取っていたら、待たせていたなあ…」
タクシーに乗り込むと、私は独り言を言いながら、ふうと一息つく。行き先と住所を告げると、タクシーは難なく走り出した。
タクシーの中で喉を潤しながら、ふと手に持った携帯が点滅しているのに気付く。
うわあ…レトロな携帯。そう思いながらパカリと二つ折りの携帯を開けると、メールが着信していた。
『弥生へ。上田先生の所へ向かっている所かな?着いて早々で悪いけど、上田先生に会っていろいろな話を聞いてください。この世の中の事は、大和の方が詳しいけど、アストラル面やいろいろな不思議な話は上田先生に聞くのが一番です。あと、弥生の世界の事も、上田先生に話してあげてくれるかな?それが上田先生への情報料になります。瑞樹』
予想どおり瑞樹からのメールだった。さっき大和といる時は着信していなかったのを見ると、時間でメールが届くようになっていたのだろう。用意周到というか、流石というか…瑞樹らしい演出。まあ、大和に見られないようにって言うのもあるんだろうが。
携帯を弄っているうちに、あっという間に上田古書店に到着した。お金は私の世界とは違ってはいたが、それでもそんなに違いがなかったので、然程困る事もなかった。
タクシーを降りると、そこに長身の一人の男性が待っていてくれた。
「弥生君だね」
「はい、増井弥生です。上田先生ですよね?よろしくお願いします」
「こっちへ」
その男は私の問いには答えないで、それだけ言うと私に背を向けた。返事は無いけれど、この人が先生なのは確実だろう。瑞樹の話していた人物像に合致する。
「あの…どこへ?」
私が追いかけるようについていきながら尋ねても、やはり返事は無い。
まったく…話には聞いていたけど、上田先生って無愛想ね。よく瑞樹は平気ね。私にはちょっと苦痛かも。
と、突然前を歩いていた先生が止まり、私はその背中にぶつかってしまった。
「いたた…着いたんですか?」
「ああ、ここだ。入れ」
そこは、さっきの店からすこし路地に入った所にある、一軒のボロボロの家だった。
「えっと、ここは?さっきの表通りにあったのが古書店ですよね?」
「いいから…とっとと入れ」
「あっ、はい。入ります」




