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第56話 続々帰還!アークシャインとアウローラ!

「丁度見付けたんだ。『そこ』が良いと思う」

 エクリプスが語る。これからの潜伏先を、既に見付けていたのだ。

「地下ね。お誂え向きって感じ」

「だが中々良いぞ。現行のこの惑星の科学では見付けられない場所だ。しかも広い。いや、もっと広くできる」

「食糧はどうするの?」

「下位アビスの行動を変える。『破壊』から『調達』だ。人間を捕らえ、『巣穴』まで運ばせる。その粒子操作は俺の仕事だ」

「すぐ見付かっちゃうじゃない」

「ワープがあるだろう。サテライトの持ち帰ったバイクが。『巣穴』にはワープゲートのみ設置し、特定の粒子以外では起動しないようにすれば良い。それか、調達の度に毎回確認し管理してもいい」

「私はスイッチ押しただけよ。あんた分かるの? これの仕組み」

「……」

 ワープ技術は、ラウム独自のものである。ラウムと同じく精神力を使った種族でも、アビスの文明には無かった。勿論エクリプスに理解できるものではない。

 だが。

「大丈夫。任せて」

 立ち上がったのは彩だった。

「姫?」

「前にアークシャイン基地でも真似しようと勉強してたし。解析してみるよ」

「しかし、これは貴重なサンプルで――」

「まあまあ」

 分解を試みる彩を止めようとするが、彼はその前にフィリップに止められた。

「なんだ半アビス。俺に指図を――」

「あんたは知らないだろうけどさ、うちのお姫様、『お姫様』の枠にゃ素直に入ってくれないんだ」

「は?」

 エクリプスがフィリップへ凄むが、フィリップには精神支配の類いは効果が無い。威圧も重圧も彼には意味が無い。

「『天才科学者』だ。任せとけば大丈夫さ」

「…………」

 エクリプスは、楽しそうにバイクを弄る彩を見た。それは単純に機械が好きというよりは、『皆の役に立てている』という喜びであるのだと、彼には分かった。

「……ご立派だ」

「だろ?」


――


「うーん……」

 太平洋上空。空中移動国家アウローラ。その上部、360度海が見渡せる庭園で、未来は景色を眺めていた。

「同盟国の領空と公海上のみって……せっかく空飛ぶ国なのにあんまり自由無いねー。基本的に海上になっちゃうわけだ」

 未来は今、基本的にここに居る。精神技術や超心理学の研究は、今は休んでいる。彼女曰く『スランプ』らしいのだが。

「おーい」

「?」

 そこへ、遠くから声が掛かる。振り向くと、らいちが金色の腕を振ってこちらへ向かってきていた。

「未来ちゃん、お客様だよ」

「私に? なんでまた」

「……ていうか、最近ずっとここに居るけど、どうしたの?」

 素直に疑問を口にしたらいち。未来はらいちの顔をじっと見詰めた。

「……なに?」

 少したじろぐらいち。

「私は幸せになりたい」

「…………?」

 呟いたが、らいちには理解ができなかった。

「それより、ゆりちゃんが。そろそろ日本へ戻るから挨拶だって」

「あー。間宮さん。……私はいいよ」

「ダメダメ。未来ちゃんに挨拶したいって言ってるんだから」

「えー……」

 アークシャインがアウローラへ派遣していた職員の大半は、間宮家の構成員である。国内の、これから始まるあらゆる技術や教育、法律、司法、行政。国を運営する殆どを、彼らの指導の元に進められた。そしてこれからは、アウローラの人々が自力で全てをしなくてはいけない。建国し安定したとしても、その引き継ぎに時間を要するのだ。ランスとの戦いの後ゆりも現地へ赴き、精力的に働いていた。

 それが終わったという報告であった。因みに博士は少し前に戻っており、後はゆりと数人の部下だけであった。

「私嫌われてると思うんだよなー」

「いいから。行くよ」

 未来は半ばらいちに引き摺られて、庭園を後にした。


――


「ごめん」

「えっ?」

 アウローラの端に建造された、舞台のような円形の広場。ここは『ワープポート』と言う、『国外へのワープが可能な場所』である。因みにポート以外の場所は全て、ワープ妨害装置の影響下にある。博士が改良し、心理やランスの持つ『ワープ妨害装置影響下限定のワープ』すら防ぐ最新型である。

