第19話 進撃のラウム!アークシャイン再起の時!
アビスによる怪人被害は、依然続いていた。エクリプス討伐により、その頻度こそ少なくなったが、シャインジャーとパニピュアの活動停止により、被害は寧ろ増加していた。
――
アジアのとある山間地域。
「はっはぁ! 都市じゃなく、田舎に来たぜぇ!」
そのアビスは、小さな村に出現した。日々世界中に飛来するアビス粒子は、狙って都市部に飛ばすことはできない。基本的にランダムであり、しかも『地球とは大部分が田舎』である。圧倒的に、郊外での感染が多い。
しかし、田舎ということは、人が居ないということ。人間の高度な『精神力』が無ければ、アビスは餓えて死んでしまう。これまで都市部でしか怪人を見掛けていないのは、そういった理由があった。地球にエクリプスが居なければ1日に数体しか、怪人として覚醒する個体は居ないのだ。
だがこの個体は、『少ない精神で活動できる』という例外的な個体であった。
「……ぎゃはは。じわじわと侵略してやる」
逃げ惑う人々。だが警察も軍隊も居ないこの村では、絶望が待つのみであった。なんとか山の方へ逃げたものの、隣の村、町までは車で半日掛かる距離だった。
「おらぁ! 殺されたくなきゃ並べ! そして服を脱げ!」
「!」
村の住民が1列に並ばされる。総数は100人にも満たない。そのアビスは、それを品定めするように見回す。
「……ふん。若い女は……少ないな。まあ良い。取り合えずケツ出せ。全員俺の仔を孕……」
「やれやれ」
だがその時。
「ああ!?」
その場の空気にそぐわない、少し気だるげにも聞こえる少女の声。悲鳴が止まない中で、しかしよく通った声。
アビスが振り向くと、ここの村人のような貧しい服ではない、高級そうな民族衣装を身に付けた20歳くらいの女性が立っていた。
女性はアビスと眼を合わせると、再度手を広げて溜め息を吐いた。
「ワタシの初陣がこんなしょぼい強姦魔もどきとは。幹部はどうした幹部は」
「……なに言ってやがる? お前も服を脱げほら。そこへ並べ」
「一応、ギャーとか言うだけの下位アビスよりは理性的……にも見えなくは無い? いや……下種に変わり無いなら関係も無い、ね」
「そこへ『並べ』っ! おい女ァ!」
人間ごとき。たかが人間のメスが、この宇宙の侵略者アビスに対して。『戦うつもり』で、『勝った気で居て』、さらに『相手が弱いことを憂いている』。このアビスの怒りは刹那の間に頂点へ達した。
「『ラウム・コネクト』」
呟いた瞬間。
「死ね!」
純粋なる殺意。アビスの爪が女性へ襲い掛かる。
「ほあたあ!」
「!」
女性は掛け声と共に凶刃を手で払い除け、大地から突き出た牙のような蹴りを以て、アビスの顎を垂直に砕いた。
「げぼっ!」
「あたあっ!」
瞬間、宙に浮いた巨漢の懐めがけ、その牙を深く突き刺した。
「がはぁっ! てめ……!」
「……お前が死ね」
「!」
もがくのも束の間、牙を振り抜かれた時には遅い。アビスの上半身はもう、下半身と分離していた。
「なに……も、の……!」
そう言い残し、アビスは動かなくなった。
「シャンヤオ。『中国ラウム』所属。……拳法家だよ」
その名乗りをしっかり聞き届けた村人から、惜しみ無い喝采と拍手が沸き上がった。
――
「キャアアアア!!」
大都会アメリカ。樹齢1000年の森のごとく聳えるビル群の中心、そのアビスは破壊の限りを尽くしていた。
「もっと壊させろ! はっはぁ! 超気持ちいいぜ!」
爪や角、甲殻を利用した力任せの破壊行動。警察も出動しているが、通常の拳銃では相手の甲殻を貫通できていないようだ。
そのすぐそばの、公衆電話にて。
「やばいやばいやばい! 急げ急げ~。『ラウム・コネクト』っ」
いそいそと着替えをしている青年が居た。
「『首都』ってのはどこだ!? 俺が破壊してやるよ! したら幹部だ! はっははぁ!」
「待てーい!」
「む!」
