第16話 悲しみのふたり!幕間の両陣営!
「ハーフアビス……」
「そうだ」
彩とボルケイノは、ひとまず退避した後、身を隠した。派手に暴れず、アビス粒子も出さなければ、アーシャやシャインマーズの感知からも逃れられる。
ボルケイノは自ら腕を拡げて見せた。
「俺は死にかけのエクリプスを喰った。同族喰らいは良く無いが、有効利用だ。個体ハルカがスタアライトにした事と変わらない」
「……それで進化したの?」
「そうだ。……エクリプスの能力は引き継げなかったが、変わりに俺は『ワープ能力』を手にした」
「嘘だね。ワープ能力は、アーシャの羽根を食べたんでしょう」
「!」
ボルケイノは当てられて、少し固まった。
「……まあ良いや。これで基地を失ったデメリットが無くなった」
彩はにやりとした。エクリプスの喪失は大きいが、アーシャは死に、こちらにはワープ能力者。下位アビスを増やせなくなったのは痛いが、戦況は悪くない。
「俺は当初の目的を達成した」
ボルケイノはハーフアビス昇格を目的としていた。それは成った。努力もしておらず、同族喰らいの結果だが、とにかく達成された。
そしてボルケイノは、改めて彩へ跪いた。
「これからは種族の為に尽くそう。そしてこの星の『王』になる。その為に、姫。俺は貴女に忠誠を誓う」
「……う……うん。ありがと」
彩はどう反応して良いか分からなかった。だがこの男は強い。もとより彩も、アビスの為に動いている。姫と呼ばれるのはむず痒かったが、どのアビスからも言われていると段々慣れてきてしまった。
「あとは池上太陽だが……」
「うーん……あそこは病院だしねぇ。あれくらいじゃ死なないかも」
「今日明日のニュースを見れば分かるだろう。自ら情報を流すとは、人間は愚かだ」
「あはは……」
「これからどうする? 姫」
「……」
彩は顎に手をやり、考える。目下最大の障害はパニピュアだ。彼女らをどうにかしなければ、アビスの勝利は無い。その戦闘力はその身をもって痛感している。そしてパニピュアの特筆すべき能力は戦闘力ではなく、『継続戦闘が可能』というところにもあった。
「一応彼女達は情報規制かかっててね。でもこの前クラックして調べて、家も学校も割れてる。『変身前に暗殺』は有効だよ。やろう」
「承知した。今から行くか?」
「ううん。まずはこちらも、状況の整理。今動かせる下位アビスがどれだけ居るかとか、色々確認しないと」
――
「俺はアビスだ」
シャインジャーと博士は、安全確認が取れた基地へ戻っていた。100体のアビスは、ブラックライダーが殆どを倒していたため、奪還自体はすぐに完了した。
アーシャ不在でも、ワープ装置があればなんとかこれまでの活動はできなくは無い。
そこへ、ブラックライダーが現れた。そしてこの台詞。
彼はヘルメットを外していた。
「……なんだって?」
シャインジュピター……小野塚浩太郎が訊き返す。
「見ての通り異形だ。今まで変身せず戦ってきたのは知ってるだろ。光線銃もワープバイクも、やつらやアーシャの技術を盗んだものだ」
「……それで?」
また訊き返す。
「それでって……俺はもう目的を果たした。だから…」
「あのね」
ブラックライダーの言葉を遮ったのはシャインヴィーナスこと長谷川ひかり。
「私達はアビスを、『アビスだから』という理由で排除しようとはしていない。『侵略するから』よ」
「……」
「『人間だから仲間』なんじゃ無い。『同じ目的に協力するから仲間』なのよ。だから、貴方が何者であろうと関係無いの」
「……!」
「さあ座って。今はそんなことより、もっと悩むべきことがあるから」
ブラックライダーは黙って座った。『そんなこと』と一蹴されて、何故か気が楽になった気がした。
――
「取りあえずは、皆落ち着いておるな」
博士が切り出した。今回最大の悲劇の後だが、シャインジャーとブラックライダーは不思議と平静で居た。
「状況の確認からじゃ。まず、アーシャが死んだ」
