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第38話 対峙!長谷川ひかりと義堂ハルカ!

 ごくりと、浩太郎は生唾を飲み込んだ。

「……両軍の大将が、こんな最前線で出会うか……」

「ていうか何でここにアビスが居るんだ?」

「俺ら有利……だよな? 今?」

 修平も不安そうに見る。ひかりは一歩前へ進み、手を挙げるハルカへ迫った。


――


「……義堂ハルカ!」

「…………」

 ひかりが叫ぶ。が、ハルカはじっとひかりを見たまま応えない。

「投降しなさい。動けば攻撃命令を出すわ」

「……」

 ハルカは様子を窺っている。

「そのアメリカラウム兵も渡して」

「それはできないわ」

「!」

 遂に口を開いた。

「道を開けて。私は食料を仲間の元へ届けなければいけない。『狩った食料を放棄して戦えば全滅させられる』のに『やらない』んだから、大人しく私を逃がして」

 ハルカの口調は強かった。この状況でも全く怯んだ様子は無い。

「そもそも『銃口を上に向けさせている』時点で私に勝つ気が無い。『私へ銃口を向ける』コンマ数秒で皆殺しにされて良いの?」

「……!」

 ひかりはその態度に驚いたが、こちらも怯む訳にはいかない。

「虚勢ね。シャインマーズの探知は相手の精神力の大きさも分かる。そんな精神力は残っていないわ」

「!」

 事実。

 相性の悪かったフェニックスアイとの戦闘で、ハルカは相当消耗していた。

「詰みはそっちよ。大人しく捕まりなさい」

「……じゃあ試してみましょうか」

「え」

 怯んでしまった。

 ハルカの周囲の銀河が揺れ、返り血を浴びた黒髪がざわついた。

 挑発と受け取ったのだ。

 ハルカには自負があった。自負と矜持が。


――


 交渉とは。

 特定の問題について相手と話し合うことである。

 それが敵同士ならば、最大限自国側の主張を通そうとするだろう。そのボーダーラインを決めるのは何か。

 背景に持つ武力である。逆らえば最悪殺されるという強制力である。

 交渉術とは、口の上手さや、頭の回転ではない。そんなものはある程度あれば必要ない。

 交渉術とは、最終的には武力であるのだ。

「……!」

 ひかりは、どうするのが正解だったのか。先程あのまま攻撃していたら、獲物を手放したハルカから報復に合い、部隊は全滅していただろう。しかし交渉をしたとしてあのままハルカを逃がせば、アークシャインの正義には反する。

「『答え合わせ』はこれで良い? 長谷川…ひかりさん」

 ハルカはソーラーブレードをひかりの喉元へ突き立てた。ひかりは為す術無く膝から崩れ落ちる。

 ハルカの制服はマントを含め、ボロボロになっていた。ありったけ、大量の光線銃を浴び、最早半裸に近くなっている。所々破けた服から覗く白い肌からも、出血している。

「……けほ」

 そして血を吐いた。だが。

「……ぐ……!」

 ひかり以外のシャインジャーは『40人全員』、ソーラーブレードに一刀両断されて死体か、物理的に殴られて瀕死になっていた。修平や辰彦、浩太郎はなんとか意識があるが、その場から動けそうにない。

「『こうなること』を予測できないと、とても『良いリーダー』とは言えないわね」

「…………っ!」

 ハルカには自負と矜持があった。『自分こそが最強である』という矜持が。だから多少分の悪い戦いでも、強気に挑み、そして『勝った』。

「……そうね。気が済んだなら去りなさい。私はあなた方を相手にしている暇は無いの。イギリスラウムと戦っているのよ」

「駄目。貴女達は宿敵なんだから。このチャンスに全滅させる」

「なら早く殺しなさいっ!」

 ひかりは屈さない。ここで全滅しても、構わない。キャプテン・ラウムは討った。あとはパニピュアが核ミサイルを防いでくれれば、間宮の兵器と残った戦力で勝てる。勝てばそれで良い。その後のアビスとの決着は、ブラックライダーもパニピュアも居る。何よりまだ、シャインジャーが居る。

