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第43話 語る未来。戦争を終わらせるため……!

 『その学問』は、実は解釈に幅があった。

 曰く、既知の自然の法則では説明できない現象を研究する学問。

 曰く、いわゆる超能力を研究対象とする学問。

 曰く、心と物、あるいは心同士の相互作用を科学的な方法で研究する学問。


 評価も様々だった。

 科学として認められる。

 科学として認められるが、心理学ではない。

 そもそも研究対象が存在しない。

 所詮オカルトに過ぎない。


 義堂未来は、そんな説明では満足しなかった。だから彼女は、『それ』をこう定義した。

 『生物の心理・精神が物理に影響させる、なんらかの作用を研究する学問』と。

 義堂未来がその道へ進もうと決意したきっかけがある。彼女は『予知夢をよく見る体質』であった。ささいなことから、家族の大事件まで。一定の年齢に成長するまで、その夢は続いた。最近はさっぱり見れず、もしかすると多感な時期に起こった、ふとした記憶を無意識に改竄しているのではないかとも思えるのだが、その予知夢は周知であった。だから、その正体を突き止めるために、わざわざ国内唯一の研究機関へ進んだのだ。


 彼女は言う。

 太古の昔から……『人類は』。

 『それ』を夢見ていたと。


――


「分かりやすく、結論から言うね。……例えば『魔力』。あとは『霊気』? 『妖気』? ……『マジックポイント』とか。それとも『神通力』。中国では『気功』。お坊さんの『法力』とか、巫女さんの『巫力』。『呪力』。……etc.」

 彼女は指を折りながら、挙げ連ねていく。

「おおよそ『精神』を媒介に、外界へ干渉する力の源。……それらは『()()()()()()』であり、『()()()()』。……つまり『魔法』と『超能力』に、()()()()()()()()()()()。『魔術』と『技術』に、差異は無いの」

 未来は上を見上げた。外は少しずつ、温度が下がってきている。しかし未だ、出ることは許されない。そしてそんな場所で、ぶつかり合うふたつの精神。

「……あとは『魂』とか。あの人たちの状態って、結構色んな漫画とかアニメで見るよね。物理無効の精神だけの存在。『あれ』は現実に『有り得る』。それが確認できただけ、私の研究は無駄じゃなかった」

 未来は、なんとも満足した表情を浮かべた。

「精神力をエネルギーとした文明……だってね確か。そんなの、超能力じゃん。テレキネシスでしょ? それを『高度な文明』として『科学と見なされている』。……つまりアビスが地球に来た時に超能力と魔法は科学的に『解明された』」

 それから、隣に立つラウムの少年へ視線を投げた。

「行って? 戦いを止めてきて。池上太陽氏が指定した『対話』の指定時間はまだ終わっていないから」

『任せ』

 少年は短く答え、あっさりとベールを貫き、死の爆心地へ飛び込んだ。


――


「……不思議ですか? 長谷川ひかりさん」

 未来はその視線を、背中で受けた。ひかりは身体をびくりと震わせ、恐る恐る語りかける。

「……ええ。ここへ来れたのは、さっき言っていた」

「『ワープ妨害装置の効果範囲の内、指定した範囲のみワープを可能にする特殊な地場を発生させる装置』」

「……それで来たとして。あなた、義堂ハルカの」

「妹の未来」

「……アビスの協力者ってこと?」

「いや? 私は中立。どちらの味方もしない。人間が勝っても滅んでもどちらでも。マクロはミクロにとってはどうでも良い。『人類が滅びようが、私が死ぬ訳じゃない』」

「……それに、あの男性のラウム? 各国に散ったラウムは5人だった筈。……『6人目』ってことじゃ」

「『1人目』だよ。正確には。……えっとね」

 ハルカを抱く腕を緩め、未来はゆっくりひかりを見た。

「長女はロシアの『ダクトリーナ』。確か主義とか教義って言葉だね。次女が『アウラ』。オーロラのことだよね。三女が『サブリナ』。永遠の妖精と言われた主演女優の映画からだね。四女が『エール』。フランス語で空気の意味。で、末っ子五女が『イヴ』。言わずもがな、旧約聖書から」

