第28話 魔法も奇跡も!みんなの平和の為に!
アーシャと彩には、ある天才的能力がある。『ワープ装置』『精神干渉による通信機器』『探知能力』『精神支配』。
などなど。『個人の能力を機械へ移植する』という、もはや超能力や魔法と呼んで差し支えない、超高度の科学を実現させた。
原理も理屈も過程もすっ飛ばし、『結果』を生じさせる魔法使い。それが、『種の王族』の能力と言えるのかもしれない。
――
爆弾の雨は止まない。ハルカは障壁で防いでいるが、持って数分だろう。
「アンタ飛べるなら逃げれるんじゃねーの?」
青年が訊ねる。しかしハルカはかぶりを振る。
「飛んだらそれこそ蜂の巣よ。障壁で爆発は防げても、衝撃は防げない。無傷のまま地面に墜とされて、精神力が無駄に減るだけ」
「……」
この『精神力による防御障壁』は、ハルカの発明である。精神力を物理的半実体として出現させるという暴挙であるが、クリアアビスの高い精神力と、『人間の』高度な想像力がもたらした成果である。
「じゃあ、まずはあの戦艦をどうにかしたら良いんだな」
「まず、と言うよりは戦艦をどうにか出来たらもうほぼ勝ちよ」
クリアアビスは学んだ。人間の想像力は、我々を越え得ると。そして精神力は、実体を持つと。
「多分、出来る。今はまだ頭の中がごちゃごちゃだが、纏まったら、多分」
「どれくらい?」
「……わかんねー」
「やれやれ」
ハルカの手元には、彩がエクリプスから作った『アビス粒子入りの瓶』と、ボルケイノから作った『使い捨てワープ装置』。これらを使えば、一応はこの場から逃げられる。だが出来れば切りたくないカードであった。切るとすれば、勝利目前のダメ押しで切りたい。今使えば次からは対策されてしまうからだ。
「クリアアビスからの干渉は来てるの分かるでしょ?能力の使い方が分からないなら応えたら良いのよ」
「それしたら支配されるんだろ?」
「支配だけ拒めば良いじゃない」
「……アンタは拒めたのか?」
「残念。私はクリアアビス。元から支配する側よ」
「……このやろう」
青年は、深呼吸し、目を閉じた。
「やるよ。ちょっとだけ耐えてくれ」
「はいはい」
――
上空へ浮かぶ、巨大戦艦。ラウム兵達はモニターに映し出される地上を見ながら、休憩していた。
「……ふぅ。後は火力任せだな?」
「まあ根こそぎ爆撃し続ければ死ぬだろ」
「くそっ。13人も殺しやがって」
「クリアアビスは嘗めちゃいけないな。1000人のラウム兵と『サンダーボルト』を相手にこれだけ立ち回るんだ」
「『イヴ』はなんと?」
「『老害に慈悲は無い』ってさ」
「あはは。流石、5人のラウムの中で最も過激な思想の持ち主だ」
「なんだそれ?」
「知らないのか? 因みに、最も『ヤバい』思想の持ち主が中国の『アウラ』。最も意味不明なのがロシアの『ダクトリーナ』。そして……最も『危険』なのが……アメリカの『サブリナ』だ」
「いや、誰が言い出したんだよ。ヤバいと危険の違いも分からんし。てかフランスは?」
「知らん」
「適当か」
彼らの会話は、ここで終了となる。ドンという衝撃の直後、艦内に警報が鳴ったからだ。
「うおっ。なんだ?」
『おいっ! なんでもいいから手摺に掴まれ!』
「はぁ?」
艦内放送が荒々しく流れる。
『駄目だ!撃墜でき――――』
――
突然だが、『料理人に振られるフライパンの上』に居た経験はあるだろうか。無いだろうが、想像して欲しい。大地は荒ぶり、熱と火が辺り一帯を支配する。平衡感覚はおろか、どちらが上か下かも分からなくなり、壁と激突を繰り返して大火傷と大怪我をしながら脳が揺られる。
「!!!」
「ぐおおおお! な、…なんなんだ!」
『……も……発……るぞ!』
回線が不良になったのか、放送は途切れてしまう。そして直後に、この『フライパン』はもう一度振られてしまう。
「逃げろ!」
「どこへ!?」
「兎に角外だ! ここに居たら死ぬぞ!」
「はぁ!? 『サンダーボルト』を放棄しろってか!」
「そう言ってんだよ!」
「何があった!?」
「GAM(地対空ミサイル)で! 地上から! 攻撃されてんだよ!」
「あぁ!? んなもん迎撃しろよ!」
「『障壁』張って飛んでんだよ! 意味わからん!」
まるで雲の子を散らすように。蟻の巣をつついたように。早とちりしたラウム兵達がパラシュートを担いで空中へ飛ぶ。いくら爆撃しようと『サンダーボルトは墜ちない』ということを理解してたのは、一部のラウム兵と『ハルカ』だった。
「……どうだ?」
青年は恐る恐る訊ねる。彼にはレーダーは備わっていない。ハルカの表情は驚愕と喜びが混同していた。
「……最高」
冷や汗を垂らしながら、苦笑いで言う。
「へっ」
障壁で囲まれた、半径数メートルの範囲。その中を、彼女らを囲むようにして7基の『対空固定砲台』が渦巻き上に設置されていた。
