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第52話 まさかの襲撃!基地防衛戦!

 幸せ。

 毎日、そんな顔をしている。朝日を見て、笑い。景色を眺め、微笑み。

 仲間が居る。愛する者が居る。どんなに満ちた人生だろう。

 人数自体は少なくとも、信頼に足る仲間達。大きな戦いを経ても、ひとりも欠けずに生き残った。今はバラバラで、全員集合とはいかないが、それでも全員生きている。


 生きていれば、次がある。『それ』を見ることができた。


【充分だ】


――


 彩は目を覚ました。辺りを見回す。

「……」

 半分焦り、半分察して。やや急ぎで着替えて自室を出る。

 ここは以前ハルカが用意した、新たなアジト。森に囲まれた二階建てのロッジのような建物。星野家最後の隠れ家はスーパーノヴァに破壊されたため、こちらが本拠地になった。

「……はぁ」

 少し息を漏らす。談話室へ急ぎ足で階段を降りると、そこには影がふたつ。

「お姫様?」

 驚いた様子でこちらを向いたのはフィリップ。その脇にコロナ。ふたりは朝食の準備をしているところだった。

「おはよう彩。どしたの?」

 コロナが首を傾げる。

「……」

 部屋中を見回す彩。その様子を見て、フィリップも察した。

「……王様なら――」

「ううん。大丈夫」

 その台詞を、彩は遮った。彼女はもう理解していた。

 ふうと小さく息を吐き、食卓へ座る。

「……元来、アビスは『そういう』種族なのかもしれないね」

 彩は、これまでこの地球へ現れた、全てのアビスと出会ってきた。そして彼らの死にも立ち会ってきた。

 実兄、"星影(スタアライト)"星野影士。10年前に同時に感染した。彼だけ覚醒し、人の世との別離に苦悩した。現在の地球アビスの基礎を築いた功労者。最期は彩を逃がすためシャインジャーに立ち向かい、ブラックライダーの射撃により命を落とした。

 "日蝕(エクリプス)"エドワード・ジェラード。彼を迎えるために兄の遺した奴隷を全て消費した。エクリプスの感染能力は一度アークシャインに勝利した。最期は池上太陽暗殺の囮となり、ブラックライダーに殺害された。

 "火山(ボルケイノ)"。アークシャイン基地襲撃の際に上位アビスに覚醒した元下位アビス『山の三人衆』のひとり。エドワードの遺体とアーシャの肉体を取り込み、ハーフアビスにも昇格した。最期は彩を逃がすためシャインジャーに攻撃を仕掛け、ピュアピースに頭を踏み潰された。

