第18話 登場!第3の勢力・ラウムアビス!
この日。
世界中が注目していた。
半ば『人類は負けた』と思っていた人々が大半だった。だが、それでもすがるようにその発表を待った。
「あっ。今出てきました! ……大統領……では、ありませんね……?」
「そう、ですね。……女性?」
「あっ。はい。女性です。若い、ブロンドの女性が現れました。そのまま、壇上へ上がるようです」
大量のマイク、録音機器が向けられた壇上。大量のカメラが向けられた壇上へ、毅然とした態度で上がる、女性が居た。
「政府関係者でしょうか……?」
「……あっ。いえ、今確認取れました。政府関係者では無いとのことですが……」
そのニュースの記者は、時差を経て生放送中のスタジオと連携を取る。そこは米国首都ワシントン。
そのブロンドの女性がマイクの高さを調節したところで、記者も静かに構える。
――
『「地球」の皆様、初めまして。私達は「ラウム」と言います』
「!」
「!!」
流暢な英語で告げられたその言葉は、ほぼ同時に日本語へ翻訳され、また世界中でそれぞれの言語に翻訳された。
だがそのオリジナルの音声は、聞き慣れたものであった。すなわち、『機械のような音声』なのだ。
「…………はぁ!?」
テレビの前で、世界で一番、その言葉を疑ったのは、他でもない彩であった。
会見場はにわかにざわつく。続いてその女性は、『その背中から翼を出現させて広げた』。
「なっ!」
『……ご覧の通り、「アークシャイン」と同じ翼を持ちます。……この程度ではCGやトリックなどと誤解を生みそうですが、この会見は「合衆国大統領府」の正式な発表の場。あなたがたが見る全てが真実と取っていただきたく思います』
女性は翼を拡げたまま眼を閉じ、祈るように手を組む。それだけで、『少し調べれば死ぬほど出てくるアークシャインの写真画像』と非常に酷似していることが、誰の目にも明らかであった。
『さて……「私達」と言いましたが、その通り、私達は複数存在します』
そして何より、彼女は人形のように美しかった。彼女が翼を折り畳むと、そこにはもうふたり、脇に同じようなブロンドの女性が立っていた。合計3人。
『この度、アメリカ国と連携し、怪人に対抗する「戦士」の増員と、それを世界中の国々で行うこととなりました』
さらにざわつく会場。戦士はシャインジャーのみで、増員は出来なかったのでは? といった疑問が出る。
『私達は「アークシャイン」の娘です。彼女と同じ能力を持っています。私達は全部で5人。それぞれが、所謂「シャインジャー」となる戦士を見出だし、世界の防衛に努めます。……質問を受け付けます』
ここで、女性の厳かな雰囲気に飲まれつつも、ひとりの記者が手を挙げた。
『どうぞ』
女性はにこりと記者を指した。
「……えー……まず、貴女の衝撃的な宣言に大変驚いております。現在「シャインジャー」は怪人に敗北し、世界は絶望に包まれています。……貴女方は、それを覆せると仰るのでしょうか」
『その通りですが、誤解があります』
「?」
女性は丁寧に、子供に勉強を教えるように優しく言葉を紡ぐ。
『「シャインジャー」は敗北していません。敵幹部を打ちのめし、基地も奪還に成功しました。現在活動を停止しているのは、「アークシャイン」を失なった傷が癒えていないからなのです』
「……分かりました。しかし、これまでの戦いで、シャインジャーは怪人に対抗しうる戦闘能力に欠けていると、各国紙面などで結論付けられています。貴女方がいくら戦士を増やそうと、これまで以上に怪人の出現が増えるなら、結局対抗できないのでは?」
『……仰る懸念は尤もです。しかし、私達は「アークシャイン」の失敗を冷静に分析しています。これから私達が生み出す「戦士」は、充分怪人の幹部クラスにも対抗できる。より強力な戦士となります』
「……ありがとうございます」
『他にはありますか?』
より強力な戦士など、確証はひとつも無い。しかし、記者は彼女の放つ雰囲気に呑まれてしまった。
続いて別の記者が手を挙げる。
「世界中の国々とは、具体的にはどこですか?」
『アメリカ、ロシア、イギリス、フランス、中国を予定しています』
その即答に、また更にざわつきが強くなる。
『補足すると、これら5ヶ国の戦士達は自国のみを守る訳ではありません。ワープにより、世界中どこにでも出動し、国籍を問わず人命を守るためその力を行使します』
「……ワープ装置は日本にあるのでは?」
『新たな戦士に「ワープ装置」は必要ありません。限定的ではありますが、それぞれが単体で「ワープ能力」を持ちます。なお戦士達の情報は秘匿され、基地も作りません。これは、怪人に知られれば弱点となるからです』
「……!」
『また、対象5ヶ国の軍事バランス変動も考慮し、各国正規軍との連携は取りませんし、技術提供もしません。そういった内容も含めた「ラウム軍事同盟」という条約を、5人のラウムと5ヶ国の間で結びました。全文は各国政府より順次公開されるでしょう。他に質問はありますか?』
「…………」
会場が固まってしまった。何故アメリカが? 何故その5ヶ国なのか? どうして今、このタイミングで出てきたのか? アークシャインの娘というのは本当なのか?