 そのステージで帰りの準備を進めるゆりに、開口一番未来が頭を下げた。

「あの時私がもっと早く着いていれば、良夜君を死なせなかったかもしれない。戦争の時も、中国ラウムの子に間に合わなかった。毎回お姉ちゃんは助けといて、私は――」

「義堂未来さん」

「!」

 未来の懺悔を、ゆりは遮った。

「私は勿論、誰も貴女を責めていないし、恨みも持ってません。半年前の件はアビスの王が基地を襲撃し、良夜君は迎撃に出て、そして敗けた。それで終わり、それが全て。あの時は私も気が動転したけれど、これまで戦い、散っていった戦士達と何も変わらない。悲しいのは私だけじゃない。だから顔を上げてください」

「…………」

「それに、ラウムアビスには通じた貴女の『メンタリズム(でしたっけ?)』が、あの王にも通じていた証拠は無いでしょう。あの一幕は、貴女が死ななかった奇跡をただ喜ぶべきだと思います」

「……でも」

 まだ俯く未来の手を、ゆりは両手で包んだ。

「っ!?」

 はっと顔を挙げる未来。そこには優しく微笑むゆりの顔があった。

「イヴの爆撃を。サブリナを。戦争を。あの凄惨で過酷な戦いを終わらせてくれた英雄のひとり。それが貴女です。貴女は『彼らの死とは何の関係も無い』。救えなかったと悔やむのは筋違い。寧ろ戦士として、非戦闘員を守らんと戦った彼らへの礼を失しています。どうかお気になさらず、貴女は貴女の人生を歩んでください」

「!」

『!』

 ゆりのその視線は、未来の後ろに立つ心理へ向けられた。

 にこりと笑い掛ける。彼女は間違いなく本心から祝福していた。

 否。

 祝福しようと必死に努力していた。

「『世のため人のため』。間宮家の家訓です。ありきたりでしょう? だけど難しい」

「…………そう、思うよ。『だって手が震えてる』」

「!」

 思わない訳はない。未来がランスの攻撃に間に合い、良夜を守れていたら。もっと自然に、『目の前の未来』にも『ひかりお姉さま』にも、祝福の言葉を掛けられていた筈だ。

 その葛藤を、未来は正確に読み取った。

「流石心理学者ですね。……身近な死に対して生者ができることは、『納得』しかない。でなければ前へは進めない。彼は、復讐を達成し、肉体を支配されても人として世界の為に戦えた。だから本望なのです」

「…………うん」

「また、お話しましょう。私たち、きっと仲良くなれます」

「……うん」

 誰も悪くないのだ。未来もゆりも、全員その時の最善を尽くした。結果は非情だが、納得するしか無い。

 未来は心理の所へ戻り、その胸にすり寄った。


――


「じゃあ、これで」

「うんっ」

 ステージに立ち、振り向く。ゆりを見送るのは様々な関係者各位。いずれもアウローラをこれから運営していく幹部達だ。そして未来と心理、それからラウムアビス達。

 その先頭に、らいちが立つ。

「どこまでも、ありがとうねゆりちゃん。アークシャインの屋台骨。裏の支配者」

「もう、そんなんじゃありません」

「あははっ。ていうか敬語やめてよ。なんか変だよ」

「貴女は一国の王なのですから、一応組織の代表として私が礼を失する訳にはいきません」

「えー」

「人は立場により変わる。貴女ももう少ししたら分かると思います」

 ゆりはにこりと、いつものように笑い、ワープ装置の起動を職員に指示する。

「皆さん、お世話になりました。またどこかで」

「こちらこそっ! またアークシャインには遊びにいくからっ!」


――


 大掛かりな装置が唸りを挙げる。もうあと数秒で彼女らは日本へ飛ぶ。

『……横から申し訳ありませんが』

「?」

 口を開いたのは、ダクトリーナだった。

『ブラックライダーは()()()()()()()()()()()よ?』

「っ!?」

 その言葉はゆりを驚愕させたが、その真意を問う前にワープ装置は起動した。

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