第36話 平和のために!力を合わせて戦おう!
戦いとは。
争いとは。
何か。
辞書で調べてみる。
『たたかうこと。あらそい』
これを見て、がっかりしてはいけない。
戦いとは、すなわち、戦うことだ。それ以上に説明しようとすれば、必要の無い服飾文にまみれてしまう。
次に、戦争とは。
『特に国家間で、互いに自国の意志を相手国に強制するために、武力を用いて争うこと』
これは何も、国に限った話ではない。平和な国でも、個人団体問わず常になされていることだ。
口で、拳で、武器で、権力で。家で、道で、学校で、職場で。『自分の意志を相手に強制』させようと戦争が起きている。戦争とは、日常である。
相手に意志を強制すれば、戦争である。極端なことを言えば、『戦争なんて駄目だよねー』という会話すら、『言葉』という武力を用い、相手にその考えを強制しようとしている。戦争である。
人間は、戦争をする生き物である。国家間の戦争が無い平和な日本に生まれたとして、幼少期、憧れたのは。戦隊ヒーローだろう。仮面ライダーだろう。変身ヒロインだろう。
彼らは物語の中で何をしていた?
戦っていた筈だ。
敵と。
悪と。
『彼らの集団に対し悪と断定された者達と』。
その敵を打ち倒す姿に、健気に、頑張って、努力して、どうにか勝つ姿に。憧れた筈だ。
『戦い』に。憧れた筈だ。
『ごっこ』で。真似をするほどに。
年齢を重ねても変わらない。
スポーツは戦いだ。受験は戦争だ。ポジションは争いだ。『反戦を訴える活動家でさえ』選挙『戦』に『勝たねば』ならぬと日々『戦って』いる。
基本的に、人間の生活に戦いは密接である。不可欠である。貧富の差や生まれは関係無い。人間は生まれて死ぬまで、戦いから逃れられることは無い。
何故か。
『自分の意志を、強制したい』からだ。つまり、我儘を通したいからだ。受験に受かりたい。試合に勝ちたい。高い収入を得たい。
――生きたい。
それらを叶えるためには、他者と争い、勝ち取らねばならない。ただ生きることすら、他の命に勝って食べねばならない。
他者と競い、勝つ。このプロセスと欲求、報酬を教えてくれるのが、幼少期の記憶、経験である。
教育的に、戦いに憧れ、学ぶべきだ。
他者の子より、我が子が大事なら。他者の子を蹴落とし、我が子を持ち上げねばならない。
戦争に勝てる人間に育てなければならない。そうやって、連綿と受け継がれてきたのだ。歴史とは、そういうことだ。戦争が科学を発展させ、競い合いが新記録を樹立する。戦いが力を磨いた。
【戦え】
空気が震えた。アビスは、この場の全ての戦いを覗いた。基地内で長谷川ひかり・シャンヤオがスパイダーレディと。基地の西側でシャインジャー達がキャプテン・ラウムと。基地の南側でブラックライダーがフルメタルと。最果ての国境付近でパニピュアがスーパーノヴァと。北の方では部下のアビス勢がフェニックスアイと。
それぞれがそれぞれの意志を強制させようと、戦っている。戦う理由はそれぞれだろう。国の為、野望の為、友の為……。
【争え】
その声は、まるで遠くから聞こえてくるような、しかしはっきりと伝わってくるような。
どこから聞こえてくるのか、分からない。それこそ世界の……『深淵』から届けられたような重い声。
【それが我が源となる】
アビスは、ふらりと……フェニックスアイの隣に顕れた。
「……!」
フェニックスアイは愛用の弓に即座に矢を番え、アビスに向ける。
「伏兵!? アビスの増援か!」
アビスは黒い、どろどろした煙のようなローブで身を包んでいた。煙は中から沸くように出で、彼の顔も隠してしまっている。
「ハッ!」
フェニックスアイはワープによりアビスの背後へ回り込む。この距離ならば、ワープ妨害装置の範囲外となる。
「ここまで近付かせたのは失策だが……死ね!」
フェニックスアイの弓の腕前は最高クラスである。百発百中どころではない。1射のスピード、体幹バランス、センス、手入れ、練習。全てが一流だ。
【生きる、とは】
だがそれは、『精神力』があって初めて発揮されるものだ。『射とう』と思わなければ、一流の技があろうと『射てない』し『射たない』。
「…………!」
フェニックスアイは弓を地面に落とし、がくりと膝を突いた。目の焦点は合っておらず、口も半開きになり、戦意を喪失した。
