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第53話 太陽&心理vs.ランス、頂上決戦決着!

 まず太陽がランスへ躍り掛かる。白い杖を振り回し、巧みに攻撃する。

 ランスは爪にてそれを全て弾き、隙があれば攻撃に転じる。その攻撃を太陽は、杖を使ってきっちり防ぐ。

 ここまでは、中国での戦闘と変わらない。1対1では、決着まで時間が掛かるだろう。

 ふたりの攻防へ、横から心理が滑り込む。彼は試作型のソーラーブレードを持ち、アビスへ切り掛かる。そうすると、太陽の相手で精一杯なランスは心理へ無防備を晒すことになる。

 2対1とは、強さが倍になるのではなく、手数が倍になる。両手で漸く持てる荷物を、ふたつ同時にはどうやっても持てる訳は無い。

 ランスがここからふたり分の攻撃を捌ける筈は無い。そんな対応速度があれば、心理が切り掛かる前に太陽が殺されている筈だ。

 その隙を埋めるべく、ランスは能力を行使する。周囲の瓦礫に自らの精神力を伝導させ、それらは形を成していく。筒状に形成された発射台から、ミサイルが勢いよく発射される。

 これはフィリップの能力である。そのミサイルは心理へ狙いを定めて飛んでいく。心理はランスへ到達する前に、ミサイルの処理を迫られて止まった。

 ソーラーブレードによりミサイルは両断され、一瞬のタイムラグの後太陽と同時にランスを挟み込んで剣を振る。

 ランスは太陽の杖を防いでから飛び上がり、心理の剣を避けた。

 そしてランスの居た地点へ再度ミサイルが撃ち込まれる。太陽と心理は同じく飛び上がり、それを回避した。

『(敵意感知……砲撃能力……飛行能力。技のデパートかいな)』

 舞台は空中へ移る。背後からの不意打ちすら、この王には届かない。まずは砲撃をなんとか制し、ふたり同時に複数箇所からの攻撃を成功させなければならない。

 飛び立つランスを見上げる心理。空にはどす黒い雲が発生していた。まだ昼だというのに、辺りは薄暗い。

『まさか天候操作もかいな――このバケモン』

 太陽は一直線にランスを追う。いつか心理の言っていた通り、この悪魔は自分が止めなければならないと確信していた。


――


「"精神術(メンタリズム)"っ!」

『!』

 通常のワープが可能になったことで、かりんに頼んで飛ばして貰った。

 未来は、迫り来るアウラの爪と自分の姉の間に割って入り、その凶刃を触れずに止めた。

「……はぁっ! ……は」

『……!? 身体が……動かない!?』

 続いて未来はアウラの額を叩くように指を当てる。

「精神拘束!」

『なっ!』

 たちまち膝から崩れるアウラ。そのまま力無くへたり込んだ。

「はっ……間に合った……」

 息を切らしながら、未来もその場に座り込む。危なかった。もうあと1秒遅かったら、ハルカは殺されていた。

「未来?」

 突然の出来事で訳の分からない様子のハルカ。その呟きを受けて未来は、振り返って笑い掛けた。

「あははっ。ちょっと焦ったね。ラウムの『倫理の無さ』は怖い怖い」

「んぎゃっ!」

「あ」

 その隣でびたんと音がした。急なワープで体勢を崩し、車椅子を放ってきたためにかりんが転んだのだ。

 すぐさま駆け寄って身体を起こす未来。

「ごめんごめん。でもありがとかりんちゃん」

「いいよ。ワープできるなら足が無くても戦えるもんね」

 牢屋の前にある、見張りの看守用の椅子に座らせる。それから再度アウラへ詰め寄った。

『……これは……なんなのですか? 思うように動けない』

「絶対に教えない。あんた今の立場で勝手に捕虜殺していいと思ってる訳?」

 姉を殺されそうになったという個人的感情はさておき、この行動は現状自分も捕虜である以上、余計に立場を悪くするだけだと何故理解していないのか。子供のように自分勝手なアウラに、未来は憤りを隠せない。

