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第46話 らいち、決死の交渉!対するイヴは……!?

「ん……ふあぁ……」

 カラリエーヴァは大きく欠伸をした。薄着で寝ていたことは気にせず、口元を抑える。

『おはようございます』

「まだ夜明け前よ」

『ですが時間です』

 側にはダクトリーナが佇んでいる。ここはアークシャイン基地の屋上。東側の地平線のさらに向こうには、らいちの国がある。

「……じゃ……行きましょうか。大量殺人は初めてだから、緊張しちゃうわ」

『楽しんで行きましょう』

 風が吹いた。強風である。その風を掴む様に、ダクトリーナは翼を広げた。

「お願いね」

 両手で抱き締めるようにカラリエーヴァを掴んだ。そして屋上から飛び降りる。

 ラウムは地球の環境では飛べない。しかしカラリエーヴァの風を受けることで、滑空を可能にする。

『やはり飛行は良い。この為に生きている様な気さえしてきます』

「喜んでくれているようで嬉しいわ」

 ふたりは仲良く、らいちの国の殲滅へ向かった。


――


「ふわぁ……あふ」

 コロナは小さく欠伸をした。風が少し寒かったが、傍らにフィリップが座っていた。ふたりはアークシャイン基地の壁にもたれ掛かり、夜を過ごしていたらしい。

「……むにゅ」

 踊り子のような衣装では寒かろうと、コロナにはフィリップの着ていた学ランを羽織らされていた。今までずっと眠っていたのだ。それほど、フェニックスアイとの戦闘は辛いものだった。

「ん~。あったかい」

 コロナはフィリップの膝へ頭を倒した。まだ眠気眼だが、そこが一番安心すると無意識に判断した。

「……起きてんなら行くぞ」

「にゅ?」

 フィリップの声がした。既に起きていたようだ。コロナは少し恥ずかしくなったが、変な意地が発生してそのまま引っ付いていた。

「……ここはどこ?」

「アークシャイン基地だ」

「ハルカは?」

「分からん。俺は精神干渉できないからな。だが精神が回復しても能力が使えない。噂に聞く『王様』とやらは無事到着したらしい」

「……私は多分使える」

「なら、これに精神力を頼む」

 言って取り出したのは、良夜から貰ったベルトである。

「……なにこれ?」

「精神貯蔵庫らしい。これに精神力を貯めて、解放することで俺は強くなる。限定的に、お前との"精神統一(スピリット・ユニティ)"を携帯できるみたいだ」

「へえ。良いよ」

「じゃ、どいてくれ。奴、夜は動きが無かったがここで動き出した。もう時間だ」

「奴?」

「ロシアラウムだ。奴は中国ラウムを狙ってる」

「私達には関係なくない?」

「……男の約束だ」

「なにそれ」

「ていうか本当にどいてくれ。なんで俺がお前に膝枕しなきゃいけねーんだ」

「…………」

「……黙るなよ。おいコロナ」

 コロナは名を呼ばれて、体勢を変えてフィリップの顔を見上げた。

 宝石の様な蒼い瞳が、フィリップを捉える。

「好きだから」

 呟いた。褐色の肌は少し赤みが差していた。

「…………!?」

 フィリップの思考は停止した。


――


『……ほれ、動けるか』

 心理は道を譲り、彼は未来と脇に控えた。そこには高級そうな装飾のされた椅子がひとつ。

「……うん」

 よろよろと、歩く。ずるずると、絹の擦れる音をさせながら、椅子に座ったのは、らいちだ。

 らいちはボロボロの衣装を纏い、血が止まったばかりの痛々しい傷と肌を晒しながら、辛そうに片膝を立てて右手で抱きながら、その椅子へ深く座り込む。そして、虚ろ気味の両目で真っ直ぐ前を見た。

『………………!』

 入り口から、赤い絨毯の広げられた先。らいちの向かいには、大きく見開かれた蒼い瞳に驚愕と屈辱を表現された、彫刻のような綺麗な顔立ちをした女性が居る。わなわなと怒りに震え、らいちを睨み付ける。

「交渉だよ、イヴ」

『馬鹿なっ!』

 らいちが呟き、イヴは叫んだ。現状が整理できずにいる。目の前の状況に、感情が追い付かない。

 「ワープ妨害装置の影響下でワープしてくる可能性のある兄」と「人類最強の人型兵器であるらいち」が、それぞれの武力を持ち寄り、目の前に現れた。何をどう考えても詰みである。

