第31話 アークシャイン復活!ひかりの決意!
「わわ……私!? 無理よそんなの!」
「異議のある者は?」
慌ててひかりは手を振るが、その場の全員が頷いている。誰も、否定はしなかった。
「無理なのは分かっとる。池上が目を醒ますまでの繋ぎで良い。……優月、かりん。参謀として付いてやれ」
「……分かった」
「うん」
「…………!」
リーダーとは、最終判断を下す責任者。誤った判断をすれば、組織の全てが死ぬこともある。ひかりに荷が重いことは『その場の全員が』承知である。だが。
「あちこち走り回り、この1ヶ月半、最も頑張っていたのはお前じゃ。皆、お前の判断なら付いていくだろう。間違っているなら、指摘してくれるだろう。愛。誠実。努力。……正義。長谷川。お前は『リーダー』に向いている」
「!」
見ると、全員がひかりを見ていた。初期シャインジャーメンバーであり、アビスの単独撃破を成功させた開拓者であり、優しい心を持ち、皆の為に自分を犠牲に出来る功労者。彼女の人間性を、全員が理解している。だから、彼女の言葉には力がある。
「……分かった……」
これは武力でも権力でも無い。実権は無くとも、「この人が言うなら……」と思わせる人格。
「じゃあ、改めて、よろしくお願いします」
権威である。
――
翌日、ひかりは記者会見を開いた。アークシャイン壊滅から、約1ヶ月。最早噂さえされなくなった彼らの、『復活会見』である。
「……『アークシャイン』代表、長谷川ひかりです」
脚光を浴びて、ひかりが答える。もう迷いはないと言った表情だ。傍らには良夜とかりんが控える。
「怪人被害は、増え続ける一方。さらに、ラウムという新たな敵も現れました。巷では様々な憶測が飛び交っていますが、怪人側……『アビス』と、『ラウム』が戦争しており、地球はその舞台にされたのです。どちらの種族も、人間を支配することを望んでいます」
ざわざわと騒ぐ報道陣。
「先の、中国の騒動は我がアークシャイン所属のパニピュアが治めました。私達は、この戦争を終わらせ、平和な世を作ることを目的とし、再出発いたします」
ひかりが宣言した所で、記者から手が挙がる。
「どうぞ」
「……アークシャインは壊滅し、戦力は激減したと言われていますが、どうなのですか?」
「技術は日進月歩。私達は、一部アビスやラウムの使用する『ワープ』を妨害する装置を開発済みです。それを用い、盟友アークシャインを殺害した敵幹部を撃破しています。効果も実証済み。基地周辺20km圏内は、ラウムがワープをしてくる危険はありません」
「!」
どよめきが強まる。
「この1ヶ月、ただ傷を癒していた訳ではありません。シャインジャーにしか使用不可能だった兵器の改良を重ね、一般人でも使用可能にしています。これで、戦力不足という『前』アークシャインの致命的欠陥を是正しています」
「……一般人、というのは?」
「この場をお借りして、告知いたします。私達は、未だ人材不足に悩んでいます。そこで、一般の方から『志願兵』を募りたいと思います」
「なっ!」
「素材や技術が稀少なためシャインジャー専用だった『特殊スーツ』や各種武器兵器、これの量産に成功しています。つまり、『誰でもシャインジャーに成れる』。どうか、私達を助けて欲しい。そして、共に地球を守って欲しい。どうか、よろしくお願いいたします」
ひかり、そして良夜とかりんも立ち上がり、報道陣の前で頭を下げた。
「確かに、シャインジャーは一度敗けました。しかし、それまでに積み上げて来た勝利は、消えません。異星人に対抗しうる『人間の』勢力。それはこの『アークシャイン』を置いて他にはありません。感染も支配もありません。ただ地球を守る為。皆様の理解と協力をお願いいたします」
会見はここで終了した。
――
・以下、ネット掲示板の反応
アークシャインの会見良いな。本気度が伝わった。
本気度とか大丈夫か?重要なのは結果だろ。
ていうか軍隊の組織を宣言したのと一緒だろ?憲法知らんのかこいつら。
やっぱひかりん可愛いな。怪人に○される展開はよ。
代表ってなに?2割死んで幹部総辞職したから繰り上げ?ソーラーさんまだ眼醒まさないの?
てかブラックライダーあんな顔だったのかよ。病気?