【生きたいとする欲だ】
アビスはフェニックスアイに一瞥も無く、ボロボロで今にも崩れそうな、フィリップ城塞へ歩を進めた。
――
『イギリスから反応アリ! ……大陸間弾道弾……!? 「核」ですっ!』
基地内に警報が鳴り響く。勿論想定していた最大の攻撃。本来なら即座に応答し、迎撃の用意をしなければならない。
「……っ!」
ひかりは焦っていた。目の前の女は明らかに時間稼ぎをしている。壁や天井を這い回り、機材を盾にしている。
「……请留给我」
「えっ?」
得意気に笑うスパイダーレディに対し、徒手空拳の構えを取るシャンヤオが、呟いた。
「请去」
そして視線を送ってくる。
「……」
勿論中国語など分からないひかり。
「……いや、貴女日本語話せるわよね」
「……ここは私に任せて、行ってください」
「なんでボケたのよっ」
女王の娘と適合したラウムとの戦いでは、分が悪いひかり。ここはラウム同士に任せ、部屋から出た。
「逃がさないわよ!」
「那是我的线!」
「あぁっ!」
カサカサとひかりを追うスパイダーレディに、シャンヤオの蹴りが炸裂した。
――
「……弾道弾? 数は」
『……2発!』
ブラックライダーは、フルメタルを打ち倒していた。あの爆撃で生き残ったフルメタルだったが、既に死に体であった。そしてブラックライダーのキックにより、止めとなり息絶えた。
そしてブラックライダーの足は、もう使い物にならなくなっていた。
「残るサンダーボルトも1隻。それもさっきの光の柱のお陰だ。攻撃も止んだ。連中、立て直しに必死だな」
『……でもこちらも、もう弾が無いの』
「ほう?」
ブラックライダーは変身を解除し、基地の壁へもたれ掛かる。これまで10年間蓄えてきた精神力を全て使いきった。もう変身は出来ない。ここからも暫く動けないだろう。
『ただの巡行ミサイルなら撃墜できる。だけど大陸間弾道核ミサイルは話が別になってしまう。初撃は核じゃなかったし、サンダーボルトとの撃ち合いの前だったから防げたけど、どうにかしてあれを止めないと』
「何故2発なんだろうな。もっと撃てれば向こうが勝つだろ」
『お金が掛かるのよ。イギリスの正規軍で無いイヴが用意できた核弾頭が、あれだけなのでしょう。それにしてもとんでもない交渉力だと思うけど。ここへ来てまだ隠し持っていたら、よほどの狸か、運用ミスか。恐らく先制攻撃用と止め用の2回分しか用意していない。これを防げばイギリスからのミサイルは無いと思って良いわね』
「で、どう防ぐ?」
『ありったけ迎撃ミサイルを注ぎ込むしか無いわ』
「それで、時間を稼がれて立て直したサンダーボルトからの攻撃はどうする」
『…………え』
「1000人のラウム兵に正面の兵がやられてアメリカラウムが攻め込んできたらどうする」
『……えっと』
ゆりは黙ってしまう。現状を把握できても、判断の部分はリーダーに任せていたのだ。
『……ひ、ひかりお姉さま……』
「その『判断すべき』リーダーを前線に出させ、今基地に侵入してきたアメリカラウムと戦わせているのはおかしくないか?」
『……!』
「……はぁ」
ずるずると、良夜は座り込む。
「もう少し考えろよ。……まあひかりちゃん自身ノリノリだったから仕方ねえ部分もあるけど。そんなミスで滅びたくねえだろ?」
『……ぅ』
サンダーボルトが立て直すまで、弾道弾が大気圏へ再突入するまで。その時間があったからこそ、良夜はゆりを叱った。
「2発の弾道弾ね。止めるアテは思い付いたが……」
『……ほんと?』
その声は、同時に通信に割り込んだ。
『『やるよ』』
「!」
幼い少女の声だった。
『任せて』
満身創痍で、精神力も弱っている。
『もし核の炎に包まれても』
毅然としても、声音の奥が微かに震えている。
『必ず私たちが』
しかし、決意に満ちた「強い」少女の声。鈴の音のように、凛と響く女王の声。
『『みんなを護ってみせる』』
――補足説明⑥――
「運命に勝つ」なんて言い方もありますね。
恋愛小説や、ギャグ漫画でさえ、何かと戦っています。
平時でさえ人間は戦う。だとして、平和と戦争の差など、「程度の差」ではないのでしょうか。
争いが全く無い、のは最早おかしい。
平和とは、規模を限りなく小さくした戦争状態と言えるかもしれません。