「で、貴方名前は?」
「ああ、フィリップ・ライト=フィリップスだ」
「……へんな名前」
「なっ!」
「……フィリップね。ハーフアビスとしての銘は"七星"。大袈裟だけど、納得の能力ね。『正直強すぎる』」
フィリップの能力は、精神力の具現化である。だがなんでも生み出せる訳ではない。無から有を造り出すことは不可能だ。彼は瓦礫に命を与え、砲筒と砲弾を造り出したのだ。
「さあ、もう一度よフィリップ。迎撃ミサイルは私が防ぐから、今度こそサンダーボルトを撃墜しなさい」
「1号から順に?」
「どれからでも良いわよそんなの」
――
フィリップが出現させた砲身は全て真上を向いている。絶え間なく飛び出した砲弾は、まるで地面から天へ向かって雨が降っているかのようだった。文字通り、形勢逆転である。
――
『サンダーボルトが墜ちましたか』
イギリスラウム……イヴは、ふうと息を吐いて、カップを置いた。
窓から見える景色は、不吉なほど分厚い雲が立ち上っていた。
「……イヴよ。我々は敗けた。……制裁は」
イヴの着くテーブルの脇で、ラウム兵のひとりが跪く。イヴはそれを見るでもなく、ただ窓の方へ馳せるように見る。
『しませんよ。元より、今勝てなくても良いのです。貴重な経験をしました。例え嵐のように空爆しても死なない生物とは。"衛星"ハルカ・ギドー。……アヤ・ホシノへ至るには、厄介な番人が居る。「個」の力を大きく逸脱した「最強」』
「……ですがサンダーボルトが通用しないとなると」
『改良すれば良い話です。あの障壁を貫けるように。あの砲撃を防げるように。たったそれだけのこと。「それができたラウムが"衛星"を破り、星影の姫へ辿り着く」。そして「それには、現状私達が一番近い」。それだけのこと』
――
『ラウムにされた人間はもう救えない。早く対処しなければ、我々の同胞、または食糧となる人間が減ってしまう』
魔法による『結果の創造』……その成果である、通信機を片手に、彩はクリアアビスと交信していた。
「じゃあ、都市の破壊は一旦中止で、優先的にラウムを叩くってことだね」
『奴等は自らの肉体を摂取させられればすぐに洗脳される。もう国のひとつやふたつ陥ちていても不思議ではない』
「……びっくりするほど劣勢だよね。悪の組織が聞いて呆れる」
『だが我々が生き残り、繁栄するためには地球への帰還が何より不可欠だ。もはや衛星と七星には守りに徹して貰う。我々が到着した時にお前が生きていればそれで良い』
「……うん」
『……不安か』
クリアアビスからの思慮の言葉に、彩は少し驚きながら、しかし嬉しそうに苦笑した。
「まあ、ね。ハルカが居るとは言え、私に戦う力は無い。『個人』が要の組織なんて、脆弱もいいとこだと思うよ」
『全てはラウムによるものだな。我らの先達は、侵略する種族を間違えた』
「……ねえ、地球へはいつ来れるの?」
『そう遠くは無い。が、具体的に何時だと断言はできない』
「そう」
『それまで、幹部を順次送り込もう。他のアビスは粒子で良いが、「私の肉体」だけは、放棄せず地球へ還る必要がある』
「……ねえ、前も言ってたけどさ、『地球への帰還』って……。どういう意味?」
クリアアビスが到着するまで、時間がある。その間、ハルカとフィリップは仲間集めに奔走するだろう。
彩は危険な場所へは行けない。しかしハルカ達と別行動になるのも危険だ。彼女らが考えたのは、日本潜伏である。ラウムの襲撃を警戒し、『ワープ妨害装置』の範囲内で、アークシャインに見付からないように隠れることだ。ステルスはハルカ頼りになる。外出を控えなければならないため、現在彩は暇を持て余していたのだ。
『……いずれ分かる。我々が「どこから来たのか」その正体、目的もな』
「ねえ、もっと教えて? アビスのこと……あなたのこと」
『……今回の姫は好意的で助かる』
「アーシャは違ったんだ。まあ、私は人間だけどアビスだからね」
この日から、彩は「アビス」「精神エネルギー」などについて深く理解することになる。それは、最上位クリアアビスにのみ許された情報も含まれる。ラウムが研究していた分野も重なるのだが、純粋なラウムが絶滅した今、アーシャの娘達には引き継がれていない情報、知識も多くある。勿論、アーシャを喪ったアークシャインには知り得ないもの。時間を掛ければ、南原博士と間宮ゆりの協力で拓ける知識であるが、彩は一足飛びに、その知識を「天才」の脳へ供給させる。
彩の「魔法」は、南原博士を含めた地球の科学を置き去りにすることになる。
――補足説明③――
クリアアビスが今まで情報を出し渋っていた理由は、アーシャの教訓が背景にありました。アーシャが博士やシャインジャーに情報を出し渋っていた理由は、博士でもすぐには完全に理解し切れないため、少しずつ解説する予定でした。




