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5.読書の時間

「ふう……」


 クリスタの持ってきてくれた本を一通り読み終える頃には、日はすっかり暮れていた。食事はとったし、合間合間でクリスタがお茶を淹れてくれたとはいえ、流石に根を詰めすぎたかもしれない。


「本当に一日中本を読んでいらっしゃいましたね。あれほど集中力が続くお方にはなかなかお目にかかれません」

「そんなことないわ、クリスタが淹れてくれた紅茶のおかげよ」


 あと姉様もいないしね。ここ一月は流石に私の勉強を妨げないように誰かしらがブロックしてくれていたようだけど、それより前は結構邪魔されることもあったな。


「……でも、こんなに読んだのは久々だから、さすがに疲れたわ」

「目を悪くされても大変です。次からは一日分を想定して用意致します。早くても二、三日はかかる想定でお持ちしたのですが、まさか一日で読んでしまわれるとは」


 長年暇さえあれば様々な学術書を読んでいた私はいつの間にかクリスタも驚きの速読を身につけていたらしい。流石にもう少し控えめにしないと。ぎゅっと目を瞑ってこめかみを押さえていたら、クリスタがハーブティーを出してくれた。疲労回復効果があるらしいそれを飲みながら、私は今日新しく得た知識を反芻する。


 曰く、亜人にも二種類いると。人に近い意識を持ち、人里で暮らす亜人と、獣に近い意識を持ち、山奥などで暮らす亜人。


 とはいえ、獣の姿になっても人としての意識がなくなるわけではないようで、あくまでも自然の中で生きながら、必要に応じてとる姿を使い分けて、結構自由気ままに生きているらしい。


 対して国に属し、人と関わり、人里で暮らすことを選んだ亜人は、今までは亜人であることを隠さなければ人として生きられなかった。その結果たくさんの不自由と、傷が生まれた。


 この国は、その在り方を変える可能性を秘めている。この国が広く認められ、他国と交流を持つようになれば、亜人が亜人として生きながら、人と関わりを持つことができる。


 そうすればいつか、人も亜人も分け隔てなく暮らせるようになると。ルベニアの初代国王の日記を元にしたらしいその本は、そう締めくくってあった。


「ねえ、クリスタ。貴女はこの本にあるような未来、見てみたいと思うかしら」

「それは……もちろん」

「そうね。そうよね。私もそう思うわ」


 生まれも種族も関係なく、好きな生き方を選んで、それを受け入れてもらえる世界。なんて素敵だろう。





「そうだわ、ずっと気になっていたのだけど」

「何でしょうか」

「この国は亜人の国なのに、皆人の姿を保ったままよね? 私、もっと耳とか尻尾とか、出している人が多いと思っていたの」


 絵本に出てくるような、喋る動物さんに会ってみたいと思っていたのだけれど、私が見る限りではそういう姿の亜人はいなかった。


「それは、獣の姿に近づけば近づくほど、獣の本能が出るようになるからです」

「そうなの?」

「はい。完全に獣化しても、理性がなくなるわけではないのですが、人の姿よりは自制がきかなくなります。ここには様々な種の亜人が住んでおりますので、不要なトラブルを避けるために、必要な時以外はなるべく人の姿をとるようにと決められています」


 なるほど……。

 確かに、獣化した肉食種の亜人と小動物の亜人が出会ってしまうとか、有り得るかもしれない。あまり考えたくないけど。

 人に対するトラウマを抱えてきたのに、新たなトラウマを植え付けられてしまっては元も子もない。


「クリスタは何の亜人なの?」

「私は虎です。肉食種ゆえ戦闘力もそれなりにありますので、有事にはシャルロッテ様をお守りする役目も仰せつかっております」


 なんとなく聞いてみたけれど、彼女の可愛らしい見た目からは想像つかない答えが返ってきた。虎って、すごくかっこいいイメージだから。


「その、クリスタが嫌でなければ、なのだけど。獣化した姿を見せてもらえたりはしないかしら」


 どうしても見てみたくて、そう頼んでしまった。嫌ならいいのよ、と前置きはしたけれど、身分的なあれで断りづらいだろうか。やっぱり聞かなければよかったかもしれない。


 と、私の心配をよそに、クリスタはそれほど気にした素振りもなく、ぽんと可愛らしい三角の耳と尻尾を出してくれた。


「肉食種が完全体になるには許可証の発行と監視役が必要なので、一部のみですが」


 先程聞いた、基本的に人の姿でいるようにというルールは、思っていたよりもきっちりした制度として設けてあるようだった。

 それより、尻尾を触ってみたくてうずうずする。


 いや、やめておけシャルロッテ。それはもっと仲良くなってからにしておきなさい。権力を笠に着て好き勝手する王妃だと思われたらどうする。


 そんな自問自答を繰り返していたら、クリスタがほんの少しだけ、微笑んだような気がした。


「ところで、シャルロッテ様。そろそろ夕食のお時間です。準備をいたしましょう」


 暮れかけていた日は既に隠れ、月が顔を出している。


「そうね、行きましょうか」


 今晩のメニューに思いを馳せながら、私はクリスタと共に部屋を出た。



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