「報告では友好的になってたと思ってたけど、これでおじゃんだよ。らいちちゃんの所には今もあんたの帰りを待つ信者が居るのに」

『……私には元々帰る場所などありません』

「あんたの気分なんかどうでもいい。まああんたの処分を決めるのは私じゃ無いし、お姉ちゃんが親族ってこと以外は部外者だからこれ以上言わないけど、これかららいちちゃんの所に私と心理も住むんだから、ラウムの評価を下げるようなことしないでよね」

『…………』

 アウラは俯いてそれきり動かなくなった。未来はハルカへと振り向く。

「……未来」

「お姉ちゃん。今私にできることは、何も無いよ」

「分かってるわ。私も望んじゃいない」

「うん。助かるなら、王子さまに助けて貰って。アークシャインからしたら最悪だし私も嫌いだけど、お姉ちゃんを助けるためっていうならちょっとだけ格好良いから」

「……いや、その言い方だと不倫になっちゃう」


――


「…………!」

 絶句した。

「司令……っ!」

 職員が心配の声を挙げる。しかしそんなもの、耳には入らない。

「…………ぁ」

 よたりと倒れ込んだ。もう通信マイクを握る気も起きない。

「ちょっ……大丈夫ですかっ!? しっかり!」

 司令室はなんとか無事であった。確認できた敵は深淵の王単騎。これ以上被害は大きくならないだろうと思われる。

 だが。

「……ふ……ふ……っ」

 職員に受け止められた彼女は、甚大な精神的ストレスから気絶してしまった。

 この日。

 間宮ゆりの生涯愛した唯一の男が死んだ。


――


 上昇するランス。追う太陽と心理。ここが間違いなく今、侵略戦争の最前線。

 ランスの背後……空を覆う黒雲から、砲弾が雨のように降り注いだ。

『太陽君! 気ぃ付けや!』

 心理が叫ぶも、太陽は言葉では反応しない。彼の怒りは収まらない。

 降り注ぐミサイルは乱れ撃ちではなく、その全てが狙撃であり、全てが限り無く彼らふたりを狙い撃つ。

『どんだけ精神力あんねんアホ!』

 精神力により黒雲を発生させ、その中に砲台を大量に精製し、落ちないよう固定する。そこから全ての砲門を敵に向け、狙撃する。それと自らが射程に入らないような空中機動を同時に平行して行う。