 自分が居なくても、もう大丈夫。

「……」

「どうしたの!?」

 ハルカは動かなかった。その表情も動かない。ひかりの目からは何かを考えているように見えた。

「何故殺さないの」

「……分からないわ」

 ハルカはソーラーブレードを引っ込め、ひかりから離れた。そしてうずくまる、辰彦の方へ向かう。

「!? 何を……!」

「はぁ……はぁ……っ。……ん!?」

 辰彦がその殺意に気付いた時には、遅かった。

「やめっ……!」

 ソーラーブレードは、無情に、シャインマーズ、宍戸辰彦の首を通過し、身体から切断し斬り飛ばした。

「…………!!」

 辰彦の首は驚いた表情のまま宙を舞い、転がって落ちた。

「ああああああああ!!」

「他のシャインジャーは普通に殺せる。なんでかしら、長谷川ひかり。貴女だけ――」

 無表情で呟くハルカ。そこへ悲痛な叫びを挙げたひかりが襲い掛かる。

 ひかりはがむしゃらに光線銃を乱射した。

「ああああああああっ!!」

「……」

 ハルカは音速でひかりへ迫り、右手首を切り落として光線銃を無力化し、足を掛けて転ばせた。

「あああっ!」

 全力で起き上がろうとするひかり。しかし再度ソーラーブレードを突き付けられ、僅かに正気を取り戻し、止まった。

「あ……ぁぁ…………あああ……!」

 切られた手首から血が吹き出す。しかしひかりはそんなことに構わず、嘆きの声を出す。

「……仲間は大切よ。戦場で命を預けるならなおさら。だけど、ひとり失っただけでリーダーがここまで取り乱しては、その隊は途端に軍隊から烏合の衆になる。つまりは『もっと死ぬ』」

「たつ、ひこ……たつ……!」

「何故だか分からないけれど、貴女だけは『殺したくない』。……戦場で敵を相手に甘いわね私も。でもその甘さがあっても、最強なら問題無い」

 ハルカは改めて、ひかり以外のシャインジャーを皆殺しにしようと振り返る。

「……あ」

 だが。その時ハルカは空を見た。コロナと作ったレーダーが、告げたのだ。

「ちょっとまずいかも」

 現在地の丁度上空で、激突すると。『核ミサイル』と『パニピュア』……人類最強と人類最強が。その余波が。死の雨が。ここへ直撃すると。


――


「方角と距離を教えて」

 アークシャイン基地。その屋上に、ふたりは立っていた。

『……分かったわ。タイミングも計算して伝える。……空中では軌道修正できないのよね?』

 通信機からはゆりの声が届く。

「うん。私達に飛行能力は無いの。でも、ひとりでも多少ビームは出せて、少しの修正なら利くよ」

『分かったわ。待っててね』

 短い通信を終える。スパイダーレディが基地内に侵入しているが、今はそれに対応している場合ではない。シャンヤオが抑えてくれなければ全て終わっていた。しかしその前にサンダーボルトが態勢を立て直せば、それも不可能になる。

 そして刻一刻とミサイルの再突入時間が迫る。時間との戦いであった。

「「ラウム・コネクト」」

 同時に呟いた。らいちには黄金の光が、かりんには純白の光が、それぞれベールのようにふたりを包み込む。

 天を撃ち抜く純金の光。ピュアホープ。

 天に突き刺す純白の光。ピュアピース。

 ラウムの『精神力をエネルギーとして利用した』文明とコネクトする(繋がる)ための合言葉。一見愛らしい金と白のフリフリの衣装は、ラウムの民族衣装である。今やそれを着るラウム関係者は、このふたりのみであるが。

「……技?」

「うん」

 かりんはらいちに、スーパーノヴァに負けた時のことを話した。自分達がもっと強くなる可能性を。

「今まで力で全部やってきたでしょ?」

「一番手っ取り早かったじゃん」

「うん。それは間違ってない。けど、それだけだとスーパーノヴァに負けた。慢心とか、油断とか言われちゃうとそれまでだけど、そう言ってスルーしちゃうと、勿体無い気がする」

