第45話 決戦終幕!しかし戦争は終わらない!
ランスは選んだのだ。『他の全てより、優先すべきモノを』。
部下を、戦いを、宿敵を。投げ出しても、救うべき相手を。
『いつつ…たっはっは』
尻餅を突いた心理が、頭を掻きながら笑う。なるほど、一番大事な者がここに居ないランスが、この場では最終的に有利であったのだ。極論「ハルカを殺されようと彩が生きていれば良い」と。
「…………」
ゆらり、ハルカは立ち上がった。敗北した自分は見棄てられた…? 否。『そんなこと』は彼女の脳裏に過らない。過る筈も無い。
誰であれ――自分も同じ立場なら。同じように行動した筈だ。
「む」
その敵意の瞳に、太陽は杖を持って警戒した。
「……私より。アビスの真実より。この場の全てより……大事な物がある。大事な人が居る。敵か味方かも分からない奴には任せられない。『先輩は正しい』」
「……ハルカちゃん」
「お姉ちゃ……」
ハルカは半透明の防御障壁を薄く作り、刃のようにそれを握った。
瞳に殺意が灯る。
「…………」
ハルカは冷静に考えた。戦いにはまず勝てない。こんなボロボロの状態で、肉体を超越した完全生物である精神体の太陽と、まともな戦いになる筈も無い。さらには回復しつつあるシャインヴィーナスとパニピュアが控える戦場。周囲には放射性物質の満ちる地獄の領域。飛べても生き残れるか分からない上、そもそも『飛べない』。彼女の飛行能力は既に王に捧げた後だった。
だからこそ。その場の誰もがそれを理解しているからこそ。
「……ハルカちゃん、君はこのまま捕虜になってもらう。アビス王との交渉の為にね」
太陽は当然の選択を持ち掛け。
「……先輩の足は引っ張らない」
ハルカはその刃を、自身へ向けた。
「おい止めろっ!」
太陽が慌てて手を伸ばす。
だがその刃は、ハルカを貫くことなく止まった。
「……」
ハルカは冷静に考えた。
自分が死んだ、その結果を。
「お姉ちゃん」
未来を見た。止めようとはしていない。ただ、自分の選択に任せているようだ。もし死んでも、悲しみはしないだろう。彼女の目的は姉を救うことではない。敵に不本意に殺されるならば助けるが、自分で選んだ死なら介入しない。それがこの姉妹の在り方だった。
「……」
彩は。
もう誰も死んで欲しくないと、言った。自分はそれに応えようとした。必ず死なせないと誓った。
その「誰も」には。
ハルカも含まれている筈だ。
「……そうね」
敵に捕まっても、情報を与えても、隙を見せても。王の足を引っ張っても。
生きて。生き延びて。
いつか建てる王国で、皆一緒に。それが彩の願い。
大丈夫。我らの王は、引っ張られる足ごと、そのまま仲間を引き上げて救ってくれる。
ハルカは刃を手放し、無抵抗で歩み寄った。神秘的なベールの方へ。
その瞳は凛々しく。
『最強』は格落ちした。だがそれでも強者の風格は健在だった。
――
未来は宣言通り、爆心地での戦いを終わらせた。皆、疲労が溜まっている。太陽のベールに護られているが離れられないため、イヴの動きが無い以上その場で休むことになった。
『さて時間や。アークシャイン』
「ん」
7時間後、立ち上がれるまで回復した数人のシャインジャーが、ハルカを拘束する。それを見届け、心理は太陽へ話し掛けた。
『君らの相手は、今回はアビスちゃうかった筈やろ。始まるで』
「ああ――……えっと、間宮さん?」
しかしリーダーは、先程目を覚ましたばかりである。状況はいまいち把握できていない。
『はい。えー……。今回管制官長を務めさせていただいている、間宮ゆりと申します。初めまして、池上……リーダー……?』
ゆりだけでなく、旧シャインジャー以外のメンバーは、ほぼ全員太陽との面識が無い。現場の兵士は彼の勇敢で強力な戦闘を見たため、ある種の信頼は生まれているが、基地の職員とはまだ温度差があった。
「よろしく。池上太陽だ。とは言っても、今作戦の指揮はひかりだろ?俺はサポートに徹するよ。兵として使ってくれ」
