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第33話 上がれ!開戦の狼煙!

「レーダー?」

「ええ。当たり前だけど、敵の攻撃に気付けなければ、その場で死ぬわ。今の時代、大陸間ミサイルで地球の反対側まで攻撃できるもの。まして相手は宇宙科学のラウム。戦艦が来るとしても、最後のだめ押しだと思うわ。まずは長距離ミサイル。それで済めば損害も無いし簡単だもの」

 らいちは、政治判断はできても軍事には疎い。アーシャも地球の軍事技術にはそこまで詳しくなかったからだ。

 市役所もとい王宮に招かれたゆりが、会議室もとい謁見の間にて説明する。

「理想的な戦争とは、つまり戦争をしないことね。変に聞こえるだろうけど、コストも掛かるし、人的資源も失うからね。そのために、『戦争しても勝てない』もしくは『勝っても損害が大きい』と相手に思わせるように、平時から軍備増強をするの」

「うん。『抑止』だよね」

「それでも戦争になってしまったら、次は『最小限の力で勝つ』ことね。戦闘継続が不可能になる所に先制でミサイルを落とすとか。格闘するより銃で撃った方が安全でしょ?それと同じで、ミサイルを撃つのよ」

「……そっか。だからミサイルが撃たれたことに気付くために、レーダーが要るんだね」

「そうよ。弾道弾、つまり超長距離を飛ばすために一度大気圏を出て慣性飛行するようなミサイルは、再突入時は音速を越える。レーダーが無いと、黙視で気付いたときにはもう殺されてるのよ」

「うん。でも、分かってもミサイルを防ぐにはどうするの? 私が直接撃墜する?」

「それでも、防げて同時に1発でしょう? ミサイルには、ミサイルをぶつけて迎撃するのよ」

「そんなことできるんだ」

「間み――いえ。『アークシャイン』の技術を、甘く見ないことね。既にレーダーと迎撃ミサイル群は設置済み。これで取りあえず、核でない限り相手の初撃は防げるわ」


――


 どこかの山間部。整備されていないでこぼこの坂道。木が低く、大地が露になっている山道に、アビス達は降り立った。ハルカの飛行能力で連れてきたのだ。

「さて。この辺りだそうよ」

 キョロキョロと見回しながら、ハルカ。以前影士から支給された制服を着込み、その上から砂塵避けのマントを羽織っている。腕には時計型の通信機を着け、マントの裏にはアビス粒子の入った小瓶を潜ませている。いつもの格好、装備である。

「ひとっこひとり居ないな。感染するのは人間じゃ無いのか?」

 そう言って遠くを見るのはフィリップ。影士のお下がりを着ようとしたところハルカに殴られたので、白衣は着ていない。代わりに何故か、彩から受け取った、影士の学生時代の学生服を着せられている。

「まずは待ちだね。ハルカー」

 ハルカへ手を差し出したのはコロナ。相変わらず露出の多いアラビア風の民族衣装を着ている。

「ええ」

 ハルカはコロナの手を握る。これは、別に特別仲が良いなどといった理由ではない。

 クリアアビスの『授業』によって彩が『魔法』を使い新たに開発した、新しい形の『アビスの戦い方』である。

 ふたりは手を繋ぎながら横に並んで、目を閉じた。直後、ふたりの精神力が高まり、渦のように混じりあっていくのがフィリップの目からも分かる。

「「――"精神統一(スピリット・ユニティ)"」」

 ふたり同時に呟くと、渦巻く炎のようなふたりの精神力はやおら形を成し、丸い球体へと変化を遂げる。球体は半透明で、数十個はある瞳のような丸いマークで覆われている。

「「射出」」

 そして再び同時に呟き、球体は発射された。高速で上空へ、空の彼方へと上昇していく。

「……終わったか?」

 フィリップが訊ねる。ふたりはもう目を開け、手を離していた。

「ええ。これで、いつ『サンダーボルト』が攻撃してきても大丈夫よ」

「めっちゃ危ないもんね。じゃ、粒子の反応あるまで自由行動?」

「そうね。1秒以内に『手を繋げる』距離には居てね」

「おっけー!」

 コロナは跳ねながら、山を登り始めた。彼女は好奇心旺盛で、高いところから眺める景色が大好きなのだ。

「……アンタは何するんだ?」

 小さくなるコロナの背中を見送り、フィリップが訊ねる。

「どこかで夜営地にしないとね。この辺りは人が居ないみたいだし」

「すぐ近くにラウムの国があるんだろ?」

「じゃ行ってきなさいよ。ステルスしてあげないから」

「……勘弁してくれ。テント張りゃいいんだろ」

「よろしい。じゃ私達も山を――――待って」

「?」

 ハルカが真剣な顔付きになる。先程飛ばした球体が、何かを捉えたのだろうか。

『コロナ!』

「はーい!」

 ハルカが精神干渉で叫ぶ。刹那、コロナはすぐ横に立っていた。

「来た?ミサイル」

「……ええ。離れないで。ここには落ちないと思うけど……」

「どこからだ?」

 フィリップもふたりから離れない。雲の少ない晴れた空を見ても、目では何も分からない。

「イギリスからよ。……戦艦はもう出撃してる筈。……反応が8つ? 前より減ってる……そうか」

 ハルカは目を閉じて、意識を集中させている。あの球体はつまり、ハルカのレーダー能力を大幅に強化する、文字通り『衛星』の役割を果たすものだ。

「前は同じ性能だった5つのサンダーボルトは、それぞれ別の能力を開発されている。超長距離ミサイルはイギリスから、そして制圧は現地で。こちらへ来るサンダーボルトを破壊したところで、ミサイルの雨は止まない。そういうことね」

