第40話 太陽vs.アビス!頂上決戦、一時中断……!?
サンダーボルトからの爆撃は再開されなかった。地上へ歩兵が投下されただけに止まった。恐らく明日に備えてのことだろう。ラウムといえど、パニピュアほどの継戦能力は無いようだ。
アークシャイン基地の、ひとつの窓ガラスが割れ、人影が飛び出した。
「ぐぅぅ! この……っ!」
人影は手から糸のようなものを射出し、壁へ張り付いた。
「できそこないのラウム兵のくせに、このアタシがっ!」
既にボロボロになっている。続いて窓から、追撃するように影がもうひとつ飛び出す。
「……あたあっ!」
「ぐぎゃ……!」
シャンヤオは壁を使って三角飛びをし、スパイダーレディの背中を片足で踏みつける。
「……"精神集中"」
そしてそのまま、もう片方の足で弧を描くように蹴り抜いた。
「はあああああああああああああっ!!」
「やめっ! ぎゃああ!」
一閃。
スパイダーレディは鋭い蹴りにより頭から真っ二つになり、絶命した。
それを確認したシャンヤオは、また壁を蹴って、基地の正面広場へ着地した。
「……ふぅ。この『精神の力』と『中国拳法』。相性抜群ね。馬鹿ワタシ、なんで気付かなかったのか」
シャンヤオは戦いながら、スーパーノヴァの編み出した技を自力で修得していた。
「ひかりサン? ……あれ、通信が……雪?」
シャンヤオは周囲を見回す。爆撃や、キャプテン・ラウムの特攻により陣形は崩壊し、負傷兵が撤退し、伏兵が基地から出てくるところだった。
『……闪耀……さん!? 日本語分かりますかー?』
「あい。月にカワテおしオキ済みです。あの蜘蛛女」
基地内のオペレーターから通信が入る。一応捕虜を基地外に出すのは良く無いのだが、非常時で言っても仕方無い。
『ありがとうございます!』
「次は?」
『!』
シャンヤオは全く気を弛めていなかった。まだ終わっていないと、辺りに満ちる『戦いの気』が、彼女にそう告げていた。
「ワタシ、もっと戦いたい。祖国を守る戦い。部外者に任せるのは恥ね。……まだ、空に戦艦が浮いている」
『……分かりました。ではこちらのシャインジャー達と合流し、基地の防衛を』
「あい!」
シャンヤオは上機嫌で構えを取った。
――
夜が来た。爆撃再開は、恐らく夜明けからだろう。アークシャインは一先ず、見張りを置いて撤退命令を出した。太陽の指示である。
「…………!」
その様子を一部始終、国民は見ていた。聞いていた。映像を。音声を。
知る権利――当然である。らいちはそう言った。自分達の国は自分達で作る。そして同じく、自分達で守らなくてはいけない。
今回はその理解と共有を目的としていた。『何が起きているのか』その把握をしなければ、国民の理解は得られない。
「俺たちは……こんな化け物に狙われてたのか……?」
市内に住む男性はテレビの映像を見て、驚愕する。
「……なんでこいつら、戦ってくれてんだ?」
「日本人なのに……『女神』を奪ったのに」
「シャンヤオも戦ってるぞ」
農場の女性はラジオを聞いて、震えている。
「……女王が」
「女王が戦ってる」
「……あんなにボロボロになって、一生懸命」
「俺たちを守ろうと……」
「おい! 女王が敵のミサイルに突っ込んでいったぞ!」
「大丈夫なのかよ!?」
「核爆発だ!」
「おいっ! 女王は無事なのか!?」
国民の関心を集めることには、大成功であった。
――
夜。サンダーボルトは沈黙した。雪は降り始めたが、これ以上強くはならない。カラリエーヴァも今日は動かないだろう。
「……ふっ!」
『ほう』
だが。ここは違う。
爆心地。数百万度の熱と放射能汚染の満ちる『生物立ち入り禁止』の禁断の地で。
「おおおっ!」
『ふん』
ここでの戦いは終わっていない。止まっていなかった。
「はああっ!」
太陽は白い杖を巧みに扱い、アビスへ連打をかける。アビスは黒い煙のローブを盾に、それらを受け流す。
ふたりは常に音速で移動しながら、爆心地の範囲を出ずに攻防を繰り返していた。『邪魔されたくない』という共通の思いが、無意識にふたりの『リング』を作っていた。
『!』
「うっ!」
