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第22話 対峙!人類の希望と深淵の侵略者!

 あれから……スタアライトこと、星野影士が死んでから、1ヶ月が経った。

 とにかく色んな出来事があった。もう1ヶ月前とは、状況は何もかも変わっている。

「…………」

 やっと見付けた、影士への手掛かり。彼が何故、アビスであることを自分達に隠していたのか。あの友情は嘘だったのか。

 ひかりの脳内でぐるぐると、答えの出ない問いが繰り返されている。

「……」

 気付けば……いや、今朝思い立ったのだった。彼女はまた、影士が眠る墓地へ足を運んでいた。

「……影士」

 好きだったのだ。家同士の繋がりを抜いても。聡明な所が、熱い所が、優しい所が。

 『人喰い鬼』だと告白された時に、生理的に気持ち悪くなり、拒絶してしまった。もしかすると、それが彼の心に深い傷を負わせてしまったのではないのか。彼は初めは、『共存』を望んでいたのではないか。自分が交渉を蹴ったことで、余地が無くなったのではないか。

 そう考えると、これまでの怪人被害で破壊された建物や殺された人達は、全てひかりの責任となってしまう。

「……私がっ……殺した……!」

 らいちの言葉で、ひかりは押し潰されそうだった。答えの出ない問いが頭を掻き回す。


――


「げっ」

 ひかりは、その既視感のある声と台詞に、顔を上げる。無意識に項垂れていたのだと思いながら、前方の人物を確認する。

「……彩、ちゃん」

 影士の妹、彩であった。彼女も、兄の墓参りに来ていたのだった。

「…………」

 彩は冷静にひかりを観察した。もう2度と来るなと怒鳴った筈だ。だが懲りずに来た。ひかりは『アーシャが気に入る程の夢想家』だが、筋を違えるような馬鹿では無い。つまりは、許されざれども『ここへ来てしまう』ほどの事態が彼女の身に起こったのだと、彩は推測した。

