五話
皆様お待たせいたしました。
仕事とプライベートの都合でなかなか更新できませんでした。すみませんm(__)m
二話連続投稿の二話目です。
四話で明らかになった三人娘を狙う黒い視線の謎……今回はバトルシーンです。
ジェメルが乗客と乗員に手錠をかけるよう強要した時、ルーシーはハイジャックの可能性があることを無線でメンバーに指示していた。SAAPメンバーはその指示を受けて、今はギャレーや倉庫等に隠れて待機中である。
シャトルエコノミークラスのギャレー――
『やっぱりいましたね、ジャメル・レーン』
「そうだな。偽名でリリー嬢が乗っていたから来るだろうとは思っていたが……」
『三人エコノミーのギャレー方向に行ったよ』
男性CAに扮していたSAAPメンバーの一人、エリック・ウィリアムスがサイレンサー付きのハンドガンタイプの即効性麻酔銃をギャレーを通り過ぎた三人の背中に撃ち、撃たれた三人はその場で倒れ込む。
「麻酔銃で三人を狙撃成功。回収頼む」
『さすがエリック。狙撃はお手の物』
『三人の確保は任せて。予定通り留置場で良いんだよね』
「そうだ。俺はこのまま操縦室へ向かう」
『了解』
エリックはスタッフ用緊急はしごを登り、ファーストクラスのギャレーに出ると熱感知レーダーで。両サイドから来る二人を確認。レーダーを識別色に切り替えると、乗客やスタッフではないことを確認した。
「連中貨物室から乗り込んだな」
と分析していると、二人のレーダーが操縦室付近で停止した。エリックは麻酔銃の弾倉を確認。残り弾数三発。念の為に弾倉の麻酔弾をフルにして戻すと、右手から出て二人を狙撃。撃たれた二人は即効性の麻酔を受けてその場に倒れ込んだ。
黒ずくめ二人を後ろ手に手錠をかける。
「操縦室前で二人狙撃成功。誰か来てくれ」
『了解』
すぐに来た二人の味方メンバーに黒ずくめ二人を託すと、操縦室扉のシークレットコードを入力して扉を開ける。
しかし、扉を少し開けたところで腕にしびれ薬を混ぜた麻酔液を注射され、エリックはその場に倒れた。倒れる時、エリックは手に持っていた麻酔銃を注射した者に奪われた。
「レ、レナ……き、貴様……」
エリックに注射したのは、機長資格に加えて医師資格も持つレナだった。
「惜しかったね、エリックさん。けどエリックさんがアチラ側の人だってことはこちらもチェック済みだったんですよ」
「ク、クソ、が……」
とエリックを見下ろして言うレナのニッコリ笑う表情を最後にエリックの意識は途切れた。
「ジョニー、パイロットのお二人さん呼んで。お二人さんが来たら一緒にエリックさんを連れて行くの手伝ってね」
「了解。それにしてもさすがだな。レナを敵に回したくないよ」
「そうだよー。女を敵に回すヤツは私が許さない!」
と、レナはエリックを後ろ手に手錠をかけ、足にも手錠をかけながら言う。
ジョニーはそんなレナに苦笑いしながら、交代するときにアリシアに渡していた発光装置のスイッチを入れた。
しばらくしてアリシアとアランが操縦室に戻ってきた。
「あれ、この人って味方なんじゃないんですか?」
ぐったりと麻酔で絶賛睡眠中のエリックを見てアリシアが固まる。
「味方だった人が正しいかな。実はこの人も今回の厄介は犯人の一人なんですよ」
「でも口外したら……わかってますよね?」
と、レナが銃を取り出してアリシアたちに銃口を突きつけた。
「レナ、悪ふざけはよしなよ」
「はーい」
「じゃあ、我々はここからお役御免で、これからテラスの応援に向かいます」
とジョニーとレナがアリシアとアランに敬礼すると、麻酔で眠っているエリックを二人で抱えて階段を降りていった。
「あの人達を敵に回したくないね」
「私も同じこと思ったとこ……」
アリシアとアランは唖然としながら二人を見送った。
操縦室を離れたジョニーとレナは、エリックを客室真下にある個室の留置場にエリックを入れて手錠の鍵穴にパテ代わりに噛んだガムを埋めて扉に鍵をかけ、更にSAAP用電子錠も二つかけた。犯罪者に下ったとはいえSAAPをよく知るエリックに手錠をはずすことは容易であるだろうということでの処置である。
「隊長、エコノミーのギャレー付近で三名、操縦室前で二名確保、そして裏切り者のエリックを確保、留置しました。これからそちらに向かいます」
レナから知らせを受けたリリーのいるテラスでは――
CAたちが乗客一人一人に謝罪しながら後ろ手に手錠をかけていた。
「セシリアさん、ギャレー付近で三人確保、操縦室前で三人を確保しました。アリシアさんとアランさんは無事です。もうしばらく我慢なさってください。必ずリリー様も乗客のみなさんもお救い致します」
リリーから助けを求められながら何もできないでいる自分の情けなさを感じているセシリアの耳にルーシーの声が届いた。出発前にリリーに片方を渡していたインカムから聞こえた声だった。
