第26話 みんな友達!仲良く学園生活!
ひかりは即座に、緊急用発信装置を鳴らした。これはスイッチを入れると基地へ位置情報が飛ぶ仕組みになっている。
「!」
そして、喫茶店の窓を蹴破って外へ出る。距離を取り、変身する隙を作らなければならない。一般人を巻き込んでしまうが、あのまま負けるわけにはいかなかった。
「きゃ……!」
のだが。
ひかりは背後から迫る戦士に捕らえられ、組み伏せられた。
相手にはワープがある。距離を取るなど不可能だ。
「(……すぐ殺さない!?)」
そこへ、アウラと呼ばれたラウムが歩いてくる。
『下位アビスとハーフアビスのように、ラウムの戦士にも「質」があります。シャンヤオは素材が良かったですが、こんなただの人間だと、ワープ距離もせいぜい10メートル程度、それに2回もワープすると精神力が無くなってしまう。情けないものになる』
「…………!」
喫茶店。つまりは飲食店。最も『ラウムを入れてはいけない』施設だとひかりは思った。
『真の平和には、「皆の賛同」が必要です。長谷川ひかり。貴女が賛同してくれれば、殺す必要は無いのです』
「……つまりは『スパイに成れ』ってことね」
『どうとでも』
「答えは『ノー』よ。さあ殺しなさい」
『愚かな人よ。無理矢理支配するとしましょう』
アウラは小さな瓶を取り出した。透明で、中には赤い液体が入っている。彼女の血液であることはすぐに分かった。
「……あっ!」
元・喫茶店利用客は、強引にひかりの口を開けさせる。人外の力でやられれば、変身していないひかりは抵抗できない。
「きゃあああああ!」
通行人など一般人が叫ぶ。すぐに通報されるだろう。
――
「ラウム・コネクト」
凛と、澄んだ声が通った。
『!!』
アウラは即座に翼で身体を包み、防御態勢を取った。案の定、アウラはその衝撃に耐えきれずに吹き飛んだ。
まるで重機がぶつかったかのような衝撃と轟音。アウラが居た場所には、優しげな純白の光に包まれた、小さな戦士が蹴りを放った体勢で止まっていた。
「……かりんちゃん!」
「お姉ちゃん、ちょっと待っててね」
「え……」
ひかりはその少女が放つ雰囲気にぞっとした。
『……女王の眷族。園を追放されし迷える子羊』
「ふざけるな」
アウラは無傷で戦線に復帰する。戦士達をけしかけるが、もうワープは使えない。それでも迫ろうとするため、彼らは次第に力尽き、倒れていく。
……らいちと比べて温厚に見えるかりんなのだが。
「何様だっっ!!」
吼えた。
『シャンヤオ!』
「……ラウム・コネクト」
かりん……ピュアピースへ、シャンヤオが迫る。恐らくこれが地球初の『ラウムの戦士同士の戦い』。いや今まで『平和』であった、ラウム史上初だろう。
「ほあたっ!」
「!」
超音速で繰り出される拳法。それは単なる打撃ではなく、内側から破壊するような種類のもの。戦闘技術に於いては、シャンヤオの方に分があった。
「…………!」
「あたたたっ!」
だが。
「…………」
次第に、かりんは反応をやめる。超スピードで拳と脚を見切り、ガードしていたのだが、それをやめる。
「ああたあ!」
棒立ちのかりん。に対し、連続攻撃を続けるシャンヤオ。
「…………っ!?」
ひかりは驚愕した。強い強いとは言われていたが、『パニピュア』――『女王の眷族』とは、ここまで格が違うのもかと。恐らく、かりん自身も、この瞬間まで自覚していなかっただろう。
シャンヤオは、まるでサンドバッグを相手にしているようだ。その上、そのサンドバッグは『ピクリとも動かない』。かりんの黄金の精神力に阻まれ、攻撃が通らない。
『まさ、か……』
アウラも呆然とする。
「……あ……たたぁ! ほあ!」
「……もういいよ」
「!」
かりんは片手で、『シャンヤオを払い除けた』。するとシャンヤオは真横に吹き飛び、地面へ転がって動かなくなった。
「……『自由意思』。だと思う。アーシャが死んで、それから力が溢れてくるような気がしたの。もう、ひとりでもワープができるもの」
支配された精神より、解放された精神の方が単純に強いのだと直観で理解した。かりんとらいちは、アーシャの死を乗り越えたことによる精神的成長も支えとなり、『精神力の防御障壁』という『装甲』を手に入れた。
「それより」
なおもかりんは、歩みを進める。その先は、アウラを見据えて。
『……! そんな馬鹿な! 私のシャンヤオが……!』
「逃がさない」
『!』
アウラはワープをしようとして、失敗した。妨害装置が作動している。逃げるなら、かりんが来た瞬間にしかタイミングは無かったのだ。
『……待っ』
「人の意思を! 平気な顔して侵略するお前が!」
『話をっ』
かりんが激怒している理由は、単純なことだった。
「『人』を! 『平和』を!」
『………………!』
「語るなぁっ!」
燃え広がるようなかりんの精神力に『充てられた』アウラは、眼を開けたまま気絶し、その場に沈み込んだ。
大好きなお姉ちゃんを洗脳しようとした……それ以上に、大事なことは無い。後から出てくる理由や理屈は、感情の後付けだ。
「……かりんちゃん……」
人類最強の兵器に『懐かれている』という異様な事実が、ひかりの悩みを加速させるのだが、パニピュアがそれを知る由は無い。
――
『やはり、正面からぶつかるのは危ない』
ロサンゼルス。
アメリカラウムは、ラウム同士の通信の中で、アウラが落ちたことをリアルタイムで知る。
「大丈夫だろう。私が居る」
自信満々で語るのはスーパーノヴァ。
『最小限のリスクで勝てるならそれに越したことは無いということです。なんにせよ、フランスと中国はもう脱落した』
「中国は危険じゃなかったのか?」
『……予想はあくまで予想です。結果が分かっていれば、苦労は無い』
「まあ、我々の敵はアークシャインじゃ無い。取り合えずはアヤ・ホシノだろう」
『その通り。潜伏先は日本でほぼ確定ですが、あちらには「ワープ妨害装置」がある』
「ワープ妨害装置妨害装置を作れば良いだろう?」
『馬鹿ですか貴方。ていうか今まで原理を理解せずにワープしていたのですか』
「勿論さ!」
『……はぁ。それより、アビス出現です。ワシントンですから、早く行きなさい』
「OK!」
――
アーシャの死により、パニピュアは自由意思を得た。ならばアウラの場合は……?
