第48話 緊急事態発生!その時女子は、恋バナ!?
「!」
「!?」
アークシャイン指令室では、その反応を見た職員が一斉に自分の眼を疑った。
「……そ、んな……!」
サンダーボルトと1000人のラウム兵がサブリナの支配下になった。そしてイギリスラウムの敗北。
職員達は察した。
あちらもあちらで、もうなりふり構っていられないのだと。
「指令室から、リーダーへ!」
『ひかりお姉さまっ!!』
ゆりが慌てて叫んだ。ただ事実を述べるのみ。「どうしようもないこと」かどうかを決めるのは、自分では無い。
『ゆりちゃん!? なに!? まさかもうサンダーボルトが――』
『"核"ですっ!!』
連絡は迅速に。報告は正確に。ゆりは矢継ぎ早にそれらを叫ぶ。
『「アメリカ合衆国」から! 「大陸間弾道ミサイル」が撃ち上がりました! 着弾予想は基地ではなく、"支配の無いラウム国"! 着弾まで約30分!』
はるか西のイギリスではない。今度ははるか東のアメリカから。
サブリナの自由にできる唯一の核弾頭が、無慈悲に発射された。
「そんな……!」
病棟で、ひかりは絶句する。やっとの思いで防いだばかりだ。英雄であるパニピュアは、もう迎撃に向かうことはできない。コロナからエネルギーを補給しても、そんな余力はもう無い。
ひかりの隣でその通信を聞いて、かりんは「自分と同じ血を分けた義理の兄」を見上げた。
「ああ分かってる。俺が行くよ」
「……たいちゃん……!?」
太陽は立ち上がった。彼もまたランスとの戦いで限界が来ている。しかし最早、そんなことを言っている場合ではない。
「行こう」
「うん」
太陽はかりんと向かい合った。それぞれの戦場へ、今一度戻ることになる。
その姿を見て、ひかりは止めようとはしなかった。これこそどうしようもない。自分には止める力は無いのだから。
「お願いね。きっと、らいちちゃんの国を守りましょう」
「「勿論」」
だから、激励をするしかなかった。
――
太陽は基地から飛び出して、吹雪を産み出す分厚い積乱雲を突破し、さらに上空へ昇った。
「……しかし精神力だけで天候って操れるのか?」
眼下では猛吹雪が国を襲っている。アビスやラウムは人間の敵である。今日らいちの国を襲った全てが、いつ自分達の国へ向くとも分からない。ここで防ぐことは、勿論世界を救うことと同義でもある。
『いや、あれはちょっと特殊やな。俺が翼で飛んどるんと似た原理や』
「ん」
振り向くと、8枚の翼を広げた心理が浮いていた。広げてはいるが、羽ばたいてはいない。
『また会うたなリーダーさん』
「……どうしてここに?」
太陽は不思議そうに訊ねる。しかし心理はそう訊かれるのを知っていたかのように微笑む。
『勿論、愚妹のケツ拭きや』
「第三者じゃなかったのか?」
『俺は「中国ラウムを救う」んやない。「妹を止める」んや。君らの味方でも敵でもあれへんし、ラウムアビスの敵でも味方でもあれへん。ただの妹想いの兄貴やで』
機械音声でけらけらと笑いながら答える。
『それに、俺と協力したら太陽君きみ、死なへんかもしれんで』
「!」
太陽は死ぬつもりだった。そしてそれも見抜かれていたことに驚いた。
「……やっぱり?」
『そらなあ。技……"精神集中"いうんは見よう見まねで出来るもんや無いねん。パニピュアがワケわからんレベルの天才で、スーパーノヴァは真面目な努力家やからや。その点太陽君は、別に普通やろ』
ずばりと言われて太陽は、傷付くどころか感嘆した。
「まあ、そうだ。普通だな。うん。正直死ぬと思ってたよ」
『あかんやろ。君が死んだらクリアアビス、誰が止めんねん』
「それ、第三者が心配することか?」