察した太陽は、ひかりへ投げた。
「……え」
言われてひかりは声を挙げる。
「なに固まってんだよ。夜が明けるぞ。どうする?」
「………………うん」
ひかりは考えた。そして無自覚に、このまま太陽に任せようとしていたことを恥じた。500人のシャインジャーが指示を待っているのは、太陽ではなく自分だと。こんなにも多くの同志が集まってくれたのは、太陽ではなく自分を旗印にしてのことだと。
「たいちゃん、このベール、移動できる?」
「ああ」
「なら、動ける者は負傷者を運んで。基地からは車を回して。森を抜けた地点を集合場所に、撤退するわ」
『了解!』
「……死者はどうする?」
太陽の視線の先。そこには首だけになった、辰彦が居た。
「運べる余力は無いわ。残念だけど、回収は汚染が落ち着いてから」
『ひかりお姉さま、1000人のラウム兵が動き始めました』
ゆりからの通信。ここから数キロ先の地点から、基地へ真っ直ぐ進軍してきていた。
「カラリエーヴァさんは?」
『……数時間前から応答がありません。まだ屋上に居るようですが』
「……じゃ、歩兵をかき集めて。シャンヤオ」
『あい』
即座にシャンヤオからの応答。
「頼める?」
『お任せよ。適合したラウム兵は、一騎当千。ちょうどぴったし』
「お願いね。……パニピュアは」
そして、振り向いた。らいちとかりんは、心理によって空中に浮いている。
その傍らに、心理。
「ごめんない……まだ動けそうにないや」
かりんが弱々しく呟く。
「良いのよ。休んでいて」
『……じゃ任せんで。俺らはサンダーボルトを止めるわ』
宙に浮いていたふたりを、兵士が受け取る。パニピュアは力無く彼らにうなだれ、おぶさった。
「たいちゃんは?」
サンダーボルトは、彼に任せれば良いのではないか。ひかりはそう考えた。
「いや……駄目だ。悪いけど、俺も限界らしい」
だが、太陽はかぶりを振った。見れば、彼の身体が霧のように揺らぎ、空気と混じりそうになっている。
『「活動限界」やな。本来精神を護っとる肉体が無いんや。力尽きたら即死亡。"深淵"とバトったんや。その消耗は気付かん内にえらい溜まっとる筈やで』
「……」
心理が説明する。それを太陽は、まじまじと見ていた。
『……なんや?』
「いや……。なんで関西弁?」
この場の全員が気になっていたことを、口にした。
『君な。その言い方は大阪弁と神戸弁をごっちゃにしとる奴の言い方やぞ』
「……え」
『覚えとけ。……あ、ここで「覚えとき」言うんが、ちょい東の大阪、京都寄りの言い方やで』
「……え、うん。なんで神戸弁?」
『神戸ちゃうわアホ』
「……うん。なんで方言?」
『もし大阪が首都やったらお前らのが方言やろがい』
「いや、うん……」
太陽は諦めた。
――
「お姉ちゃん」
未来がハルカへ声を掛ける。後ろ手で拘束されたハルカは振り向いた。
「なに?」
ハルカはもうとっくに落ち着きを取り戻している。そしてその眼は、未来にさえ、助けを求めては居ない。
未来も助ける気は無い。
「……対話は大事だよ。どこへ行っても、誰とでも。知性を持つ生物同士はお互いに完全には理解し合えない。だけど出来るだけ近付くことはできるし、その努力には価値がある。そもそもお姉ちゃんが言い出したんだから」
「分かってるわ。ありがとう未来。事態が落ち着いたら、話の続きを聞かせてね」
「うん」
姉妹の会話はそれだけだった。ともすれば簡素で、端から見れば情の無い姉妹に見えるかもしれない。
だがこれがこの姉妹の在り方であり、絆であった。
――
それから1時間後。太陽達と共に爆心地の森を抜けた未来は、いつものように『独り言』を話す。
「魔法と超能力は同じって言ったよね」
語り掛けるが、相手は居ない。傍らに心理が侍るが、返事をすることは無い。いつものことだ。心理はただ、前を見て歩きながら、未来の声に耳を澄ます。