そんな基本的な質問さえ出てこない。皆が感じていたのは、彼女らを……この美しく柔和な雰囲気の女性を「希望」と見始めていること。
『では会見を終了します。ご協力お願いいたします。最後に、これを見ているであろう怪人達へ』
「!」
そこで初めて、女性はカメラに眼を向けた。
『貴方達の野望は達成されない。地球は外敵を打ち倒し、「真の平和」を必ず実現させます』
――
・以下、ネット掲示板の反応
すげー!
これ単純にアークシャイン×5だろ?シャインジャー25人?ワロスwww
勝ったな、トイレ行ってくる。
でもシャインジャーじゃ幹部に手も足も出ないじゃないですかー
シャインジャーより強いって言ってただろ聞けよ
てかなんでその5ヶ国なんだろうな。
それな。アフリカ大陸忘れられてて草
いや「NPT批准の核保有五大国」だろ。その5ヶ国にした理由は分からんが。
軍事バランスか?各国は地球を守る力を地球同士の戦争に使うのか?条約の内容は?
やるだろアメリカは、そのくらい。
なら5人ともアメリカで確保するだろw馬鹿かよ。
それならもう滅べよ、汚い地球人
ブーメラン刺さってんぞ汚いハゲニート
――
「…………」
その中継が終わっても、シャインジャーの面々は動けなかった。余りにも急すぎた衝撃の会見。勿論何も知らされていない。
「……私達はもう用済みってこと?」
静寂を破ったひかりが呟く。
「……『失敗』と言われたな。そうなんだろう」
「…ワープ能力を持って、シャインジャーより強くて……ってパニピュアじゃないか?」
浩太郎と辰彦が続く。彼らの推測は、ある不安を掻き立てる。
「……博士。パニピュアは人間じゃないって、前にアーシャが言ってたけど」
一同の視線が南原博士へ注がれる。
「そうじゃ。かりんとらいちはもう人間ではない。彼女らの身体の成長は著しく遅くなる。そして、人間との間に子供を授かることもできない。遺伝子情報も書き換えられておる。普通の人間としての生活はできん」
「!」
「そんな人を、世界中で作るつもり?」
「……なんにせよ、今は我々は動けん。代わりに世界を守ってくれるなら、それに越したことは無いだろう」
「…………」
突然現れた、大量の味方。一同は困惑していた。本当に大丈夫なのだろうか、と。
――
「ぐあああああ!」
「ちょっ……ちょっと! ボルケイノ!?」
その中継が終わって少し。ラウムの事をどう言い出したものかと考えていた彩は、それどころでは無くなっていた。
「ぐううううう!」
突如、ボルケイノが頭を押さえながら苦しみ始めたのだ。
「……ぐおお……この……ううう!」
「……なによ……ちょっと」
どう対応して良いか分からない彩。
「ラ……っ! ……ウム……ぅ!!」
恐らく『ラウム』の影響であると思われる。『それ』を受けたのは、ボルケイノだけではなかった。
――
「あああああ!」
「うぅぅあああ!」
慌ててひかりが、部屋へ飛び込む。荒々しく開けられた扉の向こうで、らいちとかりんも呻いていた。
ふたりとも、頭を押さえている。
「大丈夫!? 何があったの!?」
「……ぅ……うううう! ……この……!」
「……あああ……ぐうう!」
パニピュアのふたりは……ボルケイノも含め……ラウムを名乗る者達に『精神干渉』を受けていた。つまりは独裁平和思想への感染と支配をされようとしていた。
「ぐああ……ち……この程度……!」
だが。
「……んんんん! ……負け……ないっ……!」
「……らいち……!」
彼らは、彼女らは、純粋なラウムでは無い。『アビス』には、上下関係による支配系統がある。
「あああああああ!」
「おおおおおおお!」
下位アビスでもハーフアビスでもない、新たな『ラウムアビス』。記者会見の彼女らはそう呼称すべきだろう。
対してパニピュアは、ラウムの血を授かった人間。『ラウム人間』と呼ぶべき者だ。ボルケイノも、ラウムアビスではあるが、生まれついてのハーフではなく、ラウムの能力を取り込んだアビス。
ラウムの支配力は、王族であり純粋なるラウムでもあるアーシャが最も強い。彼女の血肉を直接得た彼らは、ラウムアビスの支配から逸することができるだろう。
――舞台説明⑮――
花形、第三勢力登場。
劇中の新聞にでかでかと一面で、物語の主要ニュースを載せて、世間の反応とか世の移り変わり、関心事を表現する手法って昔からありますが、
最近はネットでの反応とかそっちの方も多くなってきたりしましたよね。スラングも広く浸透してきたような。
文化と風俗、歴史と言語はとても密接。
特に今は、リアルタイムで世界中のニュースがネットでやりとりされています。
※この物語はフィクションです。実在する、この世のあらゆる全てと一切の関係がありません。物語の展開なども、何かを現実へ影響させるような意図のあるものではありません。