 連ねたのは、地球へやってきたラウムアビス、つまりアーシャの娘達の名前。名前はその国の人々に付けられたものであり、その由来や意味を語る。

「ま、統一性は無いけどさ。で、私が『彼』に付けた名前だけど」

 説明しながら、目を丸くしているひかりを視界に捉える。

「うん、彼は公に姿を現さなかったでしょ? だから私が名付けるしか無かったんだよね。彼は長男。アビスに滅ぼされる前に産まれた、現状唯一無二の『純血ラウム』。王としての器と能力、『格』は勿論パニピュアより上だよ」

「……純血、ラウム」

「サブリナやイヴ達は皆、父親はアビスだからね。彼女らが戦いに勝っても、結局はアビスの勝利になって、人類は滅びる。知らなかった?」

 そこで、一際大きい衝撃が起こった。あのラウムの少年が、太陽とアビスの戦いの間に割って入ったのだろうと、未来は笑みをこぼす。

「彼は『心理』。……私はほら。そんなセンスは無いからさ。私の研究対象の一部から取っちゃった。けど、彼は気に入ってくれた」


――


 心理。そう名付けられたラウムは、8枚の翼を広げ、勢い良く羽ばたいた。

『ほな行こか――。未来ちゃんの見た「未来」へ』

 飛び立った。この地球の大気では、ラウムは飛べない筈である。それはアーシャからイヴまで、全員がそうである。結局、ワープがある以上飛ぶ必要性すら無かったのだが。

 心理は力強く羽ばたき、空気を下へ押し込めながら上昇していく。

「おおおおおお!」

『ふんっ……!』

 上空では、太陽とアビスが杖と爪をぶつけ合っている。

 太陽はアーシャの白い杖を巧みに使い、アビスの隙を突いて攻撃を当てていく。

『面白いものだな。人間が知恵と歴史を使って得た「術」。……それは剣術か? 棒術か?』

「あんたこそ、ただ力に任せて振るうだけの爪。だけど効率良く最短で俺の命を狙ってくる」

 お互いの攻撃は必殺であるが、お互い防御に秀でていた。だからこそ会話の余裕すらあり、だからこそ戦いは長引いていた。

『ちょっと待ちい君ら』

 そこへ、心理が現れた。彼はふたりの間に入り、戦いを仲裁した。

「!」

 その姿に、太陽が反応した。

『対話は重要や。敵対相手の意思を理解するのは特に。……情報収集と状況把握は、どこの宇宙でも「リーダー」に必要なスキルやろがい』

 心理はアビスを睨み付けた。

『……それを怠ってミスったアホはおるけどな』

『……良いだろう。だが「対話」が終われば再開だ。貴様も殺す』

 アビスは、ラウムという種族が強力な独裁支配による群体だということを見抜けなかった。それは王にとっては相手の実力を見誤ったことによる失態であり、それによりアビスという種族は絶滅の危機に瀕してしまっている。