『当たり前やろ。「アビス」は永遠に敵や。俺の敵ちゃうで、種族の敵や。俺以外絶滅やぞ』
「……そうだな。でも、あんたも死ぬつもりだったんじゃないか?」
『!』
太陽の返しに、心理はきょとんとした。
「あんたの精神力は良くてハーフアビスレベルだ。まあそもそも戦力的に敵わないからアビスに負けたんだろうけど、『適合者』がアビスより強いのは嬉しい誤算なだけで、あんたらは基本クリアアビスには勝てない。だろ」
『……そうや。やから人間に協力を依頼したんや。「使い方」を知らんだけで、人間の可能性は無限大やと、オカンが証明した。らいちちゃんとかりんちゃん。それに太陽君は、俺らにとっても英雄や。死なすわけにはいかん』
「あんたもだ。ラウム再興のためには、まずあんたが生きていなきゃいけない」
『……結局、君の主張はなんや?』
「この戦争が終わったら、正式に同盟を結びたい」
太陽は真っ直ぐ心理を見た。
「中国ラウムはあんたらに取っても希望の筈だ。何者にも支配されていない、無垢なラウム族。彼らの権利をこの地球で得るには、アークシャインの力は不可欠だろう?」
『……ふむ』
心理は考えた。最早核ミサイルはふたりで協力して防ぐのは決定的だが、その後の話を太陽は持ち掛けたのだ。
『けどな、俺はアビスの駆逐は不可能やと思っとる』
「なぜ?」
『奴等でさえ、俺らを駆逐できんかったからや。やから俺は、アビスと戦うんやなく、停戦を持ち掛けた。「解決手段」を未来ちゃんと一緒に考えてな』
「…………」
太陽は黙った。心理の次の言葉を待った。
『いや、今言わんよ。これは、この全ての件は、そもそも「人間と地球が被害者」っちゅう話や。やから、未来ちゃんの口から語られるべき答えやねん』
「……そうか」
『まあでも、同盟な。考えといたるわ』
心理は少し嬉しそうに羽根を動かし、上空へ視線を向けた。
「……妹想いの兄か。俺の昔の仲間にも居たよ」
それを太陽は横目で見る。
『そうかい。どこの種族も一緒やな』
「そういえば、未来ちゃんを戦士にはしなかったんだな。適合しなかったとか?」
『アホ。未来ちゃんは学者や。それに、人間で居てもらわな困る話や』
太陽からの不意の質問に、心理の視線は少し泳いだ。
『(人の気ぃも知らんで、ほんまに)』
――
イギリスラウムの本拠地では、心理とらいちを見送った未来が、東の空を割れた窓から見ていた。イヴは既に拘束している。
「…………」
未来は初めての感情に戸惑っていた。自然と手を合わせ、無意識に胸元で握っていた。
彼が、自分から遠く離れ、死ぬかもしれない戦いへ赴くことが。
これほど不安になるとは。
できれば近くに行きたい。だが行っても、何の力にもなれない。ただの人間だから。
「……本当に、どうして感染すらしなかったのかな」
自分がラウムの戦士であれば、少しは役に立てただろうか。そんなことを考えた。
『ふふ』
「!」
背後でイヴが笑った。未来は咄嗟に振り向く。
『下品な人間。お兄様の「ご光栄に浴しながら」感染もしないとは。人間は欲深く、贅沢で見苦しい』
そう。本来なら。パニピュアと太陽の例を見て、彼らのような強者の誕生のメカニズムを考えれば。
「……知ってるよ。考えれば、私が3人目の『パニピュア』になる可能性は凄く高かった。でも違った。まあ、この歳で変身ヒロインもちょっと無いしね。……ていうかあんた、ブラコンなの?」
それは少し挑発気味の台詞だった。
『人間の価値観は知りませんが……私達は種族存続の為にならば全てが最優先事項になる。つまりは、私がお兄様のお子を、全て「女児を授かり続ければ」やがては憎きアビスの血も薄まる』
真顔で出たその発言に、未来はぞっとした。
