第21話 ラウムの真意!揺れるシャインジャー!
わざわざ飛行機に乗り、アメリカへ来たのは5人。ブラックライダー、パニピュアのふたり、ひかり、辰彦だ。
5人はまず、応接室へ案内された。
「ていうか、情報は秘匿じゃなかった? 基地も作らないって言ってたわよね」
「さあな。それも訊いてみないとな」
――
『よく来てくださいました』
現れたのはテレビで見たラウム。金髪に白い肌、天使のような翼。
「……!」
シルエットはアーシャと変わらない。だが、その女性は眼を開いていた。それだけで、アーシャとは違うのだと感情的にも理解できた。
「ここが基地? 普通の事務所ね」
『ええ。ここは的です。通常都市部を狙うアビスを、こちら側へ向けさせるよう』
「……で、わざわざ呼び出して、負け犬に何の用?」
ひかりはずけずけと訊く。因みに会話は辰彦が通訳をしている。
『当初の目的通り、戦力増強です。あなたがたが加われば、アメリカラウムに敵は無い』
「……?」
ひかりはその言葉に違和感を覚えた。らいちに聞いた『種族全体主義』とは少し違っている気がした。
「……『選王』」
らいちが呟いた。
「えっ?」
『…………』
ラウムの目尻が下がった。彼女はこう考えていた。『やはり油断ならない』と。
「もう行こうお姉ちゃん。もう分かった」
「えっ? 何が?」
らいちは立ち上がる。しかしそれを止めるひかりの手を見て、留まった。
ラウムは止めなかったが、かりん以外のその場の皆が説明を求めていた。
「……『ラウム』は今、アーシャの子供しかいない。つまり王族のみの種族。なら、次の王を決めないといけない。5人のラウムは、今争っている。それだけだよ」
『…………』
ラウムは薄い笑みを崩さない。
「そんなくだらない争いに、巻き込まれるのは沢山。私達はアビス被害から地球人類を守るという目的で動く。でしょ?」
最後にらいちが、ひかりへ顔を向けた。受けてひかりは、強く頷いた。
「そうね。そういうことなら、この話はおしまいね」
『……そうですか。では最後にご忠告を』
「?」
『つい昨日のことです。フランスラウムが滅ぼされました』
「はっ!?」
『……やはり知りませんか』
「っ!」
その言葉に、かりんはびくりとした。かまを掛けられた。まだこの事件はニュースになっていない。つまり、ラウムはラウム同士で情報を共有でき、『らいちやかりんには出来ない』と知られてしまったのだ。
「……幹部に対抗できるんじゃなかったの?」
『はい。スタアライトやエクリプスを想定した「幹部クラス」には間違いなく、負けることはありません。彼方の「アルセーヌ」はとても強力な感覚を持つ戦士でした』
シャインマーズは、その感知能力によりアビスの発生場所が分かる。だがオリジナルであるアーシャほど精密な探知ではないため、下位アビスとハーフアビスの違いは分からない。だから、フランスラウムが『何』に滅ぼされたのかは分からない。
『個体名「ハルカ・ギドー」。人類の懸念点が遂に現れました』
「!」
淡々と、ラウムは語った。誰よりひかりと辰彦が、それに食い付いた。
「まだフランスに居る?」
「どこに現れた!?」
『…………』
ラウムは薄い笑みを変えず、口を閉じた。
「お姉ちゃん」
「っ!」
今度はらいちがひかりの袖を引いた。
「帰ろう。もう用は無いよ」
「…………分かったわ」
もうどれだけ詰問しようが、これ以上答えることは無い。そんな空気が、ラウムを包んでいた。
息を吐いたひかりを先頭に5人が席を立ち、応接室を出る。
『貴女方は「選王」に参加なさらないのですね。「亡き女王の眷属」よ』
らいちとかりんは最後にその言葉を背中で受けた。通訳は介していない。だが彼女らは、精神干渉により言葉を用いず会話を可能にする。
「……あなたたちこそ、これ以上人間を巻き込まないで」
『それで戦争に勝てるなら。善処しましょう』
「…………」
本当はもっと強く止めさせるつもりだった。もっと沢山質問があった。共有したいこともあった。
だが、無意味だと理解した。『話しても無駄』と感じさせる雰囲気が、このラウムにある。思い返せば、アーシャは、異種族としてとても『親しみやすい』王族だったのだと。
この、目の前の『王女』達は、味方にはなり得ないと思った。
――
日本。アークシャイン基地。
しばらく閑散としていたこの基地に、今日大勢の人達が集まった。
間宮家の技術者である。
「……これは……」
博士は渡された資料を見て驚愕していた。『アビス』という知的生命体の、知りうる全てがそこにあった。以前スタアライトの遺体を調べた時以上の情報量。『彼が友好的に長期間研究させて』くれれば得られたであろう情報。