「!」
博士が淡々と告げた。これは彼から告げられるべきだと皆が思っていた。だからこそ、この場は彼が仕切っている。超宇宙科学を現実にする唯一最高の科学者であり『アーシャの相棒』として今までアークシャインの活動を支え続けた、人類最強の頭脳、南原幸一博士だから。
「経緯から述べよう」
博士は白い髭を触りながら続ける。
「ブラックライダーの後を追って、パニピュアとアーシャが基地へ乗り込んだ。アビスは大半がブラックライダーに倒されており戦闘はほぼ無く、また既にエクリプスは基地を離れており、ブラックライダーが追った。基地を調べたが、星野彩及び義堂遥は居なかった。ワープ装置が目当てじゃったろうから、エクリプスだけが使用していたようじゃな」
「……」
ひかりは考える。義堂遥とはまだ会えていない。影士の精神が残っている可能性を、まだ捨てきれていないのだ。
「だがそれを、アーシャは不自然に思った。各地ではシャインジャーが戦い、出払っている。浮いた戦力である星野彩と義堂遥は、この期に何をするか。……直感で彼女は、『池上太陽が危ない』と察し、実際にアビス粒子を感知した。そしてパニピュアを別け、五十嵐らいちを戦場へ、南原かりんを病院へ向かわせた」
シャインジャーの面々が俯く。病院の護衛を怠った自分達の責任だと恥じている。これは戦争なのだ。相手は『なんでも』してくる。その危機感が、日本人故に薄かったと言わざるを得ない。
「直感は当たっていた。星野彩は池上太陽を暗殺しようとしていた。南原かりんと交戦状態になり、そこへ身体を取り戻したアーシャが加勢に来たが、結果的にアーシャは死んだ」
「……!」
その場に緊張感が生まれる。
「星野彩は『ボルケイノ』と呼称していた、新たな『人型アビス』。奴の出現により状況は変わった。アーシャは奴に殺され、池上太陽もさらなる重傷を負った。さらに奴は単体で『ワープ能力』を有しており、瞬時に現れ、暴れてからまた瞬時に姿を消した。星野彩と共に」
「ボルケイノ……」
「池上太陽じゃが……現在も手術中じゃ。どうなるかは分からん。アーシャの遺体は引き取って、この基地の別室へ運んでおる。彼女は人間ではなく、基地は元々彼女の乗って来た宇宙船じゃからな」
「…………」
しばし沈黙が流れる。アーシャ喪失は何より大きい。それは精神的な問題もあるが、技術的な問題の方が大きかった。
「当面の問題は『ワープ装置の運用』。今までアーシャ頼みじゃったからな。まあこれはわしの課題であるが…そして『ボルケイノ対策』。『ワープ』という、今までのわしらの優位がこれで完全に無くなった。ゲートも全てバレておるじゃろう。それらも含め、お主らも警戒を怠るな。いつでも出撃できる準備をしておけ」
「了解」
「了解だ博士」
「……そして、『直面』の問題は…………」
博士は頭を抱えた。
――
その部屋では、時間が停まっていた。ベッドに横たわる、シーツで覆われたアーシャの遺体。それをただ呆然と、眼を血走らせながら見詰める少女。そして部屋の隅で、うずくまって鼻を啜る少女。
らいちとかりんは、もう1時間の間そうしていた。
「………………」
彼女らは知っていた。『戦い』がどういうものか。他でもないアーシャから聞き学んでいた。戦争は、死者が出る。自分達の通う学校でも習うことだ。地球でこれまでどれだけ人が戦い、どれだけ死んでいったか。知識では知っている。戦争は悲しく、やってはいけないと教師、親から教わっている。
「…………っ」
だが。
知識と経験は、雲泥の差がある。『死』をただ知ることと、実際身近に体験することは、天と地ほどの差がある。
死んだのだ。彼女は。アーシャは。私たちのお姉さんは。優しく、そして強い、美しいお姉さんは。アビスに敗れ、再起を誓い、地球人類を頼ってでも戦っていた誇りあるアーシャは。
あっけなく、あっさりと。
別れの言葉すら無く。
彼女の種族は絶滅した。