『ばっ! 馬鹿な馬鹿なっ! こっこんな……!』

『取り合えず艦止めえ。「話」はそっからや』

『…………!』

『それとも、まだ「話をするまで」の「経緯」が必要か?』

 心理がイヴとそっくりの瞳で睨む。そして遠回しに脅した。

『……全艦に停止命令。歩兵もや』

 イヴは素直に従った。彼女の声がサンダーボルトの艦長達の脳内に響き、命令を実行する。

 ようやく落ち着いたイヴは、まだ震えながらも席へ座る。書斎の大きな机を挟み、らいちと相対する。

「停止じゃない。退却だよ」

『!』

 らいちの鋭い視線が貫いた。

「もう終わりだよ。これからするのは、和平交渉なんだから」

『……ぐ』

「それとも『最後まで』やる?」

『……ぐぐ!』

 イヴの表情が歪む。

「この場で決戦にする? こんなボロボロの私なら勝てるって?」

 無理である。いくら満身創痍だろうが、いくらイヴが無傷だろうが。

 この精神は。この迫力は、この圧力は。100万の民を抱える『王の器』。それが、この小さな少女の瞳に垣間見える。正に天を撃ち抜く純金の光。

 この空間の決定権は彼女が持っている。その黒い両目が、神罰を下すべき咎人をしっかりと捉える。

『……全艦へ通達……』

 イヴは観念した。

『……』

「……」

 らいちはほうと息を吐いた。無理を言って、連れてきて貰って良かった。かりんでは駄目だった。結局は、女王である自分が直接会わなければならない。この「天使のような悪魔」に。

『……すぅっ』

 だが。

「……?」

 妙な雰囲気。誰もがイヴを注視した。嫌な空気。「なにか言い出すぞ」という、厭な予感。

 イヴが観念したのは。

『……「()()()()()」。イヴ→サブリナ』

 自ら王となることのみであった。

『こいつっ!!』

 叫んだのは心理。即座に前へ躍り出で、イヴの首を掴みながら後ろの窓ガラスへ叩き付ける。ガラス自体は先程イヴがひとりで暴れたことで割れているが。

『さあ殺しなさい、お兄様。ライチ・イガラシ。私は最早「イヴではない」』

『…………!』

 歯噛みする心理。

「……なに?」

 首を傾げるらいちと未来。振り向いた心理は、不安と焦燥を表情に出していた。

『……アカン。イギリスラウム1000人兵は、たった今全部、「サブリナの支配下になった」』

「は!?」

『ええんか貴様、王族が自ら支配権を放棄したんやぞ! この時点で「選王」脱落やっ!』

『結局詰みでしょう? ならば、「できるだけお前達を苦しませる」くらいしかできない。なに、ライチ・イガラシがアウラから兵を奪ったのと結果は同じです』

『……くそがっ!』

 それだけは。それだけはしないと思い込んでいた。彼女らは非常に利己的であり、例え死に瀕しても「それ」だけは手離さないだろうと。ラウムという種族の、王族が。自分が王に成ることしか考えていない奴等が、他人へ兵を「タダでくれてやる」とは。