「どういうこと?」

「力で劣る人が、強い人に勝つ方法。手段。それが技なんだよ。……あの人は、拳一点に精神力を集中させて、その一点だけ私の精神障壁を凌ぐ密度になって、それを使って破ってきた」

「そんなことできるんだ」

「うん。だから、やろ?」

 ふたりはお互いを見た。いつも一緒だった、鏡合わせのようなふたり。だが髪の色と長さは違う。らいちは茶髪で短く、かりんは黒髪で長い。纏う精神力の色も違う。らいちは金、かりんは白。顔も、どちらもまだ幼さが残るが、別人である。身体も、らいちが少しだけ背が高く、かりんが少しだけ胸が膨れている。そしてらいちだけ、左腕の肘から先が無い。

「力が強い人が技を使えば、もう誰も勝てっこないよ」

「確かにそうだね。どうやるの?」

 だがその内に秘めた想いには、微塵の差異も無かった。

 左側にらいち。右側にかりん。お互い手を繋いだ。

「「"精神(マインド・コン)集中(セントレイション)"」」

 ふたりは思い出していた。

 パニピュア――『パニッシュメント・ピュア・ガールズ』の初陣を。その気持ちを。

 ……アーシャを。


――


「…………!」

 巨大な洋館。その最奥の一室。書斎であるその部屋は、現在資料や本、その他家具などが散乱し、滅茶苦茶になったいた。

『……馬鹿が! 馬鹿め! この……っ!』

 机を薙ぎ倒す。ソファを蹴り飛ばす。ガラスを叩き割る。

 イギリスラウム『女王』イヴは、怒りと屈辱にまみれていた。芸術のように美しい顔が、醜く歪んでいる。

『話が違う……どころではないっ!! なんだこれは! 「なんだこれは!?」』

 感情が無い筈の機械音声に、憤激が籠る。部屋にはラウム兵が数人、壁に直立し待機しているが、冷や汗をかきながらも何もできずにいる。『動くな』と言われているからだ。

『出撃したサンダーボルトは残り1隻だと!? 防衛システムはどうした!』

「はっ! システムが反応する前にパニピュア『カリン・ナンバラ』が突入、侵入。システムを破壊しています」

『無能が喋るなっっ!』

 答えたラウム兵は、イヴの翼を叩き付けられ、全身打撲と骨折を受けながら吹き飛んだ。ラウムの『翼』は地球では飛ぶことができないが、それを操る筋肉が発達している。その威力はプロボクサー並みかそれ以上とされる。

『こちらの爆撃の戦果はっ!』

「はっ! 敵兵目算500名。内残存兵力は概算300大。でありますっ!」

『クズが、黙れっ!!』

 さらにひとり、答えたラウム兵が吹き飛ばされる。

『立て直しはまだかっ! 制圧はあとどれくらいで終わる! 謎の光の槍の解析は!? ……アメリカは何してる!』

「はっ!」

『口を閉じろ雑魚がっ!』


 そうした問答を数回繰り返し、次第に落ち着きを取り戻したイヴ。

『…………サブリナへ繋げっ』

「はっ!」

『……奴等は……アークシャインはまだ、「100万の中国ラウム兵」を温存している。なのになんだ、この体たらくはっ!』

 イヴは、ふうふうと息を整え、自身の羽根の散った部屋を後にした。

 まだ手を残しているかのように。




――補足説明⑧――

 完全に忘れ去られたキャプテン・ラウム。

 イヴの取り巻きは多分喜んでやってるんでしょう。多分。美しすぎる天使に罵倒されながら翼で殴られるなんて経験、そうそうあり得ませんもんね。散った羽根は凄く高く売れそう。

 そもそも、イヴの兵器=ワープを基にした超長距離殲滅攻撃が主だったのですが、ワープ妨害装置のせいでほとんど使えず、結局戦艦を出しての通常兵器で攻めるハメになったのです。対妨害装置用の兵器の製造は間に合いませんでした。「想定して」「平時に備えないと」いざ戦争が始まってしまえばもう「遅い」のです。

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