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第27話 新たな仲間は例外!?アビス達の事情!

 軍隊とは、完結型の集団である。軍隊とは、外敵に対する抑止力である。軍隊とは、戦闘員から医者、学者までを備えた万能組織である。

「……はぁ……はぁ……っ」

 故に。

『……ハルカっ!』

 強い。


――


 組織を相手取る戦いに於いて、『見付かれば即死亡』は基本である。組織とは数が多いことであり、それだけ『目』があるということ。そのどれかひとつにでも見付かれば、たちまち『脳』まで情報が行き渡り、『手足』による武力が行使される。

「……畜生」

 ハルカは、この日イギリスへ来ていた。何故安全な隠れ家から出てきたのかというと、クリアアビスからの次なる『幹部』を迎えに行くためだ。偶然にも、またイギリスへ飛来した粒子は、またしてもイギリス人の青年に感染した。

「おいっ! どういうことだ! 何故『軍隊』と戦ってる!?」

「……うるさい」

 街の中。既に住民は避難しているか『遅れて死んでいるか』。もう都市の機能は働かない。それだけでも戦果と言えるだろうが。


 パラララララッ


「!」

 ハルカは半径10kmの敵意を感知する、範囲は狭いが高性能のレーダーを持っている。小銃は撃つ前に分かる。その無慈悲で無感情な音が聞こえた時には、既に防御障壁を展開している。

「……敵意が多すぎる。しかも撃った直後に消える。『仕事』と割り切っている奴等だ。これじゃ捉えられない」

 敵は常に移動している。そして見付かれば撃ってくる。撃てば、即座に移動する。捕捉しても次の瞬間にはもうそこには居ない。

「……おいっ! 説明しろってっ! なんなんだよこれは!」

 そして、背後には腰が抜けて動けない同胞が大声で不満を叫んでいる。ハルカはこの場から動けない。

「……よりによって『一方的精神干渉を受けない例外』だなんて。最悪」

 ただのハーフアビスならば、ハルカが支配すれば事足りる。だがこの青年は、それを受け付けない例外だった。

「おいっ!」

「貴方名前は?」

「……!? 今はそんな場合じゃないだろ!?」

「理解はしてるのね」

「っ!?」

 ハルカは青年を担いで、近くの建物へ避難した。


――


「……目標、市民館へ逃走。追い掛けますか」

「了解。待て、一旦待機だ。こちらの残精神力値も減っている」


――


『ハルカっ! 大丈夫!?』

「ええ。なんとかね。こっちは心配しないで」

 彩と通信するハルカ。さすがに常時レーダーと防御障壁を展開していては、精神力が持たない。どうにかしなければこの状況を打開できない。

「……『ハルカ』? おい、まさか『ハルカ・ギドー』か?」

 聞いて、青年は返した。

「……ええ。私は義堂遥。それが?」

「……世界最悪のテロリストの名前じゃねーか……」

 青年は震えた。目の前に、テレビで見た『悪魔』が居るのだ。

 幹部スタアライトの後継。怪人の親玉。世間でのハルカはそう評価されていた。

「……そ、それが何でここに居るんだよ! 俺は関係ねーだろ?」

「……説明が必要?」

 ハルカは面倒くさそうに、ソーラーブレードを青年へ向ける。

「うわっ! おい! やめ……」

 青年は無意識に、防衛本能から『爪』を出した。腕から伸びたそれは、巨大化しながらハルカの頬をかすった。

「……!?」

 青年は自分でも、何をどうしたのか理解できなかった。

「貴方ももはや人間じゃない。こちら側。ここから逃げないと殺されるわよ?」

「……!!」


――


 そこへ、爆音と共に衝撃が走る。辺りは沸騰したように熱くなり、天井や壁が見る間に崩れていく。

「な、なんだ!? 次から次へ!」

「ただの空爆よ。いいからじっとしてなさい。私から離れないで」

 ハルカは障壁を展開し、自身と青年を覆う。逆にこれはチャンスだと考えた。


――


「……どうだ?」

「うーん。……人間なら99%死ぬけど、相手は怪人だからなぁ」

 彼らは軍隊である。黒い軍服に身を包み、小銃や爆弾で武装している。

 爆音と土煙が巻き上がる。がらがらと音を立てて崩れていく市民館を、隣のビルの屋上から注意深く見詰めていた。

 煙が徐々に晴れていく。

「見付けた」

「っ!?」

「ぁぁぁああああ!!」

 そんな声が聞こえたかと思うと、砂塵の奥からぎらりと光るものが見えた。

 そして次の瞬間には、彼の胸を貫く小さな拳の残像が見えた。

「!!」

「はぁ!?」

 即死。反応すら許されない。彼らは背後で爆発のあった場所へ小銃を向ける。そこには『兵士のひとりを片手で貫いて心臓を握り潰す』ハルカと、もう片方の手で首根っこを掴まれ、高速で振り回された不憫な青年が居た。

「…………」

「!」

 ハルカは血飛沫を浴びた顔で、じろりと彼らを見やる。今正に、アビスの『食事中』であるのだが、彼らは恐怖しか感じなかった。

「散開っ! 距離を取れっ!」

 リーダーと見られる男が叫ぶ。今一斉射撃を指示しなかったのは、目標が食事をして精神力を回復させ、防御障壁の強度が上がったと判断したからだ。またじりじりと削っていかなければならない。大丈夫だ。こちらに『ワープ』がある以上、掴まることは無い。

