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第24話 星影の姫を追え!明かされる真実!

 『星野彩』という人物が、人類にとってもアビスにとっても、どれだけ重要なのか。説明せねばならない。


――


「そう言えば、『食事』はどうしてる?」

 ここは彩(旧星野家)の所有する別荘。現在隠れ家となっている。ひかりも知らない、『幼い影士によって意図的に隠された』アビス兄妹最後の安息の地であった。

 テラスで昼の陽射しを受けながら、ハルカは買ってきた缶ビールを開けた。

 アビスの『食事』とは、人間の精神を喰らうことである。活動エネルギーを精神力に頼るアビスは、他生物の精神を吸収することで生命を維持する。

「私は食性変わってないよ。おにぃは完全覚醒体だから、人を食べてたけど」

 言いながら、彩はテーブルを見る。先程ハルカが『狩ってきた』人間の肉が、調理されて皿に乗っている。

「……ぷはー! 美味いっ」

「……聞いてる?」

 ハルカはごくごくと軽快に喉を鳴らしながらビールを体内へ注ぎ込む。実に1ヶ月振りのビール。ハルカ曰く『美味くない訳が無い』。

 それをじとりと見詰めるのは、まだ未成年の彩。彼女の手にはフルーツジュースが注がれたグラスがあった。

「報告見たよ。『スタアライト』『アビ太郎』『エクリプス』『山の三人衆』『ボルケイノ』。……新しい子が来る度に誰か死んでる。全然戦力整わないね」

「……うん。皆死んじゃった」

 項垂れる彩。ハルカは気にせず缶を傾ける。

「それでもよくやってると思うよ。アークシャインを殺して、一時シャインジャーも機能停止に追い込んだ。どれもこれも、死んでいった彼ら同胞が居なくちゃ出来ない作戦だった」

「……うん」

「まあ、安心して。私は最強だから」

「……」

 彩は顔を上げてハルカを見る。あっけらかんと言った彼女の表情からは、確かな自信が感じ取れる。

「1ヶ月も掛けたのよ? 逆に、よく1ヶ月耐えてくれたわ。貴女達の決死の時間稼ぎのお陰で、まだアビスは敗けてない」

「……うん」

 彩の声に力が戻る。

「何より『貴女が居る』。『星影の姫』。それだけで、奴等は勝鬨を上げられない」

「うん。……でも、自分で『最強』って言うとなんかフラグだね」

「あはは。まあ私の『最強』は『剣の間合い』に限るものだからね。いくら私が最強でも、今この瞬間にこの場所が核攻撃されたらもうお仕舞いだから」

「ビームは防いだのに?」

「あれも剣のお陰。普通の核は無理。アビスも『生物』の枠を出ないからねえ」

「……じゃあ、相手の『探知』に触れたら……」

「間違いなく長距離から広範囲のビームで爆撃される。防げるけど動けなくなる。位置を知られるということはとても不利よ。それは今までもこれからも変わらない」

「……うん」

「その為に『私』が居る。私の能力が」

「そう言えば、ハルカの能力はなんなの?」

「私の能力はいっぱいあるよ」

「え?」

 ハルカは悪戯っぽく笑って、2本目の缶ビールを開けた。


――


「そもそも『エクリプス』の『感染能力』に代表されるような、アビスに備わる『能力』というのは、本来生物的にはおかしいことなの」

「……まあ、適応の結果の能力なら全員が使えないとおかしいもんね」

「『A君は火を出せる』『Bさんは瞬間移動できる』『他の全員が、A君Bさんと同じことができない』『そしてA君Bさん、他の全員が同じ種族です』なんて普通あり得ない。そんなの突然変異の異常個体でしかない。『個』としては強いけど『生物』としては繁栄しない。でもね、アビスの『能力』は少し違う」

「どういうこと?」

「アビスの適応能力は、個体レベルであるということ。『侵略種族』というそもそも異常な生物であり、それが理由で様々な環境、状況に適宜適応した個体が生まれる。『高い木の葉を食べるために首が伸びる』ということを、本来ならすごく長い時間掛けるんだけど、アビスは『一代』でやってみせる。その『種の目的意識』の高さと『繁栄への執着』がそれを為せている」