「……ボルケイノ」

「ここに」

 だが。

「拐って。人質にする」

「承知」

 敵である。無防備にも姿を現した、変身前の憎きシャインジャー。こいつらに殺された同胞の数は知れない。何があろうと許せない。何であろうと許さない。

 彩の呼び声に瞬時にワープで現れたボルケイノが、ひかりを拘束する。

「……やっ」

 力無く抵抗するひかり。助けは来ない。当たり前だ。ひかりは戦士で、戦える。だが彩は『姫』で、非戦闘員だ。ボルケイノが常に最短距離でワープ出来るよう護衛している。

「やめて……離して。私は影士に……」

「『会わせてあげるよ』。そんなに会いたいなら」

「えっ」

 ひかりは顔を上げて彩を見た。また、俯いていたらしい。

「死ねば良い」

「……!」

 ひかりは絶句した。

 彩はもう、ひかりに対して怒りは無い。逆に、何の情も沸かない。

「……殺すのか? 生かすのか?」

 矛盾した発言に、ボルケイノが問う。

「……だから人質だって。こんな状態でひとりで出歩かせるなんて。池上太陽が殺されかけたのに、まだ危機感が足りないのね、あんたら」

 彩はやれやれとかぶりを振り、帰る準備をする。ボルケイノのワープはとても便利だ。ブラックライダーと違い、空間ごとワープするお陰で、同時に複数人を運ぶ事ができる。

「帰ろう。また来るね、おにぃ……」

 そう呟き。

「…………」

 彩がボルケイノの袖口を掴んでから。

「…………」

 10数秒。


「……ちょっと。ワープしなさいよ」

「出来ない」

「はあ?」

 ボルケイノの言葉に、口を歪める。だが冗談やふざけている訳は無いと彩は知っている。

「……能力限界とか? な訳無いわよね。……妨害念波?」

「分からない。ワープが発動しない」

「……っ! 走って!」

 消去法で、『敵の妨害工作』だと確信した彩は、叫ぶ。それを汲み取ったボルケイノは、ひかりと彩を担いで走り出した。


――


「ぐおっ!」

「きゃ……!」

 衝撃。ひかりと彩は、空中へ放り出された。彩は必死にボルケイノの方を見る。

「……!」

 彼は倒れていた。死んではいない。だが立ち上がれないようだ。

「……あんた脚が……っ!!」

 ボルケイノの膝から下が刈り取るように切断されていた。

「ひかりー!」

「!」

 続いて男の声がする。シャインジャーだ。彼らは地面へ投げ出されたひかりの方へ駆け付け、庇うように構える。

「……! ボルケイノ!」

「無理だ。俺は逃げられない。姫だけでも逃げろ」

 ワープは封じられ、脚も無く立てもしない。死に体であるボルケイノの思考は、己の野望を突き抜けて種族保存へ舵を切った。

「逃がさないから」

「!」

 そのボルケイノの背後に、小さなふたつの影と、光る4つの眼光があった。

 ひとつは金色の、もうひとつは純白のフリフリ衣装を纏った、アビスにとっては最悪の『人類の決戦兵器』。

 超音速で機動し、アビスの甲殻を素手で容易く破壊する。史上最強の女子中学生。

「パニ……ピュアぁっ!」

 彩は即座に立ち上がり、襷掛けのバッグから試験管を取り出した。

「! 止まって! 殺すわよ!」

 らいちがボルケイノへ手を翳す。普通ならもう『詰んでいる』状況。しかし相手は『天才』星野彩。何かやる前に動きを封じなければ。

「(考えろ! さっきボルケイノが来たときはワープ出来ていた。今この間に出来なくなった。誘き寄せるため? 馬鹿な、ボルケイノの居ない私ひとりの時に妨害はすべき。ならこれは、『試験的』に行った妨害。ブラックライダーは居ない。つまりあっちも唐突に起こった事故ということっ)」

 天才はやはり天才であった。パニピュアがボルケイノを押さえている間、何故シャインジャーが自分を無力化しようとしてこないのか。まだ自分を警戒してくれているのか。

 最優先事項は、ここから逃げること。その為に捨てられるものは……。

「気にするな。姫。俺の命は軽い」

「…………ごめんね」

 ボルケイノの言葉で、彩の瞳から苦悩が消えた。そう。自分の命は『アビスにとって』、エクリプスよりも優先すべき最優先事項。彩は『責任者』として、生き延びなければならない。

「ちょっ……!」

 彩は勢いよく、試験管を地面へ投げ付けた。


――


「退避!」

 かりんが叫んだ。

 まず初めに警戒すべきは『毒』。これは生物である以上、抗体が無ければ耐えられない。人間とアビスとラウムの身体を知る彩が、耐えられる毒を用意する筈がない。確実に即死級。それは当然であろう。

 パニピュアはボルケイノを置いて、シャインジャーはひかりを抱えてその場から飛び退いた。

「……?」

 しかし、それならば彩が自分も被るような位置に投げる訳は無い。事実、その地点からは何も発生した様子が無い。勿論、毒だとして無味無臭無色であるのは前提だが。

「……!! やべぇ!」

 次に叫んだのは西郷修平。シャインマーズだ。何故彼が叫んだのか。

 彼には『アビス粒子の探知』という、反則的な能力があった。

「……へっ」

 そう。試験管の中身は『アビス粒子』。それを今、彩は拡散させた。

 次の瞬間。

「ギャギャーー!!」

「!」

 彩を守るように地面から湧き出た下位アビスが盾になったことで、『らいちの攻撃を防いだ』。らいちは毒ではないと判断すると即座に攻撃体勢に移っていた。だがアビス出現の方が、僅かに早かった。

「兎に角盾になって! 退却戦よ!」

 彩は駆け出した。取り囲むように下位アビスも追従する。

「ギャギャーー! 姫様の為にィ!」

 アビス粒子は、他の生物に寄生して肉体を作る。小さな虫に感染した場合でも、即座に自己増殖し、2メートルを越える巨体になる。そのエネルギーは主に太陽光であり、大きくなるにつれ知性が発達し、精神力をエネルギーとして使うことができる。

「うおっ!」

「ギャギャーー!」

 そして逃げるだけではない。隙があればその鋭い爪が襲い掛かる。元よりシャインジャーでは、下位アビス1匹倒すのに全戦力を投入しなければならない。感染し続け増え続ける下位アビスの群れに阻まれ、もう彩を見失ってしまった。

「くそっ! かりん!」

「うん! 皆、離れて!」

 もはや生きて拘束するのは不可能と判断したパニピュアは、両手を群れの方へ構えて向ける。

「弧を描く、純粋なる光の神罰!」

 ふたりでパニピュア。ふたりの見えるほど濃い金と白の精神力が、炎のように揺らめき、混ざり合う。お互いの精神力を掛け合わせ、最大の『信頼』を持って放つ、核と同等以上の『人類側最大威力の攻撃』。辿る全てを無に還す、粛清と浄化の光。

「アーク!」

「シャイニング!」

「「……パニッシュメントぉ――!!」」

 彼女達には、慢心も油断も無い。だが、ただ必死なだけの子供でもない。あくまで冷静に、全力で、敵を狩る。敵を前に手加減など、彼女達の辞書には存在しない。


――


 因みにだが。パニピュアのこの必殺技は、『安全な必殺技』と言われる。それにはいくつか理由がある。

 まず、比較対照として『核爆弾』を挙げる。核爆弾の何が強いのかと言うと、『①破壊力』『②効果範囲』『③射程距離』が挙げられる。広島型の爆弾と現在のミサイルを例に挙げる。

