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第20話 遂に完全覚醒!悲愴のハルカ!

「招致……か」

 アークシャイン基地、会議室。『アメリカラウム』からのFAXのコピーを渡され、西郷修平……シャインマーキュリーは呟いた。

「流石にひとりくらいは読めるか」

 安堵を漏らす博士。

「修平は留学経験があるからな」

 得意気に語るのは小野塚浩太郎。

「そうだ。我々はアメリカから招待を受けた。今後の対アビス攻防に、『アメリカラウム』として加われと」

「……『ラウム』か。会見から2日だってのに、随分早い。その言葉も、もう世間に浸透しているな」

「十中八九、ブラックライダーとパニピュアだろうな。お前らの戦力は幹部にも通用する」

 修平と浩太郎の視線が良夜へ注がれる。

「……実際は、『強い弱い』はあんまり関係ない。ワープがあるんだ。気付かれる前に近付いてぶち殺せば、戦闘能力は要らないだろ」

 だが良夜はそれを鼻にかけず、事実を述べる。

「もしかして気にしてたのか?」

 その台詞に、修平と浩太郎、そして宍戸辰彦は顔を見合わせる。

「当たり前だろ。なあ?」

「そりゃな。お前は単独でエクリプスを倒したし、パニピュアもあの鎧の怪人を倒した。比べて俺達は、スタアライトに5対1で負けてるんだからな」

「1回の戦闘結果で分かるかよそんなの。相性や状況もあるだろ。それに、お前らは下位アビスを倒せる。それは戦士以外の人類には出来ないことで、それだけで充分なんだ。適材適所だよ」

「…………お前、良い奴だな」

「で? 行くのか? アメリカ」

「ふむ。ラウムとやらは現状、敵では無い。話を聞くくらいならば……」

 そう。ラウムアビスは未だ謎の存在で、今の今まで何も連絡をして来ず、いきなりのこの『吸収誘致』だ。何を考えているか分からない。

 だが、結果的にアビスと戦い、人々を守っているのは確かだ。その点では、こちら側と共通の目的があると言える。

 その真意や謎を解く為にも、万全の準備の上、ひとまず対話くらいは……。

「行っちゃ駄目だよ」

「!」

 小さな声が入り口から聞こえた。か細いが、しかし芯のある、意思の籠った声。

 全員が注目する。

「らいちちゃん……かりんちゃん?」

 パニピュアのふたりであった。もう頭痛も苦痛も収まり、アーシャを喪った悲しみからも立ち直って見える。何かを決断したような、強い眼差しだった。

「もう大丈夫なの?」

 心配そうにひかりが訊ねる。らいちは感謝を込めて答えた。

「大丈夫だよ。もう大丈夫。……お姉ちゃんは優しくて好き」


「行ってはいけない、とは?」

 博士の疑問に、かりんが答える。

「『自身の血肉』を感染媒体とするのはラウムの特性。そして、『個人による精神支配』はアビスの生態。……あの人達は間違いなく、アーシャの子供達。あの人達は、替えの効く戦士を作り上げ、支配している。好き勝手に増やしている。目的はアビスと同じ『文明侵略』。私達とアビスに、同時に喧嘩を売ったの」

「……何故分かる」

 博士は、実の孫娘にも鋭い視線を投げ掛ける。

「私達も支配されそうになった。けど破った。アーシャの影響は私達の方が大きかったってこと。アーシャが私達を戦士にした時、私達もラウムの支配下に置かれていたけど、アーシャが死んだことで精神は『人間』に戻ったの」

「つまり、あのラウム達が居る限り、ラウムの戦士は『人間では無い』と」

「そう。皆が戦士になったら、もうおしまい。ここはラウムの惑星になる。質の悪い『ぜんたいしゅぎ』の『どくさい惑星』に」

「……なるほど。だがかりん。そんな言葉、どこで覚えたんじゃ」

 理解した。だが、我が孫娘とは言え13歳の少女からは想像できない単語が聞こえた。

「アーシャに教えてもらったの。『王』としての政治判断とか色々」

「…………は?」

 口を開けた博士。かりんは続ける。

「えっとね、『ラウム』は『個』や『自我』を許さない群体種族で、全員が精神支配を受けてるんだけど、王だけは『判断』という『いしけってい』のために、自我や感情を備えてるの」

