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第39話 目覚める希望!深淵の頂上決戦!

 アークシャイン基地、屋上。パニピュアのふたりより前に、ここに来ていた者が居る。

「……頑張って」

 ロシアラウム所属。ダクトリーナが選び、適合した唯一のロシアラウム兵。カラリエーヴァである。足元まで伸びる長く美しい銀色の髪を揺らし、彼女はパニピュアへ応援のコメントを残した。

「ありがとう」

 彼女は良夜が呼んだ助っ人である。しかしサンダーボルト撃墜という任務は、かりんやアビスによって為され、特に活躍できていない。

「攻撃が再開されたサンダーボルトは私が止めるわ。それで契約分の働きになるでしょう」

「うん。お願い」

 彼女らロシアラウムは、当初意外にも快く話を聞いてくれた。今ここに至っても、何を考えているのか読めない。本来は敵同士である筈だが。

『計算できたわ! 位置情報を送るから、準備でき次第すぐに向かって!』

 そこへゆりから通信が入る。既に変身済みのパニピュアは、キッ、と西の空を睨んだ。

「いこう、かりん」

「うん、らいち」

『……武運を!』

 そして、カラリエーヴァに手を振られながら、ふたりは勢い良く飛び出した。


――


「……」

 見送って、カラリエーヴァ。そして隣にダクトリーナ。何故戦闘員でもない彼女まで来たのか。それはロシアラウムの『在り方』であった。

『さて』

 ダクトリーナは、パニピュアが飛んでいった方角とは反対側を向いた。

『今、一番手薄なのは?』

 悪戯っぽく言った。

 ダクトリーナとカラリエーヴァには、『組織的行動』が無い。出来ない。させられない。ダクトリーナは群れるのが嫌で、ひとりしか感染させていない。カラリエーヴァは元々軍人でもなんでもなく、会社員の経験すらない。組織に迎合したことなど無い。

「……私、嘘を吐いたことになってしまうわ、ダクトリーナ」

『構いませんよ。元より、「王」が来た以上アークシャインと連携を取る意味が無くなりました。同盟を組んだ瞬間に裏切るのは基本でしょう』

 気分で、動くのだ。だからアークシャインからの要請も快諾した。深く考えていない。他人からどう思われようとか、今こうすれば結果こうなるとか、何一つ考えていない。なんとなく、『最終的に全てを吹雪で吹き飛ばせば王になる』と考えている。

 たったふたりだから、可能なことである。着の身着のままロシアから出てきてもどうでも良い。守るものなど存在しない。ロシアという地にも何の執着も無い。

 誰から命を狙われようと、恨みを買おうと、ワープがある。永遠に逃げ続けられるのだ。そしてあらゆる生物の体温を奪う吹雪は、無敵。

 ロシアラウムはたったふたり故に『誰にも捉えられず』『無敵』であった。

『さあ、女王の居ぬ間に。中国ラウムを絶滅させましょう』

「分かったわ」

 本来ならこういった同盟相手の裏切りを止めるための措置が必要なのだが、『その役目』である良夜が、フルメタルとの戦闘によりこの場には居なかった。


――


 パニピュアが即座に飛び出したのには理由がある。核ミサイルを空中で破壊した場合、地上に放射性降下物が降るからだ。いわゆる『黒い雨』を、自国へ降らせる訳にはいかない。迎撃は、出来るだけ離れて行わねばならない。

「……!」

 イギリスから発射された2発のミサイルは、予測ではアークシャイン基地と、らいちのラウム国へ落下する。ふたつのミサイルは離れて飛行しているため、すぐにお互いの姿は見えなくなった。

『軌道は合ってるわ! そのままで大丈夫よ!』

 ゆりから通信が入る。らいちは雲の中を進む。前後左右上下、何も見えない。

 いつ激突するか分からない。ミサイル迎撃とは言うが、その実ただの『体当たり』である。精神障壁で固めた自身をミサイルへ叩き付け、その場で核爆発させる。後はふたりの運に任せる。ふたりが即死するかどうか、生き残るかどうかはふたりの精神力と運に委ねられる。