正に、博士の欲しい情報であった。
「理論的には、我々の研究は貴方を上回っていると判断します。しかし、我々では辿り着けない領域がある」
「…………!」
「肝心の技術力に於いては、やはり『アークシャイン』の近くに居た貴方が世界一だ。南原博士」
「これがあれば……」
「ええ。もうパニピュアのような悲劇を生まずに済みます」
「……っ!」
――
「優月。聞こえるか?」
「……博士?」
良夜のバイクに通信が入った。
「『ワープ装置』を解明した。ロサンゼルスゲートから帰ってこい。場所は長谷川と宍戸が把握している」
「まじか。……間宮家の技術者は優秀だろ?」
良夜が得意気に皮肉る。
「……ああそうだな。わしが間違っていた」
「ふふん。分かればよろしい」
そこで通信を切り、ひかりへ報告する。
「いいえ。基地には帰らないわ」
「何故だ?」
「装置が使えるなら、このままフランスへワープする。昨日のことなら、まだ近くに居るかもしれない」
ひかりは、ハルカを追うつもりだった。
「……パニピュアレベルで敵わなかったアビスだろ」
「ええ。でも私達は確かめなければならない」
「それは『人類を守る』ことより大事か?」
「!」
良夜は、シャインジャーの事を弱いとは思っていない。この前の会議でも言っていたように。
しかし、同時に冷静に分析している。彼らがハーフアビスに勝てる時は、『5人揃っている』ことが最低条件だと。
「実際に戦った場合、メリットよりデメリットが大きいと思わせることが『抑止』だ。そして、よりデメリットを与える確実なものが『武力』。それがなきゃ、『敵』と『話し合い』などできる訳がない」
現状では、ただハルカに殺されて終わる。『あの時』感じた、ハルカから漂う圧倒的強者の圧力。それは良夜も当然覚えている。
「……! それでも、私達は……っ」
食い下がらないひかり。良夜はやれやれと、隣のらいちに視線をやった。
「君達と俺が居れば、そこそこ戦えるとは思うが?」
らいちは少し考える。
「……元から、アビスには交渉の余地は無いよ。だって人間を食べるんだから。どんなに交渉を重ねても、『共存』は不可能。それに現在の地球の技術じゃ、地球の代わりに標的になるような惑星は見付けられない」
「そうだな」
「ハルカ・ギドーを倒す方向は賛成。最も危険な戦力だもんね。もしりょーやお兄ちゃんと私たちで『殺さずに無力化』できたなら、尋問はありだと思うよ。あとどれくらいでクリアアビスが来るのかとか、知りたいことはいくらでもある。できないなら、確実に殺さないといけない」
らいちは13歳らしからぬ分析と考察を述べる。
「……そんなの、酷いじゃない。彼女の中には……」
ひかりがなおも抵抗する。
「お姉ちゃん。個人的感情は、『責任者』には不要なんだよ。特にこの件は、全人類の生命が掛かってる。組織の責任者の判断はね、とても重いんだよ。それをしっかり理解して、行動を選択しないといけない。今お姉ちゃん達がハルカに殺されたら、もう地球はラウムとアビスの代理戦争の戦場になるだけ。倒せても個人的な感情で殺さなければ、もっと多くの人間がハルカによって殺される。それは、判断を誤ったお姉ちゃんが殺したのと一緒のことなの。ボランティアだとしても、『人類を守る』責任を背負った戦士として、お姉ちゃんのやろうとしてる行動は間違ってると思うの」
「…………!!」
らいちは少し後ろめたい表情で語る。大好きなお姉ちゃんをおこがましくも諭している事が、とても辛いのだ。
「……全部、アーシャの受け売りなんだけどね。『判断』に必要なのは感情じゃなくて、『状況把握』だって。つまり『知る』こと。勿論、ハルカがりょーやお兄ちゃんみたいに人間の心を持っていて、ラウムを危険と判断して攻撃した可能性もある。今のままだと『判断』をする情報が足りないってこと。だから『何が起こるか分からない』内は、下手な行動はしちゃいけないの」
「…………辰、彦っ」
ひかりは助けを求めるように、辰彦を見た。辰彦はひかりの気持ちは良く分かる。だが。
「……らいちちゃんが正しい。まずは基地へ帰ろう。『どうあれ』『結局のところ』『今』しなきゃいけないのは『それ』だ」
「……ぅ……!」
情けない声を挙げて、ひかりは力無く項垂れた。
――舞台説明⑰――
この場合、アーシャの教育が凄いのかパニピュアの学習能力が凄いのか。ふたりはアーシャの血により精神力が強化されているので、13歳としてはとても賢いのです。
あと、ハルカは肉体的にはハーフアビスなので、ワープ能力は持っていません。だから、まだフランスの近くに居るというのは当たっていました。