「『そういう』種族?」

「うん」

 幹部クラスに限らなければ、それ以上にも大勢の仲間が死んでいった。

 彼らを思えば、彩は多大な感謝をしなければならないと思った。

「『役目』を。終えると消えていく、ような気がする」

「……ハルカの言っていた、個人レベルの適応進化説か」

 彩へ給仕するフィリップ。彩はどれだけ自分がアビスにとって大事であるかを、再度噛み締めるように朝食を摂り始める。

「……ありがとう」

 自然と呟いた言葉は、しかし彼には届かない。


――


 風が吹いた。その日太陽は、基地の野外訓練場でアークシャインの新入隊員への指導を行っていた。

「……!!」

 30名ほどの新入隊員は、全員呆気に取られ、絶句していた。

「が……はぁっ!!」

 風は、太陽の胸に空いた穴を通った。

【無用心だな。私の能力は知られている筈だが】

 背中から深々と突き刺さった巨大な爪が、ずるりと引き抜かれる。太陽は反応ひとつ出来ず、その場に崩れ落ちた。

「キャアアアアア!!」

 新人の女性隊員が叫んだ。だが結果として、彼女が戦士としてすべきことは基地への報告であった。

【戦士の雛か】

 ランスは黒い煙を纏いながら、赤い瞳で彼らを見定める。

【皆殺しだ】

 その、周囲を威圧する声はどこまでも人間へ恐怖を駆り立てさせた。


――


 ワープ能力者は非常に危険である。そのため、アークシャインはワープ妨害装置を作った。

 ワープを使う敵……ラウムアビスは先の戦争で打ち負かし、ワープの脅威は去ったかに思えた。

 だが彼は、ランスは、アビスの王は。ワープ妨害装置の効果範囲内に限りワープできるという能力を、心理から奪っていた。

 想定はしていた。備えてもいた。しかし。

 だからと言って、完璧に対応できるとは限らない。

 基地の一角が吹き飛ぶと同時に、警報が鳴り響く。だがここは、日本のアークシャイン基地。ひかりを始め、戦士達は今中国に居る。

 現在戦える戦士は、新入隊員を除けば。

「……! くそっ!!」

 職員達が逃げ惑うなか、逆行し飛び出したのは、ブラックライダーだ。既に変身しており、光線銃を抜いている。

「まだ傷も癒えてねえのに! いきなりかよ!」

【……貴様か】

 莫大な死の気配を放つランスを見据え、良夜は無意識に身体が震えた。

「……よう王様。悪いな、寝返って」

【構わん。支配出来ぬ半深淵などそも反乱分子だ】

 瞬間、良夜のブラックシューターが火を吹いた。この距離なら、引き金を引けばその時には当たっている筈だ。良夜はとにかく連射した。

「うおおおお!!」

 ぞっと背筋が冷たくなった。

【去らばだ同胞よ】

「!!」

 黒い煙はもくもくと立ち込め、やがて空へ昇っていく。

 良夜は腰から逆袈裟に、上半身を斬り飛ばされた。

「っ――……」

 力が抜けた。最期に見た景色は、王の尾を引く赤の眼と、どす黒く煙る空だった。

【貴様だけは私の手で殺さねばならん】

 スタアライトとエクリプスを屠った憎き仇敵。我が姫を幾度と無くも悲しませた元凶。

 ブラックライダーは声を挙げることも出来ずに死亡した。


――


「おいこら! 何やってんの!」

 その声は基地にやってきていた客人から発せられた。

【……貴様】

 声の主は未来。歩けないかりんを避難させ、大急ぎで現場へ駆け付けたのだ。

「戦いは終わったでしょ!? 落ち着いたら私の話を聴くことになってたでしょ!?」

 アビスと人類の侵略戦争。ラウムの脅威は退けたが、根本の戦争、それはまだ終わってはいない。それを終わらせる解決策を未来は持っているのだが、その発表には対話が必要なのだ。

【私は「()()」を()()()()()()()だ。何も終わってはいない】

「ばっかじゃないの!? 何の生産性も無い!」

【……私が部下に遠慮すると思うか?】

 ランスは会話を断ち切った。刹那に未来の背後へ回り込み、大爪を突き立てる。

「……っ!」

 一般人である未来が、それに反応できる訳は無い。

「……ワープの速度に、反応してる……?」

 未来は冷や汗をかきながら恐るべき推測を述べた。

 本来、ワープを近接戦闘に組み込むことは不可能である。生物の反応速度はどう足掻いても上限があり、それは光速より遥かに遅いからだ。『ゼロ秒』で接近し、攻撃し、距離を取る。それを刻一刻と戦況の変わる高速戦闘で常に繰り返すなど、電気信号により動く「生物」である以上出来る訳は無い。

 だからこそ、ラウムもパニピュアも、『移動』以外にワープを使用しておらず、またそれ以外に使用できないのだ。

 『だからこそ』、それに戦闘に組み込められれば、あっさりとブラックライダーを仕留めるほど無敵なのだ。

【不思議か?】

「……そうね。ワープを覚えたての貴方がそれをしていることが何よりも。それと質問の答えだけど」

 未来は意外にも会話の成り立つこの侵略者は、やはり戦士であるのだと直感した。

「『()()』ね。まだ私を殺さない。貴方意外と身内に甘いでしょ」

 そして振り向き、笑顔を向けた。半分は勿論時間稼ぎである。そして半分は、期待であった。

「姉がお世話に()()()()()()()