『……ザザ……ザ……っ!』

「……!」

 電波に障害が発生した。もう軌道が合っているかの確認もできない。何も見えない。そして次の瞬間、ようやく雲を抜けた。

「……あ」

 陽が暮れようとしていた。鮮やかな朱色が、らいちの視界に拡がっていた。

 それから1秒後である。


――


 遥か上空で、核爆発が起きた。激しい爆音と巨大な衝撃。光と熱。爆風と放射線。

「……ぅ!」

 ひかりは空を見た。冷静になった。痛い。熱い。怖い。それは紛れもなく『死』を予感させた。空一面、ひかりの視界全てが、爆炎になった。周りに動ける者は居ない。辰彦は死に、修平は倒れ、浩太郎も立ち上がれない。

「~~っ!!」

 ハルカは全速で崖に開けた穴に突っ込み、岩で蓋をして全力で障壁を展開した。


―― 


 爆発により発生した火球の温度は数百万度に達する。音より速い速度で膨張し、きのこ雲を作る。衝撃と放射性下降物の範囲は半径20kmを下らないだろう。

 生物である以上、熱で身体のタンパク質は茹で上がり、圧力で器官は停止する。『生』物である以上、『死』が存在する。

 何故なら肉体を持つからだ。生物としてこの世に存在するということは、肉体を持つということ。粒子による侵略を目論むアビスだとして、他生物の肉体に感染しなければ怪人にすらならない。

 ここに、『精神』という概念がある。肉体と対となる存在である。

 精神は時間と距離を超える。想い人とは遠く離れていても繋がっており、愛する故人との絆は切れることは無い。

 精神は肉体を持たない。よって『死』の概念が無い。魂は不滅である。

 そんな精神の特徴を持つ『生き物』が居る。元々、ラウムと成った者は寿命の無い不老不死同然となるのだが、『彼ら』はそれとは違う。


 精神体。彼らの身体はそう呼称されるだろう。物理的実体でありながら、この世から浮いたような存在。あらゆる肉体への影響を、その精神力によって行う。肉体と精神のバランスが、本来の生物ならば同じくらいになるのに対し、彼らは。

 『肉体が誤差になる程、膨大な精神力を持っていた』。


【何を遊んでいる、サテライト】


 ひとりは、精神力の文明にて頂点に鎮座する、深淵の侵略者。

 彼の黒い煙のようなローブは空に拡がるように巨大化し、ハルカを庇護した。熱、衝撃、放射性物質を全て防ぎきっている。彼の精神が、それの通過を許さなかったのだ。

「……先輩っ!」

 ハルカは穴から這い出て、頼れる上司を見上げた。


「……間に合った? いや……随分と……」


 ひとりは、侵略者に対抗する最後の砦。敗北者の女王が遺した最後の希望。

 人類の灯火。太陽となる存在。

 彼は白い杖を振りかざしていた。その杖の先から透明な光の幕が拡がり、シャインジャー全員を覆っていた。それにより、核爆発の被害から護っていた。

「随分と遅れてしまった。……だけどよく、ここまで堪えてくれた」

「……!!」

 ひかりは彼を直視できなかった。涙で、感情で、光で。声にならない声が喉から出て、言葉にならない言葉が口から漏れる。

「ぁ……ぁぅ……っ」

「ありがとう。ひかり。パニピュアも……君たちシャインジャーも。今まで寝てて格好悪いけど……俺が来たからには、もう安心してくれ」

 患者服ではない。白い光のベールで作られた絹のようなもので身体を包み、その手には『アーシャの抱いていた』白い杖。

 池上太陽は、ひかりに声を掛けてから、黒い煙を見た。


【帰るぞサテライト。食事ならもう良い。まずは……】

「待って先輩。……あれ、アーシャの眷族ですよ。あと威圧やめてくだい」

『ほう』

 アビスはちらりと太陽を見た。

 太陽も見返す。深い深い、吸い込まれそうな闇の瞳。その全貌は未だ黒いベールに包まれているが、ただ者ではないことなど、お互いに分かりきっている。

『ここまで「適合」する個体があるとは。元のアーシャより精神力が上がっているのではないか』

「……ここか。この瞬間、皆を守るために、俺は今までバレないよう覚醒しなかったのか」

 太陽は瞬時に理解した。目の前の黒い存在が、怪人の黒幕なのだと。

「倒すぜ、怪人のボス。地球は侵略させねー」

 そして杖を、アビスへ向けて宣戦布告とした。

『貴様を殺せば、永きラウムとの戦いに終止符を打てるという訳か』

 太陽はひかり達の居る、透明なベールから出た。アビスも、ハルカの待つ黒い煙の屋根から出る。黒い死の雨が降り始めた。まだ熱も冷めていない。森も何も枯れ燃え煮えたぎる、生物が立ち入れない禁断の地と化した荒野。