悲しい。哀しい。悼しい。何も考えられない。もうアーシャは居ない。声を聴けない。笑い合うことは無い。動かない。
もうアーシャは居ない。
「………………」
らいちとかりんは、ただ呆然として動けずにいた。
――
「パニピュアのふたりにはもう戦わせられん」
「……だが家にも帰せないだろ。狙い撃ちされる」
「取り合えず休ませないと。もう会議は終わりで良いよね?」
作戦室から一番に出て、ふたりの元へ向かったのはひかりだった。シャインジャーとして戦う中で、アーシャとの絆は他のメンバーより深い。元々紅一点ということや、他の四人が最近まで入院していたのもあるだろう。
――
「五十嵐らいちちゃんと……かりんちゃんよね。南原博士から聞いているわ」
部屋へやってきたひかりの声はむなしく響いた。ふたりは何も反応しない。
「……あなたたち、少し前からずっと戦い通しらしいわね」
「……」
ふたりは反応しない。ひかりはらいちの手を取り、かりんの首根っこを掴んだ。
「っ!?」
「休まなきゃダメよ。疲れてるでしょう」
そして無理矢理引きずっていき、部屋から出した。
「離して……っ」
手を引かれるらいちが抵抗する。
「ひとつ戦いが終われば、次に備えて休まなきゃダメ。戦士なら自己管理できなきゃ」
「うぅ!」
かりんももがく。
しかし、ひかりは構わず引きずる。
「この…… ! ラウム・…………っ?」
らいちは本気で抵抗しようと、変身を試みる。パニピュアとシャインジャーでは、単体の力は比べるべくも無くパニピュアが圧倒している。
だが、らいちの腕時計は反応しなかった。
「っ!」
「休むの。寝なさい。いくら体力があるからって、気力は無限じゃないんだから」
パニピュアはアーシャの手により、既に人間ではなくなっている。そして『継続戦闘』をコンセプトにしたことで、何日も不休で戦い続けられる体力を持つ。
そして、エネルギーとなる精神力も大幅に強化されている。自分達より巨大な敵に対する恐怖心は無い。
だが、アーシャの死んだ今は。
年齢相応、親しい人の死を悲しむ中学生の精神に戻っていた。ただ無限の体力だけが、ふたりの悲しみを持続させていた。
「ほら」
「!」
連れてこられたのは仮眠室。らいちとかりんはベッドのひとつに投げられ、押し込められた。
「……!」
「暴れないで。寝なさい。『寝るのよ』」
「……ぅぅぅ……」
「…………っ」
体力がどれほどあろうが、疲れが無くなったりはしない。何日にも渡って連戦を続けてきた彼女達の疲労は、とうに限界を越えていた。
そこへ、アーシャの喪失。
暖かい布団。
胸に空いた大きな穴。
押し寄せる疲れ、眠気。
止まらない涙。
「……それでいいの。疲れてるでしょう。なんでも自分達でやろうとしなくて良いの。困ったら、大人を頼りなさい」
優しい声。
痛む胸。
湧き上がる後悔。
深い深い悲しみ。
「……ぅ」
「ぅぅ……」
らいちとかりんは暴れるのを止めた。もう限界であった。
そうして大人しくなったのを確認して、ひかりはその場を離れようとする。
「?」
しかし。
いつの間にか、今度はひかりの方が、袖を掴まれていた。
「ぅああ……。あーしゃぁぁあ……」
「ぐすっ。うぅぅ……うぇ」
「…………」
ひかりは優しく微笑み、ふたりを撫でた。彼女は安心した。この子達はやはり『人間』なのだと。
――人物紹介③――
・南原かりん
13歳の中学1年生。藍色の髪の子。白い衣装のピュアピース。
普段は大人しい女の子。友達は多くない。
らいちとは産まれた病院から同じで、ずっと一緒に育ってきた。
アーシャからの勧誘があった際、意外にもらいちより積極的に同意した。
中学に入って携帯を買い与えられ、まず初めに自分の名前を調べた。カリンの花言葉が「豊麗」と知り、少し期待している。既にらいちより少しだけ実っている様子。
らいちとは小学生の時に好きな男の子を巡って大喧嘩したことがある。
因みに南原博士の孫娘である。