杖を躱し、顎に一撃を入れたアビス。動きの止まった太陽へ、肉体変化の凶爪が迫る。
『裂けろ』
「なんの!」
一瞬にして、自身の身体より巨大な鎌となった爪は、空間を蹂躙していく。太陽は器用に身体を捻り、杖を使って防御しつつ距離を取った。
『……戦闘センス……か。「リーダー」は伊達では無いのだな』
「ったりめぇだ! こちとら世界所狭しと飛び回る宇宙戦隊シャインジャー、その『戦闘隊長』だっつの!」
『だが肉体はラウム由来だ』
「それはしゃあねえ。アーシャの願いだからな」
『強欲な男だ』
「お前もだろ。世界征服なんだから」
『ほう。そうだな』
息を整えた太陽が、また攻撃を仕掛ける。アビスの超常的な動きや能力に、確実に食らい付いてくる。この域に達する個体がこの惑星で発生するとは。アビスは少し驚いていた。
『そら』
アビスは手を翳した。相手の精神力を吸収する能力である。
「……?」
だが太陽は不思議そうに首を傾げた。
『……効かない、ではなく、意味が無い、だな。その膨大な精神力、貴様王に成れるぞ』
「……別に成りたくないな」
『そうか。だが得てして貴様のような者が皆から王に選ばれる』
夜が更ける。ふたりの戦いは続く。
――
「……うーんと……出られないなあ」
ハルカはアビスの黒煙の屋根から動けずに居た。外は爆心地であり、まだ爆発から時間も経っていない。放射能の量は約7時間で10分の1になる。クリアアビスと言えど肉体を持つ以上、せめてそれまでは外には出られない。
「……『あっち側』にはなんとか行けるかな?」
ハルカは崖の向かい側の、透明なベールに包まれた一帯を見た。煙の延長線上に、ベールと繋がっている部分がある。
ハルカはキャプテン・ラウムの精神を吸い取り、向こう側へ歩き出した。
「……はぁ……はぁ……っ!」
ひかりは切られた手首からの出血により、意識を保つのが精一杯であった。どうにか止血はしたものの、他のシャインジャーの治療を行えるほど動けはしなかった。
「……たい……ちゃん……っ」
それでもどうにか、なるべく外のふたりの邪魔にならないよう、倒れている皆を移動させようと這いずっていた。
「ねえ」
「っ!」
ハルカがやってきた。特に敵意は無い。ハルカにとっては外での戦いが『決戦』であり、それが始まった以上その他の戦いはあまり意味が無いと思っている。これまでの戦いも無意味だったのかという話にはなるが、『この決戦まで持ち込んだ』のがこれまでの戦いであり、彼女らの功績であった。
「……ぅ……ああっ!」
「え……ちょ」
しかしひかりにはそんなことは分からず、また関係も無い。目の前に立つのは宿敵アビスの幹部であり、つい先程辰彦の首を飛ばした悪魔である。
ひかりは左手で光線銃を構えた。
「……」
「ぁあっ!」
ハルカは小さく息を吐き、ひかりの左手を蹴って光線銃を落とした。
「もう弾切れでしょうが。いつまで乱心してるのよ」
「……ぅ……!」
この人間は、強いのか弱いのか。いまいちはっきりしない。怪人は平気で殺しまくるし、部隊を指揮して強力な敵兵を追い詰める。素早い判断力もあり、何より正義感が強い。
だというのに、これだ。仲間が倒れたらもう使えない。宍戸辰彦以外にも死んだシャインジャーは沢山居る。なのにこの男の死でここまで取り乱し、そのくせその男達を一緒に戦場に引っ張り出してきた。
「……『気分』……ね。それも悪い方の。貴女は『とても人間』だわ。そして『自分だけが人間だ』と『無意識に勘違い』している」
ハルカは呆れた。気分屋が戦場に立って良いとすれば、強者だけだ。エクリプス襲来以前はシャインジャーの独壇場であったから、このような弱い人間でも戦えていた。
「人間は進歩する生き物なのに。貴女だけ、何ひとつ進歩していない。……恐らく10年前から」
ハルカはもう終わらせようとした。この、ひかりを見ていると胸に去来する謎の感情と一緒に。そのような不確かなものは抑え付け、理性によってこの女を殺そうとした。
ソーラーブレードも、もう使えなくなる。夜でも使えるように貯めていた太陽光も、フェニックスアイとの戦闘で使い果たしていた。
最後のひと振りになる。