「いや違うだろ……って意見も尤も。だけど似たようなものには変わりない。『現代科学で未承認の物質が、個人の意思により行使されて物理的影響を及ぼす』という点に於いて、同じ。『ふじ』も『ジョナゴールド』も『リンゴ』という点に於いて同じってこと。そして」
未来は上空を見上げた。空には巨大で重厚な、要塞と呼べる鉄の化け物が我が物顔で浮いていた。
「そして、『果物』という点では、リンゴも梨も変わらない。『自分の意思を相手に強制させる』という点で……『戦争の手段』という点で、『化学兵器』も『特殊能力』も『魔法』も変わらない」
マッハで空を駆ける巨大な戦艦。サンダーボルトが未だに中国領へ入っていないのは、単にアークシャイン基地からの迎撃によるからだ。間宮ゆりは世界最高峰の軍事技術を持ち込んでいる。日本では犯罪だが、彼女の企業は最早名を変えて世界中に展開されている。
かつて世界と繋がっていた国際企業『アークシャイン』の、残された全てのコネクションを使って。
「行くよ心理。……『ワープ』」
未来の呟きに応え、心理が翼を広げた。
「ポケモンみたいに言いなや」
そして彼らの影は、足跡のみを残してその場から消えた。
――
ワープ能力者同士の戦いでは、相手に居場所を知られれば敗けとなる。だから常に移動していなければならない。
イヴの作戦は上手く行っていた。相手のワープ能力者はパニピュアとブラックライダーのみ。ここを封じれば良い。つまりは核ミサイルをちらつかせているだけで封じれる。
そしてイヴ本人は、イギリス本土に居る。アークシャインがいくら中国でサンダーボルトを迎撃しても、イヴには届かない。消耗させたところで、イギリスにはまだまだ空中戦艦はある。『たった5隻』しか造っていない『訳は無い』。
『物量。それを支える国力(経済力)。それが強国たる理由。英国は地球史上2度の世界大戦に勝っている。新興国と腰巾着に敗ける道理は無い』
たった今、追加でサンダーボルトを発進させた。既に泥沼の消耗戦であるが、ここで退くわけには行かない。
『だがもう核は無い。パニピュア復活前に決着を付けなければ』
イヴは焦っていた。サブリナの独断による彩暗殺未遂にも反応している暇は無い。結局は失敗したのだ。どうでも良い。今は中国ラウムを滅ぼすことを考えねば。
『……ダクトリーナ』
『はい? どうしました?』
精神による交信。それは1秒の時差無く相手と繋がる。イヴは中国ラウム領に居る筈のダクトリーナに連絡した。
『襲撃は?』
『カラリエーヴァは就寝中ですよ。あの子は規則正しく――』
『早くしろっ! 何のためにそこに居るんだお前はっ!』
イヴは焦っていた。本来ならライバルであるサブリナやダクトリーナと手を組むこと自体、忌々しく避けたいことだった。
『はいはい。……末っ子は甘やかされてるから我が儘で怖いですね』
だが王が来た。アビスの王。彼女らが『旧体制派』と呼ぶ者。それが来た以上、『新体制派』として、共通の敵である。手を組んで倒す必要がある。
『黙れっ!』
イヴは焦っていた。今すぐにでも戦争に勝てる位置にいるダクトリーナが、最も扱いづらい性格をしている。ここまでもどかしいなら、ワープが妨害されていなければ自ら行っていたかもしれない。ああ何故サブリナは、その隙を作ったというのに実行せず日本などに飛び、そしてその作戦を自分には伝えなかったのか。
『……どいつもこいつも……!』
自分勝手である姉達を呪った。ラウムは群体である筈だ。何故思い通りにいかない。早く王にならなければ。
『そらラウムの王族は自分勝手やろ。お前を含めて』
『!』
精神干渉――ではない。その機械音声は、イヴの居る洋館の書斎、そのドアの方から聞こえた。
窓を見ていたイヴは振り向く。するとそこには、「彼女が恐れていたもの」が「全てあった」。
――補足説明⑪――
義堂姉妹と、アーシャの娘達。
彼女らはどちらも自分勝手に生きていますが、お互いを尊重しているかどうかが違います。