「…………あ」

 気付いた彩を見て、ハルカはにやりとした。

「『戦力が足りないからエクリプス』が来て、『ワープ能力が必要だからボルケイノ』が覚醒した。……ってこと? だから『彼らが居なければ出来ない作戦』を、『丁度欲しいタイミングで居たからできた』……それは『偶然では無くアビスという種族の在り方』……って、こと?」

「そう。世代を経て危機に対応する『万能生物』。それが私達アビス。人間は必要になったら『技術を生み出す』のと同じように、私達は必要になったら『能力持ちの個体を生み出す』。『子孫がなんとかしてくれる』が流行語」

「……じゃあ、今欲しい能力は……『対アビス感知ステルス』とか?」

「あるよ。因みに完全に人間に成って、身分誤魔化して飛行機でフランスから日本まで来たよ」

「パニピュアに対抗するための『超音速機動の格闘能力』」

「見てたでしょ? 剣の間合いじゃ敗けない」

「……『ワープ能力対策』は?」

「半径10km以内の敵意を感知できる。ワープは相手の『座標計算時』に意識が近くに来るから、敵のワープ前に気付けるよ」

「……じゃあ流石に『狙撃・爆撃対策』は」

「狙撃は敵意感知で。爆撃はね。防御障壁っていう精神の壁を作れる。核以下のミサイルの熱と衝撃と爆風くらいなら一切遮断できるよ」

「……!!」

 今まで、こちら側が人間に敗けていた要素。それらをカバーする能力が、ハルカにはあった。

「因みに、毒殺も効かない。あと、飛行能力もあるよ。音速で空を飛べる」

 彩は驚愕を隠せなかった。感染能力が無い以上侵略速度は遅い上『数』という利点も利かない。だが『星影の姫を守る』という目的だけを遂行する『今必要な要素』が全て揃っていた。異常に完成された『個』。それがスタアライトを継ぐ、一代限りのハルカの能力。

 銘を。

「私はクリアアビス"衛星(サテライト)"。貴女に付き従う騎士。影士さんに代わって、これからは私が彩ちゃんを守る」

「……!!」

 最強。自信満々に語るその言葉に、偽り無し。王を除いて侵略種族アビス最強の単体兵器。

 戦闘機の機動力と飛行能力を持ち、ビームと同じ威力の剣を装備し、ミサイルを防ぐ装甲と、小範囲の高機能レーダーを持った人型兵器。

 核こそ防げないが、空を飛んで『航空優勢』を取れる時点でパニピュアを相手取り非常に有利に動けるのだ。


――


 アビスの言う『姫』と呼ばれる存在について。それは『女王蟻に似ている』と言えば分かりやすい。繁殖能力が低いアビスが、『爆発的に増える』方法。エクリプスにより他生物を『感染』させる『下位アビス量産』ではなく、『クリアアビスの繁殖』。あくまでこの種族は、クリアアビスを中心とした種族だ。

 『姫』は、元は他種族の雌である。『姫』は、アビス粒子に耐性がある(アビスの支配下に無い)。『姫』は、1度の出産で複数のクリアアビスと『姫』を産む。その『姫』が成熟すればさらに『姫』を産むことができる。『姫』がひとり居ればそれだけで種族は繁栄する。

「姫から生まれた雌個体は全て『姫』。だから今地球に居るラウムアビス達は、全員『姫』。まあ危険思想が受け継がれるからもうラウムは繁殖させられないけど」

「…………改めて説明されると、なんか嫌」

「あはは。と言うわけで、『妹=姫』ってことだね。姫から生まれた姫も、アビス粒子の影響下に無い。精神支配されたアビスじゃないのよ」

「…………」

「地球でのアビス繁栄は彩ちゃんから始まる。逆に、彩ちゃんを失えばそれは絶望的になる。人間側にラウム(パニピュア)が居るから、これも知られているだろうね。だから狙ってくる」