「つまり、ひつぜん的に生じる『例外』。その血を分けた私達も『例外』」

 らいちも補足する。

「だから、ラウムによるこれ以上の戦士量産はやめさせなきゃいけない。アメリカへはそれをしに行くべきだよ」

「…………!」

 その場の全員が息を飲んだ。『パニピュアは人間では無い』。この事実とラウムの出現が、どれだけ人類への害悪となっているのか。

 じわりと這い寄ってくる絶望の侵食。物理的に破壊してくるアビスの方が、余程対処しやすいと思った。


――


『……流石』

 そのラウムは、吹雪の中に身を晒しながら、霜が貼ることも無く佇んでいた。まるでこの世に存在を許されない亡霊のように。

 その幽鬼のような視線は、眼前の『人間』を確と捉えていた。

「…………終わりね」

 その女性は、儚げに髪を掻いた。彼女も吹雪に見舞われながら、防寒着のひとつも身に付けず、しかしそれを全く気にしていない。

 そして彼女達の向こうには、氷の彫刻が数体並んでいた。

『際限無く熱を奪う「猛吹雪」。まるで魔法。「変身」せずにアビスを、しかも同時に4体倒すとは。正に「魔女」。貴女が最強です。「カラリエーヴァ」』

 4対8枚の翼を広げたラウムが、女性を褒め称えた。

「……魔法なんて使っていないわ。『怪人も生物』で、『生物が耐えきれない場所』に『誘導した』だけ。少し考えれば、ただの人間でも怪人は倒しうる」

 女性は踵を返し、にこりと笑った。

「怪人も思い知ったでしょう。人間は怒らせたら怖いと」


――


「ひゅう! 今夜も良い月だ! こんな日は怪人でも何でも倒したくなるな」

『……意味が分かりません。ていうか、戦ってください』

 そのラウムは、呆れていた。この男。シルクハットと夜会服を着込み、モノクルをかけた男。彼は夜のパリを駆け抜けながら、バッグに詰め込んだ宝石を落とさないように気を付けて走っていた。

『……何故、ラウムの力を得てやることが、「泥棒」なのですか。「アルセーヌ」』

「こんな反則的な能力得たら、そりゃまずは泥棒だろう?」

『はあ……』

 孤児や、病気の未亡人に対する自己犠牲の心。それを正義と早まってしまったと、そのラウムは後悔した。彼は「例外」であった。丁度良夜のような、精神支配への耐性を持っている。

「ふせろラウム女史」

『!』

 いくつかの屋根を跳び移ってから、アルセーヌは急に動きを止めた。そしてラウムの腕を掴み、近くの煙突の陰に隠れる。

「……あのフィーユ(少女)はなんだ? 明らかに人間じゃない」

 ラウムは陰から、それを確認した。彼女が感知する前に気付いた驚愕的な事実については、今は触れないことにする。

『……最悪です。「最悪中の最悪」。いつかは当たると思っていましたが、まさかまだ体勢の整っていない、このフランスラウムへ最初に来るとは』

「……どういうことだ? ……ジャポネ(日本人)?」

 アルセーヌは遠くのその女性に、長い黒髪を確認した。

『……どういう視力してるんですかアルセーヌ。まだ300メートル以上も離れているというのに』

「ああ。何故か殺意剥き出しで歩いている。あんな凄いのは見たこと無い。そして美しい。きらきらと、満天の星空のような怒りだ」

『……個体名「ハルカ・ギドー」。最初のひとりです』

「最初の? 何の?」

『「地球に来たクリアアビス」』

 それが、最後の会話だった。

「な――!」

 その言葉に驚いたと同時に。アルセーヌの胸は貫かれていた。

『アルセ――』

 それは太陽光をエネルギーとした、全ての物質を分離させるラウムの知力の結晶。

 それこそ、女性でも子供でも使えるような、とても軽い武器。

 反動も無く、振るだけで切り裂く魔法の剣。

 銘を『ソーラーブレード』。

「…………」

 少女は、無言で振り切った。アルセーヌは訳の分からぬまま、自身の断面を見ながら絶命した。

『っ! 馬鹿な! 300メートルだぞ!? ワープもせずに、こんな……』

「……」

 驚きを隠せないラウム。だがなおも無言の殺気を振り撒きながら、少女は光の刃を振るった。

『かはっ! こんな、馬鹿なことが……!』

 大量の羽根と、首を刈られ散らしながら、ラウムも息絶えた。

 静まり返る、夜のパリ。少女はしばらくその場で黙り込み、やがて唇を噛んだ。

「…………~!」

 悔しさと悲しみで言葉にならない。自分が居ない間に、どれだけの。

 『一体どれだけの同胞が殺されたのか』。

 ぎりっ……と、歯を食い縛る音がした。

「……アビスは絶やさせない。皆は私が守る……!」

 そう呟き、少女の姿は一瞬にしてその場から消えた。


――


 そして数日後。

 国際防衛商社ラウム・アメリカ支部 ロサンゼルス事務所。そう書かれた看板の前に、彼らは立っていた。ここは都市からは少し離れた所にある。

「……商社ってなんだよ?」

「さあ。雰囲気じゃない? スーパーマンだって『新聞社』だし」

 修平の問いに答えたひかりは、臆すること無く敷地内へ踏み入った。

 『ラウム』の根城へ。





――人物紹介④――

・アルセーヌ

 フランスラウム所属。本名は不明。

 シルクハット、夜会服、モノクル。職業は大泥棒。ワープ能力を活かし、泥棒家業にさらに磨きをかける。

 柔道、空手の有段者で親日家。ジャパニメーションが趣味で、好きなアニメは「キャッツアイ」。

 享年34歳。バツ2。

 因みに5人のラウムアビス達は個体名を持っていないため、多くは民衆から通称で呼ばれることになる。

 アルセーヌへ力を与えたフランスのラウムは、「エール」という名で呼ばれていた。

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