この問題はすぐに、中国で騒がれることになる。
――
『ワープ妨害装置』の開発。そして『緊急用発信装置』の携帯。これらにより、彼らはいくばかは、社会生活への復帰が可能になった。
しかしシャインジャーはほぼ全員、間宮家の企業に雇用される形で職を得、実質はこれまでと変わらない生活を送っている。
戻ってきたのは、彼女達であった。
「おはよ――!」
「久し振り」
歓声に沸いたのは、中学校の教室。我らがヒーロー、大英雄。パニピュアのふたりだ。らいちの退院とタイミングを合わせ、約2週間振りに登校していた。
「五十嵐それ、腕大丈夫かよ!?」
「全然平気だよっ」
「なあなあ、変身してくれよ!」
「だーめ。アレ精神力使うんだから。非常時に戦えなくなったら駄目なんだから」
「ちぇー」
「気にすんな。こいつ『変身シーン』を生で見たいだけだから」
「このエロ!」
わいのわいのと騒ぐ教室。『これ』を守るために戦っているのだと、彼女らは改めて決意を強める。
苦手ではあるが、多少持て囃されるのは気持ちが悪い訳では無い。
「なあ、俺も『戦士』に成れるかな!?」
「!」
そう言い出したのは、お調子者の男子だった。
「あの『天使』だよ。なんで日本には来なかったんだろうなー。俺もアメリカ行こうかな」
「……戦いたいの?」
「当たり前だろ! エイリアンなんかぶっ飛ばしてやるぜ! それに、俺五十嵐と南原より体育の成績上だぜ?」
「…………」
「……な、なんだよ……」
かりんは黙ってしまった。その空気の変化に、周りも静まる。次に口を開けたのはらいち。
「じゃあ、『いつ家が怪人に襲撃されるか分からない状況』で良いのね?」
「!」
「『いきなり怪人に襲われても』大丈夫よね? 『怪人の肉を手や足で抉る気色悪さ』にも耐えられる? 『音速で迫る巨大な爪』を冷静に避けられるわよね?」
「……うっ」
「『食事中や睡眠中でも、襲撃があれば即出撃』できる? 常にそんな緊張感で居られる? 『戦闘中、機動する度に精神力が磨耗』してくるけど、なんとか踏ん張って変身を解かないように立ち回れるんだよね?」
らいちの言葉を想像する。それは、自分には出来そうにないと直感した。軽い気持ちで言ってしまった。
「…………!」
「……ひとつでも判断を誤れば『こう』なるよ?」
「!」
最後に、らいちは左腕を出した。肘から先は痛々しく切断され、もう二度と、両手を使うことはできないことを証明している。
「……ごめん」
見た目はそうだろう。弱々しく、幼い少女。しかし、その彼女らに守られていることを、彼らは真に理解できていなかった。
「……いいよ、もう。慣れたし。でもあんた達には戦ってほしくない。こんな辛いのは、わたし達だけで良いよ」
「……」
らいちは情けなく謝る彼に、浅く笑って返した。かりんも小さく頷く。
「普通に、平和に、暮らせればそれで。それが最高だよ。わざわざ、こっちに足を踏み入れなくて良い。わたし達が居るから、安心して。ね?」
何故からいちが励ますことになった。その裏で、気になることもあった。
『天使』。やはりあのビジュアルは、大多数の人間にはそう見えてしまう。
見た目は大事である。第一印象はそれでほぼ決まる。らいちやかりんが『弱そうに』見えたように。
「(……あのアウラとかいう奴は、見境無く血を振り撒いていた。一応喫茶店の被害者には異常は見当たらないってお祖父ちゃんは言ってたけど……)」
もしかしたら、アメリカ以上に。何か取り返しのつかない事態になるのではないか。
底の見えない不安が、彼らを包んでいた。
「辛い戦い、か」
彼らは皆、戦いたくなど無い。戦いを知ってしまえば、より強くそう思う。今回久し振りに登校したせいで、心からそう思った。
「だけど、誰かがやらなくちゃいけない」
「自分がその立場にあるなら、やるしかないよね」
らいちとかりんは、お互いを見た。もっと小さい頃から、それこそ記憶に無い頃からずっと一緒に居る、かけがえの無い無二の大親友。
「ずっと一緒だよ、かりん」
「うん。戦う時も、死ぬ時も」
小さなふたりに、世界の命運は懸かっている。
――補足説明①――
義務教育。基本的人権。国際法。第9条。
それは『地球人類の未来全てと、彼女達本人の意志』と比べて、どちらが重要なのでしょうか。
さておき、とにかく。「彼女達は頑張っていて」「それは皆の為なので」「やはり応援すべき」であることには違いないでしょう。