 ワープ戦術と言い今のこれと言い、彼は精神力を使いこなすあらゆる計算能力を持つ。さすが精神エネルギー文明の王だと心理は感心した。

『それ(王であること)は俺も同じか。くそっ。差を見せ付けられとる嫌な気分や』

 2対1で仕留められない屈辱。放蕩息子だった自分と違い、彼は種を存続させるため、鍛練を怠らなかったのだろうと歯噛みした。

『ラウム・コネクト――"精神(マインド・コン)集中(セントレイション)"――併用・防御障壁!!』

 心理は唯一使える技である精神集中を使い、翼を丸めてそれら砲弾を防ぐ。嵐のように降り注ぐため、しばらく動けないだろう。

『(……太陽君は……!?)』

 太陽は技を使えない。いくら精神体と言えど、精神力の具現である攻撃を喰らえばその分精神を消耗する。この砲弾の雨に撃たれればすぐに消えてしまう可能性は高い。

「ちっ」

 だが太陽は、ミサイル自体にはさほど気を取られていなかった。

 彼は舌打ちをひとつしてから速度を上げ、音速の壁を突破する。降り注ぐミサイルは全て直角機動で躱し、さらにランスへ接近する。

 アーシャの形見である杖を振り、ランスへ殴り付ける。ランスは爪で受け止めた。幾度目かの鍔迫り合いになった。

「お前はここで終わりだ!」

【その通りだ】

「!?」

 予想外の台詞に一瞬固まり、ランスは太陽を弾き飛ばす。

「ぐっ!」

 空中で体勢を整える前に、ランスは動いた。

【命の価値は質か? 量か?】

「!?」

【どれだけ犠牲を払おうが姫ひとりを護るか?王ひとりの命と引き換えに、多くの民を救うか?】

 加速。空気の壁を突き抜け、雲を纏い、黒い身体が白熱する。その速度は『彼より遥かに速い』。

「(――これはブラックライダーの――!)」

 その刹那、太陽の脳裏に過る。ランスのそもそもの、アビスとしての能力は『これ』であると。

「う……おお!」

【突き詰めればそこには合理性も正当性も無い。ただ『強い想い』がある】

 音も色も消え去った世界で、黒い流星が太陽の身体を貫いた。

「がはぁっ!」

『太陽君っ!』

 ようやく砲弾を防ぎきった心理が上昇しながら叫ぶ。

【強制干渉】

『ぐおっ!』

 心理は突然の頭痛に襲われる。頭が重機に巻き込まれたような荒く重い激痛。

【ラウムの精神では私に勝てない】

『な――!』

 眼下の心理へ狙いを定めたランスの爪が、動きの止まった彼の身体を抉り抜き、そのまま地上へ向けて急降下を始めた。


――


【ここまでだな】


 ランスは降下しながら、身体ごと上空へ向けて反転した。

 空には黒い雲を突き抜け、一条の光がそれを貫いていた。

『……避難完了しました!』

 その通信を、太陽は聞いた。体勢を整え、杖を振りかざした。

 空が晴れる。一点の隙間から、陽光が差す。

「……やるしかねえか」

 太陽は複雑な気持ちで、真下を見た。憎き怪人のボスと、その下にアークシャイン基地。

『頼むわ、太陽君』

「良いのか?」

『一思いにやってくれ。形見は「物」ちゃう。「心」や』

「分かった」

 白い杖の尖端に、巨大な精神力が集まる。陽光もそれを援助し、肥大化していく。


【残した者、遺した物は数多い。だが子孫がなんとかやってくれるだろう。私の時代は終わったのだ】


 ワープの無いランスには、もう避けることはできない。アークシャイン基地を背にしたのは、勿論信頼の置ける部下の為である。


【サテライト。お前の言う通りだ。確かに私は、時代遅れらしい】


「アーク・シャイニング……!」

 太陽は握りしめた杖を、真下へ向けて振り下ろす。


【……『アヤ』。お前に感謝を】

 呟いた言葉は、彼女に届くだろうか。


「エグゼキューション!!」

【さあ争えよ……人間ども】


 極大な光の柱が天から地上へ、黒雲を掻き消しながら貫いた。それは全てを塵へと還す無慈悲なる天の断罪。アークシャイン基地を丸ごと覆う柱は、数分間その内部を熱と衝撃で浄化した。


――


「……けほっ」

 ハルカは瓦礫の中から這い出た。全てを滅するビームだが、王が居た地点の延長線上は、その黒い煙により被害を抑えられている。今ならアークシャインは動けず、また太陽や心理もしばらく降りてこられない。

「……檻から出ても四面楚歌だけど……」

 しかしハルカが辺りを見るとそこには。

 黒いバイクが転がっていた。

「……なるほど」

 それはワープ装置の付いたバイクである。しかもアビスの精神により動く、『自由自在にワープできる』優れもの。

「やっぱり先輩、めちゃめちゃ頭良いよね」

 ハルカはありがたくそれに跨がった。


――


 深淵の王、ランスは死んだ。

 ブラックライダーは犠牲となった。

 アークシャイン基地は跡形も無くなった。


 そしてハルカは、牢屋を抜け出し脱獄した。

 人類とアビスは、お互いに目的のひとつを達成した。

 だが負った被害は、お互いに大きかった。

 侵略戦争は一旦の区切りを置き、最後のステージへ向かう。

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