ルーシーに振り返ろうとしたところを「まだ動いちゃダメ」とのルーシーの声にセシリアは振り返ることを止めた。
「ほらほら、みなさん死にたくないでしょ、我々の言うことを聞いてくださいよ?」
トップスがナイフで切り刻まれ上半身が下着姿のリリーを羽交い締めにして喉元にナイフを当てている銀縁メガネの男がニタニタとしてそう言った。
乗客たちの中には泣き出す者や脱力する者、怒りに震える者と様々であったが、誰一人として不平を言う者はいなかった。まだ若い少女二人とCAのジュリアが肩に銃撃を受けて人質にされている。その少女二人はジュリアを踏みつけている黒ずくめの男と、すぐ目の前に倒れている首にナイフが刺さりすでに息絶えている同じく黒ずくめの男からナイフで一糸まとわぬ裸にされていて、ジュリアにかけられたジャケットとエプロンになんとか身を隠そうとしているが後ろ手に手錠をかけられているためにうまく隠せていない。そして乗客側にはその二人の哀れな背中とお尻、そして手錠をかけられた腕がさらされているのだった。
メガネ男は、セシリアにそのいやらしい目を向けると、
「さて、それじゃあセシリア嬢にはそのステージでストリップショーをやってもらいましょうか。何もないんじゃ乗客のみなさんが退屈しますのでね、クククク……」
と言った。
そのとき、パトリシアが一歩前に出た。
「セシリアちゃんの代わりに私が脱ぎます。それで勘弁してください!」
「おや、自分から脱ぎたいんですか、パトリシア・ブロシャールさん?」
と、パトリシアの全身を舐め回すように見るメガネ男に
「ダメ、パトリシアさん!」
とセシリアが静止するが、そんなセシリアをメガネ男は更に表情をいやらしくニヤニヤさせながら
「良いじゃないですか。モデルにも引けをとらないというその美貌、私達の目に晒していただきましょう!」
とその時だった。
パスッという軽い音とともにジャメルの手からナイフが落ちてリリーもろともジャメルが崩れ落ちた。落ちたナイフはリリーの足の間に突き刺さっている。
「さすがよく効く。これ作った私って天才」
と麻酔銃に頬ずりしながら自画自賛するレナ。
突然崩れ落ちたジャメルを見てどういう状況かもわからないリリーは、誰かに引っ張られる感覚を覚えて悲鳴をあげようとするがその口を手で塞がれて悲鳴がモゴモゴになる。リリーを引っ張ったのはジャメルを一発で眠らせたレナだった。レナはリリーの口に手を当てて悲鳴を塞ぎながら奥のカーテン越しにテラスの外まで引っ張ってきた。
「リリー様、落ち着いて。私はSAAPのレナ・ウィルキーと申します。もう大丈夫です。でも泣くのは後です。そうでないとこのまま口を抑えるか麻酔で眠ってもらうことになります」
と、レナがSAAPの身分証明書をリリーに見せながらなだめる……いや脅しているといった方が良いのだろうか――。
リリーはコクコク頷くと、レナに抱きついた。
「ありがとう、レナさん。お姉さまたちも助けて」
「もちろんです。まずはこちらへ。テラスの外に仲間がいますので」
「わかりました」
レナはリリーを連れてテラス入口近くまで隠れながら連れていき、ジョニーに麻酔銃を渡して交代した。
「これ、効き目あんのか?」
「それは見てからのお楽しみ」
不安そうなジョニーにレナはウィンクも一緒に返した。
ジョニーがテラスに入っていくと、そこにはジャメルが麻酔で絶賛睡眠中。
「あらまー……」
眠っているジャメルから目線を上げると、微妙に隠しきれていないうら若き女子学生の裸体がそこにあり、その体の主であるフィリアとリンと目があった。叫びそうな二人に「シーッ」と口の前に人差し指を立てるとSAAPの身分証明を二人に滑らせて渡すと、ジュリアの肩を踏みつけている男に向けて麻酔銃を撃つと、男は崩れ落ちるように後ろに倒れる。
あっという間の出来事に犯人たちも乗客やCAたちも呆然としている。
ジョニーは身分証を拾うと、全裸のフィリアとリンを両脇に抱えてテラス入口に滑り込んだ。
自分達が助かった事を悟ったフィリアとリンはジョニーの腕から離れてリリーと抱き合い無事を喜び合う。
しかしフィリアとリンが全裸、リリーが半裸の光景であるため、自然とジョニーの視線が三人の乙女に向きそうになるが、その瞬間。
「ジョニー、見たらわかってるわよね?」
とレナがポケットからエリックを眠らせた注射を取り出した。
「わ、わかってます!」
とジョニーはレナに向き直って敬礼をする。
「よろしい」
その頃テラスでは、テロリスト達がまだ何が起こったのかわからないまま残った三人で顔を見合わせていたが、乗客たちは助かる可能性が出てきたことでざわつき始めていた。
その時、乗客の集団の中から銃声が鳴った。
「クソ、乗客の中にもまだ紛れ込んでるやつがいるのか」
「そうみたいね。これは下手に出ていくと、乗客やセシリア様たちが危ないわ」
ジョニーとレナは新たな銃声に顔をしかめた。