 彼らはワープを起動させ離脱を図る。ハルカは即座に、ジャンプして飛び上がった。

「……ワープ自体は光より速い。でも『準備』と『移動後の硬直』は隙になるし、何より貴方達の感覚と神経伝達が光速である筈が無い」

 目の前でワープされれば、その移動地点はレーダーによって判断できる。一番近い場所へ音速で移動すれば、余程異次元の達人でない限り体感する移動速度は変わらない。

「ぎゃっ!」

「ぐわぁ!」

 軍服の男と、青年の悲鳴が同時に重なる。

「……ふたり分か」

 ハルカは貫いた『補給缶』を無造作に投げ捨てる。また道路に出てしまったが、向こうもワープ直後でこちらを捕捉できていない筈だ。

 また建物へと避難した。


――


「はぁ……はぁ……はぁ……っ!」

 ぐったりとその場に倒れ込んだのは青年の方だ。

「なん……なんだよっ」

「見た通り。戦闘中よ」

「家に帰してくれよ!」

「もう無理。貴方は怪人と見なされている」

「ふざけんな! 巻き込みやがって!」

 青年はなんとか起き上がり、声を荒げた。

「訳わかんねーよ! いきなり攻撃されて、びゅんびゅん飛ばされて……! お前、お前! 今ヒト殺したろ!?」

「アビスは人の精神を主食としているわ」

「そんなっ……! 平気な顔して人を……! アタマおかしいのかよっ!」

「貴方もそうなる。もう人間と同じ食生活は送れない」

「……!!」

 ハルカは会話をしながら、装備品のチェックをする。通信機器や武器、その他彩特製の機械などだ。

「私の今の目的は、『貴方を連れて無事に日本へ帰ること』。貴方はもう仲間だから」

「なっ!」

「……文句の多い情けない男でもね」

 一言多いが……もう仲間と言われ、不思議と違和感の無かった青年は、無意識に府に落ちてしまった。

「……ここから出ても殺されるだけか」

 目付きが変わった。

「そうよ。さっきから言ってるじゃない」

「俺が『こう』成ったのはアンタのせいなのか?」

「違うわ。飛来するアビス粒子に感染する個体は選べない。たまたま貴方だっただけ。同じように、『たまたま私だっただけ』。80億分の1の確率よ。奇跡ね」

「…………」

 青年は息を整えつつ、自身の身体を確かめるように動かす。意識すれば、爪、角、甲殻が体表に構成される。そしてその分だけ、少しだけ『やる気』のようなものが削がれていく。

「無闇に能力を使わないで。精神力は有限なんだから」

「……俺はもう怪人か」

「そうよ。ハーフアビス。テレビで見る怪人より上の地位のアビス」

「……アビス」

 呟いた直後、遠くの方で地響きがした。

「!」

 隠れるように窓から覗くと、いくつかの建物が空爆され、崩れていた。

「……やばくないか?」

「だから言ってるでしょ。歩兵はなんとかできても、『制空権』を握られている以上手も足も出ないのよ」

 青年は見た。100メートルほど上空に浮かぶ、大小合わせて10機程の、『空飛ぶ空母』と呼べるような、巨大な空中戦艦を。底の面には悠に100を越える砲門が大地を睨み付け、監視カメラのような小型の飛行体が自分達を探している。

「ありゃなんだ?」

「対地上低空制圧戦艦『サンダーボルト』1号から5号。そして周りの小さいのは遠隔制御航空機やら飛行制御サブ機体やら武装展開制御機やら、サポート兵器群よ」

「……こんなモン、現代で作れるのかよ」

 青年が目にした光景は、まるでSF映画のようだった。

「無理よ。あれは宇宙科学。私達が今相手にしているのは『イギリスラウム』。奴等の『ラウム兵』はざっと1000人前後ってとこかしら」

「……は? 『ラウム』って、正義の味方の?」

「そうよ。『人間の』味方と思われている団体。私達にとっては『悪の組織』。理解した?」

「……それを、こんな大掛かりな化けモンみたいな兵器を投入して、アンタひとりを殺そうってか?」

「そうよ。私は『世界最悪のテロリスト』なんでしょ」

「あー……。で、俺はなんで巻き込まれた?」

「貴方がイギリスで覚醒すると上司に言われて迎えに来たのよ。で、見付かった」

「…………」

「理解した?」

「……大体は」

 青年は大きく溜め息を吐き、気持ちを入れ換えた。

 そしてまた、爆炎が上がる。『サンダーボルト』による局所爆撃は、段々と近付いてくる。

「歩兵はもう下がらせたわね。厄介な奴等が居なくなって良かったわ」

「……厄介?」

「そうよ。連中、『()に見付かれば即ワープ』『何かあれば即ワープ』と徹底してたからね。さっきは爆風に紛れてふたり狩れたけど、『歩兵で完封は不可能』と判断されたっぽい。もう出てこないわね。私に補給を許すだけだもの」

「……軍隊」

「そうよ。その辺のゴロツキとは一線を画す『訓練・統率された万能集団』。さらにラウムによる精神支配があるから、一兵卒まで迷いや裏切りもあり得ない。奴等の持つ『自動光線小銃』は防御障壁を展開しなければ防げない。展開にはある程度の精神を消耗する。だから厄介だった」

「……防御、障壁。それ便利そうに見えるけど」

「あのね、基本的に攻撃より防御の方が体力を使うのよ。剣は細くて片手でも持てるけど、それを防ぐ為の鎧は全身でしょ?」

「……俺に何ができる」

 青年は頷いて冷静になった。それを見て、ようやくハルカは微笑んだ。

 ああ、自分も、覚悟を決めた時、そんな表情だったのだろう、と。巻き込まれたが、悔いは無い。きっと彼もそう思ってくれるだろうと。





――補足説明②――

 警察や軍隊を嘗めてはいけません。彼らは、決して『悪役の強さを引き立たせる雑魚』ではありません。日々自国を守ろうと命を削るような訓練を続ける尊敬すべき強者達です。

※この物語は実在してもしなくてもどの団体とも関係ありません。

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