「……で、どうする?」

「まあ心配ないわ。迎撃ミサイルが撃ち上がる。見ていて」

 ハルカが指差したのは、ラウムの国がある方向。しばらくして、そこから煙を噴いた長い筒状の機械が飛び立った。

「おー。……あれ、あんな技術あるっけ。中国ラウムに」

 コロナが首を傾げる。

「レーダーには『奴ら』の反応もある。アークシャインが力を貸しているのよ」

「『奴ら』?」

 フィリップも聞き返す。ハルカは彼に振り向いた。

「ええ。貴方達はまだ会ったこと無かったわね。……ラウムが来る前からずっと、私達と戦ってきた地球の戦士。我々の先達"星影(スタアライト)"のライバルにして親友。そして仇敵」


――


 サンダーボルトは、マッハ2で低空飛行してくる。イギリスからの最悪の刺客は、ミサイルの着弾を待たず、この国を侵すだろう。

 国境から数100キロ離れた荒野に、彼らは並んで立っていた。占めて4人の戦士。

「……水星の銃士、シャインマーキュリー!」

 始めに叫んだのは、青い特殊スーツを着た戦士。名を西郷修平。ボルケイノに刻まれた傷は完治している。

「火星の索敵手、シャインマーズ!」

 次に名乗りを挙げたのは、橙色の特殊スーツを着込む戦士。名を宍戸辰彦。今回のサンダーボルト襲来とミサイル発射は、彼の能力で見破った。

「木星の防人、シャインジュピター!」

 続いて緑色の特殊スーツに身を包んだ戦士がポーズを取る。名を小野塚浩太郎。彼のスーツのみ、通常では身動きもできないような重く頑丈な鎧のような形状をしている。だが彼はこれを着て、通常のスーツのように動くことができる。

「金星の旗印、シャインヴィーナス!」

 最後に、唯一の女性戦士が高らかに吼える。金色の特殊スーツは幾度の改良を経て、今では他の3人より運動性能が高くなっている。彼女の名は長谷川ひかり。

「この世に栄える悪は!」

 この場に居ないリーダーの代わりに、新たなリーダーであるひかりが叫ぶ。

「「シャインジャーが捨て置かない!」」

 そして、全員で声を合わせる。瞬間、彼らの背後で爆発が起き、煙が上がる。

「……おう」

 それを端から見ていた良夜は、なんとも言えない表情を作っていた。

「まあ来るまで暇だってのは分かるが、火薬無駄に使ってお前ら……」

「無駄じゃないわ。見て」

 ひかりの指差した先。背後の爆発の煙は消えること無く立ち上ぼり、遥か上空へ向かう。

「狼煙よ。『私達はここに居る』と」

「誰へだ?」

「イギリスラウムに決まっているじゃない」

「……馬鹿なのか?」

 敵に居場所を教えることは、自殺と同じである。見付かれば即死なのだから。

「馬鹿じゃないわ。見て」

 ひかりの指差した先。彼らの背後には、ざっと500人以上の『軍隊』が、綺麗に列を作っていた。彼らは皆、白い特殊スーツを着ている。シャインジャーである。

「ここで戦うのよ。らいちちゃんの国に被害を及ばせない為に」

 更に背後を見る。砦のような巨大な建造物が聳える。数日で建てた、基地であった。

「私達はここで『サンダーボルト』を迎え撃つ。良夜くんは自分の任務、お願いね」

「……おう。気を付けてな」

 良夜は切り替えて、バイクのエンジンを吹かし、ワープした。


――


「イヴっ!」

『はいイヴですが』

 シャインジャー背後の前線基地。通信室で吼えたのは南原かりんだ。

「どうしてこんなこと! 事前交渉も布告も無しに、ミサイルを撃ったの!? 戦艦も出てる!」

『……』

「今この国は安定している! 危険は無いのに! そもそも――」

『邪魔だからですよ』

「!」

 かりんを遮り、イヴの冷たい言葉が室内に響いた。モニター越しの彼女は、美しくも恐ろしく無表情であった。

『これは「選王」。私と競い合っているのは私と同じ「ラウム」。何を競っているか。「この星の支配者」です。そのため、私やサブリナは勢力を伸ばす活動をしている。それはラウムにしかできない。人間達の最終兵器は我々の思惑により使えないから。だけどここへ来て、呼ばれてないのに舞台に上がってきた者が居る』

 イヴは淡々と話す。かりんは一字一句逃さぬようモニターを睨み付ける。

『我々の目指す所は「星の王」です。なのに、「たかが1国」の王たらんとする者が、我々の争いに加わってきた。「支配者権」が脅かされている。……つまり「五十嵐らいち率いるラウム王国の武力」は我々に匹敵する。「選王」を辞退した者が戦いに参加しようとしている。……危険は即刻排除。当たり前です』

 イヴの説明が終わっても、かりんの表情は変わらない。

「人間に害が無ければその選王に興味ないし、手出しもしないったら」

『それは私には分からない。「可能性」の話です。手出ししないと口だけで主張されたところで、それを保証できる信頼関係は我々の間に無い。これから作ろうにも時間が無い』

「……話し合いは無意味みたいだね」

『始めからそう言っています。だから戦争でしょう』

「分かった。じゃあ遠慮無く『抵抗』するね」

『ええどうぞ。それが戦争です』

「後悔しないでね」

 通信はそれきりだった。

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