その後ろでは、新たな銃声で全半裸の三人娘が抱き合ってガタガタと震えている。
「このままじゃリリー様たちも持たないわよね」
「そうだな、どうするか……」
『お困りの様子だね』
『まだ私達がいるんだから頼ってよね、エースのお二人さん』
『ボクたちのこと忘れちゃダメ』
突然インカムから聞こえてきたのは、今回入っているエリックを除く三人だった。
最初の声がアンソリー・フォード。男。
次の声がブレンダ・サリウス。女。
最後の声がジェシカ・ブートン。ボクっ娘。
「今誰か中にいるの?」
『ボク』
『ジェシカ?』
「え?」
『今、銃撃った人の後ろにいるよ』
「は?」
『それから、レナの注射今射ったよ』
ジェシカのある意味実況の直後、ドサッという音と悲鳴が聞こえてきた。
「あ、アレ射ったのか……」
『うわぁ、テロリストだけど射たれた人可哀想……』
『同感』
「ちょっと、作った本人ここにいるんですけど」
『作った本人、テストしない』
『だよなー』
「じゃあ次はアンタ等にテストするわ」
『ボクもう実地テストやったから大丈夫』
「え?」
『おやすみ……』
再び聞こえる若干の悲鳴
『ちょっとジェシカ?』
「実地テストってもしかして射ったのか? 自分に?」
『ジェシカならやりそう』
『ちょっと、どうすんのよこの空気』
「俺知らない……とりあえず乗り込むわ」
と、ジョニーは一人テラスに戻っていった。
「あ、ジョニー」
『ジョニー単独行動は危険――』
『あそこにいると俺の理性が持たない』
『は?』
ジョニーの無線でレナが後ろを振り返ると、三人でかたまっている全半裸の乙女たちがそこにいた。
「あ、そゆこと」
『なになに?』
「とりあえず、作戦続行!」
『後で聞かせてよ?』
「それはリリー様たち次第」
『あ……なるほど』
『ジョニーだけ美味しい思いしやがって――痛てっ』
『馬鹿言ってないで作戦よ』
「とりあえず、ジョニー状況教えて」
『今一人眠らせたとこ……だけど奴らシャトルの中で実弾使ってるし!』
『実弾? マジで?』
『マジもマジ! とりあえずステージを避難させないと!』
「ある意味テラス内だってことが救いよね……」
『あ、そうか。テラス内って防弾樹脂になってんだっけ』
「そう、それもかなり厚くね」
『なるほど。しかしどうすっかな――あ、パトリシアさんみんな伏せて!』
「チッ、乗り込みたいけどリリー様たちがいるし……」
『なら私がそっちいく。アンソニー、ジョニーの援護お願いね』
『任せろ』
『じゃあブレンダ、お願い。ブレンダが到着次第レナはテラスに。私はセシリア様たちを一旦退場させてから戻る』
『隊長! 了解です!』
『了解』
「了解!」
銃撃戦になりつつあるテラス内――
無線通りにルーシーがセシリアたちをテラスから退場させるが、目立つステージ上での行動であるから銃撃がステージに集中しだした。
残っている見えるテロリストはステージを見渡しやすい奥にいる二人。一人はジョニーのいる位置から対角線上にいるためよく分かるが、もう一人はカーテンで隠れていてよく見えない。
「隊長、援護します!」
ジョニーが残弾数二発の麻酔銃でジョニーの対角線上にいるテロリストを狙撃するが――
「クソ、外した!」
ジョニーが外したことで銃撃がジョニーに集中したため、ジョニーは一旦退却するしかなかった。
しかし銃撃がジョニーに集中したことで、ルーシーはセシリアたちをテラスから退場させることができたのである。
『ジョニー、そっちは俺の方が近い!』
アンソニーが無線で応えて、ジョニーが外したテロリストに二発のスタンガンを発射。うまく首筋と肩に命中し、テロリストはその場で失神して崩れ落ちた。
しかしアンソニーは対角線上にいるテロリストに狙われて後退を余儀なくされてしまった。ルーシーもまたステージ上の三人を交代させることでいっぱいアンソニーの援護ができない状態であった。
アンソニーたちSAAPが使用する銃はスタンガンタイプのもので、弾丸は5ミリメートルほどの球型であり、当たると破裂するものの、人体に触れた時のみ破裂後に電力を放射する仕組みになっている。そのためもし外して壁に当たったとしても破裂だけして電力は放射しないので電子機器に影響を与えることはないが、電力が放射された人間が触れた機器に関しては例外となる場合もある。
アンソニーが退却したその時、ようやくブレンダがレナのもとに到着。
ブレンダは三人分のCAの制服を持って来ていた。
「ブレンダ、ナイス!」
「もち!」
ブレンダとレナはハイタッチする。
三人の乙女に制服を着せた後、ブレンダがリリーたちの護衛にまわり、レナがテラスに突入した。
読んでいただいてありがとうございます。
バトルシーン……難しいです(-o-;
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よろしくお願い致します。