『……まだまだ。まだまだ終わらない。この泥沼の戦争を、高みから見物していますよ』

 イヴはもう、失うものが何もない。余裕の笑みさえこぼれた。

「…………サンダーボルトが、また動き出した」

 らいちはアークシャイン基地からの通信を聞く。それを、まるでそうしなければ飲み込めないかのように、ぽつりと呟いた。

「……爆撃が始まる。また皆が……」

 らいちは再度。もう何回目か分からないが。

 深く息を吐き。もう一度歯を食い縛り、拳を握った。

「サブリナ……っ!」


――


『アハハハハハハハハ!!』

 手を広げて喜びを全身で表現した。サブリナはサンダーボルト1号の甲板で朝日を浴びながら、その場に寝転んだ。

『最強の空中戦艦が、全て私のもの! 自由に機動させ、世界中空爆可能!』

 まるで遊園地に連れられた子供のように踊っていた。

「結構撃墜されてるけどな」

『まあそれは』

 共に乗るスーパーノヴァの言葉で冷静さを取り戻した。

『では気を取り直して。愚姉愚妹に代わり、私がきっちり滅亡させましょう。イヴは結局ただの科学者。「戦艦の運用」では所詮二流です』

「だが具体的にはどうするんだ? ミサイルは撃ち落とされるし、パニピュアレベルが乗り込んできたら墜ちるのは変わらない。さらに『お兄様』とやらが敵に回った。だろ?」

 スーパーノヴァが現状を整理する。しかしサブリナは笑みを崩さない。

『お兄様はただの第三者。結局は誰の味方でもない。彼の目的は私と同じだもの。それを対話で為そうとしているだけ。だから……「こうすれば」「お兄様は」「死ぬ」』

「……?」


――


 場面は変わり、アークシャイン前線基地。その病棟。良夜が運び込まれた一室に、新たな患者がやってくる。

「……お」

 満身創痍でベッドに寝ている良夜が、僅かに顔を上げて迎える。

 かりん。そして太陽。その後ろにひかり。

「大丈夫? りょーやお兄ちゃん」

 包帯をぐるぐるに巻かれたかりんがベッドへ歩み寄る。

「いやいや、君の方がやばいだろ。ゆっくり寝て休め。……らいちちゃんの方は?」

「彼女はかりんと比べて少しだけ元気でね。…イヴと話を付けに行った」

 答えたのはかりんの頭にぽんと手を置いた青年。良夜が目線を上げると、初対面の顔があった。

「初めまして。色々と……お世話になったみたいだな。ブラックライダー」

 太陽である。

「……噂のリーダーさんか。スタアライト兄妹にやられた傷はもう良いのか?」

 良夜は少し皮肉気味にそう言った。

「そうだな。俺が居なかったことで招いた全てを、いずれ清算しなきゃならない。でもそれは、この戦争に勝ってからだ」

「……真面目に返さなくて良いぜ。誰もあんたを責めちゃいないさ。それより……」

 良夜の目線は、太陽の背後のひかりへ向かった。正確には、彼女の右手に。

「ひかりちゃん、それ……」

 言われてひかりは、俯きながら自分の右腕を左手で抱える。その右腕の先にある筈のものが、無いのだ。

 彼女の右手は、サテライトことハルカに切り落とされたのだ。

「かすり傷よ。辰彦に比べたら」

 自分に言い聞かせるようにこぼした。そして顔を上げて、力強く前方を見据える。

「私は傷病人じゃないわ。たいちゃんとかりんちゃん達を送りに来ただけ。良夜くんもお疲れ様。ゆっくり休んでちょうだい」

「……そうだな。俺より、ひかりちゃんが会うべき相手がいる」

「……」

 良夜がまた皮肉をひとつ。しかし事実、ひかりは「そのために」ここへ来たとも言える。

 ひかりは、立つのがやっとのかりんを良夜の隣のベッドへ寝かせ、限界が近い太陽へ肩を貸しながら、一般の兵は立ち入り禁止となってる区画へ進む。太陽も、負傷者ではあるがまだ休めない。右手を欠損したひかりがまだ頑張っているのだ。「戦い疲れた」程度で休んではいられない。

「あっ。……お疲れ様です」

 元、間宮家の医者達で管理管轄されるこの病棟。医者の男性ひとりがひかり達に気付き、頭を下げる。

「ええ。……どう?」

「……外傷はありません。極度の精神消耗……この症状はよく見ますよ。心配はありません」

 男性は得意気に語る。昔はいつもボロボロで帰ってきた良夜を、ことごとく治療してきたのだという自負を感じ取れた。

 ひかりは男性に謝辞を述べ、場を外してもらう。そのベッドには、彼女らにとってやや意外な人物が横たわっていた。

「初めまして」

「……ん」

 ひかりが短く挨拶する。ベッドの横にある椅子に座り、その人物と目線を合わせる。

「…………」

 弱々しくも警戒を示す蒼い瞳。ひかりはゆっくりと、安心させるように口を開く。

「大丈夫。何もしないわ。話をしたいだけ。……えっと、名前は」

 その衰弱した少女が、基地へ預けられたのは数時間前。

 預けた青年は、良夜の装備品を身に付けていた。敵意は無かった。むしろ、らいちの国の防衛に協力してくれるのだという。

「……"光冠(コロナ)"」

 協力の保証と、良夜(同族)への信頼。らいちの国まで数100キロの旅をさせる訳にはいかなかったフィリップは、それらを盾に泣く泣く彼女をアークシャインへ預けた。

「それはアビスとしての銘?」

「……そう。人間だったころに、私に名前は無かったもの」

 コロナは警戒していたが、恐怖は無かった。情報を探られるのは当然考えられる。だが怯まない。想い人に想いを告げた彼女に、恐れるものは何も無い。

「私は人間じゃなくて、アビスに救われた。あなた達人間に今更恨みもしないけど、私はアビスだから」

 コロナは思い出していた。否、いつでも思い返している。

 人間と人間社会は自分を拒み、アビスは自分を受け入れてくれた思い出を。


 フィリップの顔を。

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