アビスは即座に振り向く。我が覇道を邪魔する者は許さないとばかりに。その男は、アビスの50メートルほど向こうに居た。
そこには。
「『悪』を栄えさせたりはしない。何故なら『栄える』という結果は! すなわち! 『市民への貢献』という正義の前提が必要だからだ!」
「……はぁ?」
アメリカンフットボールでもやっているのだろうか。とても背が高く、良い体格をしている。そのラインが分かるようなぴっちりしたスーツを着込み、ブーツとグローブを身に付け、肩からマントを棚引かせている。
そして極めつけに、目の周りを覆うマスク。
「さあ大人しくしろ怪人。私が現れたからには、もう悪さはできんぞ」
「……お前、勘違いしてないか?」
「なんだと?」
意気揚々と登場したマントの男だが、冷静なアビスにより突っ込まれる。
「俺はアビスだ」
「ああ。エイリアンだろ」
「人間を殺すのは、生きるためだ」
「らしいな。食性が特殊とか」
「だからこれは『悪さ』にはならないだろ。コンビニでサンドイッチ買ったようなもんだ」
「……なるほど」
「だから邪魔するな。俺はこの国を破壊するんだよ」
頷く男。去ろうとするアビス。因にだが、このふたりは真剣に、真面目に話している。
「だが許さん!」
「なに!」
男はアビスの肩を掴んだ。アビスは理解するのに時間が掛かってしまった。『50メートル離れていた』筈だ。何故今、ここに。こいつが居る!?
「食らえ、フルパワー! SMAAAAAAAASH!」
男の拳が振り抜かれた。アビスは理解するのに時間が掛かってしまった。『死んだ』。今確実に、殴り殺された。
事実。
目算奥行き100メートル。幅50メートル。
男の拳から前方には、扇状の『荒野』が広がっていた。『そこには街があった筈だ』。建物や道路も。
「…………!」
大爆発。
その衝撃はあらゆるものを砕き、巻き起こる風は全てを吹き飛ばし、塵の摩擦で発火し、上昇気流が発生する。
「むむ! 力の加減が難しいな。まあ初陣はこんなところか」
『いえ、やりすぎです』
掴んでいた『アビスの肩の部分』のみを残したそれを放り投げてから、自身の『ただのパンチ』の威力を分析する。そこへ、4対8枚の翼を生やした、会見時に喋っていたラウムの女性がふわりと空から現れる。
『鍛え上げた肉体と、本来ただの人間が着る強化スーツ。そして無限に思える純粋な「正義の心」。最強は貴方と、このアメリカラウムです。スーパーノヴァ』
「わはは。正に超! 新! 星! 明日の一面が楽しみだな!」
『まずは、消火活動を手伝いましょう。一面が「超新星現る!」ではなく「放火魔現る!」になってしまいます』
――
ラウムの戦士達の活躍は目覚ましかった。かつてのシャインジャーのように、世界中を駆け、戦い、勝利している。人類は新たな希望を迎え、形勢は逆転した。
「FAXが来とるな」
南原博士がモニターに向かったまま、1枚のA4用紙をひかりへ渡した。
「……FAX? これは……」
「なんじゃ、英語も読めんのか。戦士が8人居て全員か? まったく……」
ひかりの返答を待たず、博士はそれを奪う。
「全員会議室に集めろ長谷川。そろそろワシらの『仕事』じゃ」
「……らいちちゃんとかりんちゃんも?」
「まだ寝とるだろ。それに、あのふたりは会議に参加する意味は余り無い」
今日の博士はどこか急いでいるように見えた。
――
「ブラックライダーよ」
「ん?」
数分後。会議室には博士とシャインジャー、そしてブラックライダーが集まった。彼らは再起を図るため、ここ数日は怪人をラウムに任せ、鍛練などをしていた。肝心のワープ装置の解明には、まだ時間が掛かりそうだ。
「まずお主の名を明かせ。それと、その女は誰じゃ」
「……あっ」
ブラックライダーの横には女性が立っていた。ここ数日の内に、彼が連れてきたのだ。
「今日紹介するつもりだったよ博士。俺の恋人だ。名前は……」