「……ふぅん」

 真面目に説明するハルカを余所に、彩は『そんなこと』より気になることがあった。

「私、誰と結婚するんだろ」

「あっはは」

「はぐらかさないでよ~」

「……でも、妹、ね」

「なに?」

 ハルカはふと、感慨深そうに彩の顔を見た。

「私にも居るのよ。すこぶる出来の良い妹が。確かなんとか心理学とかいうのの学者見習い。普段連絡しないから私がアビスに成ったことも知らないし、心配もしていないだろうけど」

「ふぅん。でも人間なんでしょ?」

「ええ。だからもう、2度と会うことは無い」


――


「最優先目標は『星野彩』。彼女がただの『アビスのなりそこない』のエンジニアでは無いことが分かった」

 新型ワープ装置の試験運用と、日本に現れた怪人の退治を終えたシャインジャーは、基地の会議室へ全員で呼ばれた。

「『ラウムにとってのアーシャ』。王族であり、アビスの繁殖元。新世代のアビスは、全員がアーシャの子や子孫である」

「えっ」

 王族と、繁殖。その情報は、アーシャが意図的に伏せていた。真実を知るのはパニピュアのみ。今回『余りにも過保護にされる彩』を見て、不思議に思った博士はかりんへ訊ねた。そして、かりんは答えた。もうアーシャは居ない。秘密にする意味も無いと。寧ろ、人類にとって重要な情報であると。

「『地球人類の王族』と、勝手じゃがアビスが定めた雌個体が星野彩じゃ。アビス粒子に感染しながら、不活性であるという点。天才と呼ばれる頭脳。そして、善悪はさておき強い意志と覚悟。わしらの知る『アーシャ』との共通点は多い」

「……つまり……」

「彼女さえどうにかできれば、クリアアビスが増えることは無い。それから全てのエクリプスを無力化すれば、人類の勝利じゃ」


――


 同時刻、アメリカ。

『……と言うわけで、日本でのアビス粒子活性報告により、目標が姿を現しました。「目標の精神波を記憶」しています。これより作戦に入ります』

「わははっ! なんだ、簡単そうだな!」

『これは私の固有能力。生物にはそれぞれ、「指紋」や「声紋」のように、「精神の波」と呼ばれる固有のものがあります。それを記憶し、感知能力と併用して特定の対象を見付け出す。旧体制派に止めを刺した我々アメリカラウムが、次代のアビスの覇権を握る』

 ラウムの前に、スーパーノヴァを含め数人の『ヒーロー』が並ぶ。

「アビス狩りは一時中断か」

『ええ。それに、いずれ他のラウムも気付くでしょう。目下最大の障害は「中国ラウム」』

「ロシアは良いのか?」

『戦いになればロシアにも中国にも負けません。「競い合い」に於いては、中国が危険と言うことです』

「何故だ?」

『数。そして統率力。今、リスクを負いながら最も眷属を増やしているラウムは中国なのです』


――


「『星野彩』をアビスから引き剥がし、捕まえる」

 南原博士は今後の方針を語った。


「『アヤ・ホシノ』を、旧体制派が来る前に殺す」

 ラウムは無表情で言い放った。


「彩ちゃんは、私が必ず守り通す」

 ハルカは決意した。


 彩の存在とハルカの覚醒により、さらに戦いは激化する。




――人物紹介⑥――

・星野彩

 18歳高校生。怪人被害発生以降は兄の影士と共に世間から身を潜め、学校には行っていない。

 基本ポジティブな性格で、仲間が死んでも、実兄が死んでもすぐに切り替えて前向きに次の作戦を考える。『姫』という宿命も、割と素直に受け入れた。

 しかし悲しくない訳は無く、枕を濡らす夜も続く時はある。その際はクリアアビスと連絡を取り、感情を吐露して発散している。

 もうこれ以上味方が死ぬのは嫌だとハルカに告げる。

 所謂天才で、明らかにオーバーテクノロジーである『精神を利用した道具』の開発を敵から見よう見まねの独学で行っている。理論は無視し、感性でやっている模様。

 趣味は数独。

 嫌いなものは、長谷川ひかり。

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