 静かに頂上決戦が始まった。


――


「核ミサイル、爆発確認! 成功です!」

「うおおおお!」

 基地では、歓声に沸いていた。パニピュアという英雄の身体を張った作戦により、国も組織も救われた。

「パニピュアはっ!?」

 ゆりが叫ぶ。まだ安心するには早い。彼女らの安否を確認せねば、喜べる筈は無い。

「ノイズも激しく、まだ追えません」

「……そう」

「…………」

 ゆりの言葉で、指令室は静まり返った。その静寂は、警報により切り裂かれる。

「!緊急警報!」

 そしてオペレーターから、更なる脅威が報じられる。

「敵艦サンダーボルト1号、動き始めましたっ!」


――


「頼むっっ!」

 場面は変わる。なんとかフェニックスアイとの戦闘による疲労から立ち直ったフィリップは、まだぐったりしているコロナを抱えてハルカを追っていた。しかし道が分からず、『精神力のある方』を嗅ぎ分け、そちらへ向かっていた。

 その先には、アークシャイン基地があった。近付くのは危険だが、既に戦争は始まっている。負傷兵の精神力を喰らえれば、回復できると踏んでいたのだが、そこには満身創痍のブラックライダー……良夜が居た。

「……何をだよ。ていうかお前、ハーフアビスか」

 壁に寄り掛かる良夜は、必死にフィリップへ手を合わせた。

「サンダーボルトが動き出した。1000の歩兵が来る。さらに同盟相手とも連絡が取れなくなったらしい。手を貸してくれ」

「……」

 フィリップはコロナをおぶったまま、良夜を睨み付けた。

「俺達とお前は敵だろうが。俺はお前らの仲間を喰いに来たんだ」

「それは許さん」

「なんだそれ。そこは数人喰っても良いから助けてくれ、じゃねーの」

「それは、許さん」

 満身創痍、どう見てもボロボロでその場から動けない良夜。

 しかしその冷たい瞳と声音が、フィリップを少し畏縮させた。

「……メリットがねーだろ。俺ひとりで1000の兵とかラウムアビスとか、土台無理だし」

「城塞と砲撃能力だろ? お前」

「知ってんのかよ……。無理だ。多少精神は回復したが、何故か能力が使えない。こんなこと今まで無かったんだがな」

「仕方ねえ、これ持っていけ」

「なんだよ」

 良夜は腰のベルトを、フィリップへ渡した。

「……精神力の貯蔵庫だ。それを巻いて解放すると、精神力回復と同時に肉体も強化し、『変身』する」

「……へぇ……って、空じゃねーか」

 フィリップはベルトを受け取ってまじまじと見る。しかし中の精神力は、フルメタルとの戦いによって空になっていた。

「……そっちの女の子、まだ相当な精神力あるだろ。チャージして貰え。したら多分お前は最強だ」

「…………。おいコロナ……」

「ふにゅ」

 フィリップは半信半疑といった感じでコロナを起こす。

 その時だった。

「……?」

 それは、視界にちらついた。落ちている。空を見た。降っている。白く冷たい、粉。

「……雪……?」

 黒い雨では無かった。範囲を考えると、ここにも放射性下降物は降ってもおかしくない。だが、何故か、偶然だろうが……『カラリエーヴァのお陰で』基地へ核爆発の影響は爆風と衝撃以外には無かった。

「行け! 2号! 走れ!」

 良夜が叫んだ。

「2号ってなんだよ!」

 フィリップはコロナを担ぎ直し、ラウム国へ向かった。メリットはまだ聞いていないが、時間がないということは理解した。だから『お人好し』なフィリップは、困っている人を捨て置けなかった。

「……俺が1号だからさ」

 最後の呟きはフィリップには聞こえなかった。





――補足説明⑨――

 ごちゃごちゃしてきましたが、太陽とアビスの決戦開始です。

 敵勢力との共闘も、花形ですよね。本来ならあり得ませんが、フィリップは馬鹿なので。

 因みに彼が能力を使えないのは、アビスの王のせいです。

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