「間宮ゆりです。私にも何か、手伝えることはあるでしょうか」
ゆりがぺこりと頭を下げる。一同に動揺が走るが、博士は毅然としていた。
「関係の無い一般人か。ブラックライダー。お主の名は?」
「……優月良夜だ。今さらだが」
「優月。ここに居るメンバーはな。誰一人として、家族をここへ呼んでいない。『基地は安全で、外は危険』だと世界に報せることになるからだ。さらに、基地は極秘施設で、基地内の全ては機密事項だ。どこからアビスに知られるか分からん。その女が危険人物かどうか判断するのはお前では無い」
「……博士。あんたでも無いだろ。『アークシャイン』は無くなった。俺らは敗残兵の群れだ。リーダーは居ない」
「優月。お主は元からアークシャインの人間では無い。余り勝手なことは……」
「あーいや、待ってくれ博士。悪かった」
「?」
不穏な空気を感じ、良夜は博士へ頭を下げた。
「恋人と紹介したのが間違いだった。……新たな『パトロン』になってくれる『間宮家』の当主だ。なあ?」
「!」
良夜は弁明しながら、ゆりの顔を見る。ゆりは自分が歓迎されてないことに少し怯えていたが、はっきりと答えた。
「はい。資金面での助力と、土地、設備、人材。それらを用意しています」
「……ゆりちゃん?」
ひかりは知らなかった。良夜が恋人を連れてきていた事は。らいちとかりんの世話と、博士の手伝いで、ほとんど居住区には帰っていなかったからだ。
「……ご無沙汰しています。ひかりお姉様」
ゆりは知っている。小さい頃、親に連れてこられたパーティで、同じくらいのお姉さんが遊んでくれて、仲良くなったこと。そしてそのお姉さんが、世界の平和の為に怪人と戦ってきたことを。
「申し訳ありません。星野家のことは勿論耳に入っていたのですが、私もその時自分の家のことで精一杯で……」
「……良いのよ。ありがとう」
10年前。影士と彩の両親は死んだ。それはアビス粒子によるものである。そこから、星野家を吸収する形で、兄妹ふたりを引き取った長谷川家。勿論、許嫁の話は無くなった。しかし両家の事の引き継ぎなどの対応に追われ、長谷川家は徐々に業界から姿を消した。今では没落貴族とも言われている。
間宮家も、怪人被害により没落寸前まで行ったが、ゆりの才覚によって持ち直した。彼女は10年間、ひかりや影士、良夜を救うつもりで努力してきたのだ。
「ですがもう、心配ありません。間宮家は再興を果たしました。南原博士。ウチには優秀な『宇宙科学技術者』が居ます」
「…………なんじゃと?」
耳を疑う博士。補足をしたのは良夜だ。
「ははっ。俺の身体を使って色々実験したりしたからな。アビスについては博士より詳しいと思うぜ」
ここで明らかになる。彼のバイクは、ワープ装置は、変身ベルトは。
TVに映るアークシャインの兵器を参考にはしたが、それらは間宮家の技術の賜物だったのだ。
「協力させてください。このまま『シャインジャー』が何もできない状況を見ているのは辛いです。それに、『ラウム』は信用できない、でしょう?」
会議室。机の上には、『アメリカラウム』と言う組織から、『アークシャイン』宛に送られてきたFAXがあった。
――舞台説明⑯――
時系列
・24年前
①星野家と長谷川家にそれぞれ長男、長女が生まれる。とある事情で「許嫁」となる。
・10年前
②最初のアビス粒子が飛来。14歳の影士と8歳の彩が感染。影士は覚醒し、両親を殺して食べる。
③影士と彩は長谷川家に引き取られ、ひかりは星野家の加護を受けられなくなったため、次期当主として勉学に励まさせられる。
④ひかりが太陽と出会う。
・現在
⑤太陽の元にアーシャが舞い降りる。
⑥アビス粒子の第二波が来る。怪人の発生とシャインジャーの誕生。影士と彩は正体を告げ、姿を消す。
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