量産できるならもっと早くやれよ無能www
話題にこと欠かないなあの組織。ふざけすぎ。
ていうかなんかアプリだしてるぞあいつら。ASYA?アーシャか。怪人出たら通報するんだって。
情報収集ね。ヒーロー活動ぽくていいんじゃない。
それより一番注目すべきはあの幼女だろ。
いや、中学生は流石に幼女ではない。ロリではあるけど
俺、シャインジャーに成るわ。んでピンチのひかりんとロリ助けてハーレムだわ。
頑張れコミュ障デブンジャー。
――
同時刻、中国。アークシャインの復活宣言の報と同時に、数人の『アークシャイン職員』が降り立った。
場所は、『中国ラウム暫定政府』。ある地域に詰め込まれたラウム兵達を横目に、車を走らせる。
「……この人達が全員、ラウムなのか」
「ワープを使い、『精神エネルギー』を使いこなす種族」
「安心しろ。らいちちゃんの支配で暴力は禁じられている」
ラウム達は珍しそうにその車を見るが、特に近付いては来ない。車の向かう方向に、らいちが居るからだ。
――
「女王」
「!」
ここは、大きめの街だった。暫定だが、そこの市役所が、そのままらいちの王宮となっている。
「……なに?」
入り口には、数人のラウムが片膝を突いていた。らいちは初め、統治は自分ひとりでやろうと思っていた。
「……我らは、アウラより権限を与えられていた、副将でした。……シャンヤオの元同僚、と言ったところでしょうか」
「…………それで?」
「ラウム統治に、微力ながらお力添えを出来ないかと……」
「………」
らいちは疑いの眼を向ける。あんな暴動を起こしていた彼らに対し、信頼は当然低い。
「……我らには力が無く、民の暴走を許してしまった。それを救った貴女に、お仕えしたいのです」
「アウラ無き今、我らは『中国ラウム』として『選王』を継続する意思はありません。ただ民の生存を。今は貴女だけが希望なのです」
「……分かった。じゃあまずは、ここの状況を有る限り教えて」
「ありがとうございます!」
らいちは、彼らの言葉が真であることを、精神干渉により知っている。怒れるカルト集団の中にも、「まとも」な人も居たのだと、少し安心した。
――
アークシャイン職員が到着したのは、それから1週間後のことである。
『もしもし、らいちちゃん?』
「……ゆりちゃん?」
国際電話で、ゆりからの連絡を受けるらいち。
『大変だと思って、そっちに何人か「専門家」を送ったわ。使ってちょうだい』
「…………」
らいちは目の前の、間宮家の家紋【姫百合】の社章を着けた、スーツ姿の日本人を改めて見上げる。
「……いいの? だって、この人テレビで見たことあるよ?」
『ええ。間宮家は、アークシャインと運命共同体だもの』
「……!!」
『「女王」、頑張って』
「ありがとう!ゆりちゃんも大好き!」
『……ザザ……あっ。ちょ……』
「?」
次の瞬間、受話器から聞こえたのはゆりの声では無かった。
『らいち』
「!」
『……お主は何をやっとるのだ』
「う……博士」
らいちから冷や汗が垂れる。幼い頃からかりんと一緒に育ったが、いつも不機嫌そうな彼女の祖父だけは、苦手だったのだ。
「……ちょ、ちょーっと、国家運営を……ねっ」
『バカモン』
「……っ」
だが。
『学校はどうする。父親には説明したのか。……パニピュアはふたりでひとつではなかったのか。お主が離れて、地球の平和はどうなる』
「……う……そ、それは……」
『何より、かりんが心配しておる。何の相談も無かったと怒っておる』
「!」
『かりんだけではない。長谷川も優月も、皆だ。アークシャイン「全員」がお主を案じておる』
「……!」
博士はかりんと同じように、本当の孫のように、らいちも愛しているのだと、最近なんとなく感じるようになった。顔で損しているだけで、アーシャに選ばれた正義と愛の人間だと。
勿論「全員」には、博士自身も含まれていると。
『……帰っては来れないのか』
「……うん。ごめんなさい」
『まったく……。具体的なことは、間宮の専門家に教えてもらえ。お主の人生はお主のものじゃ。勝手にしたらよい。だがお主の身はまだ「案じられる」のだとは理解しておけ』
「うんっ」
『あとは……かりんじゃが、また落ち着いたら精神干渉で連絡を入れるだろう。お主の分の仕事が増えておるからな』
「……うん。ありがとう。博士も大好き」
――
「……改めてよろしくね、らいちちゃん」
「待て待て。もう一国の女王だぞ。相応の態度を…」
彼らは基地にも出入りしていた、顔馴染みでもある。それも、政治のプロ達だ。いくらアーシャから教育を受け、子供離れした聡明さを持ってしても、何の経験も無い子供には変わらないらいちには、100人力の援軍である。
「良いよちゃん付けで。じゃ、まず住むところだよね。ホテルで良いかな。案内させるね」
「……案内、させる?」
そこへ、副将が登場する。その場に緊張が走るが、らいちの様子を見て冷静になる。
「あはは、この人達は大丈夫。副将さん、彼らが日本からお呼びした専門家さん。隣のホテルに案内してあげて欲しいな」
「畏まりました。どうぞ皆さん。ここはまだ何も始まっていない赤子の国です。どうかお力をお貸ししていただきたい」
「落ち着いたら、顔合わせと状況把握を兼ねて会議しよう。ね」
――
アークシャインは復活し、中国ラウム騒動も収まった。問題はひとつひとつ、解決されているように思える。
しかし、既に動き出していたのだ。これは、ひかりの会見から1ヶ月後のこと。
ユーラシア大陸を貫きながら低空を進む、巨大な影があった。「前回」より武装を強化し、「前回」より何もかも強力になった、巨大戦艦の艦隊が。
『交渉にやたら時間が掛かってしまいました。イヴめ。自分の取り分がそんなに大事ですか』
「まあまあ……言いっこ無しだろ、それは」
『……ふん』
「……はっははぁ。それにしても良い景色だ!」
青い特殊スーツに、赤いマント、そして目元を隠すマスク。……最強のラウム人間を乗せて。
――補足説明⑤――
中国ラウムはいつ暴走するか分からない。ワープ使い100万の軍勢は危険すぎる。パニピュアの片割れが抑え続けられる保証は無い。
……ならば皆殺しにするしかない。「我が民を守る為」
やっと収まり、前へ動き出した国を、滅ぼそうとする勢力がある。釘を刺したのに、無視して攻撃体勢を取ってきた。我が国の主権が脅かされている。
……ならば戦うしかない。「我が民を守る為」
さあ戦争です。