 それをアホ呼ばわりされても、アビスには反論できない。己は(リーダー)として未熟だったと自覚しているからだ。だからこそ。

 もう先代のような失態は演じない。同胞は数少なくなってしまったが、もう失うわけにはいかない。この力と知恵で、全員を守りきる。そう誓ったのだ。

「……あんた、アーシャの……?」

 太陽は全く別の事を考えていた。その容姿から連想した。もしかしたら『この杖』は、本来は自分ではなく、彼が持つべきものなのではないか。

『……息子や。オカンがえらい世話んなったなあ、シャインソーラー君』

 心理は太陽に懐かしむように微笑み、それから地上へ高度を下げていく。

『降りい。夜明けまでや。明けたら(イヴ)の爆撃が始まってまうからな。俺はそっち止めんならん。後は好きに殺し合えや』


――


 すとんと降り立った。心理はハルカを抱く未来の隣に、馳せ参じるように翼をはためかせて舞い降りた。

 太陽はひかりの前に、庇うように着地した。そもそも自分が持ちかけた対話だ。拒否などしない。

 アビスはずるりと大地に溶け込むように落下した。未来の姿を一瞬視界に入れたが、ハルカに危険が無いと分かり、近付きはしなかった。

『……何度中断させられるのだ、この戦いは』

『はっはっ。天下のアビスからツッコミ飛ぶとはな』

 心理は笑い声を挙げ、それから未来を見た。

『未来ちゃん』

「うん」

 未来はハルカをそっと起こし、岩に持たれかけさせて座らせる。そして立ち上がり、振り返った。

「……!」

 緊張な面持ちのひかり。その背後で、ようやく意識を取り戻したシャインジャーの生き残り達。『その奥で、通信機器を介して聞く間宮ゆりとアークシャイン管制室』。

「……はぁ……ふぅ」

「けほ……らいち……」

 太陽のベールにより辛うじて回復してきたパニピュア。

「……未来……」

 落ち着きを取り戻してきたハルカ。

 未だ素顔を見せないアビス。

 その表情からは感情が読み取れない、太陽。

 そして不適に微笑む心理。

「…………すぅ」

 息を吸い、喋り始める空気を醸し出した。

 この場の全員の視線が、未来へ注がれた。

「……人間とアビスの戦いの、そもそもの発端。『その問題』は、()()()()()。それを伝えに来たの」

「!」

 全員の眼が見開かれる。アビスもぴくりと眉を動かした。

「方法はふたつある。よく聞いて」

 指を2本立て、語り始めた。


――


 ひとつは、既に実験済みで、実証済み。あなた達も良く知る『優月良夜』さん。ブラックライダーだね。彼は元人間で、10年前に飛来したアビス粒子から覚醒したハーフアビス。だけどクリアアビスからの精神干渉を受けない体質だった。それ故にあなた方アビスは彼の存在に気付けず、またそれ故に彼自身、支配されずに心は人間のまま、随分苦しんだ。

 それが10年前。ここで疑問が生まれるよね。……食事はどうしていたのか、って。

 心は人間だろうが、肉体は立派にアビス。アビスは周知の通り、精神を主食としている。アビスも生物だから、食べなきゃ死ぬ。この10年間、彼は何を食べていたのか。やっぱり人間? スタアライトのように隠れて人間を狩っていたのかな?

 答えはNO。彼はただの1度も、人間に手を付けては居ない。……別の意味で女性には手を出していたけれど。とにかく、この地球上で唯一アビスの食事足る人間の精神を、彼は1度も摂食していない。ならば何故、彼は10年も生き長らえているのか。

 もうひとつ、彼の人生を語る上で欠かせない存在が居る。間宮ゆりという女性。今はアークシャイン職員だね。間宮家の若き当主で、間宮コンツェルン総帥。彼女の全面的な協力のもと、彼はその身に何が起きたかを理解し、克服した。

 ……人間を食べるって言っても、どうすると思う? 肉体じゃなく、精神を食べる方法。殺して肉を食らうだけでも一応は良いらしい。けれど、わざわざ肉を食べなくても、精神を補給できれば良いんだよ。

 つまり、「誰かからの意思で」「心を満たせば良い」。それがアビスの生きる糧になる。

 ……答え言っちゃうとね、間宮ゆりは優月良夜を……


『わあー! ちょっちょっちょっ!!』


――


「……あはは。聞いてたか」

 突如ひかりの服の中から声がした。ひかり自身も少し驚いた。通信機器から、ゆりが大声であわてふためいている様子が声だけで分かった。

『なにこれ!? こんな……。公開処刑!?』

「うんごめん。間宮ゆりさん。初めまして。義堂未来です」

『初めましてっ! も、もう良いでしょ? ていうかなんで貴女がそんなこと知ってるのよ!』

「あはは。言っちゃうと、私も『手を出された女性』のひとりだからねぇ」


――


――


『「………………は?」』

 世界が停まった。その重い台詞は、ふたつの口から同時に溢れた。

 すなわちハルカと、ゆりである。ハルカはゆらりと、怨嗟の籠った瞳を向けた。

『……ザザ……ガ』


『……ガ……』

 ノイズが響く。勿論この通信は、リアルタイムでアークシャイン全員と繋がっている。

 つまり件の『彼』とも。

『…………良夜くん?』

『ガガッ……!』

 それはノイズというより、彼の心情を表しているようだった。

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