【!】


――


【……念話も妨害されているか】

 闇雲に破壊しても余り成果は出ない。ランスはここに、ハルカを救出しに来たのだ。元同族を殺した感傷に浸る暇も無く、後ろを振り向く。

 そこには影が……否。

 光がふたつ。

 男がふたり立っていた。ひとりは先程のダメージから復帰した、精神体の完全生物。その精神が尽きなければ死ぬことは無い。シャインジャーリーダー、アーシャの後継者、池上太陽。

「…………」

 太陽は黙って惨状を見ていた。滅茶苦茶に破壊された基地、無惨に殺された仲間達。

 怒りが頂点に達した時、言葉を失うかのごとく。

『いや、危なすぎるで自分』

 もうひとりは、人間でもアビスでもない、もうひとつの種族。今やこの世界には、ラウムという純粋な種族は彼しか残っていない。女王アーシャの第一子、心理。太陽と同じく母の遺志を継ぐ者。

 彼は明らかに焦っていた。その腕の中には金髪の女性が抱えられていた。先程までランスの懐に居たが、その窮地は彼のワープにより脱したようだ。

「ありがと心理」

 にこりと微笑みかける。

『金輪際やめえ。自分の命使こて時間稼ぐん』

「切って」

 そしてタイムオーバー。このふたりが来た所で、未来の合図によりワープ妨害装置が「遮断された」。

【……ふん】

 ランスは通常のワープ能力は持っていない。彼のワープは妨害装置の影響下でのみ発揮される。これにより、彼の退路は断たれた。

 未来を避難させ、心理も立ち上がり太陽の隣に立つ。

『さあて、やろかいな。なあ太陽君?』

「…………ああ」

 素っ気なく答えた横顔を見て、心理は顔をひきつらせた。

『アカン。本気でキレとるわこれ』


――


 壁は吹き飛び、床は捲れ上がり、柱はへし折れる。アークシャイン基地は半壊していた。戦闘はまだ終わらない。被害はもっと広がるだろう。

 地下に幽閉されているハルカも、その戦闘の余波を感じ取っている。精神干渉による通信はできなくとも、誰かが来たのだと推測できる。

「……今こっち(日本)には、足を失った方のパニピュアと、池上太陽、それとブラックライダーね。これを相手にしてまだ戦闘が終わらないということは…もしかして先輩? んな馬鹿な」

 しかし好機である。この混乱に乗じて逃げようと、牢屋内で考える。

「一番は敵を全滅させて来てくれることだけど……まあ無理ね。余波でこの牢屋壊れないかしら」

 ハルカは今拘束されている。頭に付けられたヘッドホンのような見た目の装置には、精神力の活性化を抑える効果があった。これにより、障壁も作れず、その他能力も使えない。

「うーん……なんとかならないかなあ」

 と呟いた時。

『無様ですね。アビス』

「!」

 正面に、女性が立っていた。金髪碧眼、4対の翼。彫刻のような整えられ過ぎた顔。

「……中国ラウム」

『アウラと名乗っています』

 アウラは同じく拘束されていた筈である。何故外に出ているのか。

『ワープ妨害装置がシャットアウトされました。ワープを使えば牢屋から出ることなど、道を歩くことと同じです』

「あっそ。じゃ行きなさいよ」

 つんと返すハルカ。しかしアウラはハルカの牢へ詰め寄った。

『何を馬鹿な。怨敵アビスをこの手で殺せるまたと無いチャンスを逃す訳にはいきません』

「国は? 多分私の仲間の報復に遭うよ」

『また滅ぼせば良い。それに、女王ライチは強い。私はあの国に未練はありません』

「アークシャインへの恩は?」

『罰なら受けましょう。それを差し置いても貴女を殺す価値はある』

 アウラはその白い翼を広げ、アビスの爪に変化させた。

『ひとつアビスに感謝することがあるとすれば、「私が産まれた」ことでしょうか』

「……どこまでも利己的で自分本意。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()鹿()()。こんな種族滅べば良い」

 ハルカは死を前に全く怯むことはなかった。

『こちらの台詞』

 ハルカに凶刃が迫る。

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