 ①破壊力。爆風による市街地への被害は、半径3キロに渡って全壊。さらに爆心地は約8000度の高温になり、半径3.5キロが焦土と化した。爆風の速度は音速を超え、頑丈なコンクリートを諸とも破壊する衝撃波が走った。

 ②効果範囲。爆弾の炸裂で発生した高熱により、原子雲(きのこ雲)が発生した。高度は16000メートルを越え、熱気は上空で冷やされ、雨となって降り注ぐ。南北19キロメートル×東西11キロメートルの楕円形の領域において、放射性物質を含んだいわゆる『黒い雨』が1時間以上強く降り、この雨に直接当たる、あるいは雨に当たったものに触れた者は被曝する。

 ③射程距離。以上の能力、威力を持つ爆弾を、大陸間弾道ミサイルの慣性飛行により最大約6400km離れた(地球半周)相手を爆撃できる。ミサイルは大気圏再突入時にマッハ5を越える速度で落下し、反応も避ける隙も与えない。


 以上の破壊力、熱量、射程距離を持った『効果範囲』を、『手の平から光速で発生させることができる』のがパニピュアである。

 ワープにより世界中どこへでも、『核爆発並みの攻撃力』を送り込むことができる。

 そして、核搭載弾道ミサイルより優れている点がある。『ビームの外側には熱や衝撃、放射性物質が一切漏れず、撃ち終わった後も熱すら発生しない』というクリーンな点だ。さらに、ビームの大きさを自在に変更でき、指向性を持たせて歪曲することもできる。つまり発射中に手を動かせば、例え逃れた相手へも『追尾して攻撃できる』。望むままに、敵だけを攻撃し、周りの味方や一般人に被害を出さないように自由に核攻撃が出来る。

 以上が、『戦車砲の直撃を防ぐ甲殻を持つアイスバーグを一瞬で消し飛ばしたという結果』から導き出された『最低限』に低く見積もった威力。決して大袈裟でも過大評価でもない。

 パニピュアは、戦闘機の音速機動を備え、ワープ能力を持ち、核爆弾並の威力を再現するビーム砲台なのだ。


――


 それが。

 その最強最大の主砲『ビーム兵器』が。惜し気もなくただの人間である彩と、それを囲む『たかが数十体』のアビスの群れへと火を吹いた。光の速さで空間を蹂躙するそれは、逃げる隙も防ぐ力も、反応することさえ許さない。

 もう、彼女を人間とは思わない。何よりアーシャの仇。話し合いは不可能だ。彼女の心はもうアビスに染まっている。

「――っ。はぁっ! はぁっ……!」

「ふぅ――。……ふぅっ」

 数十秒の照射の後、円柱状の光の束は中心へ向かって収束していき、光の帯を残して消えた。

 最低でも約60テラジュールという莫大なエネルギーを精神力として消費する必殺技。『それ』に見合った成果が出ているか、らいちとかりんは息を切らしながら慎重に爆心地を観察する。

 これで終わってくれと願う。発生した下位アビスは全て消し飛んだが。

 しかし。

「~~っ!」

 言葉にならない声が、パニピュアの口から漏れた。

「……遅れてごめんなさい、彩ちゃん」

「……!!」

 黒く艶やかな夜空のような髪。その周りに、無数の小さな光の粒が銀河のように踊っている。『彼女』の精神力が、一般人にも目視できるほど溢れ出ているのだ。

 彼女は腰砕けた彩を守るように立ち塞がり、今しがた『最強のビーム』を『防いだ』『宇宙科学最高水準の剣』を、宿敵パニピュアへ向けて振りかざした。

 『人類の決戦兵器』に対して。

 『深淵より来る侵略者の頂点』。

 肉体こそハーフアビスでありながら、クリアアビスの精神をその内に降臨させた義堂遥(ハルカ・ギドー)が。

「もう大丈夫だから」

 感染から1ヶ月を経て覚醒し。

「だから泣かないで」

 遂に人類へ牙を突き立てた。




――人物紹介⑤――

義堂遥(ハルカ・ギドー)

 22歳の新社会人(予定だった)。そして国際指名手配犯。

 正義感が強く、アークシャインの選考では最終面接まで残る。

 彼女の正義感は、幼い頃妹がクラスで虐められていた過去があり、妹を守ろうとしたことに起因している。怪人が出現しなければ、警察官の道を進んでいた。

 困っていそうな人を見過ごせず、弱い立場の側に立つスタンスがあり、その為絶滅寸前のアビスの状況をすんなり受け入れられた。

 剣術は全く知らないが、超音速で振れてそれを完璧に制御できている為、戦闘に於いての支障は無い。

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