「さようなら。……影士さんによろしく」
――
「ん!?」
『……?』
太陽は『把握していた』。アビスとの攻防中、それが視界に過った。即座に急降下し、ハルカとひかりの間に割って入る。
「っ!」
「……っぶねえ……!」
バチバチと、火花が散った。全てを分子レベルで切断するソーラーブレード。質量も無い最強の剣が、太陽の持つ白い杖により『何故か防がれていた』。
「…………! その杖……!」
鍔迫り合いになるふたり。力は太陽に軍配が上がり、徐々にハルカは押され始める。
「(……無重量の光の刃が……止められた!?)」
ハルカの頬に汗が伝う。
「……『星影』?」
「!」
太陽はハルカを見て、そう呟いた。
「ふっ!」
ハルカは一旦退き、距離を取る。その背後に、アビスも降りてくる。
「…………。『今なんて』?」
ハルカは少し迷ってから、太陽に訊ねた。
『なんだ、会話が必要か?』
「先輩は一瞬黙っててくださいっ」
『……』
有無を言わさぬ勢いにアビスは頬を掻き、戦闘態勢を解いた。
「……た、たいちゃん……あのね」
太陽はスタアライトからの攻撃で気を失っていた為、ハルカがスタアライト(影士)の精神を受け継いだことを知らない。影士が死んだことは、ある日のアーシャにより知っているのだが。ひかりが説明しようとする。
「いやあ、そうだな。声も、勿論姿も、言葉も佇まいも別に似てない。でも、こう。なんとなく? なっ。君、地下のアジトで星影と一緒に居た子だろ?」
太陽が笑いかける。命の懸かった戦いの最中であるというのに、なんとも緊張感の無い顔であった。
「……私は"衛星"義堂遥。星影とは関係無いわ」
『おい、もう良いだろう。サテライト』
アビスは待ちきれずハルカの肩を掴む。
「おっと待った怪人のボス。やめとけ」
しかし今度制止したのは太陽であった。
「確かにひかりや修平達を巻き込みたくない。けどそれをしたら、そのハルカちゃんだって俺は殺せるぜ」
『……』
「まあ、言っても最終的に追い詰められればお前は部下ひとりより種族全部を優先するだろ? だから、『仲間を逃がす為』『せめて障壁で防げるレベルまで放射性物質が弱まる』『この7時間だけでも』……『対話』させてくれ。星影の雰囲気を残す彼女と、話させてくれ。訊きたいことが沢山あるんだ」
『……』
「だっ……。駄目よたいちゃん、そんな、相手は辰彦を……」
「それはお互い様だ。辰彦を殺したのは許せないけど、こっちも星影や他の幹部を殺してるだろ?それが戦争なんだ」
「……!」
ひかりが弱々しく止めるが、太陽の反論を覆せはしなかった。
「な。怪人のボス。この戦争が終わるまでとは言わない。たった7時間。一晩だ。俺とハルカちゃんに時間をくれ」
『……』
「それとも、今ここで決着着けるためにひかりや他の皆、ハルカちゃんを殺すか?」
「……先輩っ」
ハルカは、対話などする気は無い。しかし現状は危険である。本来なら種族の為、アビスの覇道を阻むことは無い。しかし彩に誓ったのだ。もう誰も仲間を死なせないと。ずっと守ると。……影士の代わりに。
彩の為に、死ぬわけにはいかない。
『……良いだろう』
「ありがとう」
アビスはあっさり承諾した。
「……!」
ひかりは驚いていた。自分がしたかったこと、出来なかったこと、してはいけなかったこと。
それを太陽は、こんなにも簡単に為し遂げたのだ。
『それと私達は"深淵"だ。「怪人」などという不名誉な呼び方は止めろ』
「おうっ」
――
陽の沈んだ、暗闇の夜。外灯も何も無い。だが森の火事で照らされ、互いの顔ははっきり確認できる。
柔らかく光る透明のベールの下に、太陽。
禍々しく吹き出す黒い煙の下に、ハルカ。
「取りあえずは初めまして。俺は池上太陽」
ふたりは互いの『陣地』に座り、境界線の向こうに居る『敵』と向かい合う。
「シャインジャーのリーダーだ」
不適に笑う太陽を見て、ハルカは少しだけ、影士を思い出した。
――補足説明⑩――
あい。←かわいいと思います。
ここへ来て、太陽の主人公ぽさが炸裂。
彼が入院してなければ『あの時』や『あの時』など、博士やひかりの代わりにどんな判断をしていたのでしょう。