「……アビスのさ、『妹=姫』の考え方もそうだけど、あんた達地球外生命って倫理とか、道徳って無いの?バンバン核撃ってさ。普通できないからね?」
『それこそ、地球でしか通用しない「人間の道」でしょう。それに、人間でもよくある上に、あらゆる地球の神話でも当たり前に行われていること』
「…………」
イヴは未来へ追い討ちをかける。
『ひとつは、「母はタイヨー・イケガミを愛していた」ということ。だからこそ、あれほどまでに適合した』
「……そっか」
だが失敗に終わる。未来の表情は段々と晴れていた。納得するように、何度も頷く。
「私は『間宮ゆり』に成れてたんだね」
『……ふん』
答えを与えてしまったイヴは、つまらなさそうに鼻を鳴らした。
アーシャは太陽へ力を与えるとき、最大限適合しようと『アーシャの方』から動いた。結果、精神体を作り出し、太陽は生命の頂点へ上り詰めた。
ならば逆に、全く適合せず、感染もしないように『操作』できるとしたら。アーシャの真逆のことを、心理はし続けていたのだとしたら。
「あれだけ迫って、あれだけ受け止めて……あれだけ『私を想ってくれていた』。それが証明されただけ、私は世界一幸せだね」
『……面白くない』
「あはは。『天使』に拗ねられたらいよいよ勝った気分になるね」
――
ミサイルの軌道予測は終わった。それを太陽へ伝えるのは自分でなくても良い。
サンダーボルトと、投下される敵歩兵の把握も終わった。あとは現場の指揮官がうまくやるだろう。
今後の行動と予測、各情報の伝達も終わった。予想外のことは、もうこれ以上起きないだろうし、起きても対処できるようにしている。
何かあれば、常に駆け付けられるよう無線は切らない。
そして。つまり。ようやく。
ゆりは33時間振りに休憩を取れることになった。
「…………」
無言で、自室へ入る。
「ふぅぅ――っ」
深く息を吐き、ベッドへ倒れ込む。そのまま意識を放り投げようとする。
「お疲れ様」
「ん」
するとドアが開き、良夜が入ってくる。そうだ、自分が呼んだのだった。そう思い、ゆりは身体を起こそうとする。
「ああ、いいよ。寝てろ。つーか寝ろ」
「ん」
上げた頭は良夜に優しく押され、ベッドへ再び倒れる。そのまま良夜はベッドの縁に座った。
「俺の怪我は大丈夫だ。もう少ししたら前線に出る。予備のベルトは持ってきてたよな」
「……ねえ」
ゆりの疲労は限界を超えていた。呼び出した良夜に対し、その理由すらもう忘れている。だから彼を見て、始めに思い浮かんだことを口にした。
「義堂未来さんて……どんな子?」
「うっ」
良夜も、少しはそれについて問い詰められると思っていた。しかしこの状況では後回しになるだろうと高を括っていたのだが。
「そりゃ、正式に交際を始めたのは大学からよ。でも私は、子供の頃から貴方を知っているもの。その苦労や苦痛や苦悩は、少なからず私も共有していると思っているわ」
「…………」
「別に責めてないわ。私自身の精神安定の為に、貴方の口から教えて?」
ゆりは、普段決して他人を貶めたり、陰口をするような人間ではない。それは良夜が誰よりも知っている、彼女の魅力のひとつだ。
だが、限界まで精神を消耗すれば、人間は『いつも』では居られなくなる。
「……ひとことでいうと」
「うん」
良夜は必死に考えた。未来を誉めれば機嫌を損ねるだろう。貶せば、今度は自分が責められるだろう。
つまり『ゆりと比べても全く関係の無い』評価を下せば良い。良夜はそう考えた。
「滅茶苦茶エロい」
「……………………ちっ」
結果的に、ゆりの口から人生初であろう舌打ちが聞こえ、そして彼女はそのまま眠ってしまった。
「………………」
深い沈黙が流れる。良夜は冷や汗が止まらなかった。




